玉置誠二 その13 エピローグ
2016/7/16 13:25少し修正。
登場人物紹介
セイジー:帰って来て、自分がお笑い芸人だと思い出す。しかしマジシャンとして認知されている。
ワンド子:セイジーのゴーレム。しかし人気はセイジーより10倍ぐらい高い。
サトミー:トップアイドル佐山里美。本名は増戸里美。自称ナガミーチの四番弟子。
アマノウズメ:日本の神様の一柱。けっこうフラフラしている。ライブ系には良く足を運ぶ。
―玉置誠二 その13 エピローグ―
逮捕されたけど、ワンド子が必死に「セイジー君は悪くないんです」と言いながら警察官さんにすがり付いてくれたので、どうにか難を逃れた。
危なかった。
こっちの世界では、女子高生をマジマジ見るだけで犯罪になるのを忘れていたよ。
疲れながら俺はボロアパートに帰ってくる。
ドアを開けた瞬間、ワンド子を連れてきたことを後悔した。
いや、まじで有りえないくらい汚い部屋だわ。
ううう、こんな汚れた俺をワンド子に見せたくなかった。
しかしワンド子は楽しそうに笑った。
「お父さんも篠さんたちがいないと、2~3日でこうなるんですよ。今片付けますから待っていてくださいね。」
1時間ほどで、ゴミをまとめて人がギリギリ生活できるレベルにしてしまう。
ワンド子マジ天使。
一息ついて冷蔵庫からお茶を出して飲もうとしたら、ワンド子はすでにティーカップを取り出し、口から『ぷーっ』と茶を入れてくれていた。
「はい、セイジー君。」
出されたお茶を飲んで生き返る。ワンド子のお茶はいつ飲んでも美味しいな…
あれ?いまこのティーカップをどこから出した?
「ワンド子、このティーカップはドコから出したの?」
するとキョトンとされてしまった。
「普通にここから出しましたが?」
そういうと空間収納にカップを仕舞った。
その時の俺の驚きを表現する言葉をまだ知らない。
俺は、魔法は日本では使えなくなると思い込んでいたのだから。
「ワ、ワ、ワンド子!他のも魔法も使えるか試してくれ!」
急いで公園に連れ出した。
夜の公園にセーラー服の少女を連れ込む俺。
また警官がいたらヤバイところだった。
でもそんな事を考えられないくらい俺は慌てていたのだ。
ワンド子は、普通に魔法を使った。
ビビった。
そして不思議そうに言われてしまった。
「セイジー君は使えないんですか?」
ハッとして空間収納に手を突っ込む。
突っ込めた。
適当なものを引っ張り出そうとした。
しかし、こちらは残念ながら空だった。
だが、空間収納は生きている。
絶対ダメだと思いながら、空間への命令魔法を展開し、ナガミーチ魔法を使った。
25秒で術式展開。
「セイジーの名において命じる。クリエイトウォーター!」
どぼどぼどぼ
水が溢れた。
嘘だろ…、魔法が使えた。
そこで、本当に不思議そうにワンド子は小首をかしげる。
「セイジー君は魔法が得意じゃないですか。なんで水を出した程度で驚いているんですか?」
しばらくイロイロ試した結果、かなり使えることが分かった。
どうやら、密かに日本でもナガミーチ魔法言語がインストールされている。
空間命令魔法さえつかえれば、じつは日本でも魔法が使えるのか。
衝撃だった。
俺はフラフラと家に帰る。
そしてワンド子と布団を並べて寝た。
ワンド子は眠らないのでジッと俺を見ているが、最近はコレがないとむしろ安心しない。
ワンド子に見つめられつつぐっすり眠った。
目を覚まし、最初にしたことはワンド子の確認だ。
よし居る。夢じゃない。
実は昨晩は少し心配だった。寝て起きたら消えるんじゃないかと。
だが消えなかった。
本当に安心した。
つぎにやるのは…
何をしよう?
するとワンド子が俺のネタ帳を手にする。
「セイジー君、これ見てもいいですか?」
「ん?ワンド子は何でも見ていいよ、今までもそうだったし。」
ワンド子がネタ帳をパラパラみているのを見ながら、自分が何者だったかを思い出した。
俺は、お笑い芸人だった。
今夜もライブハウスでお笑いライブがある。
30人程度が見に来る小さなお笑いライブだが、俺は半年前はそれに全てをかけていたんだった。
そんな事を思っていると、ワンド子はネタ帳を見終わり微笑む。
「これはポエムですか?」
言われて自分のネタ帳を見た。
つまらない。
なんだこりゃ、つまらなすぎる。
半年前の俺、つまらんさすぎるよ!
そして、つまらないお笑いネタはポエムに見えるという事に追加ダメージを受けてしまった。
お笑い芸人である自分を捨てて魔道師になったつもりだったけど…
いまなら、少しはマシな芸人になれるんじゃないだろうか?
ナガミーチさん、ビレーヌ様、デルリカ様、マリーちゃん、そしてヒッチコック伯爵。
そういう人たちとのふれあいの中で、俺の感性は半年前よりも豊かになったのかもしれない。
なんせ、あの人たちは天然で面白すぎたのだ。
それを日常の中で触れ続けたのだ。お笑いのセンスが上がっても不思議ではないか。
そしてふと昨晩の光景が頭をよぎる。
日常が面白いか…
警官に捕まったとき、上空でアマノウズメさんが大笑いしていた気がする。
これはヒントだな。
俺は、お笑いライブのオチだけ決まった。
ワンド子に抱きついた後、警官に捕まって「違うんじゃよおお」と絶叫するというオチ。
よし、なんか面白いぞ。
つぎに、始まりは・・・
そうだマリーちゃんとナガミーチさんを思い出そう。
俺がタバコを吸っていると、ワンド子が「おじちゃん、今日も遊んで」とやってくるのはどうだろうか?
お決まりのパターンで、これはいけそうだ。
よし、最初と最後は決まった。
途中はどうしよう。
そこである思い出がよぎる。
伯爵がはじめてインテリジェンス・アーツ・ゴーレムを手に入れたときの事。
ビグニー家で急にデルリカさんを笑わせるお笑い対決になった時の事。
そうだ、あのネタ全部パクってもいいのではないだろうか?
そうだ、異世界でのネタになりそうなことは全部パクろう。
長道さんが、コッチの世界のものを容赦なく向こうの世界でパクっていたのだから、俺がその逆をやっても良いよな。
そして夜、お笑いライブが始まった。
当然ワンド子を相棒に連れて行く。
つまらないので有名な俺の芸だったが、今日から伝説を作るぞ。
俺の番が来た。
舞台に上がると中央においてある椅子にすわり、タバコを吸いだす。
舞台の袖からワンド子が近づいてくる。
「おじちゃん、遊んでくださいなー。」
土木工事をするかんじの服装をした俺はワンド子を無視する。
ワンド子はハっと思い出した表情になり言いなおす。
「伯爵、あそびましょー」
「おう、おう俺は伯爵だ」
観客からクスっという反応が返ってくる。
好感触だ。俺のライブではまず無かった反応に期待が高まる。
俺は面倒くさそうに追い払おうとする。
「ダメダメ、お嬢ちゃんは知らないかもしれないけどな、おっちゃんがお嬢ちゃんくらいの年の子と遊ぶと、警察に逮捕される時代なんだよ。だからあっちいきな。」
ワンド子は手を出す。
「じゃあ手品見てくれたら帰るから、ねえ伯爵、ちょっとここにお金を置いてみて。」
俺は素直に「返せよ」と言いながら小銭を沢山ワンド子の手に乗せる。
その小銭が一瞬で消えた。もちろん空間収納に入れただけだが。
だが客席がどよめいた。
俺も驚いたフリをして「すごいなお嬢ちゃん、じゃあ金返して。」という。
するとワンド子は手をブンブン振って「あれ、本当に消えちゃったよ」といって、観客席にいやらしい微笑をする。
笑いがおこった。
おれの笑いライブで始めて笑いを取れた。
感動しそうになるのを、こらえてネタを続ける。
「このやろう。絶対わざと盗りやがったろう。あーもういいよ。じゃあちょっと緑茶かって来い。金は今の使えよ。」
そういうとワンド子はどこからともなく、ぱっと透明なコップを出す。
それに観客はまた感心した声を上げた。マジックに見えるんだろうな。
普通に空間収納を使ってるだけなんだけど。
コップを出すと、ワンド子は口から氷を吐き出した。
ジャラジャラジャラ
観客は連続で行われる手品っぽいネタに「おおお」と歓声を上げた。
でもやっぱり、これもマジックじゃなんだよな。ワンド子の標準装備機能にすぎないから。
観客が驚いているのを無視して緑茶を口から出す。
ぷー
「はいどうぞ、伯爵。」
「飲めるか!JKに口から出させたものなんか飲んだら、おっちゃんは警察に捕まるわい。じゃあウーロン茶かってこい。」
そうするとワンド子はまた透明なコップを空間から出して口から飲み物を出す。
ジャラジャラジャラ
ぷー
それを見て観客から拍手があがった。
それで俺がトドメ、むりやりワンド子にお茶を飲まされる。
お茶を飲んだところで見えない警察に捕まり
「違うんじゃ、俺は関係ない。悪いのはその子だーーーー」
と叫んで舞台のそでに消えると、笑いと拍手が起きた。
よし、やれる!
話題になった。
次のライブでは、ワンド子のファンが出来ていたが、まあいい。
そのライブでは、ワンド子がリキんだ表情をして背後からカレーを出すと言うギャグをやった。
おれは「ちょっとまて、いまこのカレーをどこから出した!。」と叫ぶと、観客は大喜び。
「大丈夫だから食べてみて。伯爵もおなかすいているでしょ」
と無理やりワンド子はスプーンで俺の口にカレーを突っ込む。
俺が食べて「あれ、普通に美味しいな」というとワンド子が「ね、カレー味でしょ」という。
すこし考えて俺が「カレー味?え、カレーそのものではないの?カレー味の何かなの?」というと、ワンド子は「キャッ、それいじょうは恥ずかしいです」といって顔を隠す。
観客は大爆笑だった。
俺はワンド子の腕を掴んで詰め寄る。
「たのむ大事なことだから本当の事を教えてくれ、あれはカレーだよね、カレー味の何かではないよね。いいから教えてよ。いいじゃないか教えてくれよ。そうだパンツ脱げ。いいからパンツ脱げ。」
そう詰め寄っていると警官につかまる。「ちがうんじゃよ、ちーがーうー」そう絶叫しながら舞台袖に消えると、観客は呼吸困難を起すほど笑っていた。
さすがです長道師匠。あなたのネタは鉄板ぽいです。
それから、マジックとお笑いを上手く使って、俺たちはドンドンのし上がる。
あっというまに漫才グランプリで優勝までしてしまった。
だがネタはほとんどナガミーチさんの日常をパクッタだけなのは秘密だ。
そして俺はとうとう、あの番組に出演するまでになった。
皇族と結婚した冬洲宮(旧姓:大田)康子さんを、毒舌キャラのマツオデラックスが斬るとかいうバラエティー。
そこで俺はサトミーさんと競演できた。
俺は嬉しくてサトミーさんに声を掛ける。
「お久しぶりですサトミーさん。」
すると困った顔で返事をされてしまった。
「初めまして玉置誠二さん。ご活躍は拝見させていただいています。どこかでご一緒しましたっけ?」
あれ?忘れられてる。
「いえ、ナガミーチさんのところのホログラム通信で話しましたよ。サトミーさんはナガミーチさんの4番弟子で俺は6番弟子です。」
そこでサトミーさんが凄い食いついてきた。
「え!あなたも長道Pの元で修行したんですか!さすが長道Pですね。私は長道Pのことは3番目に尊敬しているんですよ。」
ほー
「ちなみに一番と二番も聞いていいですか?」
「一番尊敬しているのは、ナガミーチPの2番弟子の康子様で、二番目はナガミーチPの1番弟子デルリカ様です。」
「へー、じゃあ3番弟子はだれなんでしょう?」
「美少年のカイル君です。」
「ああ、彼は優しい少年ですよね。さすが勇者ってかんじです。」
すると、サトミーさんの後ろに、ギャルっぽいメイドが現れた。
「セイジーさん、聞いていい?後ろのワンド子ちゃんてゴーレムじゃね?パパの作風っしょ。」
驚いた。
「もしかしてあなたもインテリジェンス・アーツ・ゴーレムですか?」
するとサトミーさんはワンド子に抱きつく。
「うわー、やっぱりこの子もゴーレムなんだ。カレーのネタってやっぱり空間収納使うんだね。納得だよー。」
ワンド子がうらやましい。
そこでサトミーさんが嬉しそうに俺を見る。
「今日お会いする冬洲宮(旧姓:大田)康子様はデルリカ様の妹様なんですよお。私は大ファンだったんです。お会いできるのが楽しみで。」
この番組がきっかけで、ナガミーチさんの2番弟子、4番弟子、9番弟子さんの<携帯念話>の連絡先交換ができてとても有意義な出演だった。
ただ、サトミーさんとヤスコー様から『マツオデラックスさんと仲良くしたら敵!』と言われたので逆らわずに、連絡先も交換しなかった。
オカマよりも女性の味方、それが玉置誠二である。
後から、この番組を見たことで俺の存在を知った勇者タケシーさんからも連絡が来て、異世界仲間が増えてなんか嬉しい。
心の中で、この縁を結んでくれたマツオデラックスさんには感謝している。
怒られるから口には出さないけど。
これが切っ掛けでご縁だからと、サトミーさんのお母さんの事務所に移籍し、サトミーさんには姉弟子としてパシリにされる日々が始まる。
美少女にこき使われるのは意外に気持ちよく、また新しい扉が開いた気がする。
その後、
ワンド子のお陰で「カレー味」というのが流行語大賞に選ばれた。
その勢いで「カレー味」という謎のカレーも売り出されて、おれ達の人気の後押しをしてくれたのはラッキーだったと思う。
CM契約で大金も入ったし。
しばらくすると、徐々にお笑い芸人よりもマジシャンとして名声がたかまってきた。
火でも水でもポンポン出せるし、ヤバイ脱出マジックは空間転移。
人形を自在に動かして喋らせたりもした。
まさにスーパーマジシャンだ。
道具を一瞬で出したり消したりできて、豪快なマジックをするのが俺達のスタイル。
その結果、何かとマジシャン達に興味を持たれた。
タネが知りたいらしい。
すいません、タネも仕掛けもありません。
俺はワンド子と二人三脚でお笑いも出来るマジシャンとして、この果てない道を走り始めた。
芸人道と言う上り坂を。
人気のマルチ芸人になって思うのは、心のもち方の違いの恐ろしさだ。
これは口で説明しても経験が無い人にはわからないだろう。
だがその差は明白。
あのマリユカ宇宙でおれが学んだのは魔法だけではない。
きっと、もっと根っこの心の問題だ。
その心のちょっとした差が今の俺を作ったのは明白だろう。
するといつも思い出すのが伯爵の顔だ。
彼との出会いが無ければ、ここまで前向きな人にはなれなかっただろう。
ヒッチコック伯爵、会いたいな。
俺はそう思いながら、昼間の公園を歩いた。
隣にはワンド子もついてきている。
ベンチに座って空を見上げた。
すると、誰かがおれの前に立つ。
空から目を下ろしてきて俺は驚いた。
特徴的な巫女姿に隈のような化粧。
アマノウズメさんだった。
「よ、あんた面白くなったねえ。むこうの宇宙に送った甲斐があるってもんだよ。」
「アマノウズメさん。またお会いできるとは思っていませんでした。」
すると、ひょいっと隣に座って来る。
「まあ、縁ができたからね。そうそう長道ちゃんと連絡とりたいなら37才まで我慢しな。そしたら連絡できるようになると思うよ。」
そういうと「またなー」といって消えていった。
それを言うためだけに現れたのだろうか?
不思議な人だ。
37歳になったらか…
そしたら伯爵とも話せるだろうか。
すこし夢が膨らんだ。
だったらそれまで、沢山のお土産話を溜め込まないとな。
もっと人生を走って、もっと伯爵に話せる経験を積もう。
俺の異世界への旅は、まだまだ本当の意味では終わらない気がした。
サトミー「ビレーヌ様が長道Pのストーカーか。そのまま結婚しちゃえばいいのに。」
セイジー「それ絶対長道さんに言わないでくださいよ。あの人、泣きますから。」
サトミー「だよねー。長道Pは私とマリーちゃんが大好きだもんね。あは。」
ワンド子「でも結婚はデルリカさんとしたらしいですよ。」
サトミー「え・・・嘘・・・嘘でしょ。私のデルリカ様が、そんな。ブラコンをそこまで拗らせていたなんて。」
セイジー「そっちにショック受けるんかい!長道さんが可哀想やん!」




