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副領主の仕事ぶり

 新しい副領主が決まった。

 ナルド・ルウ。

 先日の食い逃げ犯が今日は副領主として仕事をしているというのはなんの冗談かと言われたがこれが冗談でなく本気と言うのだから驚きだ。


 不安だと途中ハーゲンがナルドの仕事ぶりを見に来たのだが、納得して帰っていった。

 それほどナルドは優秀だった。

 現在、俺は本部領主の間でお茶を飲んでいるが、隣の机に座るナルド・ルウの机は書類の山が積まれていて、更にひっきりなしに人が来ている。


「――――」

「東の入り口で積み荷搬送の動きが滞ってる? ああ、確かにあそこは入り口が狭いからな。後で領主に広くしてもらうようにするからそれまでは案内の兵士を倍にして流れをよくしろ、最悪南の入り口へ案内しろ、あっちならまだ空いてるはずだ」


「――――」

「採掘場で出た鉱石の置き場が足りない? 倉庫は……ああ、書類上だと少々きつそうだな。分かった、領主に倉庫をもう一つ作ってもらうからそれまでは第四の方へ持っていけ、場所は後で指示する」


「――――」

「もめ事が起きてる? 警備兵は? ていうか何でこの時間にこの辺の警備すくないんだよ。この辺はこの時間から特に人が集まる所だろ、人員の見直しと……」


 非常に有能に動いている。

 俺の人選は間違ってなかったな。

 お茶をすすりながら頷いているとナルドが睨んでくる。


「おい、お前今の話聞いてただろ」

「一応ですけど」

「なら動け、働け領主」

「はい」


 あれ、俺領主だよな?

 思いつつ、自分の仕事をするために街に向かった。




 あれから数日。

 たった数日なのに街は順調に変わっている。

 有能な領主補佐のおかげか、道は整備され、鉱石の在庫は増え、更に無駄な人員は再配置されたり、とてもよくなっている。


 最初からこうすれば良かった。

 そんなある日、ヒューネルからリア様がやってきた。


「お久しぶりです、ハヤトさん、元気そうですね」

「お久しぶりです。リア様」


 ちなみにリア様の後ろにはライベルが立っている。

 そうか、そろそろ交代の時期か。


「ではハヤト様、私が」

「はい、お願いします」


 ライベルがこちらに来て、代わりにフェイルがリア様の隣に向かった。


「嬢ちゃんの護衛も悪くなかったがハヤトの近くもありだな」


 少し前までエルフの里を襲撃してたっていうのに人は変われるものだ。


「ぶん殴れる奴が隣にいるのも良いものだ」


 前言撤回、人の本質はそう簡単に変わらないものだ。


「いきなり殴らないでくださいね?」

「ああ、勿論だ。ちゃんと戦う準備が出来てから殴るさ」


 殴るなと言っているんだけど、言葉ってこんなに難しかったかな。


「ところで、副領主って方は一体どこにいるのですか?」

「ああ、こちらです」


 手で指し示したのだが、当の本人ナルドは逃げ出そうとしている。

 何で逃げようとしてんだこいつは。


「何してんですか、人見知りは分かりますけど挨拶位はして下さいよ」

「べ、別に人見知りとかじゃないし……その、ナルド・ルウです」

「ナルド・ルウさんですね、私はリア、リア・ローファスです。……あら?」


 リア様の目が細くなる。


「ナルド・ルウさん……ですか。もしかして昔王都のパーティで」


 リア様がその言葉を言った瞬間。

 ナルドは凄い速さで俺の影に隠れてガタガタと震えだす。


「き、気のせいです!」


 この慌てよう、王都のパーティって言ってたよな。

 もしかしてナルドってこの国の有名貴族の出身だったりしない?

 金も無いのに国から国を渡り歩いてここまで来る奴なんて俺位のもんだろ。

 とはいえ、ここまで頑張ってくれている彼を放っておくわけにはいかず、庇ってあげることにした。


「リア様、すいません。きっと人違いです」


 棒読み過ぎただろうか、でもこんなに嫌がってるならしらばっくれるべきだよね。

 リア様は俺とナルドを見てからニコッと笑った。


「そうですね。分かりました。きっと勘違いです」


 リア様はしらばっくれてくれた。

 ナルドは未だにガタガタ震えているけど、こいつは実家で何かしてきたんだろうか。


「ところでリア様はここへ何か用があってきたんですか?」

「そうでした。今日来たのはお伝えしようと思う事がありまして、実は今後戦争になりそうなんです」

「戦争!? 随分と急ですね。どういう事ですか?」




 リア様の話だとこうだ。


 先日王都より使者が来た。

 隣国のウェルス公国という国からだ。


 ウェルス公国はルグナ王国と比較的仲の良い国だったが、近年、公爵の代が変わってからきな臭い話が聞こえてくるようになった。

 そんな折、兵を集めているという噂が流れてきた、もしかしたらどこかへ攻め込む気かもしれない。

 近年は交流もないから恐らく関係が険悪なルグナ王国にだろう。


 もしそうなったら最前線はローファス家領である。

 よって王国の騎士団及び各大貴族が本体として向かうが、もし有事の際はローファス家が最初に迎撃すべきである。

 準備をするように。


「との事です」

「なるほど、分かりました」


 近々戦争になるかもしれない。お前んとこが戦場になりそうだから準備をしておけって話だな。

 それにしても。


「ローファス領とそこは近いんですか?」

「そうですね、ローファス領の東端が隣接しています」

「え、お隣さんですか!?」


 そりゃ近いってレベルじゃないな。


「先に要塞でも作っておきますか?」

「しかし要塞を作る時間は……ありましたね。ハヤトさんならすぐに土魔法で作れますか」

「はい、任せてください」

「ではお願いします。後で地図を持ってきますね」


 リア様はため息をついた。

 戦争を嫌がる気持ちは分かる。

 でも俺がここに来る前から某女神が平和を取り戻せって言ってた位だから戦争はつきものなのだろう。

 攻めてくるか分からんけど、仕方ないね。



 その後、暫くして動きがあった。

 どうやら本当に戦争の準備を始めなければならなくなったのだ。


 正直そんな準備なんてしたくないのだが、王都よりの命令で、リア様が行くのなら仕方ない。俺も行かないわけにはいかない。

 そんなわけでノーザンラントの街も物々しい空気になっていた。

 とは言っても空気だけで住民は楽観的だ。


 普通戦争が近づいてくると住人が逃げ始めたりするものなのだが、ノーザンラントの住人はあまり逃げようとしない。

 理由を聞くと納得してしまう。

 ここの方が安全そうだかららしい。


 まあ、気持ちは分かる。

 この街自体要塞みたいに頑丈な壁があるし、戦場となりそうな場所から遠いし、竜人やら悪魔やらがいるのだ。

 下手な城塞都市より堅固なんじゃないかと思う。



 ともかく。

 一月の間に物資と武具、兵士を集め。

 ヒューネルよりの兵三千、ノーザンラントよりの兵千が出発。

 ローファス家合計四千の兵士が東端、テイズ高原に布陣した。

 戦争の始まりである。

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