石田長道 その13
―石田長道 その13―
壊れたドラゴンゴーレムを見下ろして、僕は途方にくれていた。
目の前で流れるマグマの中にドラゴンゴーレムの残骸は悲しく沈んでいく。
僕の後ろに居る4人。
デルリカさん、カイル君、懐中子、ヒッチコック伯爵も呆然としている。
無敵に思えたドラゴンゴーレムが、こんなあっけなく壊れるなんて。
マグマを海側に逃がすため、地下に向けて直径10メートルの穴を300メートルほどゴーレムのブレスであけた。
さすがにドラゴンゴーレムでも難しいかなと思っていたら、やっぱりエネルギー出力を制御する装置が焼ききれてゴーレムが熱暴走を起こし動きがメチャクチャ遅くなてしまった。
これだけなら修理すればいいだけなのだろうけど、ノロいから噴出してきたマグマに飲まれてしまった。
まあ、マグマを抜くための穴の真ん前で動きが止まていれば、噴出すマグマにやられるよね。
で、魔力のシールドが展開できないドラゴンゴーレムは内と外の熱に耐え切れず、さっき爆発したのだ。
ちょっとびっくりした。
呆然とした人間たちの中で、最初に再起動できたのはやはり僕だ。
「あはは、さすがにブレスの出力を上げ過ぎましたね。しかも1分連続射出とかは無茶だったってことかな。あははは。でも街が無事で何よりです。」
いきなりゴーレムの懐中子が土下座した。
「お父さん、大事なドラゴンゴーレムを犠牲にさせてしまってスイマセンでした。」
ハッとしてヒッチコック伯爵も土下座する。
おいおい、貴族が平民に土下座するものではないよ。
「ナガミーチさん、わが領民を守るために多大な損失を出させてしまい、本当に申し訳ない。賠償の請求は言値で受けさせてもらう。」
俺はヒッチコック伯爵の頭を上げさせた。
力ずくで引っ張りあげて立たせる。
「気にしないでください。どうせアレは拾ったものですし。人を助けて壊れたのですから文句なんてありません。」
「ナガミーチさん」
ヒッチコック伯爵は涙目だ。
いやほんと気にしないでほしい。
あれ、じつは大きくて置き場に困っていたんだよね。
しかも時々マリーちゃんが乗って遊ぶから、まわりに被害が出て困っていたと言うか・・・
今回は、実は僕的にはOKな事態なのですよ。
すると背後から澄んだ女性の声がした。
「汚ねえ花火だ。」
振り向いたら大空姫さんだった。
「大空姫さん?もしかして大豊姫さんからマンガとか借りて読んだりします?」
「うむ。日本の書物は沢山借り受けたでござる。とくに『甲陽軍鑑』がお気に入りでござる。」
「そういうことかい!っていうか、それマンガじゃないし。」
おもわず、手の甲でペシリと突っ込みを入れてしまった。
しかし甲陽軍鑑が好きだからサムライ風なのか。
「ちなみに『葉隠れ』とか読みました?」
「読んだでござる。されどアレは忠義の尊さを語ってはいるが、侍本来の支配的者階級の義務や知恵などが語られておらぬので物足りぬでござる。平時においてサムライが武士道によりどころを見出した、悲しい姿しか見えてこぬ。ゆえに、好きではないでござるよ。」
意外と深く読んでいて感心してしまった。
「でも甲陽軍鑑は、話がとっちらかっていてまとまりが無いですし、行き当たりばったりな気がしますが。」
「それが良いのでござる。日々の出来事や軍事的な考察などが特に整えていないまま書かれている。ゆえに、その当時の武田の真の姿を考察しやすい。あれは興味深い一冊でござる。」
そんな本を読みつつも、ドラゴンボー○とかも読むのか。
もしかして、手当たり次第読む乱読家なんだろうか?
「もしかして大空姫さんて、本なら何でも読む派ですか?」
すると深く頷かれてしまった。
「本はあるだけ読むでござる。大豊姫の本はいささか偏っているでござるが、頼めば他のジャンルのものも見つけてきてくるれるので、面白いでござる。最近面白かったのは、法隆寺という場所に隠されていた『太子秘録』という予言の書物で、西暦2200年までの世の出来事と法隆寺の身の降り方について指示が書いてあり興味深かった出ござる。」
「それ!見ちゃいけない本!っていうか僕も読みたい!」
「大豊姫が向こうの友達に頼んで写本を貰っているので、あとで借りるといいでござる。」
「向こうに友達とかいるんですか…。意外に顔が広いですね。」
「うむ、なにか欲しい本があれば長道氏も頼むといいでござろう。向こうの文学の神の一人である紫式部さんという人が腐仲間という友達らしいでござるそうだ。」
いっしゅんクラっときた。
聞かなきゃよかった。
たしかに紫式部さんは日本最古の貴腐人であると言えなくも無いが、現役だったか…。
「そうですか。貴重な情報ありがとうございます。」
思わずよろけそうになったので、デルリカさんの肩につかまってバランスをとる。
「今のお話、そこまでショックなお話でしたの?」
「コッチの世界の人の感覚で言えば、マリユカ様がお菓子で買収されるチョロイ神だと知ったくらいのショックです。」
デルリカさんが優しく僕を支えた。
「それはショックですわね、よくわかりますわ。ところで腐ってなんですの?」
「ホモや少年がエロイことしたり、知っている人にエロイ事させたり、逆ハーレムを喜んだりする文学を見て喜ぶ女性の事です。彼女達の頭の中では仲の良い兄弟は当然ホモもしているという妄想で満たされています。」
デルリカさんの顔が可哀相な人を見る表情になる。
「それが文学の神さまですか。マリユカ様のお菓子大好きよりもショックを受けそうですわね。」
「何言ってるんですか、いまこの世界の大天使の1人(巨乳)も腐だと判明したんですよ。」
「う、それは・・・いえ、こちらは豊穣の大天使様ですから許容範囲ではと。」
2人してしばらく黙り込んでしまった。
ちょっとしばらく暗い部屋で膝を抱えて過ごしたい。
そこで、忘れられていたヒッチコック伯爵が申し訳なさそうにカイル君に話しかける。
「あ、カイル殿。われはセイジーの安否が知りたいのだが、分かるであろうか?」
すると大空姫さんがマイペースの調子でヒッチコック伯爵を見た。
「セイジー氏であれば、死ぬ直前に異世界の日本に送っておいたでござる。向こうの世界でワンド子とともに頑張るでござろう。日本とは先ほど話に出ていた世界でござる。良い世界であるゆえ心配はいらぬでござろう。」
それを聞き、ヒッチコック伯爵はいそいで大空姫さんに跪く。
「ありがとうございます、セイジーが助かったのであれば本当に良かった。お礼申しあげます。」
それを聞き、優しく微笑むと大空姫さんは俺を見た。
「それと言い遅れたが長道氏、デルリカとの結婚おめでとうでござる。」
ヒッチコック伯爵と懐中子が飛び上がって驚いた。
「デルリカ嬢と結婚!ナガミーチさん、どういうことであるか!」
「お父さん、デルリカさんは妹同然っていってたじゃないですか!シスコンですか!」
さらに少し離れた場所に隠れていたビレーヌさんも、のそりと顔を出す。
「今のお話…本当ですの?マリーならともかくデルリカ様ですか?」
あ、説明しなくちゃ混乱しそう。
「では説明します。説明を聞く気がある人は黙って手を上げてください。」
伯爵、懐中子、ビレーヌさんが手を上げた。
「はい、では簡潔に説明します。僕を養子としてベルセック家に迎え入れようとした旦那様が、なぜか早まってデルリカさんと結婚をするという報告を王城に出してしまったのです。以上。」
するとデルリカさんが補足を入れる。
「ですが悪くは無い間違いですのよ。これでワタクシに言い寄る馬鹿貴族はいなくなりますし、もしもナガミーチが貴族としての爵位を得てもワタクシが置いていかれる事もなくなりましたし。べつにワタクシにとってはお兄ちゃんですので、表向きの公表がどうであろうと関係有りませんわ。」
そしてカイル君が悟りを開いた顔で締めてくれた。
「つまり何も変わらないということですね。マリーさんも気にしてないようですし。ナガミーチ兄様は生涯童貞の呪いがかかってますし。」
あれ、その呪いは解けたはず…いや、あとで確認しよう。マリユカ様は天然だから忘れている可能性も高い。
するとビレーヌさんがそっとデルリカさんに近づいた。
「ではナガミーチ様が外に女を作ってもデルリカ様は黙認されますの?」
「ちゃんと夕飯時に家に帰ってくればどうでもいいですわ。」
ビレーヌさんは「よっしゃ」と言いながらガッツポーズをとっていたが、見なかったことにしよう。
ヒッチコック伯爵は、1人頷き僕の前に来る。
「じつは最後の通信で、セイジーの分もナガミーチさんの結婚祝いを頼まれておったのだ。近いうちにセイジーの名でお祝いを贈らせて頂こう。」
「そうですか、セイジーさんがそんな事を。伯爵、ありがとうございます。」
あの人、死ぬ直前にそんな事を言っていたのか。
最初はパッとしない人だと思っていたけど、律儀な人だったんだな。
もっと、いろいろ面倒見てあげればよかったと後悔してしまった。
すこし感傷的になってしまったので気分でも変えるか。
なんとなくカイル君の肩を組んで流れるマグマを見る。
もうドラゴンゴーレムは完全な残骸になっていた。
アレでは中の機密はボロボロで隠匿する必要もないだろう。放置するかな。
カイル君も感慨深そうにドラゴンゴーレムを見つめる。
「ナガミーチ兄様、ドラゴンゴーレムの残骸をどうしますか?回収するなら手伝いますけど。」
「いや、ここに放置して大魔道師セイジーの偉業を讃えるモニュメントにしよう。コレを見るたびに街の人が彼に感謝するように。」
クスリとわらわれた。
「お人よしですね。」
「ちがうよ、本当は持って帰るのが面倒だから適当な言い訳をしただけさ。」
カイル君は「そういう事にしておきます」といって笑ったが、持って帰るのが面倒と言うのは本心なんだよな。
絶対勘違いされたなコレ。
僕はホント、勘違いされ系男子だよ。
まあ、義弟への見栄をはる分くらいの勘違いなら良いか。
後ろでビレーヌさんがデルリカさんに「アレはよからぬ展開では?」と言っている。
あなたも腐ですか。まあ、ビレーヌさんらしいから良いけど。
そのあと、デルリカさん、カイル君、ビレーヌさんは高速飛行で飛び去って帰宅した。
ヒッチコック伯爵と懐中子は大メイドーで街に安全を告げに良く。
僕は1人残ってまだ流れるマグマを眺めていた。
いや、待っていると言うほうが正解だろうか。
すると、火口のマグマから水色の髪の毛の少女が這い上がってくるのが見えた。
まるで川で一泳ぎしたような気軽な感じでマグマから出てくる。
マリユカ様、こういう姿を見ると神様だって実感沸くなあ。
僕を見つけると、無邪気に走ってコッチに来た。
飛びついてきたが、その瞬間違和感を感じて、僕は全力で回避!
熱い!
触れたわけではない。近寄ってくるだけで、すでに空気が熱かった。
僕に飛びつけなかったマリユカ様は、そのまま勢いで地面に手を付く。
すると手を突いた場所に生えていた雑草が「ジュウゥゥ」と燃えた。
あっぶねええええええ。
1万度以上のマグマに浸かっていた体が、外に出たからって数十秒で常温になるわけないよな。
「殺す気ですか!体が冷えるまで近づかないでください!」
「えええ、しょぼーん。」
可愛くガッカリしているけど、これに油断する気は無い。
だって死にたくないもの。
ま、<スマート念話>のカメラ機能で、しょぼんとした姿を三枚ほど枚撮影したけどね。
たしかに数十分前に「俺、結婚するんだ」って言ったけど、解決して安心したと見せかけて意外なことで死ぬとか、どこの死亡フラグだっていうの。
っとはいえ、しょぼーんしている姿が可哀想だから、精霊魔法で冷却してみる。
「精霊10人、マリユカ様が36度になるまで全力冷却を!」
すると豪雪のような吹雪が、マリユカ様の周りにだけ吹き荒れる。
3分ほどふぶいて魔法が切れた。
すると、にぱあと笑って少女形態のマリユカ様が飛びついてきた。
「あはは、マグマ泳ぎは面白かったですよー。つぎは長道も一緒に行きましょう。」
「いや、だから殺す気か!」
マリユカ様の頭に布を巻きつけ髪の毛を隠す。
可愛いなあ。
もう一枚<スマート念話>のカメラで撮影してみた。
そしてこの髪の毛を誰かが見ていないか<上級探査>のスキルで周りをサーチする。
よし、誰も見ていなかったな。
だが、探査の端っこのほうに、妙な影を見つけた。
頭の中でその奇妙な存在に探査を集中させる。
すると、その影のポップには『真里有華国・工作部隊』と書かれていた。
他国からの工作か。
今回の噴火、なにか意図があるのか?
ちょっと歴史が動き出しそうな予感がしてきた。
どうやらマリユカ様が喜びそうな未来(激動の未来)がやってきたようだ。
さてさて、どうしたものか。
もう一枚マリユカ様の姿を写真収めながら、新展開に考えをめぐらした。
お読みくださりありがとうございます。




