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014 村、、、、だったんだ……

 

「転移!」



 少し緊張した声でユイナが叫ぶと、少し遅れて淡い光に少女たちが包まれてニームクメの転移場所から消えていく。




 ◆




「ふー……、ついたっ!あれ?あれ?ここって」

「どうしました!?トラブルですか??」

 初めて転移を経験したメルリーが慌ててユイナに問いかける。

「ごめーん。やっちゃった。トラブルってわけじゃないんだけどさ……。ここきれいなところでしょ?」

 2人の少女はお花畑の真ん中に転移していた。



「転移する時、前に3人でここに転移したときのことをイメージしてて、あと、メルリーにもこのお花畑見せに来ようかななんて余計なことを考えたら……ここに来ちゃった。ごめん!」

「いえ。まぁそれはいいんですが……。ここからニームクメにもユイナの故郷にも行けないって言われると困っちゃいますけど。」

「それは大丈夫!……だと思う。たぶん。最悪でもケイルにまでは行けるよ。3人でケイルから来たことがある場所なんだから。もし失敗してもここからなら歩いてもたいしたこと……うそだ、1日かかるんだった。」

「でもその時ってご家族と一緒だったんですよね。なんか、その……、家族の絆みたいなものがあると転移しやすいみたいなのもあるかもしれないじゃないですか。」

「おー、さすがメルリー!今までそんなこと考えたこともなかった!」

「考えたこと無かったんですか!?わたしは他の種族の能力のこともいろいろ考えてますよ。」

「考えるのが普通なのかなぁ。」

「わたしはそう思うんですけど……、わたしが普通じゃないんですかねぇ。」

 せっかく来たからとお花畑で小休止しながら2人はきれいな花の香りをくんくん嗅いだりしている。



「ごめんね、メルリー。次はちゃんとケイルに転移する。うん。わたしならできる、できるはず!」

「はい。今度はしっかりお願いしますね。」

 川のせせらぎが聞こえるお花畑の真ん中で2人の少女が抱き合うように身を寄せ合う。



「転移!」



 お花畑の中で柔らかい光に2人は包まれて姿が消えていく。




 ◆




「あのぉ、メルリー、迷ったんだけどうちに寄ってもいい?」

「わたしはかまいませんよ。」

「何度も言うけどごめんね。わたしだけ里帰りしちゃって。」

「だから気にしなくていいと。それにまだ仮の関係じゃないですか。」

「うん。ありがと。別に家族の顔を見たいわけじゃなくてさ、メルリーを連れてケイルで狩りをするならひとこと言っておいた方がいいと思うんだ。」

「それはそうですね。ニームクメみたいな大きな町だと見知らぬ人が狩りをしていても別に気にならないんでしょうけど、この村だと……目立つでしょうね……」

「うん。村だよね、村。村かぁ。そうなんだぁ。」

 ときどきニームクメやモザンドと言った大きな町に遊びに行くことはあっても、それ以外には自分が住んでいるケイルしか知らなかったユイナにとって、自分の住んでいるところは町だと勝手に思っていた。

 旅の途中でニームクメと故郷以外の町を通ってきたメルリーによって、ケイルはめでたく「村」に認定された。



 ケイルに住む人たちはみんなユイナと同じような地味な色の服を着ている。毎日の農作業、そして狩り、道路や水路の整備、汚れることが多いから自然と濃い色の服を着るようになるのだろう。

 その中に明るい色のブラウスとふわっとしたスカートを身に着けた少女が舞い降りたのだ。

 当然人目を惹く。

 農作業の手が止まってぼーっとみている人もいる。

「こんちわー。ちょっと戻ってきたよ!」

「あっ。あー、ユイナちゃん。こんにちは。」

 ユイナが挨拶すると正気に戻って農作業を再開する。




 ◆




「だれかいるかなぁ……。ただいまー!」

「あれっ?、お姉ちゃん!?おかえりっ!久しぶりっ!仲間が見つかって旅に出たのかと思ってた!」

 家の奥からユイナをひとまわり小さくしたような女の子がとことこと歩いてくる。

「あの……、もしかしてその人がお姉ちゃんの仲間???」

「ってわけじゃないんだけど、紹介するね。メルリー。ニームクメで出会って一時的に一緒に狩りとかをしてる。

 この子はコリーヌ。わたしのかわいい妹!」

「はじめまして!ユイナさんには仲良くしてもらってます。よろしくお願いいたします。

 にしてもユイナ、自分の妹にわざわざ「かわいい」ってつけなくても……、だけど本当にかわいいですね。」

「かわいいって、お姉ちゃんに比べたらかわいくないよ。おじょうさま?なんですか?」

「いやー、妹にそんなこと言われると照れちゃうな。」

「お姉ちゃんじゃなくてこっちのお姉ちゃんのこと!メルリー……?お姉ちゃんのことだよ!」

「うん。わかってた。わかってたから……。」



「お父さんとお母さんは?」

「みんな畑に行ってるよ。わたしも勉強が終わったからお昼ご飯を準備して畑に行こうと思ってたところ。」

「そっか。もうそんな時間なんだ。」

 酒場が開店するのは午後からなので、メルリーに出会うまでは午前中は雑用の時間に当てていたユイナはケイルでの時間の使い方を忘れかけていた。人間、楽なことを覚えるとすぐに堕落できる。

「ねぇねぇ、ニームクメってメルリーお姉ちゃんみたいな服を着ている女の人いっぱいいるの?」

 服に関心が無いユイナとは違いコリーヌはメルリーの服に興味津々だ。

「そんなことないよ。わたしも初めてメルリー見た時思わずじーっとみちゃったもん。」

「そんなことしてたんですか!?聞いてないですよ!」

「うん。だって言ってないもん。」

「開き直りましたね……」

「お姉ちゃんとメルリーお姉ちゃんって仲良しなんだね……」

 コリーヌは2人の会話を聞いてちょっとだけあきれている。




 ◆




 昼食の準備ができると3人の少女はユイナの家の畑に向かって村の中を歩き始める。

「そうそう!そういうかわいい服ってニームクメで買えるんですか?もしあるんなら今度連れてってもらったときにみてみようかなぁ。」

 コリーヌも家族と一緒にニームクメに行ったことはあるが、服を売っているお店には入ったことが無い。

 ユイナが服装に興味があればそれに付き合って行っていたかもしれないのだが、色気より食い気、両親が必要なものを買いそろえるのに付き合った後はケイルでは食べることができない食べ物を食べ歩くのがいつもの行動だった。

「ニームクメにもありますけれどちょっとお高いですね。」

「そうなんですか。高いですよねぇ。」

「うん。高かった。買わなかった。」

「えーーっ?お姉ちゃんもそういう服着ればいいのに!」

「ほら、妹さんもそう言ってるじゃないですか!ユイナも着てみてください!」

「なんかさぁ。なんとなく恥ずかしい……」

「そうそう、コリーヌちゃん。実はわたしの故郷は服を作る工房とか家がすっごく多いんですよ。わたしの家でもちょっとだけ服を作るお手伝いをしてました。

 自分たちでも着ますしニームクメとかモザンドとかセイグモルドに向かう商人さんに売ってそっちのお店にでも売られてるんですよ。」

「すごーい!メルリーお姉ちゃん!そんなかわいい服を自分で作れるの!?」

「いえ、わたしはまだ作れないです。お手伝いをするくらいで……、たとえば……ここは私がやったんです。」

 襟のフリルの部分をコリーヌに見せると

「すっごくかわいい。こんなの作れるなんてメルリーお姉ちゃんってすごいんだね。」

「そうなんですか?故郷では普通のことなんでそんなこと言われたのは初めてです。わたしなんてできない方なんですよ。」

「なんかさぁ、なんかよくわかんないけど……くやしい……」

「ユイナ、もしかして久しぶりに帰ってきたのにコリーヌちゃんをわたしに取られて不機嫌なんですか?」

「そ、そんなことないよっ!」

「お姉ちゃん、今日が最後って言ってからもすぐに帰ってくるからなぁ。メルリーお姉ちゃんとお話ししたいもん!」

「あっ、おにいちゃーん!」

 3人が歩く先に大人2人子供1人が農作業をしているのが見えて、ユイナが手を振って呼びかけると、びっくりした顔をしてる。




 ◆




「それはそれは。ユイナがお世話になっております。」

 ユイナはメルリーと仮の狩りパーティーを組んでいること、ニームクメ近郊の狩場で獲物が見つからずにケイルに来たことを説明すると家族3人がメルリーに頭を下げる。

「いえ、お世話になっているのはこちらなんです。わたし、狩りが苦手なんでユイナさんが一緒にいてくれて心強いです。」

「あっ。「さん」つけたっ!ルールいはん~。」

「今は狩りの最中じゃないですからいいんですっ。それにユイナのご家族とは初対面なんですよ。当たり前でしょ!」

「メルリーさん、ユイナがご迷惑かけてませんか?見ての通りアレな感じの妹なんで心配で……」

「お兄さま、心配はごもっともですけれどわたしは楽しいですよ。」

「そうですか……。よかった。仮ってことなんで鬱陶しかったらいつでも捨てて構わないですから。」

「ちょっ、ひどい!お兄ちゃんもメルリーもひどいよっ!」

「「ひどい」と思うんならもう少し落ち着くことを覚えなさい。」

「もーーーー。お父さんまで……」

「ウルフになったり牛になったり……、本当に忙しい子ねぇ。お父さんの言う通りですよ。」

「ブー……」

「今度はイノシシ……」

「イノシシはいやー。こわーい。」

 家族全員とメルリーから集中砲火をうけるユイナだがその表情はなんだかうれしそうだ。



 ユイナをいじっていてもしょうがないので本題の話を始める。

「わたしとメルリーで狩りをして大丈夫かなぁ。1日3羽くらいまでにするからさ。ケイルのみんなに何か言われたりしない?」

「大丈夫だと思うぞ。10羽くらい獲っても何にも言われないんじゃないか?念のためみんなに話しておくから明日からにしなさい。」

「よかったぁー……」

「ありがとうございます!お世話になります!」

 メルリーが頭を下げるとユイナも慌てて家族に頭を下げる。

「ふふっ。少しは成長したみたいですね。」

 ユイナには聞こえない小さな声で優しく笑いながら母がつぶやいている。



「今日は農作業のお手伝いさせてもらってもよろしいでしょうか?」

「……………」

 メルリーがニコッと笑って提案するとユイナの家族は無言になる。

「いや、その、ありがたいんだけどさ。ちょっと言いづらいんだけどその服だとちょっと……」

「ああ、やめておいた方がいいと思う。」

「普段着ですから汚れても構いませんよ。」

「いやいや、わたしたちが構いますよ!ケイルではメルリーさんはお客様なんですし。今日はゆっくりしていってください。」

「それってなんか心苦しいです。でしたら夕食を……あっ、ごめんなさい!今日夕食までにはニームクメに戻らないと!」

「えっ、てっきりメルリーはこっちに泊まっていくもんだと思ってたんだけど。」

「そうそう、俺たちもそのつもりだったんだけど泊まれないの?」

「お宿に伝えてないんです。急にキャンセルするとご迷惑をおかけしちゃいます。ユイナもですよね?

 あと、お洗濯ものを引き取らなきゃいけないですし。あっ、ユイナ、もしかして忘れてました!?」

「そ、そうだったぁ!!」

「ユイナ、服それだけしかもっていかなかったでしょ?下着くらい自分で洗濯しなさい。」

「違うよっ!この服昨日ニームクメで買ったばっかりの新品だよ。見ればわかるでしょ!」



「「「「…………」」」」



「お姉ちゃん……、全然わからなかったよ。」

「……服に気を使わないことは知ってるが……せっかく新しいのを買うならせめて色違いとか買った方がいいんじゃないか?」

 メルリーの服には興味津々だった妹にすら着替えたことを気づかせないユイナの完璧なチョイスだった。




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