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第20話 革命前夜

 次の日から、僕らはさっそく作戦を開始した。革命隊として動くのは、僕とアリヤ、ダン、カイさんの四人。騎士団の襲撃に対応できるよう、少数精鋭で挑む。


 演説はダンが行い、その周囲で僕らが署名活動を進める。


「……俺らは王サマの都合のいい操り人形じゃねえし、この国に蔓延る理不尽や暴力に黙って耐える義理もねえ。この国を支えてきたのは俺たちだ! この国が間違った方向に進むなら、それを止めるのも俺たちだ! ここは俺たちの国だ! 王サマのおもちゃ箱じゃねえ! そうだろ!」


「「おおーー!!」」


 演説はゲリラ的に場所を変えながら行った。そのたびに、周囲には多くの人々が集まった。


「今こそ、二十年耐え続けてきた鬱憤を晴らす時だ! だが、俺たちだけじゃ成し遂げられねえ。この国に住むみんなの力が必要だ。この国の平和のために、子どもたちが笑って暮らせる未来のために、立ち上がれ! そして、戦いやがれっ!!」


「「うおおおーーー!!!」」


 演説の台本はケセフさんが考えたものだが、ダンはその場の空気に合わせてアドリブを入れる。緻密な構成とダンの勢いが相まって、演説は想像以上の効果を生んでいた。集まる人々の熱気は高まり続ける。


「我々に賛同していただける方は、署名をお願いしまーす!」


 署名活動も順調で、多くの人が名前を書いてくれた。


 ケセフさんの情報によると、この国の人口は八万人。城下町には二万人弱が暮らしている。そのうち、すでに一万人以上の署名が集まっていた。城下町の半分が賛同している計算だ。


「署名お願いします!」


 僕は近くにいた女性に声をかけた。


「……ごめんなさい。署名したい気持ちはあるのだけれど、私はできないの」


 女性は申し訳なさそうに首を振った。


「えっと……どうして、ですか?」


「私の子どもが騎士団に所属しているの。それなのに、親の私が国を裏切るようなこと、できないでしょう?」


 僕は少し考えてから、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「今、息子さんが“護っているもの”に……本当に意味はあるのでしょうか?」


「えっ……?」


「この国が変わらなければ、息子さんは無実の人を捕まえ続けることになる。時には、罪のない人を斬らなければならないこともあるでしょう。その手を血で汚して、民衆から恨まれて……それでも護る価値が、今のこの国にあるのでしょうか?」


 女性は俯いたまま、何も言わなかった。


「本当に息子さんのことを思うなら……一緒に王様を倒しませんか? でも、無理強いはしません。署名するもしないも、あなたの自由です」


 しばらく沈黙が続いたあと、女性は顔を上げ、僕の持つ紙とペンを取って名前を書いた。


「……あなたの言うとおりね。今が良くても、息子の子どもや、そのまた子どもの代までこのままじゃ、可哀想だもの。結果はどうであれ、“おばあちゃんは頑張った”って胸を張れるように、私も協力するわ!」


「!!……ありがとうございますっ!!」


 僕は深々と頭を下げた。


 そのとき――


「まずいっ!! 騎士団だー!!」


 民衆の中の一人が叫んだ。


「ちっ! また来やがったか! 一旦引くぞ! みんなも逃げろよっ!!」


 その瞬間、あたりに濃い霧が立ち込めた。アリヤが魔法で霧を発生させてくれている。毎回この霧が出ることに疑問を抱く者もいたが、アリヤが咄嗟に「神が我々を正しき者と認めた。これは神の御業だ」と吹聴したことで、アリヤの力のことは誤魔化され、革命の機運はさらに高まった。都合がいいので、そういうことにしている。


*****


 そんなふうにヒットアンドアウェイを繰り返し、数日にわたって演説を続けた。署名は順調に増え、もうすぐ二万人に届く勢いだ。国民全員とはいかないが、騎士団を圧倒するには十分な数だろう。


「なんとか、一人も欠けずここまで来れましたね」


 ケセフさんが署名の束を眺めながら言った。


「だが、引っ張るのもここらが限界じゃねえか? 演説の動員人数も増えてるし、これ以上やると短気な王サマが本気出してくるかもしれねえぞ」


 椅子に脚を組んで座り、両手を頭の後ろに回しているダンが言った。


「はい。なので、この辺りで次の手に出ます」


 ケセフさんは署名から目を離し、真剣な表情で言った。


「次の手……ですか?」


「作戦の最終段階です。一週間後、いよいよデモを行います!」


 部屋が一気にどよめく。


「……いよいよか」


 ダンが小さく呟いた。


「はい。『一週間後、王城前でデモを行う。この国を変えようとする同士は集え』とでも書いたビラを配り、動員を呼びかけます。王様も演説の状況は把握しているでしょうから、この期に及んで反抗勢力を潰すような真似はしないはずです。それよりも、デモ当日に私たちを叩き潰し、見せしめにすることを考えるでしょう」


「……決行日を一週間後にしたのは、周知期間の確保と戦いの準備のため?」


 アリヤが尋ねると、ケセフさんは拍手をした。


「さすがアリヤさん、その通りです。今の私たちに足りないのは武器です。戦いを避けたいとはいえ、最終的にどうなるかは予測できません。最悪の事態に備えて、最低限の装備は必要です。幸い、多くの民衆が味方してくれています。その中から協力者を探し、武具を揃えます」


「それなら、ビラ配り班と武具調達班に分かれた方が良さそうね。……ビラ配りなら、私とダンに任せてほしい。効率的に配れる策があるの」


 僕はアリヤをちらりと見る。おそらく力を使うつもりなのだろう。


 ケセフさんはじっとアリヤを見つめていたが、ふっと笑った。


「わかりました。では、ビラ配りはアリヤさんとダンに任せます。他の人たちで武具を調達しましょう」


 一週間後、この国の運命を左右する日がやってくる。

 僕は内心、恐怖でいっぱいだった。力を抜けば足が震えて、その場に座り込んでしまいそうだった。


 それでも――戦わなければならない。


 僕は足が震えないように全身に力を込め、歯を食いしばった。

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