第31話〜神さまの受難
ほんと、上は好き勝手に言ってくれます。
◇???◇
はぁやれやれ、そうため息混じりに呟いたのは、女性とも男性とも取れる美しい相貌をした存在だった。
実際その存在には性別などはないし、相対する存在によって男性にも女性にもなる。
彼女、もしくは彼は神とも女神とも称されるし、実際立ち位置としては当たらず共遠からずといった存在でもある。
世界間の転生を司る管理者の一人。
それが彼(彼女)の仕事であり存在理由。
しかしだからといって彼(彼女)にも意思があり、当然ながら全知全能の存在ではない。
仕事には使命感があり、充実した毎日を過ごしていると言える。
しかし死者は毎日のように訪れるし、そもそも転生は善悪の区別なく最終的に輪廻の輪に戻す作業である。
同じ世界だけならばまだしも、世界間の魂のやり取りすらも彼(彼女)の領分なので休む暇などない。
他にも転生を司る管理者はいるが、それでも作業量に変化はない。
彼(彼女)の魂を導く作業に終わりはない。
…………。
どうも最近は異なる世界間での魂のやり取りが多く、さらには担当の管理者が変わってからはやれ特殊な力や才能を付けて転生させろだの、記憶を持ったまま貴族の子供にさせろだの、勇者として召喚させるから成長率を変えておけだの、他にも要望は多い。
それと同時並行に普通の転生作業もしていくわけだから、いくら神に等しい存在である世界の管理者であってもオーバーワーク気味だった。
突然の仕様の変更など日常茶飯事。
あの愉快犯とも言える管理者には正直物申したい所だ。
なぜ普通な魂に世界を変えられるだけの力を与えたり、運命を切り開く力を備えさせる必要があるのか。
全くもって管轄外の事柄まで詰め込まれるので、他の管理者や部署との調整だけでまさに目も回る忙しさ。
あくまで転生を司る管理者なので、それ以外の役割、仕事は本当に勘弁して欲しい。
最近は神も下界の民の形成する社会とやることが大差なくなってきたのではなかろうか。
睡眠などを必要としないので昼夜問わず延々と働かなくてはならないので、むしろ…。
そこまで考えて彼(彼女)は考えるのをやめた。
…………。
忙しかった転生の作業がひと段落した。
ふと思い出したのは鳥になりたいと願ったまだ若い人の子のことだった。
よくある案件で、特に変わっていたわけでもなく、なぜ思い出したのか不思議になる。
可もなく不可もなし。
しかし生まれと育ちがマイナスに触れていたのと、近くに特異点がいたため、少しだけ特殊だったかもしれない。
誤差の範囲だったけれど。
バランスを取るために人として裕福かつ恵まれた生まれに転生させようとしたが、しかし願ったのが鳥への転生では釣り合わなかったので、多少の恩恵は与えたが…
「……………………んん?」
違和感が、あった。
すぐに解析にかかる。
転生の概念を司る管理者である自分がミスをすることはあり得ない。
しかしどうも見落としがあったようだ。
「これは……、なんて事だ!」
無理な仕様の変更、管轄外の調整、その他にも自らが司る管理者の権限外の所で、いわゆる予期せぬバクが発生していた。
本来ならば有り得ない、転生者の情報記載ミス。
地球で普通の野鳥に転生するはずの人の子が、なぜか異世界に転生していた。
異世界召喚勇者の情報を上書き、というか混同された状態で。
すでに問題なく可決され、実行されている。
最終的な許可を出しているのは、あの愉快犯な上位管理者。
これでは今更自分の権限では取り消す事はできない。
「嗚呼、なんてことだ…」
勇者並みの才能、成長率、特殊能力、補正、さらにはそれに記憶を持ったままのチート性能での転生。
ただし小鳥。
転生を司る管理者は概念上の空を仰ぎ見ることしかできなかった。




