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十一 デート

あいりと心が通じ合ったその翌日、オレたちはプラネタリウムでデートをすることにした。陰陽師として暦や天文学を学ぶ時とは違い、純粋に何も考えず星空を楽しめるプラネタリウムは昔から好きだった。あいりも東京にくるたびに、プラネタリウムには必ずと言っていいほど訪れるくらい好きらしい。


いつも一つに結えている黒髪を、今日は下ろしていた。サラサラと風に揺れるたび、甘い香りがオレの鼻をくすぐる。無地のモスグリーンのワンピースは、身体に自然とフィットするようなデザインで、色っぽかった。



ーーー良かった。『鬼』はいねぇ。もしかして、もうあいりから離れたのか? あいりの顔色も元気そうだし、何も心配することはないのかもしれねぇな。


混雑した街の中を2人で歩く。スーツ姿の男性とすれ違うたび、オレももっとこんぐれぇの年齢だったら、あいりにもっと相応しかったのかな、なんて考えたりした。あいりは、「たくみはそのままでいいんよ。」と言ってくれるけど、オレは早く自立したかった。今は、親父の陰陽師の仕事の手伝いをして貰う小遣いぐれぇしかねぇから。




プラネタリウムは、夏休みということもあり家族連れが多かった。中は比較的涼しく、ずっと2人で手を繋いで、プラネタリウムの星空を眺めていた。3Dの立体的な映像と融合した星空は、迫力があり、圧巻だ。


この日のプログラムでは、平安時代と現代の星空とを比較する映像が流されていた。星の位置が長い悠久の時間をかけて変化したその姿に、心を揺さぶられるほど感動する。まだオレが小学生だった頃、夢中になって星空を見ていたあの時の感覚が甦ってきて、血が騒いだ。



ーーーオレはこれらの星空をよく知ってる。



そんな想いが自然と湧き上がってきた。書物の中で見たのか、実際に見たのか、記憶は曖昧だったが、とても”馴染みのある”美しい星空がスクリーンいっぱいに映し出されていた。時折、あいりがキュッと握ってる手に力を込めるので、隣を見ると嬉しそうにニコッと笑い、また目をキラキラさせて星空を見上げる。オレも握り返して、その手のぬくもりを感じながら星空を見上げた。





無数の星たちが煌めくこの光は、オレたちの元に届くまで、何百年、時には何千年もかかっていると言う。そしてようやく届いた光のカケラを、今オレたちは見ている。


ーーー大切な人と見たこの星空を一生忘れねぇ。気の遠くなるような時間をかけて届く”光”を、オレは見失いたくねぇ。そう強く思った。




プラネタリウムを出た後、ランチに出ようとまた混雑した道を2人で歩く。


「はぁー!! じょーとー!! しに綺麗だったー!!」


「ああ、アニメ映画かこっちか迷ったけど、プラネタリウムで良かったな。すげぇ綺麗だった!」


「だからよ!! ーーーふふっ、うちアニメのこと詳しくないからに、今度はたくみのオススメ教えて〜!!」


「オレのオススメは、SFばかりだけど、あいりが見ても面白そうなのあるかなぁ??」


道路のアスファルトに強い日差しが照り返し、ギラギラしている。プラネタリウムの中が薄暗かったせいか、異様に眩しくて見づらい。


「ママー早くー!!」


幼い男の声がのんびり歩くオレたちを追い越していった。母親の手を引っ張り、早く早くと急かしている。


可愛いな、と横目でうっすらとその男の子を見た時、あっ、という間もなく、スルリと男の子の手が母親の手から解けていった。


向かってくるタクシーの前で、男の子の足が止まる。本当にわずかな隙だった。間に合うか!? オレは男の子を助けようと、地面を蹴りタクシーの前に飛び出した。寸前で男の子を突き飛ばした瞬間、目の前に車が迫っていた。



ーーーオレ、学習してねぇな。また考えなしに飛び出しちまった。





!?


一瞬、視界が真っ黒になり、あいりに憑いていた『鬼』を見たかと思うと、オレは腹に強い衝撃を受け倒れた。


車のクラクションのけたたましい音、急ブレーキの爆音の中、ドンッというもの凄い嫌な音が耳に入ってきた。








最初に目に入ってきた光景は、あいりが道路に血を流して倒れる姿。オレが無鉄砲にも飛び出たせいで、あいりはオレを助けようと、オレの腹を突き飛ばして自らが犠牲になった。一番大切な人を助けるどころか、オレが傷つけてどうする?


オレはフラフラと立ち上がり、あいりのそばに両膝をガクンッとついて座り込む。


「あ、あい・・・り?」

視界が涙で滲んだ。男の子の泣き喚く声、人々が集まってくる声、遠くから救急車のサイレンの音の洪水の中で、甘く優しい声だけが心の中に染み込んできた。


「泣・・・かないで、、、たく・・み、きみ・・は・・・うち・・の大・切な・・・。」


「あいりッ!ぅあああああああぁあああああああああ!!!」


喉が裂けるぐれぇに声を張り上げる。白く小さな手に指を絡めて握るが、感覚がねえ。オレの健康な身体を今すぐあいりと交換できねぇのかッ!! 陰陽師ならよ、今すぐオレの血をあいりにあげることはできねぇのか? 時間を巻き戻せねぇのかよ!


滲んだ視界の中で、目の前で救急隊員の人たちが、あいりを運んでいく様はまるで現実じゃねぇみたいだった。


不思議なことに、あいりに憑いていた『鬼』がそのままこの場に留まり、オレの全身を覆うのを感じた。黒でもない赤黒い色でもない、なぜかオレが持つインクの”蒼”と同じ色にその姿を変えていた。



ーーーあったけぇ。オレの細胞と同化していってるみてぇだ。



そしてそのまま、”蒼”の『鬼』に全身を包まれたまま、気が遠くなっていった。

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