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俺の力は異世界まで届くらしい  作者: 鈴代なずな
お届け後のトラブルにつきましては一切責任を負いません。
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4-4

「てめえ、何してくれてんだ!」

 状況を理解した軍団員が目の色を変え、今度は楓ではなく達真に向かって殺到してくる。

 例えふたりを残すだけになっているとしても、達真にそれを迎撃する術などないが――

「スライダーキック!」

 謎の技名を叫ぶ声と共に、軍団員は背後からそれぞれ首とこめかみを打ち抜かれ、達真のもとへ辿り着く前に倒れ伏した。

 やったのはもちろん、楓である。

「…………」

 やはり超人じみていると思わざるを得ない。達真は呆気に取られ、彼を見つめた。

 楓の方はざっと周囲を見回して、全ての軍団員が倒れたことを確認すると、やれやれと吐息したようだった。

「これで全員か。大丈夫だったか?」

「え? あ、ああ……おかげさまで」

 不意に声をかけられて、間抜けに返事をしながら頭を下げる。楓はあくまでも整った顔を崩さず、クールな様子で同じく小さく頭を下げた。

「オレも助かった。キミが守ってくれなかったら、危なかったかもしれない。ありがとう」

「いや、あれは偶然だから……それより、あんたはいったい?」

 何者なんだと問いかけると、彼はまた工場内や、軍団員に目を向けて。

「この辺りに、町の平和を脅かす悪魔の軍団がいると聞いてな。ここがアジトだと知って駆けつけたんだ。どうやらこいつらがそうだったらしいが……いや、まだ油断はできない。裏で操る巨大な悪が存在するかもしれない」

「…………」

 真剣に語る楓に、達真はどう反応するべきか迷った。

 言い回しが下手なヒーローじみているし、行動も同じくだ。一般的な人が聞いたら、なんだこの馬鹿は、とでも思うに違いない。

「それじゃあ、俺はこれで……」

 あまり触れない方がお互いのためだろう。

 達真はそう判断して、そのまま別れようとした。

 しかし――

「どーもー。わたし、異世界の妖精なんですけど、魔王退治に興味ってないですかー?」

「って、お前は何をしてんだよ!?」

 振り返れば、そこには平然と楓に話しかける妖精の姿があった。

「何って、強そうなので勧誘をしようと思って」

「そうじゃなくてだな!」

「”痛い”人っぽいからってことですか? 大丈夫ですよ、”痛さ”で言えば勇者様の方が断然上です」

「ほっとけ!」

 言い合い、小さな妖精と取っ組み合いになる。達真はその状況を冷静に判断し、我ながら器用なことをしているなと自画自賛めいたことを考えて……

 そこでようやく真に冷静さを取り戻し、こちらを見つめている楓の存在を思い出した。

「……って、驚かないのか?」

 まずいと思うより先に、平然とした彼の態度に訝って、妖精と掴み合ったままで尋ねる。楓はやはり平然としたまま、心底わからないという顔で首を傾げてきた。

「何がだ?」

「いや、だって妖精だし」

「子供の頃に見た以来だから、久しぶりではあるな」

「見たことあるのか!?」

 反対に達真の方が驚かされる。妖精も驚いたのか、取っ組み合いはやめて、達真の隣で同じように驚いた顔を見せていた。

「その時は全身銀色で耳からアンテナが生えているという格好だったが、まあ時代の変化ということだろう」

 楓は当たり前の思い出話でも話すように言ってくる。自分の腰に巻かれた機械的なベルトを見下ろしながら。

「オレはその妖精から、この変身ベルトと、世界の悪を討ち果たすという使命を授かった。なぜかまだ一度も変身できたことはないがな」

「…………」

 沈黙を発したのは達真か妖精か。あるいは両者共だったか。先にひそひそと言ってきたのは妖精の方だった。

「……どうしよう勇者様。この人、”本物”っぽくて怖いです」

「だから言っただろうが。ちゃんとお前が処理しろよ」

「そんな薄情な! あぁでも、この方が逆に面白いってことも……」

「お前、そろそろ面白いかどうかで判断するのをやめろよ……」

 声を潜めて言い合うふたり。

 楓はやはり整った顔を僅かに歪めて、訝るように首を傾げていたが。

 やがて彼は、そういえばと思い出したように口を開いた。妖精に向かって。

「さっき、魔王退治と言っていたな?」

「え? あ、あぁ……はい、まあ……言っちゃいましたけど」

「魔王ということは、つまり悪ということか?」

「そりゃまあ……わたしたちにとっては思い切り悪ですけど」

「なるほど――」

 楓は頷くと、今度は達真の方を向いて手を差し出してきた。達真は反射的にそれを握り返してしまうが――直後、それがあまりに安易な行動だったと気付く。

 楓が言ってきたのだ。

「悪と聞いては見過ごせない。これからは仲間だ。よろしく頼む」

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