エピローグ
「……ボク、カワイイ?」
放課後、夕焼けで真っ赤に染まるいつもの路地裏。
角を曲がった瞬間に突如として飛び出してきた小柄な影——レツが、黒マスクをガバッと引き下げ、大きめに裂けた美しい口元と八重歯を露わにしながら、必死の顔で立ちはだかった。
黒髪ツインテールの先端を夕風になびかせ、ブカブカのアウターを羽ばたかせている。
あの日、初めて出会った時と全く同じ、都市伝説としての王道の威嚇。
だが、 黒マスクの上の大きな瞳はうるうると揺れており、耳の先までリンゴのように真っ赤に染まっていた。
「うん、めちゃくちゃ可愛いよ! いつ見ても完璧な顔面だね」
「即答するナッッ!!」
俺が満面の爽やかスマイルで即答すると、レツは地踏みを踏んで悔しそうに拳を握りしめた。
「ボクは都市伝説だぞッ! いつになったら恐怖の底に落ちるんだッ!」
「だって、本当に可愛いんだから仕方ないじゃん。ほら、今日もデート行こ。コンビニでおいしいパン買ってあげるから」
「デ、デート言うナ……! ボクはただ、オマエを追跡しているだけダ!」
ぶつぶつと文句を言いながらも、レツは逃げ出すことなく当たり前のように俺の隣に並んで歩き始めた。
ふと気がつけば、アウターの袖口から伸びた小さな手が、俺の制服の袖をキュッと控えめに掴んでいる。
「あ、袖掴んでる。やっぱり俺のこと好きでしょ?」
「オマエが急に逃げ出さないように拘束しているだけダッ!」
「はいはい、じゃあ手繋ぐ?」
「繋がナイッ!!」
真っ赤な顔で一瞬で袖を離し、タタタッと二、三歩先に走ってから振り返るレツ。
黒マスクを引っ張り上げ、ツインテールを揺らしながらこちらを睨みつけてくる。
「いいかニンゲン! ボクは絶対、オマエを恐怖で泣かせてみせるからナ!」
「うん、楽しみにしてるよ」
俺は笑って、夕日を浴びながら歩く愛しい怪異の背中を追いかけた。
種族が違っても、寿命が違っても、そんなことはどうだっていい。
俺の命がある限り、何度だって「愛してる」の言葉を伝え続けるだけだ。
照れ隠しに威嚇する可愛すぎる怪異と、どこまでもマイペースに愛を囁く俺の、ちょっとズレた都市伝説級の恋。
俺たちの賑やかで幸せな日常は、これからもずっと、ずっと続いていく。
「ねぇレツ、今日も最高に可愛いよ」
「ダカラ、怖ガレッテバ……ッ!」




