233.十二月二十七日 朝 早朝の逢瀬
「な、なんでこんなところに八早月がいるんだ? 本物か? 幻術とか?
と言うことはもしかしてさっきのデッカイ気配って妖じゃなくって……」
「真宵さんの気配を察知していたのですか? もう近くだったのですね。
そう言えば金鵄がやってくるまでもそれほど時間は間いていませんでした。
金鵄を通じて飛雄さんとお話しできるのかと試しましたが出来ないようですね」
「それでこんなに怯えちゃってるのか……
真宵さんとは比べ物にならないんだからいじめないでくれよ?」
「そんな! いじめてなどいません、少しお話しようと思っただけで――」
「八早月様いけません、飛雄殿、大変失礼いたしました、以後気を付けます。
一つお尋ねしたいのですが、主との視界共有は出来ないのでしょうか?」
八早月は飛雄へ言い返そうとしたところを真宵に制止され不満げではあるが、あのままだったら険悪な雰囲気になっていたかもしれないと自分を納得させていた。そんな真宵はうまく話題を変えようと視界共有の話を持ちだす。
「謝ってもらうほどの事ではないが、わかってもらえたならよかった。
視界共有と言うのは金鵄の視界をオレも見えるってこと?
そんなこと出来るなんて考えたこともなかったけど、普通にできるもん?」
「感覚的に感じられないなら出来ないのかと。
後天的に出来るようになるものかどうか私にはわかりませぬ。
遣わした神格へ繋ぎを付けられればあるいは」
「八早月にとっての八岐大蛇のようなってことだろ? それは無理だなぁ。
ウチらは産まれた時に授かるだけで由来とか全然分からないんだよ」
名前を出されようやく出番がやって来たと機嫌を良くした八早月は、無意識で飛雄に良いところを見せたいと考えたのか自信満々に語りだした。
「そう言えばおっしゃっていましたね、管理している祠が鍵かもしれません。
確か八咫烏の主神は天照大御神のはずですが金鵄は史実上不明のはず。
ただし取っ掛りがない状態からの調査は相当大変でしょうね。
まずは地域の古文書を探すこと、史跡を巡ることから始めるのがよろしいかと」
「まあ困ってないから今のままで構わないけどな。強くなるなら別だけどさ。
真宵さんは最初からそんなに強かったのか?」
「いいえ、そんなことは有りませんが呼士は自分で強くはなれません。
おそらく金鵄たち神翼も同様ではないかと考えております。
ではどうすれば良いのかと思うでしょうがやることは一つ、自身を鍛えることです」
「なるほど、と言うことはやはり武術をやらないといけないってことなのか。
野球の練習と両立はかなり厳しい道になりそうだなあ」
「鍛錬の方法は武術だけではないので野球の練習と両立する方法もあるはずです。
同じとは限りませんが私たちの一族は自然と同化することを是とします。
ですので飛雄さんが海で泳いだり魚を獲ったりするのは効果があるでしょう。
ただしそれだけでは十分とは言えないですし、冬は海へも入れませんよね?
まずは手軽に出来ることを少しずつ取り入れていくのがよろしいかと」
「オレでも手軽にできることがあるのかな? 正直ピンと来てないんだよ。
田舎だから十分自然の中で生活してるとは思うけど、八早月の家を見ちゃうとなあ」
「あ、やはり八畑村は相当田舎なのですね? まあわかってはいましたが……
でも大丈夫です、この練習場では効果が薄そうですが、幸い山林があります。
そう言った場所で裸足になって山歩きをしたり、日向ぼっこをするとか。
疑われるかもしれませんが、まずはそれくらいからでいいのですよ?
遣いが鳥ですから木登りや木の上で昼寝も良さそうです、簡単そうでしょう?」
「うーん、難しくはないと思うけどその程度でいいって言うのが意外だったな。
それじゃオレが姉ちゃんより弱いのは知らずに差がついてるってことか。
大して変わらない生活してると思うんだけど、アイツは冬でも海行くからかもしれん」
「冬の海に入るのですか!? 凍えてしまうではありませんか。
まさか温泉が湧いているとかそう言うことなのですか?」
「違う違う、マジもんの海で水温五度とかそんなもんかな。
海女って知ってるか? 海へ潜って貝とかウニとか獲る仕事のことさ。
アイツはこのクソ寒い季節でも週に数回はそのバイトしてるんだよ」
「話を聞くだけで寒くなってきます、動くのをやめるとさすがに冷えますね。
飛雄さんはこれから練習なのですよね? 少しだけ見学したら帰ります。
邪魔にはなりたくないですから」
八早月は本心を述べただけでいじけたわけでもしょぼくれたわけでもない。しかし飛雄はそう受け取らなかったらしく、どうにか気を使いたいようである。
「せっかく来たのにもう帰る話か? ゆっくりして行けばいいじゃないか。
寒いならベンチのところで火を焚くからそっちで待てばいいだろ?
それともやっぱり野球には興味持てないか? 見てるだけだと退屈とか?
もしかして一緒に練習したいのか? 他のやつらに気兼ねしてるのか?
練習が終わったらうちへ寄って夕飯でも食べていく時間とか無いのか?
姉ちゃんには連絡してないのか? 朝はまだ寝てたからメッセは未読だろ?
というかそもそもいつどうやってここまで来たんだ?」
「そんな矢継ぎ早に質問されてもいっぺんにお答えできないわ。
帰ると言っても今すぐでは無くて練習が一段落したころと言う意味よ?
長居して皆さんにご迷惑がかかり飛雄さんが責められたら困るもの。
それにご自宅へは許嫁の件がはっきりするまで行かれないわ。
飛雄さんの気持ちを確認せずに私が一方的に押し付けてしまったでしょう?
それについても謝りたくて早起きして走って来たのよ」
「走って!? いったい何キロあると思ってるんだよ! ありえねえ……
いや、巫の力で何とかなるのかもしれないけど普通やらないだろ。
あとその…… あの件はさ…… 俺は嬉しいんだけど家族が戸惑ってて……
どうやって返事をしたらいいのかわからないって言ってるんだよなあ。
オレからは言いにくいことなんだけどさ、頼りなくて心配だからって……」
「そうなのですか…… やはり私のような弱輩者には長男をやれないと。
話を持ちかけるにはまだ早かったのかもしれません」
「いや違うんだよ、八早月のとこって凄い神職の一族じゃないか。
そこへオレ程度のもんを婿養子に行かせたら後々遺恨にでもなりゃしないか。
将来両一族が険悪になり高岳家は潰されるんじゃないかとか言ってるよ」
そんなことを聞かされた八早月は、今まで全く考えたことの無かった発想に戸惑いながらも驚きを隠せない。その様子を見た飛雄は、もしかしたら八早月が憤慨するかもなどと考えていたので少しホッとした。




