↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/1520

67 実技審査

(作者註)

 今回は北方警備軍のペテオという男の目線です。

 新兵希望者の口頭試問(こうとうしもん)のはずが、受付の役人の独断で、急遽(きゅうきょ)、元闘士(ウォリア)というガイアックの実技審査(じつぎしんさ)が実施されることとなった。

 対戦相手として連れて来られたのは、哨戒兵(レンジャー)のペテオという黒髭(くろひげ)の男と、工兵(エンジニア)のヨゼフという太った男である。

 二人とも、自分の仕事が忙(いそが)しい中駆(か)り出されて、最初から殺気立(さっきだ)っていた。

「そんなやつさっさと叩(たた)きのめして、早く戻ろうぜ、ヨゼフ」

 ペテオがそう言うと、言葉が不自由らしいヨゼフは「うう」と返事をした。

 二人が仮設の受付所に行くと、金髪に近い薄(うす)い茶色の髪をした筋肉質の大柄(おおがら)な男と、焦(こ)げ茶色の髪にキッチリ櫛目(くしめ)を通した痩(や)せた若い男がいた。

 実技審査は、木剣(ぼっけん)での模擬(もぎ)試合であるという。

「二対二か?」

 ペテオが受付の役人に訊(き)くと、「違う。相手は、こっちのガイアック一人だけだ」と筋肉質の男の方を指差(ゆびさ)した。

「はあ? どういうことだ?」

 役人が事情を説明すると、日に焼けたペテオの顔が怒りで赤黒くなった。

「おれたちも舐(な)められたもんだな! こんなやつ、おれ一人で充分だ!」

 それではこの男の言葉を証明できないと役人が宥(なだ)めているところへ、追い討(う)ちをかけるように、「われは片手で木剣を使おう」とガイアックが申し出た。

「なんだと?」

 ガイアックという男は別に気負(きお)う風(ふう)もなく、淡々(たんたん)と自分の言葉を補足した。

「おぬしはともかく、もう一人は哨戒兵ではなかろう。であれば、均衡(バランス)をとるため、われは片手のみで木剣を使った方がよいと思う」

 怒りのあまり、今にもガイアックに飛び掛かろうとするペテオを遮(さえぎ)り、役人は意地悪く「では、そうしろ。但(ただ)し、木剣を持つのは利(き)き腕ではない方の手だ」とガイアックに告げた。

 すると、ガイアックは意外な反応を見せた。

 両手を自分の顔の前に出し、手を開いたり握ったりして考えている。

 どちらが利き腕か、調べているようだ。

「うむ。たぶん右が利き腕のようだ。であれば、左で木剣を持とう」

 不思議なもので、ペテオは、徐々(じょじょ)にこの変な男に興味が湧(わ)き、怒りが鎮(しず)まって来た。

 試合は、仮設受付所の中庭の奥側を、ざっと小石などをどけて使うことになった。

 左手に木剣を持ったガイアックと向かい合わせに、それぞれの体格に合わせた木剣を持ったペテオとヨゼフが立った。

 審判役(しんぱんやく)を買って出た受付の役人が間に立ち、「あくまでも試験故(ゆえ)、勝敗にかかわらず、わたしが終了の合図を掛けたら、そこで終わりだ」と告げた。

 その後(あと)、ニヤリと笑い、「あまり大怪我(おおけが)をさせるなよ」と付け加えた。

 ペテオに向けて言ったのだろうが、ガイアックの方が「そう心掛ける」と返事をしたため、落ち着いていたペテオの顔が、また赤黒くなった。

「では、始めよ!」

 その言葉と同時に、ガイアックの木剣の鋭(する)い突(つ)きがペテオの喉元(のどもと)に繰(く)り出された。

「くそっ!」

 ペテオは両手で握った木剣で払(はら)い除(の)けようとしたが、当然それは予期していたらしく、木剣を滑(すべ)らせるようにして体ごと迫(せま)って来た。

 片腕でいいと豪語(ごうご)するだけのことはあり、両手で木剣を持っているペテオの方が押されている。

 と、ガイアックの空(あ)いている右手が拳(こぶし)を作り、ペテオの真横から飛んで来た。

「うわっ、何しやがる!」

 ペテオは思わず腰が砕(くだ)けてしゃがみ込みながら、木剣か拳の一撃(いちげき)を覚悟(かくご)した。

 しかし、ガイアックはクルリと後ろ向きに回転しながら脚(あし)を上げ、背後からこっそり近づいていたヨゼフの木剣を蹴(け)り上げた。

「ううっ!」

 堪(たま)らずヨゼフが手を離すと、蹴られた木剣は回転しながら、審判役の役人の方へ飛んだ。

「ふへっ!」

 おかしな悲鳴を上げて役人が首を引っ込めると、木剣はその頭上を飛び越えた。

 更(さら)に、受付が中断されたため見物しながら待っていた応募者たちの間を抜け、床台(テラス)の段差に当たって、漸(ようや)く止(と)まった。

 完全に戦意を喪失(そうしつ)して呆然(ぼうぜん)と立っているヨゼフと、腰砕(こしくだ)けとなって座り込んでいるペテオの間に立って、ガイアックは、「このようなもので、如何(いかが)だろう?」と役人に尋(たず)ねた。

 その向こうでは、旅芸人のレックスという連れの若い男が、「いいぞ! おっさん!」と歓声を上げている。

 口を開(あ)けたままの役人が何か言う前に、座っていたペテオが「ちょっと待て!」と言って立ち上がった。

「卑怯(ひきょう)だろ! 片腕で闘(たたか)うって言ったじゃねえか!」

 言い掛かりもいいところだとぺテオ自身も思ったが、ガイアックが平静に「それは違うな」と答えたため、再び怒りが込み上げた。

「何が違う!」

「われは、木剣を片手で使う、と言っただけだ。したがって、剣の間合(まあ)いなら木剣を使い、腕が届く範囲(リーチ)なら拳を使う。武器に拘(こだわ)らないのが、われの流儀(りゅうぎ)でな」

 猶(なお)も言い募(つの)ろうとするペテオに、床台の奥の部屋から「おまえの負けよ、ペテオ。いい加減(かげん)で負け犬の遠吠(とおぼ)えはお止(や)めなさい」という、若い女の声が聞こえて来た。

 ぺテオは愕然(がくぜん)とした顔で「姫御前(ひめごぜ)が何故(なぜ)ここに……」と呟(つぶや)いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。