毛濃いマン(他意はない
主人公視点
月夜ばかりと思うなよ。暗闇に乗じて動く、なんて厨二病をくすぐりやがるんだ。
「クーシュ。早くこっちへ来いっ」
あのあと何事も無かったかのように振舞うと、ショタの手を掴みそのまま用水路に連れ込んだ。
別に、他意はない。
「聖人様となら、私はどこでも、、」
(おい、このショタ何か勘違いしてるぞ。色々な意味で)
「わかってるだろ(なに想像してんだよ)」
まて誰か俺のパッシブカリスマを止めて――
「しっ」
見張りの警備員に気付かれてしまう。俺は、クーシュを抱くように壁ドンを決め込んでいる。そして、パッシブカリスマを抑え込むように、深く深呼吸してから話し始めた。
「君にはいまから、フライの魔法を唱えてもらう」
「私、魔法なんて使えません」
そうだよな。奴隷が賢者なんて、いきなり魔法使えって無理があるよな。
「大丈夫だ。クーシュは俺を信じて、俺と同じ言葉を続けて」
ショタが、こくりと頷く。
「フライ」
「フライ」
少し遅れてショタの声が聞こえた。この魔法に成功すればようやく、用水路の高い外壁を超えることが出来る。無意識のうちに握っていた手は、いつの間にか強く握り返されて、体が浮き上がると今度は離れないように抱き合いショタが胸の中に飛び込みドキッとする。
月明かりの下、抱き合うように浮かぶ俺とショタが幻想的です。
「聖人様、私飛んでます」
ふわりと、着地すると(不要なテンプレ的展開を無視するためにも)そのままショタの手を引っ張り、あとはゲームの頃お馴染みの道を突き進む。このまま、町の外へと洒落込むつもりだ。
この工業国エスタは、軍事にも力を入れていてあっという間に軍隊が来るのまで想像できた。
大通りを避けて、人通りの少ない裏路地にまわる。宿屋、雑貨屋と過ぎて、飲み屋のある路地を抜け――
「うおおぉえっ」
路地を抜けると、そこは毛濃いマンでした。毛濃いマンが、飲み屋裏手の路地で吐いていた。そういやこいつ、なんか一ヶ月の地下労働生活でちょいちょい話しかけてきやがったな。全部無視したけどな。
まさか、毛濃いマンを懐柔して脱走することが正規のルートとかじゃねぇよな。ありえそうで笑えねぇ。
「クーシュ行くぞっ」
俺は毛濃いマンを見なかったことにすると、街の郊外まで駆け抜けた。