ナルド・ルウ
「ふう……助かった。お前らもう少し捕まえ方を考えろよ、僕じゃなかったら激怒してたところだぞ」
縄から解放した途端、偉そうに言うのは先ほどまでデフ達によって簀巻きにされていた少年だ。
銀色の髪に銀色の目、気弱そうな見た目に反して口調は偉そうである。
「ねえデフ、この人何で簀巻きにされてたんですか?」
「こいつ食い逃げ犯だ」
「食い逃げねえ……」
そういえば食い逃げで捕まった奴もう一人いたよね。
ちらっとフェイルを見ると首を横に振る。
「俺はあえて捕まったのです。こいつと違って捕まりたくなかったら自力で逃げられました」
「なにおう! 僕だって逃げられたさ、でも逃げなかったんだ。罪を償うためにな、高潔だから」
高潔な奴が食い逃げを実行したのか……。
突っ込みどころかと思ったがデフの言葉を聞いて少し言うのを止める。
「一応こいつの言ってることは半分合ってる。こいつこう見えて魔法使いなんだよ。しかもそこそこやるらしい。まあ、自分で魔法使いって言ってくれたから俺らはすぐに捕まえて詠唱させないように口を塞いだんだけど」
「へえ……、凄いじゃないですか」
この世界の魔法使いは魔力が高く、それでいて魔力適性が無いとなりたくてもなれない。
リア様も一応魔法が仕えて、火の玉二つ三つ位しか使えないが十分凄い。
事実、この街は数万人が暮らしているが、魔法を使える人間は多分一人もいない。
いそうでいない。それくらいレアなものなのだ。
俺? 俺は最初から恩恵貰ってるから別口だね。
「それは良いとしてこの人は一体誰なんですか?」
「聞かれたなら答えよう。僕はナルド・ルウ……天才魔法使いだ。更にいえばき……」
「き……?」
言葉の途中でナルドは止まり、こほん……とわざとらしく咳き込む。
「ともかく、天才魔法使いだ」
「魔法使いねぇ……」
デフが俺を見る。
「こいつも魔法使いって知ってる?」
「勿論、君の噂を聞いて僕はここに来た。君も天才で更に言えば最強らしいね」
「いえ、俺は天才じゃないと思ってます」
天才ならそもそもガレリアから追放なんてされないし。
「謙遜は良い。実を言えば僕は最強じゃない、でも天才で間違いはない」
「凄い自信だな」
「ハヤト様、俺が相手をしても?」
「ちょっ、ちょっと待て、僕は別に強いわけじゃないぞ。君の噂も聞いている。強大なブレスを吐く竜人だろ、僕と戦ったってきっと楽しくないぞ」
あからさまに怯えだした。
「なあハヤト、こいつ本当に魔法使いなのか? 捕まえといてなんだけど捕まえた時も大して抵抗しなかったし、もしかして嘘ついてたり……」
可能性はなくはないよね。
逃げようともしない辺り……。
「じゃあお前試しに魔法を使ってみろよ、そしたら信じてやるよ」
「わかった、行くぞ」
『聖霊よ、我に速さを……』
【スプリト】
「……何も起きないな」
デフは首を傾げる。
「ちょっとそこの……ハヤトって言ったか、扉を開けてくれ」
「分かりました」
扉を開けて振り向くと。
「あれ?」
さっきまでいたはずの場所にナルドがいない。
「凄い速さだ、人間にしてはあり得ない速さで逃げましたよ」
「え、逃げたんですか?」
「逃げたな……ハヤト、どうするよ」
「ええ……フェイル、捕まえてきてくれ」
「はは」
フェイルがすぐに部屋を飛び出した。
そして五分もしない間に捕まえて戻ってきた。
「早いですね」
「いえ、こいつ建物を出てすぐの所でばてて座り込んでいましたので」
「く、くそう。しくじった。速度強化はしたけど……身体能力強化をしたわけじゃなかったから肺が……息が……」
全力で息を吸って吐いてを繰り返している。
あー……なんかこいつの事分かった気がする。
「分かりました。デフ、扉を閉めてください」
「おう……で、何が分かったんだ?」
「多分ですけどこの人、付与術士です」
付与術士。エンチャンターと呼ばれる魔法使いの中でも更にレアな魔法を使いこなせる人材だ。
俺自身、魔力を身体の表面に纏い防御力を上げることは出来る。
それはあくまでも魔力の層を作っているだけで、俺の身体自体は決して強くなっていない。
魔力と身体は別個になっている。
しかし、付与術士の場合は、魔力を身体と組み合わせることで、身体自体の能力を強化している。
これは俺には出来ない。
「確かにこの人は天才です」
「え、そうなのか?」
「はい、俺にはその魔法は出来ないですから」
「ふふ……そうだろう、そうだろう。褒めろ、もっと僕を褒めると良い」
嬉しそうにナルドは笑う。
なかなかお調子者の様だ。
それより気になったことがもう一つ。
「あと、もしかしてですけど。ナルドさんって……どこかの貴族だったりします?」
「な、え……僕が? そ、そそそんなわけないだろう。どうしてそんなことを」
焦って目を逸らすが僕の見立てに多分間違いはないと思う。何故なら。
「ハヤト、俺もそれは思ってた、こいつの服は明らかに平民とは違う」
そう、このナルドって奴の服。非常に上等な素材で出来ているのだ。
もしこれが平民の服と言い張るならそれはそれで金持ちすぎる。
恐らくだがリア様と同じかそれ以上の家の出身なんじゃないかと睨んでいる。
「貴族じゃない……だって僕なんか貴族と名乗れないんだから」
「どういう事ですか?」
ナルドの話を聞くとこうだ。
彼は家名は教えてくれなかったがやはり上級貴族、少なくとも伯爵以上の貴族家の者だったらしい。
しかもそこは武門の家だったらしいが、ナルドは魔法の才能はあったが剣の才能はまるでなかった。
付与で身体能力を上げても並くらいしか剣の腕は無かったらしく、剣の実力が無い時点できついのに、兄がいるという事もあり、当主候補からは完全に外されたそうだ。
せっかく前当主の祖父から政治を教えてもらったのにそれは無駄となり、更に家庭教師を付けて勉強したものも意味がなくなり、失意のまま出奔したそうだ。
だが、魔法じゃ腹は膨れず、最強の魔法使いが領主をしているという街の噂を聞き、早速自分を売り込もうと思ったのだが、まずは腹ごしらえとご飯を注文して食べたけどお金が無いのを忘れていて思わず店を飛び出す。
その結果食い逃げ犯として捕まって今に至る。
「……売り込みの前に食い逃げってお前は一体何の実力を売り込むつもりだったんだ」
デフが呆れるのはもっともである。
とはいえ、
「もしかしてですけど、ナルドさんって貴族の当主になれる位の実力はあるんですか?」
「勿論だ、剣は苦手だけど兵の運用や政治、帝王学。祖父直伝だ。並の領主よりは上手いと思うぞ。貴族出身じゃないのに領主になったっていう君より上だと思うな」
「お前」
「貴様……」
「ひいい……」
デフとフェイルに睨まれ部屋の隅に逃げるナルドだったが、俺は確信する。
「ナルドさん」
「な、何だよう。怒るなよ! でもさっきは言い過ぎました、ごめんなさい。これで勘弁しろ、して下さい」
「俺の補佐として副領主になってください」
「え、は? 僕が……副領主?」




