ハヤトと戦わない理由
「真偽はともかく、もしその者らが出てきたらローファス家に出てもらうことになりますがよろしいですか?」
「はっ!」
鬼神将やら相手となった場合は、全会一致で対応はローファス家が行うことになった。
元々そのつもりで話に来ていたから特に不満はない。
そもそも俺ら以外に戦えるとは思えないし。
ちなみに、騒がしかったリーブ伯は、顔を真っ青にしながら後ろへと引っ込んでおり、太い柱には、リーブ伯自慢の護衛がめり込んでいる。
口ほどにもない弱さだったから仕方ない。
ともかく、その後の話し合いはスムーズに終わった。
ダクフマと足並みを合わせるためにそれぞれの貴族家で軍備を整えている途中経過報告が行われた位だ。
そして俺らは居候しているキース家へ帰ってきた。
王都に滞在する間、屋敷を買い上げる案も出たのだが、王都に行くと聞いたキース家の面々に是非我が屋敷に! ……と乞われたのだ。
ナルドがいるっていうのもあるし、前回の事もあり、何やらローファス家の事を非常に気に入っているらしい。
まあ、王家ではローファス家を二大守護家の一角にしたい話が出ているようだし、その相手である キース家と懇意なのは、王家とキース家両家からしても望むところなのだろう。
というわけで屋敷に戻ると、
「おお、帰ったか」
上質な衣装を着たミスミさんとレナがテラスで紅茶を飲みながらキース家の爺さんと談笑していた。
「首尾はどうだった?」
「特には問題なかったですね」
「まあ、そうだろうな」
ミスミさんが肩を竦め、レナが穏やかに紅茶をすする。
「で、これはどういう状況?」
「ふむ、私達が手持無沙汰だったのを見かねたドレッド殿にテラスでの紅茶に誘われたのだ。紳士的な優しい方だ」
見るとナルドの爺さんが優雅に紅茶を飲んでいるが、強面の顔もあってすこぶる似合ってない。
「わしは紳士」
「紳士っていうか爺ちゃん一緒にお茶したかっただけなんじゃ……」
「ナルド、ワシが羨ましいのか? 両手に花じゃからな」
ナルド家の爺ちゃんはご満悦そうな笑みを浮かべている。
強面だから怖いけど、笑ってるんだよね?
「両手に花って……死んだ婆ちゃんがこれを見てたらどう……いったい!」
ナルドが祖母の話題を出した瞬間、光の速さでナルドの爺さんはナルドに拳骨を見舞った。
「美しい花は好きだ。だが同時にわしは婆さんを忘れたことは無い」
「痛い! 分かったよ。爺ちゃんが婆ちゃん好きなのは知ってるから、悪気はなかったんだよ」
「勿論冗談好きなお前の事も愛している」
「じゃあ痛いから止めてよ! 悪かったよ!」
再び無慈悲な拳骨がナルドの頭に飛んでいくが、放っておこう。
口は災いのもとなのだ。
ともかく、大分疲れたし、ゆっくりしようか。
用意された部屋に戻り、夜まで何をしようかと思っていると控えめに扉がノックされた。
「はい?」
扉を開くと着替えたリア様が立っていた。
貴族然とした立派な衣装から、まるでそこらの町娘みたいな恰好をしている。
それでもどこか気品があるし、美しすぎてもし俺が絵を描けたら絵画に残したいレベルだけど。
「どうしました? そんな恰好をして」
「ハヤトさん、街へ散策に行きましょう」
「散策ですか?」
「はい、きっと王都を見ることでノーザンラントやヒューネルの発展に役立つ何かを見つける事が出来るかもしれません」
見聞を深めるって言うのは確かにいいかもしれないけどね。
「でもどうしてその恰好で?」
「それは……ほ、ほら。貴族っぽい格好をしていたら街の人達の素の表情とかを見れないかもしれないじゃないですか」
「なるほど、それもそうですね。かしこまりました。ご一緒いたします」
「はい」
というわけで俺はリア様と普通の町人のような恰好をして街に出る事になった。
☆☆☆
「やれやれ、酷い目に遭った」
まだ痛む頭を擦りながら広間に行くと、ライベル、フェイル、ヤクモがそれぞれ飲み物を飲みながら座っていた。
「三人で仲良く座ってるなんて珍しいな、ハヤトは?」
「仲良くはねえよ。それとあいつは嬢ちゃんと出かけた。わざわざ服を着替えて街の散策だってよ」
「へえ……」
デートか、あの二人。最近特に仲良いもんな。
「で、お前らは何やってんの?」
見ればヤクモがにやにやしながら話していたようだが。
「はい、彼らに聞いていたのです」
「へえ、何を?」
「どうしてあなた達はハヤト様と戦わないのかと」
「えっと、どういう事?」
使用人に飲み物を注文してから座って話を聞いてみた。
何やら、ヤクモは常々思っていたそうだ。
一度ハヤトと戦ってみたい。
ダクフマの遺跡で戦闘を見ていたが、相当楽しめそうだ、非常に興味がある……とのこと。
そしてそれを話したら二人に止められたそうだ。
ライベルにしろフェイルにしろ、戦闘能力だけで言えば自分に匹敵するほど強い。
しかし、その割にハヤト様に対して忠実過ぎる。
配下であれば忠実さも大事だが、自分の実力を見せる為に主とたまに戦うのは普通じゃないか……という事である。
「なるほどねえ……」
ヤクモの配下なら主と戦って当然理論がよく分からないが、確かに気になる所はある。
「そういえばフェイルはともかくライベルは最初ハヤトと再戦するために押し掛けたんだろう?その割には再戦している所は見てないけど」
「ああ?」
ライベルがじろりと睨んでくる。
事あるごとに睨んでくるのやめろよ。いちいち怖いんだよ。
内心ビビっているとライベルがハッと笑う。
「別に再戦を諦めたわけじゃねえよ。その方が良いからそうしてるだけだ」
「その方が良いから?」
ヤクモは不思議そうに首を傾げた。
ライベルはめんどくさそうにフェイルを見た。
「で、てめえは何で戦わないんだよ」
「俺は一度ハヤト様に負けたからな、それも本気を出していないハヤト様にだ。竜人は強き者に敬意を抱く。忠誠があるから戦わないだけだ」
「へえ、要するにもう一度戦ったら勝つ自信が無いからビビってるって事か?」
「殺すぞ」
にやにやしたライベルの煽りに本気でキレるフェイル。
普段穏やかに話してるけど、ハヤトの前以外じゃフェイルも大概短気だよなぁ。
「ん? じゃあもしハヤト様が鬼神将ジフに負けたらどうするつもりですか? まさかジフを主にするって事ですか?」
ヤクモが不思議そうに質問する。
でも話を聞くとその可能性もあるよな。
疑問に思っているとフェイルは鼻で笑う。
「もしそうなればハヤト様の仇として戦うさ。だが、そもそもの前提条件が間違っている」
「……と言うと?」
「ハヤト様が負ける姿を俺は想像できない」
腕組みふふん……と笑うフェイルの姿は、もうハヤト信者を名乗っていいと思う。
ちなみに僕もそれは想像できない。
僕は別に信者ってわけじゃないんだけどなぁ……。
「なるほど、そういう事ですか。ちなみにライベルはどうしてですか?」
「俺か? 俺はさっき言った通りだ。戦うメリットが無い」
ライベルがカップを置き、手を組み背もたれに寄りかかる。
「俺はあいつと戦って技を盗まれた。それにお前らも見ただろう、ダクフマの遺跡でのあいつを」
「…………」
ヤクモの動作が止まる。
思い当たる何かがあったのだろうか。
「遺跡で何かあったのか?」
質問したがシカトされた、泣くぞ?
ライベルは僕を一瞥してから鼻で笑う。
「あいつは一度見たら、もしくは技の説明されたらすぐにその魔法を使えるようになるんだ。分かるか? 自分の切り札をもしあいつの前で使ってみろ、直後にその技が更に強化された状態で返って来る。どれだけ俺が苦労して編み出した技だとしてもだ」
ライベルの熱弁が止まらない。
「面倒臭いのはあいつの持ってる魔力量じゃない、一瞬で相手の魔法を理解し使いこなせる魔法センスだ。戦ったら戦った分だけ成長する。そんな奴と下手に戦って見ろ、実力差が拡がるだけだ」
ギロ……と擬音が出そうな風にライベルはヤクモを睨む。
「だから、てめえにハヤトと戦って欲しくねえんだよ。今後俺があいつを倒す時に更に面倒になるからな」
そこまで言ってライベルは、飲み物を飲んだ。
「なるほど、そういう事ですか」
フェイルは頷き、ヤクモも納得したようだ。
何でこいつら……特にライベルとかはハヤトに反発とかしないで従ってるんだろうと思ってたけど、それぞれ思惑があったのか。
僕も理由を聞いて納得した。
だよな、なんかライベルにしては大人しいもんな。
「ま、あいつの近くで居心地が悪くないってのもあるが……」
「…………っ!?」
ライベルが本当に声なき声で呟いた。
多分すぐ隣にいた僕位しか聞こえなかったと思うけど……聞かなかったことにしておこう。
もし僕が聞いていたとばれたら忘れろって首絞めながら脅迫してきそうだし。
……あれ?
「そういえばハヤト達は分かったけどミスミさんやレナさんは?」
爺ちゃんとの茶会も終わったようだけど。
「さあな、あいつらを追いかけたんじゃねえの?」
適当な返事である。
ハヤトって愛されてるよなぁ……。
ま、いいや。
とりあえず喧嘩にならなくて良かった。
「さて……」
ホッとするのも束の間。
ライベルが飲み物を飲み干してからおもむろに立ち上がった。
「どうしたんだ?」
「あ? 戦うんだろ? いいぜ、俺が相手になってやるよ」
「ふん、新入りに力の差を見せつけてやるか」
「はは、それは良かった。少々身体が訛っていましたからね」
フェイルとヤクモも立ち上がった。
あれ、戦うの? そういう流れ!?
「ま、まて。屋敷で戦うな。やるなら外行け」
「ふん、なら近くの山なら良いか。おい、飯の準備をして待ってろ。こいつらを軽く捻ってくる」
「はは、面白い冗談を言うな、糞悪魔め。また焼いてやるよ」
「じゅる……おっと、涎が……楽しめそうです」
それぞれ笑いながら部屋を出て行った。
……僕は肉の手配をしようかな。




