表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1519/1520

1459 ハルマゲドン(115)

 宙船そらふねの自爆が迫る中、跳躍リープして船外へ逃げるために、聖剣が変形トランスフォームしたよろいを脱いだアルゴドラスは、全裸のまま魔女ドーラに変身した。

 ところが、中和が未完であった白魔ドゥルブ残党ざんとう小型自律機械ロビーあやつり、ドーラの両足首をつかませたのである。

 バチバチという音と共にドーラの身体からだ痙攣けいれんし、その長い白金色プラチナブロンドの髪が逆立った。

 と、脱がれたままの状態をたもっていた鎧が動き、その手に握っていた超合金オリカルクムの剣で、ロビーの伸びた腕をザン、ザンと切断した。


 ……対応が遅れ、申し訳ありません。ただし、電撃でんげきは何とか麻痺まひ水準レベルめることができました……


 が、生命いのちこそ取りめたものの、ドーラの美しかった裸身は見るも無残むざんな本来の老婆の姿に変わり果てていた。

 ほほけてしわだらけになった顔で、それでも目だけをギラギラと光らせたドーラは、罅割ひびわれたくちびるひらき、かすれた声でめいじた。

「ドゥルブにとどめを」


 ……お言葉ですが、中和を完了させる時間はありません。四十九秒後に防護殻シールド設定アップし、そのキッカリ二十七秒後に自爆します。急いで退避してください……


 ドーラは大きく息をくと、自嘲気味じちょうぎみに笑った。

「無理ぞえ。衝撃にえるため、理気力ロゴスほとんど使うてしもうたわい」

 と、しばられたまま倒れているジョレが叫んだ。

「だったら、聖剣の力で一緒に逃げようじゃないか! 今ならまだに合うぞ!」

 それに対する返答は、両腕を切断されたロビーの方から聞こえて来た。

「おお、そうしてくれ。おまえたちが時空干渉機タイムスペースコントローラーで脱出してくれれば、母船の制御コントロールを回復し、軌道オービットを反転させておまえたちの惑星プラネットに突っ込ませる! 頼む、そうしろ!」

 ジョレは身体からだじって振り返り、ロビーの透明な頭部に見える白い平面の顔を怒鳴どなりつけた。

「余計なことを言うな! また、わたしに支配されたいのか!」

 白い平面の切れ目のような口がわらった。

「もう二度と御免ごめんだ。今度憑依ひょういする時は、相手を慎重に選ぶよ」

 その時。


 ……シールドアップまで、後十七秒です。ご主人さまマスター、ご決断を……


 ドーラは鼻で笑った。

「わたしが言うことでもないが、みにくい争いよのう。わたしはもうりたぞえ。聖剣よ、わたしの最後の命令じゃ。このまま作業を進めよ」


 ……了解いたしました。シールドアップ十秒前、九、八……


 そのかんにも、ジョレとドゥルブが「考えなおせ!」「後悔するぞ!」などと叫び続けていたが、ドーラはもう返事をしなかった。


 ……三、二、一、シールドアップします!……


 本殿内の照明が一度消え、再び点灯した時には真っ赤な光が明滅めいめつし、警報のような音が鳴り響いた。


 ……自爆まで後二十秒です。十九、十八……


「シールドを解除しろ! まだ間に合うぞ!」

「そうだ! 船のコントロールをわれらに戻せ!」

 なおわめき散らしているジョレとドゥルブを、ドーラは一喝いっかつした。

阿呆あほう! 静かにせよ! どうせまた、すぐに会えるわい。地獄とやらでのう」


 ……十、九、八……


 ドーラは目をつぶり、自分の胸に言い聞かせるようにつぶやいた。

「ええ、そうですね、兄上。あとのことは、孫たちにまかせましょう」

 その老いた顔に、ドーラは満足げな微笑ほほえみすら浮かべていた。


 ……三、二、一……



 一方、氷上にとどまり、暮れなずむ空を見上げていたウルスラが、「あっ!」と声を上げた。

「今光ったのが、そうじゃない?」

 極地の寒さからウルスラをまもるようにを寄せていたクジュケが、震えながらうなずいた。

「そのようでございますね。何も影響がないといいのですが」

「お祖父じいさまは、無事に逃げられたかしら?」

「さあ。それはどうでしょう?」

 クジュケがもの問いたげにゲルヌの方を見ると、ひたいの赤い第三の目がスーッと消えるところであった。

魔道神バルルに確認した。間違いなく宙船は自爆したそうだ。もっとも、充分に距離を置き、直前でシールドアップしていたから、中原ちゅうげんへの影響はないだろう、とのことだ」

 ウルスラはホッとしながらも、気になっていることをたずねた。

「お祖父さまのことは、何かわかった?」

 ゲルヌはまゆを寄せ、小さく首を振った。

「残念だが、宙船から脱出した航跡は発見できなかったそうだ」

「おお、そんな!」

 顔をおおうウルスラに、ゲルヌは言いづらそうに告げた。

「実は、もう一つ言わねばならぬことがある。ゾイアのことだ」

「え?」

 クジュケも含めた三人の視線が、自然に一箇所いっかしょに集まった。

 完全に人間形に戻り、筋骨きんこつたくましい裸身をさらした状態で、見えない寝台ベッドに横たわるようにして浮いているゾイアである。

 その目は固くじられており、深い眠りの中にるようだ。

 聖剣でドゥルブの中和作業をしたため、その衝撃で気絶したままなのである。

 ゲルヌは決心がついたように息をき、改めてウルスラの方を向いた。

「宙船と共にドゥルブもほろび、この世界に数々の奇蹟きせきもたらした聖剣も破壊された。三千年前に救援艦隊を呼んだ後、ギルマンの地下深くへもぐったモノリスとやらも、南海の海底に沈んだダフィニア島を管理しているゴーストという機械からくり人間も、今後は中原に関わることはないという。そうした中、いまだに人間と接触のあるゾイアは、今後この世界には、存在を許されないそうだ」

 ウルスラが顔色を変えた。

「なんてひどいことを言うの! ゾイアはわたしたちの大切な仲間よ!」

 と、その仲間という言葉が聞こえたかのように、ゾイアの身体がピクリと動き、空中でたてに回転して直立の姿勢になった。

「あ、髪の色が……」

 クジュケが思わず声を上げたように、本来ダークブロンドであるはずのゾイアの髪が、漆黒しっこくまっていた。

 それだけではない。

 ゆっくりと開いた瞳の色も、同じように黒かった。

 その目で、はじめて見る相手のように三人をながめている。

 たまりかねてウルスラが声を掛けた。

「ゾイア、気がついたの?」

 ゾイアの顔に戸惑とまどいがあらわれたが、すぐに「ああ」とうなずいた。

「その人格は今はまだ眠っている。が、その意思は伝えられる。名残惜なごりおしいが、別れの時が来た、とのことだ」

「そんなのいやよ!」

 泣きながら飛び出そうとするウルスラを、ゲルヌがめた。

「話を聞くんだ」

「だって」

 ゾイアであった存在は、黒い瞳をうるませていた。

「確かにナターシャに似ているな。ああ、いや、おれのひとごとだ、忘れてくれ。ゾイアという人格からの伝言を続けよう。この世界で過ごした日々は、掛けえのないものであったそうだ。しかし、自分の存在がこの世界の枠組わくぐみにおさまらないことは自覚しているらしい。よって、去らねばならぬと」

 ウルスラはもう言葉が出ず、しゃくり上げるように嗚咽おえつしている。

 その肩をきながら、ゲルヌが告げた。

「バルルたちはおぬしの身柄みがらを確保したいと言っているが、断った。それで良かったか?」

 ゾイアであった存在の肉体がほっそりして来て、髪の色も相俟あいまってマオール人のような容姿ようしになった。

「ありがとう、感謝する。おれは自由が好きでね。ゾイアという人格は、もっと忠誠心が強いようだが。まあ、いずれにせよ、この世界にはもうられないことはわかってくれている。世話になったと伝えて欲しいそうだ」

 そう告げると、ゾイアであった存在は光に包まれ、次第しだいに丸みをびて来た。

 ついには、林檎マルムほどの大きさの光る球体となって浮かんだ。

 ウルスラが「ゾイア!」と呼び掛けると一度明滅めいめつし、物凄ものすごい速度で急上昇すると、群青色ぐんじょういろに変わった空の彼方かなたへ消えて行った。

(作者註)

 ご覧のように本編は完結しました。

 後はエピローグを残すのみです。

 ところが、ご存知のように改稿とあらすじが途中で止まっており、完結設定がまだできません。

 よって、当分そちらに専念させていただき、完了後にエピローグを追加して完結といたします。

 もうしばらくお待ちください。

 長くはお待たせしないつもりです。

 では、ひとまず、ご愛読に感謝いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ