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裁判記録「皇都シュエンハイヴ軍事裁判所」

皇都軍事裁判 星暦645年 第236号「裁判記録」


「被告魔、前へ」


冷たく、感情の一片すら乗っていないかのような声が自分へと向けられる

「...はい」


星魔印の刻まれた首輪と手錠を鬱陶しく思いながら重い足取りで前へと進み、四角い石の壇上へと上がると自分を刺すような書記官やら審問官やら何やらの視線が向けられた


(法務府の幹部クラス...見たことのある顔もちらほらあるな...)


ヴァレミオルスク、シュゲンハーダルト、オスカード...四柱いる審問官のうち実に四分の三が人間や他種族を武力によってねじ伏せ植民地とすることに賛成の「征服派」の魔族だ。議会でも顔を出す連中だが俺は奴らを信用していない。


「被告魔ネグルラ、貴方は皇家直下貴族にして軍部の諜報員であるにも関わらず国家の機密を漏洩し、あろうことか事実と異なる『皇室を陥れる恐れのある情報』を拡散した疑いがあります。この報告に間違いはありませんね?」


淡々と鋭い目つきの女が喋る。黒と緑の制服、おそらくは魔教令院のお偉いさんだろうか


(あの女...人間か?なんにせよ魔族じゃないのに何で法務府は...というか待て?俺は軍務に背いたという扱いなのか?)


気になることだらけだが、俺の発言を今か今かと待ちわびている奴らの視線が険しくなってきたので口を開くことにした


「違います。俺が明かそうとしたのは国家の機密ではなく皇帝の一族が行った奴隷売買や麻薬取引、暗殺者への依頼書などといった汚職に関するものです」


会場が一気にざわつく。俺たち魔族にとって「魔界皇帝」は神よりも絶対的な存在として崇められる。民族至上主義である皇帝は自らの威光を失わぬよう他種族を蛮族のように扱い魔族を絶対とするようなプロパガンダを行ってきた


「皇室が『交易都市サンファレール』にて約二千名のエルフ民族の奴隷を売買した正式な書類も発見済みです。皇帝の非道行為は到底許されるものではありません、厳正かつ正当な処罰を所望いたします」


熱くなり過ぎないよう冷静に、しかし情に訴えかけるよう抑揚や声量、トーンにも気を配る。魔教令院生時代に演劇をやっていた経験が活きるとは...人生ならぬ魔生は何事も経験であるとはよく言ったものだ


「そのような事実はありません。被告魔は妄言を慎むように」

「…は?」


あの女は何を言っているのだ?事実確認も無しにきっぱりと俺の主張を終わらせやがった。帝国裁判は被告魔であっても弁護官を通して異議を申し立てることが可能であり、法務府もそれを棄却することはできない。というかあってはならない、それは法の平等性を揺るがすような事態につながりかねないからだ


「お待ちください!証拠はあります!!軍部と法務府の双方に証拠となる文書を提出済みです!!」


そして俺は言い終わってから気づいた。自分で自分を殴りたい「なんて馬鹿なことをしたんだ」「普通に考えれば分かることだろう」と自分を攻め立てた。何故ならば


「法務府にそのような証拠は提出されていません。被告魔の異議を棄却します」


これが答えだ。嵌められたというべきだろうか?皇家直下の征服派の連中が嫌な笑みを浮かべながら俺を見ていた。思わず弁護官を睨みつけるが、彼は嘲笑するように両手を上げ「降参」のポーズを取った


「コレがアンタらのやり方ってわけか...俺の提出した書類や文書は処分されたってところか?」

「何の話か分かりかねますね。貴方から提出された書類は荒唐無稽な偽造書類が大半です。このようなものに目を通す価値などありません」


冷酷な宣言が法廷に響く。俺たちの手元にあったはずの文書は、彼らによって綺麗に闇に葬られたのだ。嵌められた。そう理解した瞬間、足元がすくむような怒りが込み上げてくる。


(アレは偽造文書だったのか?いや、そんなはずはない...)


六芒星と『陽艶草』の描かれた印。あれは特殊技術で複製が不可能な皇室直下の魔導軍「レーヴァテイン」が持つ正式な証印だ。自分が所属していたかつての軍部のモノを間違えるハズなどない。


「お待ちください!これは由々しき事態です!!他種族の反感を買えば種族間での争いが起きるのは火を見るよりも明らか!!第参政令都市で起きた惨状を知らないわけでは無いでしょう!!」


『第参政令都市クァン・ゾドム』。魔界政府がスピーディーな行政執行を行うために魔界各地に指定した行政都市の一つ、山二つを隔ててドワーフ領国との国境になっているため国防の要としても機能する重要な都市だが、先月この都市で大規模な暴動が発生し奴隷のドワーフが市長を惨殺している。


「あの事件はすでに鎮圧済みです。関係者は全て終身刑もしくは極刑に処し、我が帝国の圧倒的な武力による迅速な対応がされました」


自慢げに話す裁判官の女。口を思わず押える、「よく言うぜクソ女」と言いそうになったからだ。嫌なことや理不尽を見ると口が悪くなるのは自分の悪い癖だ。


「今は良くても、いずれ大きな仕返しをされますよ?エルフ族とドワーフ族が同盟を結んだのは知っていますよね?表立った主張や行動はしていないが、あれはきっと打倒帝国を掲げたもので...!!」


言い終わる前に体格のいい軍服を着た魔族に頭を押さえつけられる。俺の主張を聞き一部の魔族がざわついているが裁判官の鳴らした鈴によって静寂が齎される


「静粛に、これにて被告魔の答弁を終了とさせていただきます」

「おい...待て、俺はまだ...」


無慈悲にして迅速な『指を鳴らす音』が会場に走る。魔力の奔流がある以上、それは魔術の発動の合図だ。首輪が形を変え、口枷のようになる


「んぐ...ッ!?」


『こんな機能を持っていたのか...』俺は予想外の事態に焦る。このままでは俺の有罪は確定してしまう


「よろしいかな?裁判官...」


低く、だがよく通る声でしゃべる男が一柱。俺を含め会場内の魔族全員が彼を見つめ今さら何を言うのだろうかと疑問の目を向ける


紫耀階級アメジスト貴族、法務府第三執行卿のマスタフォルドと申します。彼の処遇に関して一点だけ申し上げたいことがございます」

「発言を許可します。なんでしょうか?」


紫耀階級アメジスト、貴族内でもナンバーツーの権力と力を持った貴族階級だ。俺は軍部はともかく法務府の事情には疎い、彼が征服派でないことは分かるが胡散臭い雰囲気のせいで信用できない


「裁判官、彼は皇室ないし国家全体を揺るがすような発言を繰り返しておられますね。提出した書類は荒唐無稽な偽造書類...となっていますが一考の余地があります。」

「...つまり、何が言いたいのでしょうか?」

「彼はあまりにも危険だという事です、弁が立つ故にあることないことをでっち上げることができる。諜報員としての技術を国家転覆に用いて民衆を惑わす大罪人だ。それ相応の罰がふさわしいでしょう」


法務府の面々は厳格な表情を崩してニヤリと笑う。中には少しうつむき顔を隠しながら肩を震わせる者まで居た。皇家直下の貴族である俺の没落が面白い連中だろうか


「被告魔ネグルラ・エスパ・D・サントゥアルス…貴方の貴族階級を永久的にはく奪。東部辺境へ行き軍務遂行をすることを命じます」


その後裁判を終了の合図の鈴が鳴る。絶望か怒りか、それともアホみたいな使命感ゆえか俺の耳は鈴の音以外の侵入を許さなかったらしくそれ以外の音が入ってこなかった。思考がクリアになる、何を成すべきか...その答えを出すのに時間はかからなかった


(こいつ等は国を腐らせる害虫だ…一刻も早く駆除しなくては国が腐り落ちる…)

(上等だ、こっちから願い下げだお前らみたいな連中。クーデターだ...この国を根本から壊して新たな政権を立てる…)


裁判官の女が俺を見ていた。見下すかのような、さげすむかのような視線

俺は闇夜のような眼を鋭くして睨みつける


(待ってろクソ女、いずれその椅子に座れなくしてやるよ...)

自分は昔から間違ったことが、曲がったコトが許せない、故に俺は俺のすべてを犠牲にしてでも国を変える。


(この魔界の頂点に、俺が立ってやる...)

自己犠牲的な英雄思考、『英雄症候群』とでも呼ぶべき病が起こした炎が俺の中で復讐の色に染まり燃え盛った。


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