ネクロマンサーエルカ
「貴様が主様にけしかけたのかな?」
ヤクモがニコニコしながら前に出るのを咄嗟に止めた。
こいつ笑いながら急に襲い掛かりそうなんだよなぁ。
敵意があるか分からないんだからとりあえず挨拶からしよう。
「俺はハヤトです。近くの街から来ました」
「私はネクロマンサーのエルカ。この森に住んでる」
透き通った声だ。
「ここって死霊の森とか迷いの森とか呼ばれているのに住んでいるんですか?」
「うん、もう二百年になるかな」
「二百年!」
白いミニテレサみたいなの操ってたからそんな気はしていたが多分、この女の子は人間じゃないんだろう。
「何で骨で襲ってきたの?」
「ああ、白尾達がいたずらしたのね……ごめんなさい、悪い子じゃないの。ただいたずら好きなだけ。森に入ってくる人を見るとすぐいたずらしに行くの」
いたずらって並の人間なら死んでるんじゃないかな。
かつての王都の兵もスケルトン兵に襲われて逃げたのだろうか。
「あなた達はどうしてここへ?」
「国からここ俺の領地になったので見に来たんですよ」
「ええー……私が昔から住んでる森なのに、森荒らすの?」
抑揚のない話し方をする女の子だ。
表情もあまり変わらず、怒っているのか本当に困っているのかさっぱり分からない。
「いや、荒らしたりはしない……見に来ただけっていうか」
「そう、なら自由に見て行って。白尾には貴方達にいたずらしないように言い聞かせるから」
「はぁ……」
掴みどころがない。
「ナルド」
「ん?」
「どうしたら良いと思います?」
困ったときはナルドに聞くのが一番だ。
「うーん、協力関係になる位であとは放っておいても良いんじゃないか? 街の人達には入らないようにしてもらって」
「そうしますか」
女の子の方を振り返ると女の子が奥からやってきた何匹かの白尾の話を聞いてから、ちょっとだけ悲しそうな顔をしていた。
「ど、どうかしました?」
「最近ね、この森で暴れてる悪い子がいるの。白尾達が行ってるんだけどなかなか倒せなくて」
「あ、じゃあ俺らが何とかしますよ」
「本当?」
女の子は小首を傾げる。
「はい、その代わり俺らが困ったときは代わりに助けてください」
「うん良いよ。じゃあ……白尾」
少女の影から小さいミニテレサが出てきてふわふわと俺らの前に来る。
胸を叩き、ついてこいと言っている。
一礼すると動き出した。
「行ってらっしゃい」
それからミニテレサの後ろをついて行くと木々の破砕音が聞こえてくる。
「音がしますね」
「え、何かやばくないか?」
ナルドが震えている中、現れたのは一本の角を生やした大猿だ。
「猿……ですね」
「にしてはあの角なんでしょう」
「ハヤト様、あれは恐らく上位の魔獣です。何らかの魔力を蓄え狂暴化したのでしょう」
既にいた白尾が骨に乗り移り戦っているが、傷を付ける事は出来ても一撃で骨は粉砕してしまい、白尾が逃げてくる。
「攻撃力はともかく、耐久力が足りないな」
「というか魔獣の威力が凄いんじゃないか?」
「主殿、私が行きましょうか?」
うーん、ヤクモならあっという間に終わらせられそうだよなあ……。
見ているとフェイルが先に前に出た。
「ハヤト様、ここは私が」
フェイルはヤクモをちらっと見てから大猿に向かっていった。
ヤクモばっかり良い所を見せているからって事だろう。
俺は了承して後ろに下がった。
大猿の魔獣はフェイルに気付き、すぐさま攻撃動作を行ってくる。
拳は風切り音を出し、明らかに当たったらやばい感じだ。
とはいえ。
「遅い」
フェイルはそれを難なく躱した。
そして次々に攻撃を当てていく。
それからはあっという間だった。
とっておきのブレスを使うまでもなく、フェイルは魔獣を倒してしまった。
「あっけない」
フェイルが勝利の一言を添える。
フェイルも強いなぁ……。
ミニテレサ達が両手のようなものを上げてフェイルの周りで小躍りを始めている。
可愛い生き物である。
「すげえ……」
ナルドが感嘆の声を上げ、
「…………」
ヤクモが若干涎を垂らして、ハンカチで拭っている。
「フェイル、流石です」
「いえいえ」
褒められたフェイルは嬉しそうに笑った。
「とってもありがとう」
エルカは白尾から話を聞いてお礼を言ってきた。
感情が籠っていないから本当にありがたく思っているのかはさっぱり分からなかったが。
「白尾がね、凄く困ってたんだ。私も困っててどうしようかって。君ら本当に強いんだね、約束通り君らが困った時は助けるよ」
「ありがとうございます」
こうして俺らは死霊の森の主的な女の子。
ネクロマンサーエルカの協力を得ることに成功したのだった。




