表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1511/1520

1451 ハルマゲドン(107)

 ゾイアが北の大海の上空に差し掛かったところで、かかえられた本殿に乗っている魔女ドーラや秘書官ラミアンにも、氷上の騒ぎが見えた。

「どうしたんでしょう? 何かめてるみたいですね?」

 ラミアンに聞かれたドーラは、興味なさげに「予想したとおりぞえ」と鼻でわらった。

「赤目族に競争させ、信者をき集めたようじゃが、あまりにも時間がなさすぎるわさ。これが、あと三日でもあれば、ここに集まっておる人数ぐらいは乗れるであろうが、おそらくそのかんにも続々とめかけて、人数がばいになっておろう。結局、乗れない人間が増えるだけぞえ。まったおろかな話じゃの」

「同感だな」

 笑いを含んだ声でこたえたのは、勿論もちろんラミアンではなく、魔王然まおうぜんとしたジョレである。

 いつのにか戻って来て、背後で二人の会話を聞いていたらしい。

 その顔に皮肉なみを浮かべている。

「人間というものの愚かさは底なしだな。きそって信者を集めた赤目族も、自分には未来永劫みらいえいごう生き続ける資格があると己惚うぬぼれる民衆も、反吐へどが出そうだ。が、次の植民惑星コロニーで簡単に絶滅させぬためには、それなりの人口を連れて行く必要がある。めるだけは積んで行くつもりだったが、この状態では合体ドッキング邪魔じゃまになるだけだな。今から排除させる。まあ、見ておれ」

 その気配を察したのか、奥からカタカタと音を立てて機械からくり人形が出て来た。

「お呼びでがざいましょうか、ご主人さまマスター?」

 が、ジョレは苦笑して首を振った。

「残念だろうが、おまえではない。もっと役に立つしもべがいるからな」

 ジョレは天井を見上げて叫んだ。

「おい、ゾイア! 火をいて、邪魔な群衆を散らせ! 多少焼け死んでもかまわんぞ!」

 聞こえたらしく、「趣旨しゅしは理解した!」との声が響いて来た。



 一方、氷上で騒いでいる群衆は、自分が乗れないなら他人ひとも乗せるものかとみにくい争いを続けていた。

「どけ! おれを先に行かせろ!」

「何を言うか! タナトゥスのおとも相応ふさわしいのは、わたしだ!」

「おまえらごときに何ができる! わしは全財産をタナトゥスにおささげしたのじゃぞ!」

だまれ、じじい! おまえみたいな年寄りなんぞ、タナトゥスは望んでおられぬ! ええい、邪魔だ邪魔だ!」

「ちょっと、あんたたち! 女にだって乗る権利はあるんだよ! どいてちょうだい!」

「女って言ったって、あんたみたいな小母おばさんはらないのよ! あたしみたいな若くて綺麗きれいな女こそ、タナトゥスさまの伴侶はんりょになるべきだわ!」

「何を勘違かんちがいしておるのか、この小娘! タナトゥスが望まれているのは妻ではなく、司祭しさいじゃ! わしのように祭礼さいれいを行える人間じゃ!」

 が、本来の司祭であるはずの赤目族は、これらの騒ぎを傍観ぼうかんするだけで、一向いっこうしずめようとはしなかった。

 最初は赤目族を説得しようとしていたゲルヌもあきらめ、空中を飛び回りながら直接群衆に呼び掛けていた。

「皆、聞いてくれ! 宙船そらふねの下の氷がけつつある! ここにては危険だ! どうか避難ひなんしてくれ!」

 が、自分が乗船することしか考えていない群衆は聞く耳を持たず、他人を押し退けてでも宙船に近づこうとするばかり。

 ウルスと再び交替こうたいしていたウルスラはそれを見ていたが、クジュケに「わたしたちもゲルヌを手伝いましょう」と声を掛けて飛び立った。

 クジュケは困った顔でジェルマ少年に「おまえは残っていなさい」と告げると、ウルスラのあとを追うように飛んで行った。

 一人残されたジェルマは小さく舌打ちした。

「一人じゃ寒いし、心細こころぼそいじゃねえか。ったく、みんなお人好ひとよしすぎるぜ。今は何よりも白魔ドゥルブ退治たいじして、魔道神バルルの仲間の攻撃をめなきゃなんねえのによ。それより、ゾイアのおっさんは何やってんだ? 空中に止まったまんま、何もしねえで……え? わっ、やべえ!」

 ジェルマが驚いたのは、本殿を抱えたゾイアが空中浮遊ホバリングしたまま首だけを伸ばし、下に向けて口から火炎かえん噴射ふんしゃしたからである。

 それはかなり加減かげんされたもので、炎の先は群衆のはるか頭上にしか届いていなかったが、皆の注意をくには充分であった。

 炎を止めると、朗々ろうろうとしたゾイアの声が響きわたった。

「われはゾイアである! 諸君らが乗船を望む気持ちは理解するが、このままでは宙船が出発できず、諸君の信仰するタナトゥスにも大変な迷惑が掛かるぞ! 結果的に、タナトゥスもわれらも、いや、この世界すべての人間がほろびてしまうのだ! どうかすみやかにこの場を離れ、自身の安全を確保してくれ! それがタナトゥスの望みでもある!」

 群衆にどよめきが起き、戸惑とまどいの声が上がったが、今まで傍観していた赤目族たちにも何らかの指示があったようで、一斉いっせいに群衆の避難を誘導し始めた。



 空中で群衆が周辺に散って行くのを見たドーラも、ホッとした顔になった。

「これでよい。何とか日没前には合体できそうじゃな」

 ラミアンも「そうですね」と言いながら、チラリと横目でジョレを見た。

 その視線に気づいたらしく、ジョレは嘲笑ちょうしょうを浮かべた。

「心配するな。ギリギリのところでおまえは逃がしてやる。が、まだ駄目だめだ。最後の最後まで、誰が裏切るかわからんからな。魔女にはき目がなくとも、ゾイアに対しては人質として役に立つ。近くにはウルスラ女王やゲルヌ皇子おうじも来ているしな。正直、おまえがここにてくれて良かったよ。さて、祝杯でも上げるとするか」

 成功を確信できたのか、ジョレは小型自律機械ロビー酒器しゅきの準備をめいじた。

「せっかくだから、さかずきは三つ用意しろ。おまえが飲めるなら、四つでもいいが」

 自分の冗談に笑うジョレを、さすがに笑えない顔でドーラは見つめながらつぶやいた。

「まあ、仕方あるまい。ここまで来ては、成り行きまかせじゃ。どっちにころんでも、わたしにそんはない。ああ、いえ、勿論もちろんわたしたちでございますとも、兄上」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ