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第三部:『松永久秀編』 第2章:「旧三好領、火の洗礼」

三好長慶の首が顕如の座敷に置かれた夜、俺は次の戦の地図を描き始めていた。

四国は空白ではない。

阿波は長慶遺臣の牙城、讃岐は海商が税を牛耳り、土佐は山の民が掟を守る孤域。

火を点すにも順番がある。

最初の炎は恐怖を伴い、二度目は欲望を刺激し、最後は静かに喉を締める。

顕如の補給線と、“実験兵”という無音の刃。

この二つを背に、俺は旧三好領の最初の門を叩いた。

冬の朝、阿波・勝瑞城の石垣は霜に覆われ、光を鈍く返していた。

俺は城門に使者を送り、降伏を促す文を渡す。

だが返ってきたのは、酒気を帯びた侮り笑いと「松永ごときが」という嘲声だった。

(いい。言葉より火のほうが通じやすい相手だ)

その夜、港の倉庫に忍び込んだ俺の兵が、松脂を塗った矢を一斉に放った。

帆は破れ、油を吸った板は紅蓮に変わり、潮風に煽られて炎は夜空を喰う。

煙が港町を覆い、鐘が乱打され、城門がざわつく。

背後で太鼓が轟き、門番が動揺して鎖を外した瞬間、“実験兵”が無音で滑り込み、見張りを喉元から落とす。


城内は混乱していた。

火事場から逃げてきた民の悲鳴、命令を待つ兵の声、そして鈴の音。

俺はその合図で突入し、篠原自遁を寝所で仕留めた。

首を提げ、翌朝には阿波沿岸部が俺のものとなった。

顕如の船はすぐさま港に入り、兵糧と銀が俺の陣に流れ込む。


次は讃岐。

この地は戦より金が物を言う。

海商たちは海路の税で諸侯を揺さぶり、城をも左右してきた。

俺は彼らの頭領と会い、賭場と女宿の利権を譲る代わりに税を廃止した。

海商は即座に航路を俺の港へ切り替え、補給を断たれた讃岐の城は一滴の血も流さずに開城した。


最後は土佐。

海から遠く、山の民は誇りと掟を鎧のように纏っている。

正面から攻めれば損害は必至。

俺は山間の水源に間者を送り、夏の盛りに水を止めさせた。

干上がった村が城に救いを求め、城門が開いた瞬間、俺は静かに中へ入った。戦わずして土佐は落ちた。


阿波、讃岐、土佐、火と銀と水で三つの要を制し、残るは伊予。

孤立無援のその地は、村上海賊衆の動き次第で落ちる。

(あと一歩だ。盤はほぼ返った。次は海の鎖を解く番だ)

三好長慶の首が顕如の座敷に置かれた夜、俺は次の戦の地図を描き始めていた。

四国は空白ではない。

阿波は長慶遺臣の牙城、讃岐は海商が税を牛耳り、土佐は山の民が掟を守る孤域。

火を点すにも順番がある。

最初の炎は恐怖を伴い、二度目は欲望を刺激し、最後は静かに喉を締める。

顕如の補給線と、“実験兵”という無音の刃。

この二つを背に、俺は旧三好領の最初の門を叩いた。

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