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SHIELD  作者: ミヤモト リオ
第一章 学園編
10/13

第八話 依頼、そして――

非常に間が開いてしまい、まことに申し訳御座いません。

連絡がとれなくなったのです……。


今回はS男の独断で上げています。今後、予告なく内容が変更、削除されることも御座います。ご容赦ください。


 とある迷宮にて。


「や――やめてくれ」


 その冒険者の顔は、絶望で彩られていた。

 彼の周囲に斃れているのは、少し前までは彼と共に冒険していた仲間達がいる。

 しかし、動かない彼らを気にする余裕はない。誰のものともわからぬ血で顔を汚した彼は、目の前を凝視して命乞いの台詞を吐くのみである。


 彼が恐れているのは魔物ではない。


 ――それは、色彩の感じられない少年だった。


 髪と瞳はまるで闇に染め上げられたかのように黒く、肌は透き通るように白い。

 未だ幼さの残る顔立ちながら、どこか奇妙な色気を感じさせる。

 何を考えているのか読み取ることのできない無表情で、彼は右手を軽く振る――


「……やめた」


 男の首の薄皮を一枚斬ったところで、ぴたりとその剣が止まった。

 ぽかんとして少年を見上げる男に、彼は薄く笑って見せた。


「貴方を殺すのはやめておくよ。貴重な十人目は、もっと特別なほうがいい」


 ――何を言っているのか分からなくとも、自分が見逃されるということは分かったらしい。冒険者の顔に希望が浮かんだ。

 しかし、それも一瞬だけのこと。

 少年の右手は方向を変えて振るわれた。

 切断されたのは――膝下。

 鮮血が壁を彩った。


「ぎ、ぁああああああああああああああああ!!!?」


 足を押さえて転げまわる彼に、少年は笑い顔を血に染め上げて口を開いた。


「ああ、血の臭いに釣られて来ちゃったみたいだね」


 逞しく、巨大な魔物達。ゆっくりと寄ってくる。

 男の顔に絶望の化粧が為された。

 ゆっくりと背を向けて歩いていく少年。

 その後ろで、絶叫。

 次いで、何かが砕けるような音。何かが撒き散らされる音。


「ぁあああ!? やめ、や、やめてぇえええええええええええええええええええ!!!?」


「――ああ、楽しいなぁ」


 少年の微笑は、先ほどから全く動いていなかった。



 ◆◇――――◇◆

 


 学生というものは基本的に噂好きなものだ、とシルトは思っている。

 それは色恋沙汰であったり、或いは悪口陰口の類であったりと様々だが、一日に一度はそういった話を耳にする。人付き合いがそこまで多くないシルトであっても、だ。

 

「――ねえ、聞いた?」


 それを持ってくるのはゼマを筆頭とした数少ない友人達であったり、授業の休み時間に近くの席で話しているのを耳に挟んだりというのが主だ。

 だからシルトは、珍しくそんな言葉を口にしたロディアに少し驚いたように顔を向けた。


「……ロディアが噂話?」

「……明日は雨だな」


 彼と一緒にいたアルバも僅かに瞠目して頷く。そんな二人に、ロディアは頬を膨らませた。


「何よ、私だって年頃の女の子なんだから、噂話の一つや二つくらいするわ」


 睨み付けられた二人は顔を見合わせて小さく苦笑した。眉を更に吊り上げるロディアに構わず、シルトが代表して声を上げる。


「それで、話の内容っていうのはどういうものなの?」

「ああ――何でも、依頼の掲示板にBランクの依頼が来たみたいなの」

「……へぇ」


 アルバが好戦的に笑う。ロディアは彼を諌めるように一睨みしてから、話を続ける。


「最初は手違いだろうっていう話だったんだけど、数日経っても取り消される気配がないみたいなのよ」

「ふむ……」

「それで、一体どういうものなのか気になったから依頼書を見てみたんだけど――行き先が《薬師狼ノ巣穴》なのよ。で、採ってきて欲しいっていうのが《万薬草の根》が五本。でも、内容が営利目的じゃないみたいで……」


 いつに無く饒舌なロディア。ここに来て漸く、シルトは彼女の言いたいことが分かった気がした。要するに、請けようとしているのである。

 依頼の目的が営利目的でなければ何か。

 恐らくは個人的なもの。それも身近な誰かの為――。

 ロディアはそういったものに弱い。少しくらい危険でも足を踏み入れるくらいには弱いのだ。


「……でも、Bランクだろ? 僕らがパーティー組んだら確かにBランクだけど、依頼は余裕のあるものにしろってナザニア先生が言ってたじゃないか」

「……そのナザニア先生が、出来れば私達に行って欲しいって」


 アルバとシルトは顔を見合わせた。一体なんだというのだ。

 請けて欲しいと言われた上、自分たちにそれを達成する能力があるのならば断るのも気が引ける。だが危険な目に遭うのも御免だ。

 シルトは眉根を寄せた。依頼主の件も気にはなるが、自分たちの命には代えられない。これは請けない方がいいのではないか。


「――やめておかない? 薬師狼ノ巣穴っていえばBランクの中でも危険な部類だろ?」

「……どうしてよ」


 シルトの声に反応したのはロディアだった。睨むようにしてシルトを見ている。彼は少し怯んで仰け反った。


「私達にはこの依頼を達成するだけの能力があるわ。依頼主は早期達成を望んでる。私達がやらないで誰がやるのよ」


 噛み付くように言い連ねるロディア。傍観するアルバも彼女に賛成のようで、シルトに懐疑的な視線を向けていた。

 しかしシルトは頑として譲らない態度を取る。


「僕は危険だって言ってるんだよ。万が一があってからじゃ遅い」

「……心配してくれるのはありがたいけど、私は譲らないわ」


 シルトは更に眉根を寄せた。どうにもおかしい。いくらなんでもこだわり過ぎではないか? 彼女がこういった話に弱いのは知っていたが、ここまでというのは初めてかもしれない。


「……ロディア。何か、あるの?」

「…………」


 ぐっ、と喉を鳴らして黙り込んだロディアを見て、確信する。

 これは何かある。

 シルトは目を逸らす彼女の顔を見続けた。

 二秒、三秒、五秒――――


「ああもう、分かったわよ。言うわよ」


 観念したように溜息を吐く。


「この間の魔物の襲撃の時に助けた女の子――フィスタがいるでしょう?」

「ああ、うん」

「あの子の依頼らしいのよ……。何でも彼女の預けられた孤児院の年下の子が重病らしくて」

「……そうか」


 正直なところシルトには関係のない話である。とはいえ、ロディアがこういった義理に誠実すぎるきらいがあるのは知っていた。ここまで理由が重なっていれば彼女が折れないのにも納得がいく。シルトは大きく溜息を吐いた。


「――よし、行こうか。ただし、ちょっとでも危なかったらすぐ引き返そう。いい?」

「いいわ」

「俺もそれで大丈夫だ」


 一応、書類上はパーティーリーダーとして登録されているシルトが言う。アルバも頷き、ロディアもほっとしたように胸を撫で下ろして、話は決まった。


「でも、今日じゃないほうがいいよね。もう遅いし」


 三人は揃って談話室から外を覗く。

 外は既に日も落ち始め、町並みに長くなった影が落ちている。今日はよく寝たほうがよさそうだ、とシルトは僅かに高鳴る胸を落ち着けるように深呼吸した。



 ◆◇――――◇◆



 翌日。授業と労働が休みの日であることを利用して、三人は朝から依頼に出ることにしていた。


「……一応【亀甲の盾】を持っていこうか」


 シルトは独り言を呟きながら大な楕円盾を取り出す。その名の通り、亀の甲羅――《牙皇亀(ファングトータス)》の甲羅だ――で作られた盾で、鉄よりも遥かに強い硬度を誇る。欠点として魔術に弱いというものがあるが、それもロディアに貰った屍魔道のコートのお陰で補填できる。

 そんな優れものをどうして今まで使っていなかったのかといえば、単純な話だ。

 重いからである。

 強い攻撃にも対応できるが、その分機動力が制限される。本来は慣れない迷宮にもって行くものではないのだが、《薬師狼ノ巣穴》の通路は狭いと聞いたため、今回に限ってはこれが有用であると彼は判断した。

 盾を腕に装着し、腰裏にアルバに貰った剣を差す。盾をはめた手をぐっ、ぐっ、と何度か握り、違和感がないか確認。次いで、腰の脇に下げた小物入れの中身を覗き込む。

 小瓶に入った回復用ポーションが五つ、マッチ一箱、焚き火用の魔術製着火剤。

 抜かりは無い。シルトは一つ頷いて部屋を出ようと歩き出し――足を止めた。


「そういえば……」


 アルバに貰った剣を腰に差しているが、しばらく使っていない。ふと思い出して、彼は腰裏に手をやった。硬質な、冷たい感触が掌をくすぐる。抜いてみると、僅かにくすんだ剣身がシルトの顔を映していた。

 表情が、少し硬い。

 緊張しているのかと、シルトは自嘲的に笑みを浮かべた。




 ――そして数時間後、《薬師狼ノ巣穴》の入り口。


「ここが……Bランクの迷宮か」


 初めてやってきた場所である。

 シルトはいつの間にかじっとりと掌に汗が噴き出していることに気付いた。拳を強く握ってそれをごまかし、足元に向きかけた視線を上向ける。


「……準備は大丈夫よね」

「うん、僕は問題ないよ」

「俺もだ」


 足を踏み出す。

 これから進むのは未知の領域だ。三人はぴりぴりとした緊張感を放ちながら、薬師狼ノ巣穴へと足を踏み入れた。途端、迷宮特有のかび臭さが鼻を突く。シルトはもう一度、拳を握った。

 外界と隔てられた迷宮は薄暗い。アルバが手早くランプに灯を点した。

 照らし出された壁を確認。やはり、比較的狭い。ずっしりと肩に負担をかける大盾をちらりと見やる。


 最初の魔物に遭遇したのは、それから五分程度進んだときだった。

 鋭利な爪。涎を滴らせる牙。白い毛並みはところどころ汚れ、獣臭い息を荒く吐き出す人型。常人の三倍近い巨体を持った魔物。

 戦狼(ウォーウルフ)である。

 第一階層の敵ながら、全身から立ち上る闘気は本物だ。これがBランクか。

 ――息を呑む。ざり、と床を靴が擦る音。


「ガァ――ッ!!」


 咆哮と共に、狼の特攻。互いの距離を、土煙が上がるほどの速度で詰める。亀の甲に、狼の巨躯が激突した。それを受け止めて、シルトは歯を噛み締めた。

 重い。

 或いは戦鬼(オーガ)に勝るとも劣らない衝撃。シルトは片足を引いて踏ん張る。


「ぉ――おッ!!」


 姿勢を低くし、全身の筋肉を躍動させる。

 そのまま力任せに、シルトは戦狼の上体を押し返した。


「《水よ》《我が魔力を糧に》《氷柱となり》《刺し貫け》《アイスニードル・トライデント》」


 ロディアの詠唱。シルトの真横に浮かぶように調整された三本の氷柱が発射され、狼の毛皮を貫通する。

 追い討ちに、シルトが盾ごと体当たりした。見事に顎に当たる。

 綺麗にカチ上げを決められた形の戦狼はぐらりと後傾した。

 とどめは例の如く、アルバの双撃。顎下から脳天に突き抜ける。血と脳漿に塗れた剣が戦狼の後頭部から突き出した。

 終わってみれば呆気ない。シルトは密かに溜息を吐いた。


「行き成りこんなに強いのか……」

「そうね。あんまり深くにまでは行きたくないわ」

「確かにな」


 三人は顔を見合わせてから、手早く戦闘の後片付けを行った。あまり時間をかけていては血の匂いを嗅ぎ付けた魔物に群がられてしまう。

 シルトは一度盾を外して下におき、肩を回した。ぽきりぽきりと骨が鳴る。

 見下ろした亀甲の盾には、飛び散った戦狼の返り血が点々と付着していた。アルバのほうを見れば、案の定というかなんというか、上半身は血染めである。

 ロディアがぶつぶつと詠唱して、直後にアルバの体に付いた血液が瞬く間に消え去った。


 すぐに再出発する。

 そして、四回ほどの戦闘の後、三人はフロアボスの部屋と思しき扉の前に到達していた。

 やはりBランク、今までの迷宮より数段装飾が派手な扉である。アルバがごんごん、と扉を叩いた。ノックしてるみたいだな、とシルトは暢気な感想を覚えた。


「Cランクの八階層くらいか」


 中のフロアボスの強さは、おおよそではあるが扉の造りのよさで判断できる。

 アルバが呟いた内容に、シルトとロディアはごくりと唾を飲み込んだ。Cランクの八階層といえば、この三人であれば危なげなく倒せるが――降りていった先が恐ろしい。最早何度目になるかわからないが、三人は迷宮のランクが上がるということの重要性を再認識した。


「それじゃあ、行こうか」


 ぎぃいい。

 重厚な音と共に、扉が内側へと開かれる。

 ――部屋の壁にかけられた明かりが、部屋を淡く照らす。


 最奥に、青い炎が一対――――殺意と共に、燃え上がる。


 シルトは盾の取手を握り締めた。



 ◆◇――――◇◆



 最初にそれ(、、)に気付いたのは、先頭を歩いていたシルトだった。

 三階層でのことである。


「――二人とも、止まるよ」


 視界の先に、大量の魔物が群がっているのが見えた。左手で後ろの二人を制止しつつ、彼は目を凝らしてその集団の中心を見つめる。

 ――あれは……なんだろうか。

 最初はカボチャか何かかと思った。次いで冒険者が残した魔物の死体か、と思い直した。

 流石にカボチャというのは冗談にしてもセンスがない。

 ――しかし、魔物でもない。

 魔物にしては随分小さい。ところどころ硬質なものがあるように見えるのは、甲殻の類だろうかとも思ったが、つくりが鋭角的過ぎる気がした。

 目が遠くのものに慣れてくるまで、数秒。

 それが経過したとき、シルトは自然と歯を食いしばっていた。


「アルバ、ロディア……。あの数、倒せる?」

「なんだ?」

「あの魔物の中心にいるの、人だよ。――――多分、もう死んでる」

「……」


 沈黙。シルトが目線を後ろに向けると、二人は揃って頷いた。

 アルバが剣を抜いた音が、高く響いた。



 ――十五分後。そこには、あちこちに倒れ臥した魔物と、肩で息をする三人が居た。


「……終わった、よね……?」

「そうだな」


 シルトとアルバが会話する横で、ロディアが先ほどまで魔物達に群がられていた人間の近くに歩み寄って行った。

 そこにあるのは既に半ばまで食い荒らされ、原型を留めていない死体だけだった。

 彼女は己の手が汚れるのも気にせずそれらをひとところに集める。

 残る二人もそれを手伝った。

 並べられたそれらは、既に性別の認識すら出来なかったが、辛うじて人数ばかりは数えることが出来た。

 あわせて十人。十人もの人間が、ここで絶命していたのである。

 ――今までにも、こういった事態に遭遇したことは何度もあった。それこそ、ついこの間の迷宮の崩壊を原因とした王都襲撃による犠牲など、この比ではない数だ。

 それでも、慣れることの出来るものではない。


 杖を掲げたロディアを、アルバがそっと制止した。そして、右手を挙げて死体に向ける。


「《火よ》《我が魔力を糧に》《燃え上がれ》《フレアウィンド》」


 掌から出て行った炎が死体に燃え移る。弱い火力で長い時間をかけて燃やすのだ。

 脂が焼けるべったりとした臭いが、彼らの鼻をついた。

 三人は燃え続ける炎に背を向けて、ゆっくりと歩き出した。



 ――今回の納品物である《万薬草の根》は、情報によれば七階層に群生地があるという。

 シルト達一行は多少の苦戦は多々あれども、大きな怪我もなく六階層へと到達していた。現時点で、シルトの腰の小物入れの中の回復ポーションは二つになっていた。

 ロディアもアルバもそれぞれが疲労を表情に滲ませている。ここに来て顔を覗かせ始めた不安を自覚して、シルトは頬の内側を軽く噛んだ。


 そして、遂に第六階層のフロアボスの扉に到達した。

 少しずつ絢爛さを増していった扉は既に瀟洒というレベルを超え、何か奇妙なオブジェのようになっていた。一体誰がこのようなものを作り出しているのか、詳しいことはわかっていない。

 毎回行っている小休憩を挟む。ロディアの魔力を回復させ、アルバが剣を研いで、シルトは盾についている血を拭き取る。

 十分ほどの休憩の後、彼らは立ち上がった。


「それじゃあ行こうか」

「そうだな」

「もうすぐね。……疲れはしたけど、案外なんとかなるものなのね」

「ロディア、油断は禁物だよ」


 シルトが嗜める。ロディアは素直に頭を下げた。


「ごめんなさい。――フィスタのためにも、早く達成しないとよね」

「そうだな。病人も待ってる」

「帰ったら、孤児院にお見舞いに行きましょう」

「……随分フィスタにご執心なんだな、ロディア」


 珍しくアルバが茶化した。ロディアがそっぽを向く。

 図星を突かれて照れているのだろう。シルトも小さく笑った。


「う、うるさいわね。病気の子のお見舞いに行くだけよ」

「フィスタの顔を見がてら、だろ。見ず知らずの病人の見舞いをする義理もないだろうに」

「う……」


 黙りこんだロディアに、シルトとアルバは揃って噴出す。赤くなった顔でこちらを睨んできた。


「いいでしょ別に。情が湧いちゃったんだから」

「そうだな。ロディアらしくていいと思うぞ」


 情に脆いのは美徳だ。


 ひとしきり歓談した後、緊張感を取り戻して深呼吸。

 今度こそボスの部屋の扉を押し開け――


「……な、んだ?」


 アルバの呟きが部屋の臭いと混ざっていった。紛れもない、血の臭いである。

 三人が視線を向けた先、部屋の中央に仰臥しているのは黒い巨体。

 天を衝く角を持った漆黒の牛である。


 《混沌牛頭鬼(アビス・タウロス)


 間違いなく、ボス級。学園の教科書にも載っている、有名な魔物である。この部屋のボスであることは間違いないだろう。

 ――それが、死んでいる。

 目を凝らす彼らが見つけたのは、その前に佇む人影だった。


 見たところ、人間だ。背は、低い。冒険者なのは間違いないだろうが、それにしても小さい。

 と、いうか――


「子供……?」

 

 代表された呟きはシルトのものだった。

 子供――それも、学園に入れるか入れないかという程度の幼さ。それが、その手に長い剣を持って立っているのだ。それも、ボス級の魔物の死体の前で。

 一体どういうことなのか。

 それが分かる前に、少年がシルト達に気付いて顔を向けた。


「……こんにちは、はじめまして」

「え、ええ。こんにちは」


 微笑を浮かべる少年のあっけらかんとした挨拶に、ロディアがどもりながら返した。

 人形のように整った顔立ちをした少年である。


「ごめんなさい。タイミングが悪かったみたいね」


 言外にもう少し早く――或いは遅くに来るべきだったか、と言う。

 魔物というのは魔力によって強化された生物だ。それらは一度死んでも、迷宮内であれば一度魔力として核に取り込まれた後で復活する。

 だからこそロディアは少年を手伝うべきだったか、或いは復活を待つべきだったかと訪ねたのだが、彼の反応を実にあっさりしたものだった。


「ああ、いやいや。全然大丈夫だよ。むしろボクのほうがなんだか横取りしちゃうみたいで」

「横取り? ……いえ、そんなことないわ。悪いんだけど、一緒に下に降りさせてもらっていい?」

「うん、大丈夫だよ。――ああ、そうだ。ボクの名前はヴァイス。よろしくね、お姉さんたち」

「ロディアよ」

「僕はシルト」

「アルバだ」


 自己紹介を終えて、少年改めヴァイスは話を戻した。


「さて、それでボクと一緒に下りるっていう話だけど、全然大丈夫だよ。三人だしね」

「……ええ。でも、人数は何か関係ある?」


 ロディアは訝しげに眉を顰めた。


「ん、いやいや、全然? 三人だったら関係ないさ」


 いや関係してるだろう。三人の内心が一致した。

 つくづく謎な少年である。


「まあ……いいんなら、ご一緒させてもらおうか」


 シルトが言って、三人は歩を進める。

 そして、彼我の距離がおよそ十歩程度になった時。


「……っ!?」


 ヴァイスは急に目を見開いた。何事か、と三人は揃って後ろを振り返るが、そこには何もない。視線を戻して彼を見る。彼はしかし反応を示さず、三人を――否、シルトを凝視したまま動かない。

 数秒の硬直。

 そして、唐突に鈴が転がるように笑い始めた。


「あっは! ははっ、ははははは!」


 唐突な哄笑。唖然として立ち尽くすシルト達を前に、彼はしばし腹を抱えて笑い続けた。

 ひとしきり笑った後で、ヴァイスは目尻を拭って口を開く。


「ごめんね、急に笑っちゃって。大したことじゃないんだ。――でも、貴方……いや、シルトだっけ、いいね」

「は……?」


 急に話を振られたシルトは困惑した。彼は一体何を言っているのか。


「うーん……そうだね、決めた! 貴重な十人目だけど、シルトさんの為だからね! ……ロディアさんがいいかな!」


 何を言っているのか。シルト達の疑念が懐疑に変わっていく。


 そして、彼はすたすたと歩いてきた。

 十歩ほどの短い距離を縮め、ロディアの前に立つ。


 そして。


 とん、という軽い音と共に。



 ――――ロディアの胸に、剣の柄が生えていた。

 


 

 

 


 



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