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階段から落ちたら前世を思い出した

「カテリーナ!!

だ…………大丈夫か!?」


私は、床に大の字で横になったままキョトンと目を瞬かせる。


返事をしようにも無尽蔵に湧き出してくる『カテリーナ』とは違う膨大な記憶で頭がグルグルとまわってしまい言葉が出てこない。


周りでは、お父様や使用人が青ざめた顔でオロオロと私を覗き込んでいる。



「だ……………大丈夫……です」



私は、それだけ答えると視界が真っ暗になり意識を失った。



「カテリーナァァァァ!!!」





◆◆◆◆◆




私はカテリーナ・キャスタリア、キャスタリア家は代々エクセレンス王国の宰相を務め、数ある公爵家の中でも三本の指には入る。

そして私は十四年前、キャスタリア家の長女として誕生した。

優美にウェーブがかかった輝く黄金色の髪、長いまつ毛に縁取られた宝石のように美しい琥珀色の瞳、象牙のような滑らかな肌、外見は天から舞い降りた天使かのように美しいと言われる。

私はそれはそれは両親に甘やかされて育った。そして全て自分の思い通りにならないとヒステリックに周りに当たり散らす典型的なわがまま令嬢として成長した。


十歳のときに家柄と美貌のお陰で年の釣り合う第一王子との婚約も内定しており、まさに怖いものなしな生活をしていた。


私は今までの『カテリーナ』の人生を思い返し寝台の中で溜息をついた。



あぁ…………こんな娘が私だなんて…………



『カテリーナ』とは別の人格……………私は、『聖女』として生きた記憶を思い出した。

『カテリーナ』としての記憶も消えたわけではないが、『聖女』だった頃の記憶のせいで『カテリーナ』としての自分がいかに愚かな令嬢か気付いたのだ。




「……………カテリーナ様、お目覚めでしょうか?」



侍女がそっと寝台に近づく。

水差しを持つ手が微かに震えている…………まぁ、気に食わないとすぐに手を出すカテリーナは使用人からは怖がられていたから仕方ないことである。


私がもぞりと動くと侍女はピタリと止まる。



「……………………私はどれくらい眠っていたかしら?」


「その………………今は夜の六の時を過ぎておりますので、半日ほどになります」


「そぅ………………じゃあ、お父様に面会の言伝をお願い。

あと、少し摘めるものを頼めるかしら?お昼も食べていないからペコペコだわ?」



私の言葉に驚愕した表情をした侍女は慌てて部屋から出ていった。


……………あぁ、そういえば『カテリーナ』は『お願い』なんてしたことなかった。

侍女が出て行ったあと、寝台から起きると鏡台の前に座る。


改めてまじまじと『カテリーナ』の顔を見る。



「…………………やっぱりそっくりね」



記憶にある『聖女』だった頃の自分と今の『カテリーナ』の顔は瓜二つだった。


道理でお父様にもお母様にも似てないわけね。

一応、金髪は父から、瞳の色は母から…………とは言われているけど、実際の色味や顔の作りは全く別物だ。お陰でお母様の不貞を疑われたりもした。

しかし、婚姻の際にお互いが嵌める指輪は婚姻(契約)に違反する行為をすれば黒く染まる。


過去に貴族社会では不貞行為が横行し、貴族の血脈を巡り争いが多発したため今では契約の指輪は貴族の婚姻に必須となっている。

契約内容はお互いで決めることなので不貞を容認する内容で契約を結ぶ場合ももちろんあるが、指輪の色が黒くならなければ誰も文句は言う事はできない。


……………お母様、疑ってごめんなさい。




「し、失礼いたします………………お嬢様、旦那様がお見えになりますので、ガウンをお羽織りくださいませ」



侍女にガウンを羽織らせてもらっている間に、別の侍女達がサンドイッチやスープ、果物を机にテキパキと並べていく。



「………………ありがとう」



私の一言にピシンっと侍女たちが凍りつく。



「………も………勿体ないお言葉です」



侍女たちが青ざめたままサササッと入り口の扉の前に控える。


自分の今までの行いのせいとはいえ、こうも怯えられるのは気分が良いものではない……………かと言って、今更怯えるなと侍女たちに言っても無駄なことだし、とりあえず前のように理不尽な暴力をしなければ、そのうち侍女たちの態度も変わるだろう。


サンドイッチを口にしながら、これからはどうしようかと考えを巡らせる。



「カテリーナ!!」


「カテリーナちゃん!!」



扉が勢いよく開くとお父様とお母様がすごい勢いで入ってきた。



「お父様、お母様、ご心配おかけしました、もう大丈夫ですわ」



ニッコリ微笑むと、二人共目をパチパチと瞬かせる。



「カテリーナ?…………その……………」


「どうしちゃったの??カテリーナちゃん??」


「あ……………その………………頭をぶつけて、何やらスッキリしたというか…………反省したというか」



お父様とお母様はお互い顔を見合わせ、私は誤魔化すようにサンドイッチを口に放り込んだ。



読んでくれてありがとうございます。

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