前日譚 麻衣先生のこちょこちょ話
私の名前は、白瀬ましろ。
お姉ちゃんの麻衣とは、ちょうど六つ離れている。お姉ちゃんは高校生で、私は小学四年生。年の差はあるけど、仲はいい方だと思う。お姉ちゃんは私のことを「ましろ」って呼んで、いつもかわいがってくれる。宿題を見てくれるし、おやつも半分こしてくれる。困ったときは、真っ先に相談にのってくれる。
でも、ひとつだけ、お姉ちゃんの困ったところがある。
それは、くすぐりが大好きすぎることだ。
いや、正確に言うと、私をくすぐることが大好きすぎる、というべきか。お姉ちゃんは、隙あらば私のことをこちょこちょしてくる。朝起きたとき、ご飯を食べているとき、テレビを見ているとき、宿題をしているとき。私の弱点を探すのが楽しくてしょうがないらしい。
「こちょこちょこちょ~」
お姉ちゃんの指が、私のわきの下にするっと入りこんで、こしょこしょと動く。私は、もうそれだけでダメだ。体がビクンって跳ねて、変な声が出る。
「あはははは!ちょ、お姉ちゃん、やめてってば!」
「えー、だってましろがくすぐったがるの、かわいいんだもん」
「かわいくない!やめて!あはははは!」
お姉ちゃんは、私が笑えば笑うほど、嬉しそうに指を動かす。わきの下だけじゃなくて、わき腹、お腹、背中、ひざの裏、耳の後ろ。私の弱点は、お姉ちゃんに全部バレバレだ。
しかも、悪いことにお姉ちゃんのくすぐり方は、年々うまくなっている気がする。指の動きが、どんどん正確になって、緩急までついてきた。私がくすぐられるほど、お姉ちゃんの腕は上達してしまう。かといって、くすぐりから逃げようとすれば、お仕置きとして、何倍もの時間くすぐられるのがオチだ。
でも、今夜だけはくすぐられないかもしれない。
「ねえ、ましろ。今日、借りてきたホラー映画、一緒に見ようよ」
夕食のあと、お姉ちゃんがDVDのパッケージを手に持って、にこにこしながらリビングにやってきた。パッケージには、暗い廊下に立つ、長い黒髪の女の人が映っている。タイトルは「呪いの家」だった。
「え……ホラー映画?」
私は、思わず後ずさりした。正直、怖いのは苦手だ。お化けとか幽霊とか、そういうの、考えるだけでも夜にトイレに行けなくなっちゃう。
「大丈夫だって。お姉ちゃんが一緒にいるから。それに、怖くなったら、私が守ってあげるから」
お姉ちゃんは、胸を張ってそう言った。でも、私は知っている。お姉ちゃんは、実はすごく怖がりだ。ホラー映画を見るときはいつも、クッションを抱きしめて、私の腕をつかんで、最後まで目を細めて見てる。それで、「別に怖くないし」って強がるけど、夜にトイレに行けなくなっちゃうのは、だいたいお姉ちゃんの方だったりする。きっと怖くて、一人じゃ見れないから私を誘ってるんだ。
「ましろ、見る?見ない?」
「……見る」
私は、しぶしぶうなずいた。お姉ちゃんが借りてきちゃったものは、仕方ない。それに、一緒に見ないと、後が怖い。リビングの照明を消して、テレビの前に並んで座る。お姉ちゃんは、早くもクッションを抱きしめていた。
「お姉ちゃん、もう怖がってるでしょ」
「な、なんでよ。まだ本編はじまってないじゃん」
「手、震えてるよ」
「震えてないし!」
お姉ちゃんは、ぷいっと横を向いた。でも、クッションを抱きしめる手に、ぎゅっと力が入っている。
DVDの本編が始まった。ドアがゆっくり開く映像から、不気味な音楽が流れる。画面の中では、引っ越してきた家族が、古い家の中を探検している。まだ幽霊は出てきていないのに、雰囲気だけで怖い。
「ひっ……」
お姉ちゃんが、小さく悲鳴をあげた。
「お姉ちゃん、まだ何も出てないよ」
「だ、だって、音楽が怖いんだもん」
「あれー、お姉ちゃん、私を守ってくれるんじゃなかったっけ」
私は、さっきお姉ちゃんが言ったセリフを、そのまま言い返してやった。お姉ちゃんは、むっとした顔をしたけど、反論はしなかった。
それから、しばらく見続けていると、画面の中に、ついに幽霊が現れた。白いワンピースを着た、長い黒髪の女の人だ。画面の隅から、ゆっくりと近づいてくる。
「キャーッ!」
お姉ちゃんが、今度ははっきりと叫んだ。もう震えは隠せない。私の腕にぎゅっとしがみついてきた。
「お、お姉ちゃん、痛いってば!」
「だ、だって、こわい……!」
お姉ちゃんは、ガクガク震えながら、私の腕を離そうとしない。私も、実はかなり怖かった。画面の中の女の人が、こっちを見ているような気がして、背筋がぞくぞくする。お姉ちゃんの震えがうつって、私も一緒に震えはじめた。
「お姉ちゃん、私も怖いから、ちょっと離れて……!」
「む、無理!ましろ、私を隠して!ちょっとだけ!」
「ちょっとだけじゃない!ずっとくっついてる!」
「こ、怖いから仕方ないでしょ!」
言い争っているうちに、映画はどんどん怖くなっていく。私は、もう半分泣きそうになりながら、テレビを見つめていた。
すると、お姉ちゃんが突然、私の方を向いた。
「ましろも、怖い?」
「へ?う、うん。怖いよ……」
「そっか~。じゃあ、お姉ちゃんが怖くなくなるようにしてあげる」
お姉ちゃんは、そう言うと、にっこり笑った。何か思いついたらしい。私は、素直にうれしくなって、こくんとうなずいた。
「うん。どうするの?」
「ちょっと、両手を上にあげてみて」
「両手?こう?」
私は、何も考えずに、両手を上にあげた。バンザイのポーズだ。
次の瞬間。
お姉ちゃんの両手が、私のわきの下にするっと入りこんできた。
「こちょこちょこちょこちょ~!」
「あははははは!ちょ、お姉ちゃん!なにしてるのっ!あははははっ!」
お姉ちゃんの指が、私のわきの下で、すごい速さで動き出す。両手を上げているから、わきの下が完全にガラ空きだ。お姉ちゃんの指が、くぼみのツボにぴったりはまって、モミモミ、くにくにと集中的に攻めてくる。
「ほ~ら、怖いのなんて吹っ飛んじゃうでしょ!」
「吹っ飛ばない!くすぐったいだけっ!あはははは!や、やめてぇ!」
私は、その場に倒れ込んで、じたばたともがいた。でも、お姉ちゃんは容赦しない。むしろ、私がもがけばもがくほど、楽しそうにくすぐってくる。
「わきの下だけじゃないよ!ここも弱いんでしょ~?こちょこちょこちょ!」
「ひゃあああ!わき腹やめて!あははははっ!」
お姉ちゃんの指が、私のわき腹をこしょこしょって這い回る。もう、くすぐったくてくすぐったくて、何も考えられない。映画の怖さなんて、本当に吹っ飛んでしまっていた。頭の中は、くすぐったいという感覚だけでいっぱいで、笑いすぎて涙がぼろぼろ出てくる。
「お腹も、こちょこちょ~」
「あははははは!むりむりむり!降参!降参するからぁ!」
「降参~?降参しても、まだやめないよ。ましろの弱点、全部知ってるんだから。耳の後ろも、こしょこしょ~」
「ひゃんっ!そこ、だめ、ほんとに、あはははは!」
私は、もう大笑いするしかなかった。お姉ちゃんのくすぐりは、相変わらず上手すぎる。私の弱点を、次々に攻めてくるのだ。わきの下、わき腹、お腹、背中、そして耳の後ろ。もう、体中がくすぐったくて、笑いすぎて息が苦しくなってくる。
お姉ちゃんは、何分間も私をくすぐり続けた。いつの間にか、お姉ちゃんは私の上に馬乗りになって、私の両腕を両足で押さえつけながら、ガラ空きの脇の下を器用にこちょこちょしていた。ようやく手が止まったときには、私はもう、床に大の字になって、ぜえぜえと息をしていた。涙で前がぼやけて、天井の電気がにじんで見えた。
「どう?怖くなくなった?」
お姉ちゃんが、私の顔をのぞきこんで、にこにこ笑いながら聞いてきた。
「……なったけど。くすぐったすぎるよ、お姉ちゃん……」
「よかった~。ましろが笑ってると、私も元気になるの」
お姉ちゃんは、そう言って、私の頭をポンポンと軽く叩いた。
そのとき、お姉ちゃんの動きが、ぴたりと止まった。
「……あ」
「どうしたの?」
「……トイレ、行きたくなっちゃった」
お姉ちゃんは、気まずそうに、もじもじしながら言った。さっきまであんなに強気で私をくすぐっていたのに、今は、まるで子犬みたいにしょぼんとしている。
「行けばいいじゃん」
「……でも、トイレ、電気暗いし、廊下も暗いし……」
「なに言ってるの!さっきまで、あんなに元気だったじゃん」
「それは、ましろをくすぐってたから、忘れられてただけで……」
お姉ちゃんは、うつむいて、小さな声で言った。
「……ましろ、一緒に来てくれない?」
「いやだよ。お姉ちゃん、高校生でしょ。一人で行ってきなよ」
「そんなこと言わないで!お姉ちゃん、怖いの!」
お姉ちゃんが、私の腕にしがみついてくる。涙目だ。さっきのホラー映画が、よっぽど効いたらしい。
「……しょうがないなあ。トイレの前で待っててあげるから、一人で入ってよ」
「うん!ありがとう!」
お姉ちゃんは、ぱっと明るい顔になって、私の手を引いて立ち上がった。
でもそのとき、私の頭の中に、ひとつのいたずらが思い浮かんだ。
(……仕返しのチャンスかも)
さっき、あれだけくすぐられたのだ。お姉ちゃんがトイレに入っている間に、あのホラー映画の幽霊みたいな格好をしたら、驚くだろうか。とにかく、お姉ちゃんをぎゃふんと言わせたかった。
私は、お姉ちゃんがトイレに入るのを見届けると、急いで自分の部屋に戻った。クローゼットから、真っ白なワンピースを取り出す。去年の夏にお母さんに買ってもらったお気に入りの服だ。襟元に小さなレースがついていて、すごくかわいいのだけど、これを着ると、なぜかホラー映画の幽霊みたいに見える。
それから、鏡の前に立って、髪のゴムを外した。肩まで伸びた髪が、さらさらと落ちてくる。それを、洗面所でちょっとだけ水で濡らす。髪を顔の前に垂らすと、もう私は立派な貞子だった。
「うん、完璧!」
鏡の中の私は、どこからどう見ても、白い服を着た幽霊だった。長い黒髪が顔を覆っていて、目だけが、髪の隙間からのぞいている。これでお姉ちゃんが驚かないわけがない。
私は、足音を立てないように、そろそろと廊下に出た。トイレの前まで行って、ドアの横に立つ。
中から、水が流れる音がした。カチャリ、とドアノブが回る音がして、ドアがゆっくりと開いた。
「はあ、すっきりした……」
お姉ちゃんが、のんきな声で出てきた。
今だ!
私は、ドアの横から、するっと体を滑り出させた。
「う、うらめしや~……」
低い声で、そう言ってみた。次の瞬間。
「キャーーーーーー!!」
お姉ちゃんの悲鳴が、家中に響きわたった。すごい声。近所中に聞こえたんじゃないかってくらいだ。
お姉ちゃんは、飛び上がって、壁に背中をぶつけた。顔が真っ青になっている。口をぱくぱくさせて、目をまんまるにして、私を見ている。
「ゆ、ゆ、幽霊!?さっきの映画の幽霊!?私に何しに来たの!」
お姉ちゃんは、がたがた震えながら、壁にはりついたまま動けないでいる。私は、内心で「やった!」と思った。これで、さっきのお返しはできたはず。
でも、そう思ったのもつかの間だった。
お姉ちゃんの顔が青色から赤色に変わっていく。あ、お姉ちゃん、怒ってる?
「……ましろ……?」
お姉ちゃんが、低い声でつぶやいた。
「……あ、あれ?お姉ちゃん?」
「あなた、よくもお姉ちゃんを怖がらせたわね」
お姉ちゃんの目が、らんらんと光っている。その両手が、ゆっくりと胸の前で、わきわきと動きはじめた。
「ま、待って。待って、お姉ちゃん。これは冗談で……!」
「冗談じゃないわ。お仕置きよ!」
お姉ちゃんが、一歩前に出た。私は、一歩後ろに下がる。でも、廊下の先は行き止まり。逃げ場がない。
「幽霊退治よ。ゆうれーたいじー、ほーら、こちょこちょこちょ!」
お姉ちゃんが、私に飛びかかってきた。
「キャーーー!」
今度は、私の悲鳴が家中に響いた。
お姉ちゃんは、私のワンピースの裾をつかむと、そのまま私を引き寄せて、わきの下に指をもぐりこませた。
「こちょこちょこちょこちょ!悪い幽霊には、こちょこちょのお仕置きよ!」
「あははははは!や、やめて!お姉ちゃん、ごめんなさい!あはははは!」
さっきのくすぐりよりも、さらに激しい。お姉ちゃんは、本気で私をこちょこちょしてきている。すごい速さでモミモミ、こちょこちょって、くすぐったいツボを狙ってくる。わきの下、わき腹、お腹、背中、耳の後ろ。全部の弱点を、これでもかってくらい攻めてくる。
「あはははは!もう、ほんとに、あはははは!降参!降参だからぁ!」
「降参しても、許さないわよ。ましろは、お姉ちゃんを本気で怖がらせたんだから。こちょこちょこちょ!」
「ひゃあああ!そこ、だめ!あははははは!」
私は、もう立っていられなくなって、廊下に倒れ込んだ。じたばたもがくけど、お姉ちゃんはぴったりとくっついてきて、くすぐりの手をゆるめない。むしろ、転がったことで、お腹や背中がくすぐりやすくなったみたいで、どんどん激しくなっていく。
「こちょこちょこちょ!もしかして、ましろ、お姉ちゃんにお仕置きされちゃうってわかっててやってたんでしょ!だったら明日の朝までこちょこちょしてあげよっか?」
お姉ちゃんが、怖いことを言いながら、私の腰の周りをこしょこしょしてくる。一番の弱点を攻められて、私はもう、笑い声にならない声をあげるしかなかった。
「ひ、ひぃ……!た、助けて……!お母さ……あはははは!」
私は、思わずお母さんを呼んでしまった。
そのときだった。
「あらあら、なにやってるの?」
お姉ちゃんの手が、ぴたりと止まる。私も、涙でぼやけた目をこすりながら、声のした方を見た。
そこには、パジャマ姿のお母さんが立っていた。両手を腰に当てて、呆れたような顔で、私たちを見下ろしている。
「あんたたち、夜中に何やってるの。近所迷惑でしょ。大きな声出して」
「お、お母さん。あのね、ましろが、幽霊のふりして、私を……」
「はいはい、だいたいわかったわ。ましろ、あんたね、そんな格好して、お姉ちゃんを驚かせたんでしょ」
お母さんは、私の格好をじろじろ見た。真っ白なワンピース。顔の前に垂れた、濡れた長い髪。どう見ても、いたずらしているのは私だ。
「……はい」
私は、観念してうなずいた。すると、お母さんは、にっこり笑った。
「そう。じゃあ、悪い幽霊には、お仕置きしなくちゃね」
え?
お母さんは、その場にしゃがみこむと、私の両足をつかんだ。
「お母さんも手伝ってあげるわ。こちょこちょこちょ~」
「え、ちょ、お母さん!?あははははは!」
お母さんの指が、私の足の裏をくすぐりはじめた。足の裏を、指の先でこしょこしょ、こちょこちょってくすぐられると、もう、体中に電気が走ったみたいにくすぐったい。
「あははははは!お母さん、やめて!足の裏、だめ!あはははは!」
「あら、ましろは足の裏も弱いのね。お姉ちゃんにくすぐられてばかりじゃつまらないでしょ?お母さんのこちょこちょ攻撃も味わいなさいな~」
お姉ちゃんが、うれしそうに私のわきの下に、再び指を入れてくる。
「じゃあ、お姉ちゃんは、わきの下をこちょこちょこちょ~!」
「ぎゃはははは!やめて!二人ともやめて!あははははは!」
お母さんは足の裏。お姉ちゃんはわきの下。二人がかりのこちょこちょ攻撃に、私はもうなすすべもなかった。廊下に寝転がったまま、じたばたもがいて、涙を流して大笑いするしかできない。
「こちょこちょこちょ~。悪い子は、くすぐりの刑よ~」
「こちょこちょこちょ~。悪い幽霊は、お仕置きしないとね~」
お母さんとお姉ちゃんのくすぐりは、息ぴったりに続いていく。足の裏をこしょこしょされながら、わきの下をもみもみされて、もう、笑いすぎてお腹がよじれて、息ができなくなってきた。
「あはは……も、ほんとに、むり……!」
私がそう言うと、ようやく二人の手が止まった。
「はい、おしまい」
お母さんが、ぽんと私の足を軽く叩いた。
「ましろ、今度から、人を怖がらせるいたずらは、ほどほどにしなさいね。お姉ちゃん、泣きそうだったんだから」
「だって、お姉ちゃんが先に、私をくすぐったんだもん……」
「それは、ましろが映画を怖がってたからでしょ。お姉ちゃんは、ましろを元気づけようとしたんじゃないの?」
お母さんは、そう言って、私の頭をなでてくれた。
「……そうだったの?」
私は、お姉ちゃんの方を見た。お姉ちゃんは、照れくさそうに笑いながら、こくんとうなずいた。
「そうだよ。ましろがガクガク震えてるから、笑わせてあげようと思ったんだよ。そしたら、怖いのも忘れられるかなって」
「お姉ちゃん……」
なんだか、申し訳ないことをした気分になった。お姉ちゃんは、私のことを思って、くすぐってくれてたのに。私は、そのお返しに、お姉ちゃんを怖がらせるいたずらをしてしまった。
「……お姉ちゃん、ごめんなさい」
「うん、わかればよろしい。でも、私も、やりすぎちゃったね。ごめんね、ましろ」
「……ううん。私も、やりすぎちゃった」
お姉ちゃんが、私に手を差し伸べてくれた。私は、その手を握って、よろよろと立ち上がる。まだ、体のあちこちがむずむずしている。足の裏も、わきの下も、くすぐったさで、ひくひくしていた。
「ねえ、お母さん」
お姉ちゃんが、急にいたずらっぽい顔で言った。
「お母さんも、こちょこちょ、すっごくうまいんだね。私よりうまいかも」
「当たり前でしょ。あんたたちのお母さんだもの」
お母さんは、ふふんと胸を張った。
「私のこちょこちょの腕前は、まだまだこんなもんじゃないわよ。今度、特別にこちょこちょのレッスンしてあげようか?」
「ほんと!?やってみたい!もちろん、ましろが練習台ね!」
お姉ちゃんが、ぱあっと顔を輝かせる。お母さんのくすぐりレッスンを受けたお姉ちゃんは、きっと、もっとすごくくすぐり上手になっちゃうんだろう。そうしたら、私は、耐え切れるだろうか……。
「ちょ、お姉ちゃん!やめときなよ!これ以上うまくなったら、私が……」
「えー、いいじゃん。ましろも、笑うの好きでしょ?」
「好きじゃない!」
そんなことを言いながら、お姉ちゃんにくすぐられるのも楽しいかも、とちょっと思ってしまう私なのだった。




