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限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです  作者: 釈 余白(しやく)
第九章 師走(十二月)

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232.十二月二十七日 朝 鈍感と奥手と

 八早月は当主を継いだ時から自分の未来を確定的に考え、達観的に見つめながら家系存続のみを考えてきた。もちろん自分の意思が介在する余地がないなどと言うことはなく当主の自由恋愛はそれこそ自由である。


 しかし周囲には同年代の他人がおらず、同じような考えしか持っていない親類縁者のみの環境で育ったせいもあり、婚姻と言うものは家系を守るための決め事であるとの考えが主流なのだ。


 それがこの変化である。八早月が(わっぱ)の頃から見守っている真宵が戸惑いながらも喜びを覚えるのも当然だろう。そしてその思考は望む望まないにかかわらず八早月へと伝わってしまう。


『真宵さんは心配し過ぎなのです、私だって思春期になればこれくらいのこと。

 そうですよ、当たり前のことで大したことではないはずです。

 現に役目を放り出すほど心揺さぶられているわけではないのですからね』


『左様でございますね、飛雄殿との交流も楽しみの一つということなのでしょう。

 ですが許嫁の件はどうされるおつもりですか? 話を進めるのですよね?

 私はむろん強く賛成いたしておりますのでご安心ください』


『そう言えばうっかりしていましたが、お母さまに伝えておりませんでした。

 当主としては問題なくとも未成年としては問題があったかもしれません。

 帰宅後にでも報告することにしましょうか』


『あの…… 先方の意思確認をされてからでも良いのではございませぬか?

 差し出がましいようですが、八早月様はどうも先走り過ぎる嫌いが……』


『そうかもしれません、焦っているわけではないのですが気が短いものですから。

 では後ほど飛雄さんへ確認することにしましょう、間もなくですよね?』


『はい、この山間の向こうのはず、すぐに見えてくるかと存じます。

 しかし突然の訪問ですから飛雄殿は相当に驚くでしょうね』


『どんな顔をされるのか、今から楽しみです、ふふふ』


 真宵の言葉通り、ほどなくして山間の里が見えてきた。いよいよ小山町に到着である。通り過ぎようとしている里山の山頂付近には以前学校行事で訪れたドライブインが見えた。


 飛雄と零愛が通う浪西高校も目と鼻の先であり、他に大きな建物が多く無いため一目でわかるほど目立って建っている。八早月と真宵はその場所に近く、人目に付かなそうな場所を探して降り立った。


「真宵さんの背から降りると結構冷えますね、しかしずっとしがみついているわけには行きません」


「上着をお持ちになっているのですから無理せず羽織ってくださいませ。

 薄着でいるだけでも飛雄殿へ不要な心配をおかけしてしまうでしょう」


「それはもっともね、驚かせようと黙ってやって来たと言うのにいけません。

 でももし突然来て邪魔だなんて言われたらどうしましょう。

 その時には大人しく引き下がるのですよね?」


「無論です、決して言い返したりやりこめたりしてはなりませぬよ?

 殿方の尊厳を踏みにじる行為が恋路の邪魔になることくらい私でも知っております」


「わかりました、きちんと頭の中へ留めおいておきましょう。

 ではここからは一人で参りますから三人とも冷やかさないで下さいね?

 特に藻さんはすぐにいらぬことを言いだしますから困るのです!」


「主様、その行為も忠誠の一つにございますよ? お幸せを願っておるのです。

 決して鳶の君を離さぬよう、きっと将来にわたって愛してくださいましょう」


 幸せだの将来だのと言われた八早月は少し恥ずかしくなり、両手の指を付けたり離したりしてうつむいている。なんだかんだ言っても、自分よりもはるかに長く生きている藻や巳女の言うことはもっともらしいと考えてしまうのだ。


 だが今の発言には全く根拠はなかった。適当と言うと語弊があるが、主の幸せを願い唱えた言霊のようなものである。所詮色恋の行方なぞ二人の気持ち次第なのだから、当人たちが強く願い続ければ希望は叶うであろう。


 その希望実現のためには、鈍すぎる八早月と奥手な飛雄のどちらかをけしかけることが手っ取り早い。普段ならいつも一緒に居る世話焼きの学友に任せておけばいいが、こうして共にいない時は自分がその役目を買って出るのが適任だろうと、それこそ余計なことを考えている藻なのである。


 こうして浪西高校までやって来た八早月は、野球部の練習開始に合わせ飛雄がやってくるのをグラウンドの外で待つことにした。時間は七時を回ったところなので間もなくやってくるはず、それまでは不足分の鍛錬をしておこうと持参した木刀で素振りを始めた。


◇◇◇


 そんな健気な少女にとっての待ち人である高岳飛雄は、自転車を飛ばし学校へ向かっている途中であり急いでいた。なにせ八早月と話しているときには会話を聞き逃せないと速度を緩めており、通話を終えてから速度を上げ、練習開始時間に間に合わせると言うのがいつものルーティンなのだ。


 だが飛雄はこのまままっすぐ向かうことにためらいを覚えていた。


『万一のことがあっても困るし、念のため姉ちゃんへ連絡しておくとするか。

 天気はいいから大雨大風土砂災害の心配はないはず、あとはなんだろう。

 これから大雪になるなんて考えられねえし、雷ってこともないよなあ』


 これほど警戒しているのにはちゃんと訳がある。ついさっき、自転車を飛ばしていて気付くのが遅くなったが、ここらでは今まで感じたことの無いほど強大な妖の気配を察知したのだ。しかししばらくすると消えてしまった。


 どうやら県外方面から進んできたようだが、学校のある小山町へ入った辺りで気配が途絶えてしまった。飛んできただけで消え去るなど考えづらく、状況から推察するとどこかに潜んだのだと思われる。


 飛雄たちでは歯が立ちそうな気配では無かったので何もできないが、周辺の御神子(みかんこ)が来てくれるのだろうか。高岳家として近隣の神職や神社との付き合いがないのでその辺りの事情はさっぱりわからない。


 考え抜いたた末、いったん自転車を止め姉の零愛へと状況連絡をしておいた。だが零愛はきっとまだ寝ているだろう。それから自身の遣いである神翼(かんばね)金鵄(きんし)へ命じて浪西学園周辺を見に行かせることにする。


 最低限の準備と対策を行ってから再び自転車を走らせ、学校手前最後の坂道を登って行く。だが坂を上り終えるよりも早く、事態の急変を感じ取る破目になった。


◇◇◇


「あら? あれは飛雄さんの遣いね、話を伝えることくらい出来るのかしら。

 真宵さん、あの子を捕まえて来てくれますか? 念話が使えるか試したいの」


「かしこまりました、すぐに捕らえて参ります」


 真宵は一瞬で上空へ移動すると金鵄を抱えて八早月の元へと戻ってきた。金鵄は警戒している様子ではあるが、力の差が歴然としているため抵抗せずに大人しくしている。


「ねえあなた? 飛雄さんと念話はできるの?

 もしできるのならどれくらい離れていても可能かのかしら」


 だが金鵄はうんともすんとも言わず、首を細かく動かすだけだ。


「八早月様? この遣いは口が利けないので念話も出来ぬのではありませんか?

 覚醒前の藻孤もそうであったように、獣の妖は主以外と意思疎通できぬかと。

 もしかしたら視界共有が出来るかもしれませんが、移動中ならそれも困難でしょう」


「それもそうね、まあでもここへ来てもらった甲斐はあったみたい。

 ふふ、いい子だったわね、ありがとう、お帰りなさいな」


 八早月に撫でられてから真宵の手より開放された金鵄は、すぐそばまで来ていた主の元へと飛んで行き、その背中へとしがみついた。


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