↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/1520

69 新しい仲間

(作者註)

 今回も、ペテオさん目線です。目まぐるしくてすみません。

 カツンという乾(かわ)いた音がした。

 二人の動きが止まっている。

 それはペテオが見たことのない、不思議な光景であった。

 マーサ姫の突き出した細剣(レイピア)と、元闘士(ウォリア)だというガイアックの木剣が、三分の一程(ほど)重なりあっている。

 よく見ると、レイピアの刀身(とうしん)が木剣に突き刺(さ)さっているのだ。

 堅(かた)い樫(オーク)材の木剣に、一撃でそこまで突き刺すマーサ姫の膂力(りょりょく)もさることながら、それを木剣の中心軸(じく)から寸分(すんぶん)もブレずに受けたガイアックの方は、神業(かみわざ)と言うしかない。

 勿論(もちろん)、止まっているように見えても、両者が物凄(ものすご)い力で押し合っているため、メリッ、メリッという音と共に少しずつレイピアが木剣に喰(く)い込んでいる。

 と、いきなりガイアックが、木剣から手を離した。

 勢(いきお)い余(あま)ったマーサ姫は、たたらを踏(ふ)むように前のめりに二三歩進む。

 ガイアックは体(たい)を開(ひら)いてそれを躱(かわ)すと、レイピアを握(にぎ)ったまま伸びて来るマーサ姫の腕を掴(つか)み、投げを打つ体勢に持ち込んだところで、動きを止めた。

「このようなもので、如何(いかが)だろう?」

「まだよ!」

 マーサ姫は、ガイアックの背後から腕を回し、裸締め(チョークスリーパー)を掛けようとしたが、その手を握られ、クルリと反転されて後ろ手を取られた。

 呆然(ぼうぜん)と成り行きを観(み)ていたペテオたちは、騒然(そうぜん)となった。

「姫御前(ひめごぜ)から手を離せ、この下郎(げろう)め!」

 だが、マーサ姫の方が「騒ぐな!」と叱責(しっせき)した。

「ガイアックとやら、もうよい。わらわの手を離してくれ」

「わかった」

 ガイアックはスッと手を離すと、少し間合いを取って立った。

 その意味がわかったのか、マーサ姫は苦笑(くしょう)した。

「もう終わりじゃ。騙(だま)し討(う)ちになどせぬ。おまえは父上の貴重な戦力となろうからな」

「父上?」

「ええ。北方警備軍のマリシ将軍こそ、わらわの父よ。北方からの脅威(きょうい)に備(そな)え、常に有能な戦士を探しているわ。おまえも今日からその一員よ」

 そこで、初めて見せるような悪戯(いたずら)めいた笑顔で、「おまえの恋人もね」と告げた。

 旅芸人のレックスが、「違うって言ってんだろ、このじゃじゃ馬娘!」と叫ぶのを聞き流し、マーサ姫は右手を差し出した。

 ガイアックは片膝(かたひざ)をついてその手を取り、型(かた)どおり手の甲に口づけした。

 マーサ姫は軽く頷(うなず)き、「お立ちなさい」と命じた。

「わらわの親衛隊に入れたいところだけど、今は哨戒兵(レンジャー)が必要なの。後(あと)はペテオに教わってちょうだい」

「うむ。わかった。そうしよう」

 マーサ姫は「おまえは本当に面白い男ね」と笑うと、ペテオに「任(まか)せたぞ!」と告げ、風のように去って行った。

 ガイアックはペテオの前まで来ると、少しも悪びれず「よろしく頼む、先輩」と笑顔を見せた。

 何か文句を言ってやろうと身構(みがま)えていたペテオは、その笑顔を見た瞬間、最早(もはや)何の蟠(わだかま)りも無(な)くなっていることに、自分でも驚いた。

「ああ。その、なんだ。おれにはそれでいいが、姫御前にはもう少し言葉遣(づか)いを改めろよ」

「そのように心掛けよう」

「ふん、まあいいか。おれはペテオだ。もう十年程、哨戒兵をやってる。向こうに突っ立ってる太っちょが工兵(エンジニア)のヨゼフだ。ちょっと言葉が不自由だし、剣の方は、からっきし下手(へた)だが、この長城内の様々な機械(からくり)を扱(あつか)ってる。武器にも詳(くわ)しい」

「われは、ゾ、いや、ガイアックだ。連れは旅芸人のレックスだ。ああ見えて、手先は器用でな。雑役兵(スチュワード)でもいいが、今の話を聞くと工兵でもいいかもしれぬ」

「ほう、それならこっちもありがたい。なかなか工兵のなり手がいなくてな」

「それは良かった」

「では、これから案内しよう」

 事態がよく呑(の)み込めていないようなヨゼフと、まだ不機嫌(ふきげん)な旅芸人のレックスも加わり、四人で受付所を出た。長城の中を見学しようと城壁内に入った、正(まさ)にその時。

 けたたましい喇叭(ラッパ)の音が城内に響いた。

 城壁の上の見張り台から、当直兵(ウォッチ)が大声で叫んでいる。

「敵襲(てきしゅう)だーっ! クビラ族と思われる騎兵、凡(およ)そ三千! 総員(そういん)、戦闘配置につけーっ!」

 ペテオは振り返り、新入り二人に「案内は後(あと)だ。おれも行かなきゃならん。おまえたちどうする?」と尋(たず)ねた。

 無論、どこかで待機(たいき)させるつもりで訊(き)いたのである。

 しかし、ガイアックはニッコリ笑い、「われにも何か武器を貸してくれ」と申し出た。

「え? いいのか?」

「われの覚悟は決まっている。襲(おそ)い掛(か)かって来る敵は、ただ斃(たお)すのみ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。