レベル5 宿屋【施設】
レベル5 宿屋【施設】
前回の反省から「防具は実用性」という事でパーティの意思が統一された。
冒険の旅に出て以来、初めての一体感をチームに感じた。
そうだ、これからはパーティではなく、チームと呼ぼう。
そんな俺たちチームは近隣のモンスターを狩りつつ街を転々として行った。
いつもは安い民宿に泊まっていたが、ある程度まとまった金も溜まっているので、この街では『五つ星の最高級のホテルという宿屋』に泊まる事にした。
意を決して、中に入る。
ロビーからして雰囲気が違う。無駄に豪華な彫刻やツボが飾られている。あと、なんかいい匂いがする。
俺はツボを見かけたので、いつもの習慣でツボを手に取り割ろうと振りかぶったが、女戦士が力ずくで止めてきた。
「ここ、そういう場所じゃないから!」
釈然としなかったがしょうがなく、というか腕力的に逆らえずそれを止めた。
メンバーはこの高級な雰囲気に飲まれそうになるが、勇者一行としてここは負ける訳にはいかない。
フロントで名前と職業を記載するように求められた。
職業の欄に「勇者」と記載した。
「申し訳ありません、お客様、『勇者』というのはどういったご職業でしょうか?」
驚きを隠せなかった。
「知らないのか? 勇者を」
「はい、存じません。具体的に何をされているのでしょうか?」
「魔王を倒すのが我々の仕事だ」
「マオウを倒す、ですか。申し訳ありませんが、ちょっとイメージがわかないのですが」
「いや、もういい」
俺は面倒なので「自営業」と職業の欄を書き直した。
なんてこった、勇者を知らない人間がこの世界にいるとは。世も末だ。
「ではこちらが皆様のお部屋の鍵でございます。ボーイが部屋までご案内いたします」
すると後ろにいた男が俺の剣に手をかけてきた。
「何をする貴様!」
俺はその男に床に倒し、喉元に剣先を立てた。
「あ、あの、お客様の、お荷物を運ばせていただこうかと……」
「そうならそうと早く言え、物取りかと思って危なく殺すところだったぞ」
ボーイとフロントが少し青ざめている。
部屋に着いた。
ボーイが荷物を置いて、にこやかにこちらを見ている。
「?」
俺もにこやかに彼を見やった。
ボーイが再びニコッとする。
俺もニコッとする。
この不毛なやりとりが数分続いた後、ボーイは残念そうな顔をして部屋を後にした。
後で仲間に聞いたところ「チップ」という文化があるらしい。
どうやらあのボーイはチップ待ちだったようだ。
何ということだ、天下の勇者たるものが、とんだ失態だ。きっと田舎者のオノボリさんだと思われたに違いない。
俺は慌ててさっきのボーイを探して、「チップだ」とポケットの中の金を渡した。
「! お客様、こんなにはいただけません!」
「問題ない、俺は勇者だからな」
部屋に戻って確認するとチップとして渡したはずの金額がポケットに残っていた。
「?」
「あ!!」
俺はチップ用に入れた反対のポケットの有り金全部を取り違えて渡したらしい。
「なんてこった……。見栄なんてはるものじゃなかった……」
金を失った俺は、高級ホテルで満足なサービスを楽しむ余裕など全くなかった。




