残念な悪役令嬢の話
ワタクシの名前ご存知よね?
え?知らないですって!
ワタクシはフリト侯爵家のフィオナ。
あなた、ワタクシを知らないなんて。
どこの産まれよ!
いい?グレイグ国の御三家といえば、筆頭はフリト家なのよ!
ちゃんと教えたましたわ。
次に同じ事聞いたら、お仕置きとして私の鞄持ちをさせますわ。
あら!それって常に私のそばに居ることになるからお仕置きにならないですわね。
フフフフフ
来月には、ワタクシの13歳の誕生日パーティーがありますのよ。
ですから!お父様が国内外から沢山の貴族を招待して、迎賓館を借りて大々的に行いますのよ!
ここに招待された殿方は、全員ワタクシの婚約者候補ですのよ。
ワタクシは一人娘だから、他国に嫁ぐのは皆が悲しみますから、婿養子を希望しておりますの。
「フィオナ様。ぬいぐるみの『ぴょんちゃん』に何話しかけているんですか?
ささ、毛先をカールして、巻き髪を作りましょう。
あら!フィオナ様!
そんなに動き回ると、髪型がモガヘアーになってしまいます」
とメイドが言った。
「モガヘアーって何ですの?」
「モガヘアーって。今から100年近く前にニホンという異国の国で流行った髪型で、現在では、大変有名な『巻貝の名前のついた女性』のみがその髪型をしていて、なんでも休みの日の夕方にその人は出没するらしいです。
頭の上に3個の巻き髪が乗ったなんとも奇妙な髪型です」
「奇妙な髪型は嫌よ。今日は、異国の第四王子様とのお見合いですもの。
王子様に婿養子に入ってもらうためにワタクシ頑張りますわ」
「では、がっちりしたバブリーにしましょう!」
「何よ!その変な名前!」
私の強い癖毛をカバーするために侍女はソバージュという名前の髪型にしましたの。
ただでさえボリュームがある髪なのに、更に盛った感じになってしまったわ。
でも、これはこれで中々のものですわ。縦ロールとどちらが似合うかしら?ってうかワタクシってどんな髪型でも似合うなんて罪深いですわよね。
お父様が選んだ殿方ってどんな人かしら。
お父様は2人だけで会って仲良くなりなさいって言っていたけど、相手は王族の方よ。何をお話しすればいいのかしら?
今日は植物園のバラ園を貸し切ってお茶会の用意をしたとお父様は言っていましたけど、今の時期はまだ蕾しかありませんのよ。
お父様ってセンスのカケラも無いのかしら。
あら、もう到着ですわ。
まあ!一足先に王子様の馬車が到着していますわ!
馬車には大きくドガジン王国の紋章が入っておりますから間違いないわ。
もうどんな方かしら?
バラ園にいらしたのは、真っ白な詰襟のジャケットに、光青い糸でトグロを巻く蛇と虎を刺繍してあるなんとも微妙な服を着た私と同じ歳くらいの人だった。
髪の毛は襟足だけ長く伸ばして、後は短く揃えている不思議な髪型…。
「ハジメマシテ!フィオナ・フリト侯爵令嬢?俺はダンコフ。ドガジンのNo.4だ。
夜露死苦!」
そういうと、ダンコフ王子は椅子を引いてくれた。
見た目や言葉遣いはアレだけど、こちらの殿方にはない感じよね。
だって、この国の殿方はみんな執事が椅子を引くと思ってるんだもの。
「はじめまして。ワタクシはフリト侯爵家のフィオナと申します。
この度はこのような時間を設けて頂きありがとうございます」
私がカーテシーをすると王子は
「堅苦しいのはやめよ。早く座りな、
なんか喉渇いたよな?何か飲むか。
おーい。いつものヤツ持ってきてくれ」
と突然大声を出した。
するとがっちりした体格の強面のスキンヘッドの大男がお盆に乗せて何かを持ってきた。
「ボス、こちらでございますか?」
と、2人分出したのはクリームソーダだった。
しかも、なぜか大きな花瓶のようなガラスの容器に入っていて、アイスクリームの上にはチョコソースが掛かっている。
「これこれ!フィオナも食えよ」
とワタクシの前に大きな容器が置かれた。
ワイルドすぎですわ!
でも、嫌いじゃないかも!このやりたい事をやっているように見えて、私への気遣いを忘れないあたり。
もしかして、このクリームソーダは、ワタクシが喜ぶと思ってわざわざ準備してくださったのかしら?
しかも、バニラアイスはポッピンキャンディ入りで、口に入れると弾けますし、なんて楽しい方なのかしら!
「うまいか?うんうん。
今日は、お土産を持ってきたんだ。これ、俺の国では定番なんだよ」
とテーブルの上に置いたのは、木彫りの熊。四つん這いで魚を咥えている。センスは微妙ですけど。
今までお花しかいただいた事ないのに!
もしかして、王子も乗り気なのかしら????
「ありがとうございます。まぁ!可愛らしいクマさんですこと!」
「これはクマじゃねえよ。パンダだ」
「パン…ダ?」
「ああ!パンダは俺のペットだ。可愛いだろ?このつぶらな瞳なんかパンダのルンルンそっくりだ」
「ルンルン?」
「ああ!有名な彫り師に彫らせたんだよ。」
「では、これはダンコフ王子様の定番のお土産ですの?ドガジン王国の定番のお土産ではなくてダンコフ王子の定番なんですか?」
「まぁそうとも言う。細かい事は気にするなよ。
俺の大事なヤツを守る守り神なんだ。」
大事なやつを守る守り神ですって?
初めてお会いしたのに、ワタクシを大事なやつだと思ってくださるの?
まぁ!!!
なんて情熱的なのかしら!!!
「フィオナは、俺はお前を守ってやりたいけど。俺は何千キロも離れた国にいる。
この国から出国したら、フィオナを守ってやれねぇ。
俺は心配でたまらない。」
私を守りたい???
離れると心配????
会ったばかりなのに離れた後の事を心配してくださるの???
もうこれは確実よ。
一目惚れってやつね!!
「わたくしも離れた後の事は考えられませんわ」
と手を出したけど、わたくしの手は握ってくださらなかった。
こんなに情熱的なのに、ちょっと鈍いのかしら?
「大切な人を守る為にはもっと大きなルンルンの像をあげたいけど。
ドガジン王国はそんなに裕福じゃなくて、これは有名な彫り師が彫ったからかなり高価で。
俺ではフィオナにプレゼントしてやれねえけど、フィオナには大きな像を持っておいて欲しいんだ!
俺がいない間、フィオナを守るために!」
「それはおいくらですの?そんなに高いものですの?」
「…ああ。俺には高価だ。フィオナを守れるくらいの大きさの物は100万リールする。」
100万リールなら質のいいダイヤモンド一つ分くらいかしら。私のお小遣いで買えるわね。
「それなら自分でお支払いしますわ。
どうすればいいのかしら?」
「それならこの紙に名前を書いてくれ。彫り師からすぐに届けさせる」
言われた通りに名前を書いた。
100万リールくらいポケットマネーだから、小切手を切ったわ。
「フィオナ!これで少しは安心できるぜ!」
と熱い視線でワタクシを見た。そして
「もう時間だ。公務に戻らなきゃ!
フィオナ、お前を守る物を側に置けて俺は嬉しいよ」
とダンコフ王子は立ち上がった。
「ダンコフ王子!もしよろしかったら我が家に滞在いたしませんか?
そのまま…この国でお過ごしになっては?」
「フィオナ、ありがとな。
俺の運命は決まっているんだよ。
フィオナの事を守るルンルンを、側に置いたからもう安心だぜ。」
と言って派手な馬車で去っていった。
後日、何故かお祝い返しとして、2メートルある木彫りのルンルン像が届いた。
そこについたメッセージには
「俺の運命の相手との結婚のために資金を出してくれてありがとう。ルンルンの彫り師は俺の運命の相手だ」
と書いてあり、同封された写真はノーメイクの地味な顔で作業着を着た女性の肩を抱く王子の姿が写っていた。
「騙されたわ!!!」
わたくしに残ったのは大きなルンルン像だった…。
次の出会いに期待ですわ!
後日、風の噂に聞いた話によると、王子に謎のクマを売りつけられたのは王子の外遊先で100人はくだらないらしいですわ。
でも王子は、平民と結婚して王族では無くなったから、もう外遊する事はないし、皆騙されましたわね。
全く顔も服装も髪型もイマイチだったのに!!!!