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限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです  作者: 釈 余白(しやく)
第九章 師走(十二月)

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226.十二月二十二日 昼下がり 雪女の誘惑

 昨晩大食い大騒ぎしすぎたこともあって、朝食を抜いていた八早月たち。それでも昼になれば当たり前のように空腹感を覚えしっかりと昼食を取った。今日は八早月が(かね)てから頼んでいた鶏肉団子入りのけんちん汁で、綾乃に味見してもらい自分の家の味に迫っているか聞きたかったのだ。


 それもどうやら問題なく全員がおかわりするくらい好評で、作った玉枝も満足そうな笑顔でどんどんとよそってくれる。八早月にしてみればこれですいとんが出なくなればしめたものだ。


 だが今度はまた食べ過ぎたと言う話になり、少しくらい体を動かそうと散歩へ出かけることとなった。ちなみに八早月はいつもと変わらず朝の鍛錬で五時に起き、朝から部活へ出かける飛雄と話をして送り出した後に二度寝をしている。


「風は冷たいけどそれほど寒くはないね、この褞袍(どてら)って重いけど温かいなあ。

 本当は部屋着だからはしたない(・・・・・)のかもしれないけどアタシ気にいっちゃった」


「そう言えばうちにも似たようなのあったけど、あれって袢纏(はんてん)だった気がする。

 丈がこんくらいで短いやつね」


「それってちゃんちゃんこじゃない? 小さい頃着せられてた記憶あるよ。

 従兄と忍者ごっごして破っちゃったとき凄い怒られたのも思い出すけど……」


 綾乃と夢路が身振り手振りをしながら話し合っているが、どれにも縁が無かった美晴には新鮮だったらしい。出てくるときも一人だけ羽織ったままで、先頭をご機嫌で歩いている。八早月はその様子を後ろから眺めながら、町から来ている美晴と言えど、見慣れた褞袍を着ている姿は田舎娘に見えると微笑んでいた。


 そんなのんきな一行だったが、山道は危険が潜んでいることを八早月は忘れてない。きちんと辺りに目を配り気配を探りながら進んでおり、さらには少し前を真宵が先行して気を配っているのだ。


 その真宵が前方の微弱な気配に気が付いた。同時に気付いた八早月も警戒を高めるが妖にしては力が弱すぎる。かと言って油断をすることはないが、思い当たる種を頭の中から引き出そうと考えを巡らせていた。


 一番近いのは自然神だが、人がこれほど近づいているのに逃げる気配がなくまったく動きをみせないのは不自然だ。更に近づくとようやく姿が見えてきた。それを見て先頭を歩いていた美晴が声を上げ走り出してしまった。


「ちょっと!? 大丈夫ですか!? こんな雪の上にしゃがんでいたら風邪引いちゃいますよ!」


「美晴さん、近寄ってはいけません!」


 八早月が制止しようとそう言ったか言わないうちに、美晴の体は見えない壁にぶつかったように行く手を遮られる。驚き戸惑う美晴だったが八早月は息を吐き出しながら落ち着いている様子だ。


「真宵さんありがとうございます、間に合ってよかった。

 美晴さん、あれは妖ですよ、いわゆる妖怪の(たぐい)で雪女と呼ばれる存在です。

 女には無害で悪意も無いようですが、冬には自然発生するのが困りものですね」


「じゃあこんなところで何をしているの? まさかこんな山奥で通りがかる人を待ってるんじゃないよね?」


「恐らくはそのまさかかと、昔は人里に現れたのですが自然が減りましたからね。

 積雪と共に自然発生するのは間違いありませんが、雪だけでは産まれません。

 現代では山の中くらいでしか見かけないので、恐らく自然環境が必要なのかと」


「でもさ、私たちにも普通に見えるってことは力が強いってこと? それとも雪女ってそう言う物なの?」


「見えなければ一般男性を(かどわかす)ことができませんからね。

 力が弱くとも姿の見える妖は他にも色々といるのですよ?

 座敷童なら家人には見えますし、煤虫(すすむし)なんてそこらじゅうにいるわよ?」


「えー、虫の妖がそこらじゅうにいるの!? なんかやだぁ……

 そんな覚え全然ないけどアタシも見てるのかなぁ」


「部屋の角や窓辺を見た時に何となく影のようなものが見えることないかしら?

 なんだろうと見直すと消えていて気のせいだと感じるような体験、あれよ」


「それはあるかもしれない、教室の隅っことか天井のとこが汚れてるみたいな?

 もっかい見るとなんともないって感じのやつでしょ?」


「うんうん、私も見たことあるってことになるね、授業中に寝ぼけてるのかと思ったけど、あれって妖なのかぁ」


「夢の場合は白昼夢でも見てるんじゃないの? 頭の中ピンクだからさ。

 むしろ夢自体が妖かもよ? 枕元で夜な夜な妄想を語るとかさ」


「ひっどー、じゃあハルはなんでも筋肉で解決しようとする妖ね?

 涼君と二人で夫婦妖怪だー」


 美晴と夢路が小学生のような争いを始めてしまったのだが、美晴が盛大にくしゃみをした。どうやら足を止めていたので体が冷えてしまったらしい。


「ほらほら、いつまでもじっとしていたら体が冷えてまた喘息が出てしまうわよ?

 そろそろ戻りましょう、なにか温かいものを飲んで休んだ方が良さそうね」


「あの雪女はどうするの? 退治しなくて平気?」


「そうね、誰も通らないとは思うけど放っておくのも良くないかもしれない。

 試しに綾乃さんに退治してもらおうかしら、モコでも充分倒せるでしょ?」


「ええっ!? 私がやるの? 術とかなにも使えないんだよ?

 モコ? 出来ると思う?」


「はあ? 俺様をなんだと思ってるんだ、(あるじ)のくせに情けないこと言うなよ。

 あれっぽっちの力しかない妖なんて屁でもないに決まってんだろ!」


「モコが出来ると言うのだから大丈夫、彼は自分と相手の力を比較できるのよ?

 だから綾乃さんはモコを信じて命じるだけでいいの。

 術は扉を閉じるときには必要になるけれど、今は無いから問題ないわね。

 美晴さんと夢路さんはこちらへ来て(みい)さんに力を貸りましょうか」


 八早月の指示で二人は巳女の分身となり、雪女に対峙しているモコが見えるようになる。こうしている間にも本体の肉体は冷えてしまうので、真宵が二人を包み外界(がいかい)の影響下から切り離しておいた。


 完了の合図を待って綾乃が改めてモコへ討伐を命ずると、子狐は頭の先から尻尾の先までの毛を逆立てながら雪女へと向かっていった。いつもは可愛らしいだけの存在なのだが、さすがに本気を出しているとちゃんと(・・・・)神使(しんし)らしく見えるものである。


 その立派な立ち振る舞いに、綾乃だけでなく美晴も夢路もモコがどうやって戦うのか期待が膨らみワクワクしながら生末を見守っている。しかし雪女はまったくの無抵抗でモコの突進を受け霧散してしまい三人ともガッカリしたのだった。


「なんか拍子抜けしちゃった、それともモコが強すぎたのかな?」


「そうだろ? 主もわかるようになってきたじゃないか、ほれ、褒めていいぞ?」


 その言葉遣いとはそぐわず、綾乃のそばまでトコトコと歩いて来て体を擦り付けるように甘えると、綾乃はすかさず抱きかかえた。


「よーし、いい子いい子、ちゃんとお役目が出来て偉いね。これからもがんばるんだよー」


「ホント主は当たり前のことしか言えねえんだから参っちゃうよ。

 俺の強さがわかったならこれからもちゃんと撫でろよな」


 口の悪さだけは日本一かもしれない、綾乃はそんなことを考えながら、初めて目の当たりにした自らの遣いであるモコの活躍に目を細め、言われるがまま頭を撫でるのだった。


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