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ええーイヤです

戦闘シーンがなければ筆が進むかと思いましたが、そんなことはなかったぜ!

「おおー!帰ってこれた!」

「にゃあ!」

「きゅう!」


 わたしの予感は大当たりだったね!ユニちゃんが、草原までの行き方をバッチリ分かってたよ!まあ、あのまま真っ直ぐで良かったみたいだけど。


 そろそろ日が昇ろうかという時間になって、ようやく草原に帰ってこれたね。いや〜やっぱり朝焼けはいいね。


『先程まで闇に沈んでいた世界は、漏れ出る光に輪郭を浮上させ、次第にその解像度をあげていく。闇に溶けていた静寂は、光の喧騒に押し流され、今や見る影もない。甘美なる死と狂気の時間ははるか後方へと流れゆき、生と理性が頼んでもいないのにやってくる……』


 わ!びっくりした!いつの間にやら、しわがれた声のおじいさんが、わたしのすぐ近くで詩を詠んでた。一体、いつ近づいたんだろうね。ま、いっか。敵ってわけじゃなさそうだし。


 おじいさんは腰が曲がってて、わたしの胸くらいまでの背の高さ。足が悪いのか杖をついてるね。顔は立派なひげで覆われていて、言葉がどこから発せられているのかわかんないくらい。いーなー。わたしもあんなひげが欲しかったね。


『…………ああ、旅人よ。古の大賢者よりも真理に近く、そこなゴブリンよりも阿呆な者よ。おまえたちはどこから来てどこへと行くのか。それは誰にもわからない。そう、お前たち自身でさえも…………ふむ』


 あ、詩が終わったみたい。おじいさんがこっちを向いてる。たぶん。


「おはよーございます!」

『……ほう、儂が見えるか。想定よりも早い。結構なことだ』


 え、見えるかって当たり前でしょ!だってまだ右目は生きてるからね!おじいさんは、わたしの顔を指差すと、言葉を続けた。


『心せよ。既に幕は上がっている。さあ、儂はまた詩を綴らねばならぬ。主も、そろそろ帰るがいい』


 そう言うと、おじいさんの輪郭が薄くなっていく。ええっ、なにこれ!あわわわわ。


 10秒もしないうちに、おじいさんは景色に溶けていった。まさか、幽霊か何かだったのかな。成仏してね。南無南無。


 《特定の条件を満たしました。【魔眼】系スキルが取得可能となりました》


 おじいさんのいたところに手を合わせてると、急にそんなアナウンスが聞こえてきた。うーむ。何が何やらさっぱりだね。系ってついてるってことは、いくつかあるのかな。まあ、これも街で確認だね。よーし!街まであと少し!ラストスパートじゃー!


 しばらく歩いてると、街の城壁と、門に向かって並ぶ行列が見えた。ただ、街の中に入っていく気配は一向にないね。なんで入らないんだろう。ま、聞けば分かるよね。


 行列の最後尾は……あの3人の冒険者たちだね。なんかベテランっぽい雰囲気の、強面のおじさんだね3人共。草むらから道に出ると、その3人とちょうど目が合った。


「すいませーん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「あっ、ああ。なんだ?」


 ん?なんかびっくりしてるし、あんまり友好的じゃなさそう。なんで?


「なんで誰も街の中に入らないのかなって思って」

「お前知らないのか?あの門が開いてるのは、基本的に日の出から日没までだ」

「なるほど〜。じゃあもう少ししたら開くんだね。わたしも待とうかな」

「お、おい。お前の顔、どうなっているんだ。まるで、噂の……」

「おい馬鹿!」

「やめろこんなところで!」


 ん?噂?なんかわたしやったっけ?昨日ここに来たばっかりだし、覚えがないけど。冒険者たちは、わたしになにか聞こうとした人物を、残りの二人が押さえてる。別にそこまで気にするような質問じゃなかったと思うけど……。


 はっ、まさかやっぱり、わたしの顔に変な傷が残ってるのかな。押さえてる二人は気を使ってくれてるのかな。ただ、気になるのは、


「ねえねえ、噂って何?」

「い、いや。なんでもねえんだ。なんでも。なっ!」

「あ、ああ!そう!なんでもない」

「た、ただの、身内話だ。」

「ふーん。そっか。ありがとねー」


 うーん、まあいいや。言いたくないなら無理に言わせるのもね。そんな気分でもないし。


 そんなことを話してたら、日が昇ってたみたいで、門が開いた。お、街に入るのに時間かかるのかなって思ってたけど、結構サクサク入ってくね!これなら、わたしの番もすぐだね。


 実際、わたしの番になるまで、10分とかからなかった。さっきの3人組がわたしから逃げるように街に入っていくのを見ながら、なんでこんなにサクサク進むのかなって思ってたんだけど、理由はすぐに判明した。


「次の者。通行証はあるか。……っ!」


 なるほどね。みんな通行証を持ってたのね。納得。えー、聞いてなーい。なんかやっぱりわたしの顔を見て驚いてるけど、こっちはそれどころじゃないんだよね。


「通行証ってどんなの?」

「見、見たところ冒険者だろう。ならば、冒険者カードが通行証となる」


 なーんだ。冒険者カードか。ならあるよ。アイテムボックスのどこかに。さーて、探すぞー。最後尾で良かった。


「冒険者カードだね。探すからちょっと待ってもらっていいかな」

「あ、ああ。早めにな」

「ありがとー」


 んー、なんか態度がおかしいけど、まあ、いっか。さっさと探そう。

 

 その後、冒険者カードはすぐに見つかった。アイテムボックスは、アイテムを入れた順番で上から表示されるみたいで、カードはかなり上の方にあったよ。見つけるのに3分とかからなかったね。


「あった〜!!はい、これでここを通ってもいいんだよね?」

「た、確かに。確認した」


 うむ!特に問題なく入れて良かったね。今度から冒険者カードをどのへんにしまったかちゃんと確認しとかないといけないね。まあ、なにはともあれ、


「よーし!これで入れるね」

「ま、待て!」

「え?まだなにかあるの?」


 なんかデジャヴ。さっきまでの人たちは、カードを確認したらすぐ入っていいみたいだったけど…


「決まりでな。どこから来たかを確認しなくてはいかん。」


 なーんだ、そんなことだったのね。さっきまでの人は、「〜からきたよ」って言いながらカードを見せてたんだろうね。納得。


「昨日の夕方にここから森に出て、そのまま一晩中森にいたよ」

「森に……!よく帰ってこれたな。」

「この子に道案内してもらったからね」

「キュウ?」


 ユニちゃんを抱きかかえて、門番さんに見せる。いきなり抱きかかえられて、イマイチ状況をつかめてないユニちゃんの可愛さに見とれてると、門番さんも何やら納得したようだったね。


「なるほど、従魔士か。従魔の助けがあったのならばあり得るか。よし!通ってよろしい。」

「ありがとー。ごくろーさまでーす」


 門番さんにお礼を言うと、一晩ぶりの街に帰還した。ワンダルよ、わたしは帰ってきた!……別にそこまで思い入れがあるわけでもないけど。


 さーて、まずはどこに行こうかな?やっぱり冒険者ギルドで、クエストの達成を報告したほうがいいのかな。特に期限とかはなかったはずだけど。


 それとも、いっぱいあるアイテムを売ったほうがいいのかな。ただ、どこで売れるのかさっぱりなんだよね。


 うーん、よし!まずは冒険者ギルドに行こう!そのときに、アイテムが売れそうなところを教えてもらえばいいよね。わたし、頭いい!


 することが決まったから、早速行こうかな!…あ、その前に、


「クロちゃーん、ユニちゃーん、おいで〜」

「にゃー」

「キュウ」


 とてとてーとやってきた2体を抱えあげて、クロちゃんを頭の上に、ユニちゃんを胸ポッケにそれぞれセット。これから人通りも多くなるだろうしね。こっちのほうがいいよね。


 朝のワンダルは、思ってた以上に活気に溢れてる。これから街の外に出る人が長い行列を作って、それに向かってポーションやよく分かんない道具を売ろうとしてる人で、大通りはごった返してるね。


 いいねいいね♪こういう現実では見れない風景を見れるのが、このゲームをやってよかったって思える時だね。


 と、その時、通りの先から叫び声が聞こえてきた。事件かな?


「ごめんなさーい!何のことやらさっぱりですがもうしないから許してくださーい!!」

「この期に及んでまだ言うか!っていうかそのセリフは、ついこのあいだも聞いたばっかりなんだけど?」

「今度こそもうしませんから!このスターライトステッキ試作型に誓ってもいいから!」

「ふ〜ん。試作型ってことはまだ作るつもりだったんだ。」

「あ゛!」


 近づいてみると、女の子が2人、道の真ん中で言い争いをしてるね。片方が半泣きで土下座しながら責められてるのを争っているって言えるのならだけど。


 周りが、二人を中心にそこだけきれいに無人になってる。まあ、この状況でわざわざ割って入る人はいないよね。一目で自殺行為って分かるよ。


 うーむ。経験上、こういうのは関わらないほうがいいよね。責めてる方の女の子が一見笑顔に見えるのに、本気で怒ってるのがここまで伝わってくるもんね。なんかものすごーく見たことあるよあの顔。奥さんとか。娘とか。関わったら巻き添え食らうだけだよね。責められてる子には悪いけど、わたしは自分の命が一番大事だからね。仕方ないね。


 そう思って、その場を立ち去ろうとすると、


「にゃっ」

「キュー」

「ああっ!危ないよー」


 クロちゃんとユニちゃんが、急にわたしから飛び降りると、言い争っている?2人へとかけていく。私も急いで2体を追いかけたよ。


「だ〜か〜ら!勝手に素材を使わなければ、少しは大目に見てあげるって「にゃあ」ん?」

「いや、でも芸術の神が降りてくる一瞬が大事じゃないですか!「キュウ」ほらコイツもそう言って…ん?」


 おおー。クロちゃんとユニちゃんの登場に2人の動きが止まったね。今のうちかな。


「はいはーい。そこまで!これ以上は往来のじゃまになっちゃうからね。場所を移して冷静になるといいよ。その子達もそう言ってるでしょ。」


 手をパンパンとたたきながら、2人に一度場を収めるように告げる。ふふふ。こういうのは、娘の姉妹喧嘩を仲裁してきたから実は慣れているのだ。娘の場合は、喧嘩の矛先がこっち向くことがすごく多いからやりたくないけど。


「おおっ!良いこと言いますね!ホラホラ、あの人の言うとおりですよ。」

「はあ〜。まったくコイツは。まあ、たしかに私も熱くなりすぎたしね。往来の邪魔なのは確かだし、場所を変えてじっくりと話し合う方が良いかもね。」

「え゛」


 おお、すごい。珍しく何事もなく場が収まりそう。土下座してたほうが、まるでこの世の終わりみたいな顔してるけど、きっと大丈夫だよね。じゃあ、わたしはさっさとギルドに行こうかな。


「クロちゃん、ユニちゃん、戻っておいでー」

「にゃ〜」

「きゅう〜」

「あれ?おーい。ふたりとも〜戻っておいでー」


 あらら。クロちゃんもユニちゃんも、女の子の腕の中から動こうとしないね。どうしようか。わたしが悩んでたら、お説教してた方の子がこっちに近づいて来てた。


「すみません。お見苦しいところを見せてしまって。あなたの従魔ですか?かわいいですね。ほら、ラブ、あなたもお返ししなさい。」


 おお、こっちの子は礼儀正しい。お説教してるときから思ってたけど、かなりしっかりした子だよね。その子はクロちゃんを私に手渡しながら、もう1人の子に声をかけている。


「ええー、イヤです。決めました。私はこの子とこれから暮らします。」

「ほんとにコイツは…」


 あわわわわ、ユニちゃんが拐かされてる。さっきまで土下座してた子はユニちゃんにメロメロみたいで、抱きしめて頬ずりしてる。ユニちゃんの角が痛くないのかな。痛くないんだろうね。


「いや、でも実際こんだけ可愛いんだから、しかたなくないですか。10人いれば10人この可愛さには抗えないですって。」


 確かに。


「だからって他人の従魔を返さない理由にはならないでしょうが!いい加減にしなさい!」


確かに!!


「何言ってるんですか!私は常に全力ですよ!いい加減なことをしたことなんて一度もありませんから!」

「コイツ!」


 うーむ。なんかこういうときって、自分以外に本気で怒ってる人がいると、逆に冷静になれるよね。不思議。


 土下座してた子は、言ってやったぜみたいな顔してるけど、そろそろ止めたほうが良いよね。もう1人が怒髪天を衝きそう。苦労してるんだね。


「まあまあ、落ち着いて。ユニちゃんと一緒にいたいなら、みんなで一緒にご飯でも食べに行こうよ。一晩中外にいたからお腹ペコペコなんだよね。」

「にゃー」


 怒ってる子の頭にクロちゃんを乗せながら、落ち着くように話をする。美味しいもの食べて一息つけば、冷静になれるよ。クロちゃんも、落ち着けって言う感じで女の子の額をペチペチしてるね。


「はあ〜。確かに、そろそろどいたほうが良いですよね。ラブ!一度店に戻るよ。話はその後!」

「りょうか〜い。」


 怒ってた方も、クロちゃんをまた抱きかかえて落ち着いたみたい。まあ、ギルドには今すぐいかないといけないってわけでもないし、しばらく戯れてれば土下座の子も満足するよね。


 ……するよね?


補足

おじいさん:リアファン管理AIの1人。このおじいさんを見ることが魔眼習得の条件にもなっている。詩の創作は趣味。


クロちゃんとユニちゃん:厄介事には積極的に首を突っ込むタイプ。好奇心全開。

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