王都よりの使者2
ヒューネルから数日ぶりに戻ったノーザンラントの街はどこか浮ついていて、街自体が興奮しているようだった。
活気のある街並みはかつてのヒューネルのようでワクワクしてしまう。
ただ兵士が以前よりせかせかしているのが気になる。
目が合うと兵士は安堵したような表情になった。
「ああ、ハヤトさん、よく来てくれました」
「どうも、どうしたんですか?」
街を歩く兵士に聞くと兵士は困ったような顔をする。
「本部にデフさんがいます。詳しくはデフさんに聞いてください」
そんなRPGの町人じゃないんだから。
ともあれ、デフに聞けと言うなら聞きに行こうじゃないか。
早速本部の建物に向かった。
本部に行くとデフが椅子に座りながら茶を飲んでいた。
「ん? おお、ハヤト! 待て、違うんだ。これは違うんだって」
またリア様の椅子に座ってやがる。
怒られたのに懲りない奴である。
もういいやと突っ込むのを止めた。
「ってあれ、リア様は?」
「リア様はヒューネルの街にいて俺だけこっちに来いって」
「どうしてまた」
「実は……」
説明するとなるほどなあ……と納得したようにうんうん頷いた。
「この採掘場はローファス家に過ぎたるものって言われている程、良い土地だからな。山と森があって高純度の鉱石が取れて近くに川がある。盗賊とかいたり治安は悪いけど一度要塞を作ってしまえば道さえ作れば人も集まる交通の要衝になりえるし」
「凄いじゃないですか、じゃあどうしてこれまでそれをしなかったんですか?」
「要塞が難しいってのもあるが何より戦争になりかねないんだ。下手に重要な土地を持ってると力で奪われる可能性があるからな。ただでさえレイル様の頃は兵士も強くなかったし」
「リア様は開発始めましたよね?」
「始めなきゃ財政的にきつかったんだろ。国も疲弊してたからな。ディーナスは経済に優れてたが領民人気は皆無だったからな。まあやらかした事を考えれば当然だけど」
口に手を当てながら言うデフはどこか様になっていて。
「ん? どうしたそんなにじろじろ見て」
「なんか聞けば色々教えてくれますけど、もしかしてデフって頭良いんですか?」
「え、お前、俺の事馬鹿にしてる? 色々教えてやってる俺に?」
「すいません、つい。政務が出来ないとか自分で言っていた割に色々知ってるから」
デフは目を細めて遠くを見た。
「大したことはねえよ。俺も子供の頃から色んなものを見てきたんだ」
「はぁ……」
なるほど、過去に何かあってあえて政務に関わらないようにしてるって事か。苦労してるんだな。
やっぱりデフって実は凄いのかな。
「それで分かった事は何でも出来るって言えば面倒な事をやらされるからな」
「…………はい?」
「出来ないって言っている方が面倒な仕事を押し付けられず自分の好きな事出来るだろ? 俺、後方で急かされないような仕事をだらだら何かしてる方が好きだし、頑張るのってだりいしな」
「…………」
やっぱりデフはデフだった。凄いんじゃないかと思った過去をなかったことにしたい。
「っと、忘れる所だった。お前に見てもらいたいもんがあるんだよ」
「見てもらいたいもの?」
デフに連れられて向かった先はこの街の端にある牢屋だ。
どうしても人が増えれば不正を始める奴が出て来る。
だからそれを一時的に捕らえておくために牢屋が街にあるのだ。
最も、軽い犯罪に限り……だ。本当に極悪ならヒューネルまで護送されるのだが。
「こいつだ」
言われて牢屋に近づくと、中に一人の男が入っている。
赤い瞳を光らせ、ぎろりと周囲を睨んでいる。
白い着流し越しにもわかる筋肉隆々な身体、病的に白い肌と髪は立っている。
年齢は俺と同じ位、それでいて身長は俺より高そうだ。
「誰これ」
「ここで食い逃げした犯人だ」
食い逃げねぇ……見れば見る程思うのだが、
「この人、本当に人間ですか?」
肌が粟立つ感覚、これ少し前に悪魔のライベルと対峙した時並みに危険さを感じてるんだけど。
「おう、聞いて驚け、元盗賊の話だとこいつ竜人だってよ」
「竜人!」
ドラゴンレイス、亜人種の中でも最上位に位置する強力な力を持った種族。
普段は竜と共に住んでいて山から下りてくることは滅多にないと本に書いてあった。
そんな奴がどうしてここに?
「よく捕まえられましたね」
「ん、ああ。大人しくしてたら三食飯を食わせるって言ったら素直に牢に入ったぞ」
「食べ物で釣ったんですか……ていうか釣られたんですか」
なんか思ってたのと違うな。
「誰だお前」
低い声で話しかけられた。
「俺はハヤト、ここの領主の護衛です。あなたは?」
「護衛か。俺はフェイルだ。覚えても覚えなくてもどちらでも良い」
「竜人がどうしてここへ?」
「ここに魔力溜まりがあったからな、人の生活を覚えるのも良いと思ってここにいる」
「…………」
何を言ってるのか分からない。
「デフ、通訳出来ます?」
「んん、あー……わかんねえけど。そもそもお前何か目的あるんじゃねえの? 何かあるなら協力するぜ、このハヤトが」
「ちょっと!」
「……お前、玉を見たか?」
「玉?」
「拳位の大きさで赤と緑色と交互に光っている。東の方の洞窟に簡易だが結界が張られている竜の祭壇がある。そこから盗まれた玉を探している。近くにあるような気がするんだがこの辺に漂う魔力に邪魔されて上手く感知できない。魔力溜まりがあるのは面倒だが興味深い」
「えっと……要するに物探しですか」
「そうだ、今暫く下の生活になれたら勝手に俺は出ていく。何もしなければ俺も何もしない。無駄な殺しはしないようにしている」
フェイルはじろりと俺とデフを睨む。
「この街位なら一日で滅ぼすことが出来るし、お前らもやろうと思えば一瞬で殺せるだろう。変な真似はするなよ」
「うひい……分かった分かった」
隣でデフが身震いしながら返事をした。
その後フェイルは言っている通りおかしなことは何もせず。
そうこうしている間に、リア様が多数のお客様と共にノーザンラントの街にやってきた。