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星神様と眷属達  作者: キサラギ ソラ
第1章 神殺し
4/30

1ー3 自己紹介タイムです

 俺がソフィアに聞きたいことを考えていると、サラが部屋にやってきた。


「ユウ兄ー。ご飯出来たってミナホが・・・・・・って、あ、起きたんだ、その人」

「サラか。わかった。すぐ行くよ」


 サラは部屋に入るとソフィアが起きているのに気づき、安堵した表情になった。


「ソフィアさん。ご飯一緒に食べませんか?」


 俺がそう聞くと小さくくぅ~とお腹が可愛く鳴って、ソフィアはお腹を押さえて縮こまった。


「よろしいのでしたら、是非。それとユーマ様、わたしのことはソフィアと呼び捨てにしてください」

「え、けど王族・・・・・・」

「してください」

「・・・・・・わかった。ソフィア、これでいい?」

「はいっ!」


 笑顔でお願いするソフィアから言葉にし難い圧力を感じて、俺は粘る気持ちがあっさり折れてしまった。

 名前を呼ぶと今度は嬉しそうな笑顔になって、何だか照れくさくなってしまった。


「・・・・・・ユウ兄、イチャついてないで早くしてね」


 呆れた表情で放ったサラの言葉でまた一悶着あったが、長くなるので割愛する。一言だけ言わせてもらうとするなら、なぜソフィアはイチャついてると冷やかされて、嬉しそうなんだと言いたい。



   □□



 ダイニングにはもう既に皆が揃っていた。

 俺達三人も席に着く。

 サラが右隣で、ソフィアが左隣の席だった。


「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」


 ソフィアに日本では食事の前後に挨拶を言うことを教えてから、皆で食事を始める。しかし、ソフィアのことを知らないーー母さんからいることだけは教えられていたーーサラと母さん以外は彼女のことがどうしても気になるようで、亮太なんかは食事を忘れて見惚れるぐらいだ。


「みんな~。そんなに見つめてたらこの子もご飯が食べ難いでしょ。自己紹介は後でするから冷めない内に食べなさい」


 そう窘めたのは母さんだ。皆もソフィアが居心地悪そうにしているのに気づいて食事を始める。それでも気になるのか、幾人かチラチラと見ていたが。


「ソフィア。箸の使い方わかる?わからないなら別の食器用意するけど」

「大丈夫です。一応これでも練習して来ましたから」


 確かにソフィアの箸使いは、少しぎこちない部分もあったがなかなかのものだった。


 食事を終えると、母さんが先程言った通り自己紹介タイムになった。

 食器を流しに置いて、テーブルの上にはそれぞれお茶だけが置いてある。

 自己紹介タイムの進行を行うのは、提案者ということで母さんが務める。


「それじゃあお待ちかねの自己紹介タイムを始めましょうか。ということで一番は眠れる不思議少女ちゃん、どうぞ~」


 眠れる不思議少女ちゃんって何だよ!?

 なぜかノリノリな母さんにツッコミを入れそうになったが、話の腰を折らないために踏みとどまった。


(何で母さんそんな残念そうな表情なの!?まさかのツッコミ待ち!?)


「えっと・・・・・・わたしですよね?」

「そうよ~」

「わかりました。・・・・・・皆様、始めまして。わたしはソフィア=クランベルと申します。宜しくお願いします」


 ソフィアが母さんに促され無難に挨拶をした。

 俺はソフィアが精霊ですとか、王女ですとか言って周りを混乱させるのではと内心ヒヤヒヤしていたが、無用の心配だったと胸を撫で下ろした。


「へー、ソフィアさんって言うのね。それじゃ、次はユウちゃんの番ね」

「え、俺も?」

「当たり前じゃない。何を不思議がってるの?」

「いや別に何も」


 ソフィアが俺のことを知ってたから、勝手にやらなくてもいいかなんて思ってた。

 しかし母さんがそんなこと知るわけないし、全員自己紹介して俺だけやらないってのも不自然なのかもしれないと思い直して立ち上がった。


「では自己紹介しますかね。俺は水瀬悠真。十六歳。高校二年生です」

 

 それだけ言うと座る。すると向かい側に座っている女性から不満の声が上がった。


「そんだけ~?もっとなんかあるやろ~!」

「煩いですよ紺野先輩。いいんですこれで。ソフィアはこっちのことよくわかんないだろうし、これ以上言っても仕方ないじゃないですか。別に今日全部知らなくても、これから少しずつ知ってけばいいと俺は思います」

「そんな屁理屈言わんでええやん。ソフィアさんはもっと悠真のこと知りたない?」

「えっと、ユーマ様のことは知りたいです。けど今すぐでなくても、ユーマ様の言うようこれから少しずつ知っていければいいので」

「そっかー・・・・・・ところで、何でソフィアさんは悠真のこと『ユーマ様』って呼んでんの?」

「わたしにとってユーマ様は仕える(あるじ)なのです。だからそうお呼びしているのですが」

「ほうほう、その辺後で詳しゅう教えてや。悠真のおらんとこで」

「せ・ん・ぱ・い?いい加減にしないと俺、マジで怒りますよ?」

「ちょ、ちょっとしたジョーダンやって冗談。そんなマジで怒らんといてぇな」

「一週間の別館及び風呂場掃除か、自炊のどちらがいいですかね?」

「ほんま悪かった!この通り謝んで許して!掃除はキツすぎやし、自炊やと財布がピンチになんねん!」


 紺野先輩は手を合わせて「許してや、ゆうま~」と懇願する。そこへ母さんが「茶番はそこまでにして、ちょうどいいから次はアキラちゃんの番ね」と進行を促す。

 紺野先輩は俺と同様立ち上がって、ニカッと笑い自己紹介を始めた。


「ウチは紺野明来(こんのあきら)!隣街の瀬良川大学に通う大学二年生。趣味は不思議なことやおもろいことを探すことや!よろしゅうなソフィアさん」

「はい、宜しくお願いします。えっと、アキラさん」


 「やっぱ悠真だけ様付けか~」と言いながら座る紺野先輩に、俺は呆れた眼差しを向けた。

 ショートボブが特徴的で、誰とでも打ち解けられる明るい性格の彼女は、結構顔が広い人気者だ。人をーーというか俺をーーおちょくるようなところがなければいい人なのだがと、残念に思えてしまうのだ。


「う~ん、次はカナコちゃんお願いね」

「わかりました」


 母さんは次に紺野先輩の右隣に座る加奈子先輩を指名した。

 学校から帰って来たのが遅く着替える時間がなかったのだろう。ウチの高校の制服を着た、長くて綺麗な黒髪を後ろで結った凛とした女性が立ち上がる。


「私の名は桐島加奈子(きりしまかなこ)。高校三年生で剣道をしている。宜しく」

「えっと、宜しくお願いします!」


 加奈子先輩は静かなイメージを抱かせる大人びた女性だ。それは鋭く周りを寄せ付けない静かさではなく、穏やかで落ち着いていながら確かな芯を心に持った静かさだ。それ故に校内ではかなりの人気があり、男女問わず彼女を慕う者も多い。


 ソフィアもまた彼女の魅力に気づき、尊敬の眼差しを向けていた。

 たったこれだけで初対面の相手に尊敬されるのだから彼女は凄い。人徳のオーラが見えるのだとすれば、きっと光輝いているに違いない。


(ま、加奈子先輩は意外と可愛い物が好きで、おっちょこちょいな一面もあるなんて、殆どの人は知らないんだけど)


「さあ、次はサラちゃん。じゃんじゃんいこ~!」


 だんだん母さんのテンションが高くなってるのが不安になる。

 サラが立ち上がる前にミケを抱き上げーーどうやら飯の後はサラの足下にいたらしいーー自己紹介する。


「あたしは水瀬サラっていって、この子はペットで三毛猫のミケ。ユウ兄の妹だよ。宜しくね!」

「にゃあ~~~」

「ユーマ様の妹様にミケちゃんですね。こちらこそ宜しくお願いします」


 サラの次からは右隣ずつに、亮太、美奈穂、母さんの順番になった。


「俺は広田亮太だ。ソフィアちゃんの好みを教えてもらいたいな!」

「え、そのー・・・・・・」

「ちょっと外に出てお話ししようぜ亮太~。肉体言語と吊し上げのどっちがいい?」

「冗談だって~あはは・・・・・・って、ちょ、何で近づいて来るの。何で襟首掴むの!?ぐえっ、ひ、引きずらないで・・・・・・」


 調子に乗った亮太を俺は部屋の外に連れ出し、軽く締め上げ意識を落とし、また引きずって静かになったこいつを座らせた。


「悠真ったら。ソフィアさんの前で亮太君を懲らしめなくてもいいでしょ。怖がられても知らないわよ?見苦しいところを見せちゃってごめんなさいねソフィアさん。私は藤井美奈穂。宜しくね」

「はい、宜しくお願いします。けど大丈夫ですよ。わたしがユーマ様を怖がることなどありませんから」

「そ、そう・・・・・・」


 何だろう。ソフィアの言葉に納得できなかったのか、美奈穂がちょっとむくれている気がする。


「それじゃあ最後はわたしね。水瀬アイリスよ。このおざわ荘の管理人をしているわ。よろしく、ソフィアさん」

「宜しくお願いします」

「あと一人住人がいるんだけど、留学しててまだ帰って来てないのよ。夏休み前には帰って来ると思うんだけど、まあそれは置いといて・・・・・・ここからは質問タイム~!ソフィアさんもじゃんじゃん質問していいからね」

「は、はい・・・・・・」


 母さんのテンションはほぼMAXに達している。昔からこういうイベント事になるとテンション上がりやすいのは知っていたが、今日は一段と高いようだ。


(気のせいか?ちょっと無理して高くしてるような。どうしたんだろ?)


「母さん少し落ち着いて。ソフィアが気圧されてる」

「え?あっ!ご、ごめんなさい・・・・・・」

「気にしてないですよ。えっと、アイリス様」

「ありがとう。ちょっと待ってね、今落ち着くから」


 母さんは深呼吸して心を落ち着かせる。


「すぅー、はぁー・・・・・・よし。それでは気を取り直して、質問ある子はいないかしら?」

「はい!」


 手を上げたのは亮太だった。


「ソフィアちゃんってどこから来たの?」

「ーーなっ!?」


 恐れていた質問が来てしまった。

 俺はソフィアに誤魔化して貰いたかったのだがーー


「クランベル王国という国です」

「クランベル王国?それってどこら辺にあるの?ヨーロッパのどこか?」

「いえ、こことは別の世界にある国ですよ」

「へ?・・・・・・別の世界?」


 ソフィアは、それはもうアッサリとバラしてしまった。

 皆は驚き目を見開いている。

 亮太は頬を引きつらせながらも続いた。


「や、やだな~ソフィアちゃん。冗談キツすぎだって、あはは・・・・・・」

「冗談などではありません。わたしは精霊の庭から来た、光の精霊なのです」


 ソフィアの毅然と言い放った言葉に、皆どう反応していいのかわからず沈黙する。

 俺はソフィアの耳に口を近づけ、小声で話し掛ける。


「おい、いいのか?精霊であることバラしても」

「えっと・・・・・・何かダメでしたか?」

「まさかとは思うけど・・・・・・バラしたときのデメリットわかってない?」

「?」


 ソフィアは可愛らしくコテンと首を傾げる。どうやら本当に理解していなかったらしい。


「いいか。この星で精霊とかそういった存在は架空の存在なんだ。もしそんなものが実在していると知られたら、見世物なんかじゃ済まなくなるんだぞ」

「・・・・・・例え、わたしがどうなろうとも、わたしはここにいる皆様に隠し事はなるべくしたくありません」

「けど!」

「わたしは、わたし達の目的を果たすためにあなたを危険に晒す(、、、、、)ことになるかも知れないのです。ならば、あなたの周りにおられる人々に隠し事など出来ません。いえ、してはならないのです!」


 じっと見つめ合う。

 彼女の瞳からは、絶対曲がらない強い意志が輝いていた。

 ソフィアの断言する姿は威厳に溢れ、彼女が王族であることを改めて認識させられた。


「・・・・・・・・・ねえ、ソフィアさん。『わたし達の目的のために悠真を危険に晒す』って聞こえたんだけど、どういうこと?」

「「「「「ーーッ!?」」」」」


 静かに、それでいてはっきりと聞こえた、背筋を凍らせるほど冷徹な声の主はーー美奈穂だった。

 冷ややかな瞳でソフィアを見る美奈穂からは、凄まじい怒気とプレッシャーを感じる。

 それを真正面から受けているソフィアは、顔を青くして怯えていた。

 

「美奈穂、落ち着いてーー」

「悠真は黙ってて。今私はソフィアさんに聞いてるの。さぁ、答えてソフィアさん」

「そ、それ、は・・・・・・」


 普段温厚な美奈穂だが、あることに限って怒るときがある。

 それは人が害されるとき。

 特に親しい者が害されるときは、こうやって過剰とも言っていい反応を見せる。

 そうなると彼女を止めるのは困難を極める。原因を排除するまで彼女の怒りは収まらない。


 昔、美奈穂はある事件に遭い、それ以来こうして怒るようになった。

 友達をイジメられたときは、イジメた相手に怒って二度とイジメが出来ない状態にしてしまったことがある。そいつらには後で俺がフォローしておいたから登校拒否になったりしなかったが、完全にトラウマになっていたようだった。


「美奈穂、落ち着きなさい。そんな風に問い詰めても、答えにくいだけだ」


 ずっと続くかと思われたこの重苦しい雰囲気が、今まで沈黙を保っていた加奈子先輩の一言で霧散した。

 美奈穂は我に返り、場の雰囲気を悪くしてしまったことに気づいて恥ずかしくなってしまい、耳まで真っ赤にしながら俯いた。その姿に少し空気が和んだ。


「ソフィア。君は自らを精霊と称したが、精霊とは何か、そして精霊であると証明出来るものはあるか?」


 皆の興味がソフィアに集まる。

 美奈穂も俯きながら視線を向けた。


「わたし達精霊は、身体能力が人間より優れ、精霊術という世界の事象を改変する力を持った存在です。例えば・・・・・・こんな感じに」


 ソフィアは手を出した。

 すると手が淡く光り、手のひらから数センチ上に小さな光球が生まれ、皆に動揺が広がる。

 ソフィアが生み出した光球は、四角形や三角形、立方体に変形したり、あちこち飛び回ったりした。そしてソフィアの手元に戻ると消滅する。


「す、すっげぇえええ!!何今の!魔法か、魔法なのか!?」

「違うよリョータ!セイレイジュツってやつだよ!」

「んな細けーこと気にすんなって!サラちゃんも興奮してるくせに」

「仕方ないじゃん。だって初めてだもん。科学の力なしでこんなことするのを見るの!」


 確かに今のは凄かった。俺なんて手品なんてものとは全く違う、本物の奇跡だと思ったぐらいだ。

 亮太とサラはかなりはしゃいでいるが、他の面子も似たようなものだ。

 加奈子先輩と美奈穂は驚き目を見開いて硬直し、紺野先輩は信じられないものを見たって顔に書いてあるみたいに驚き、母さんは「まあ!すごいわね~」とマイペースに呟きながらも驚いていて、とにかく皆揃って驚いていた。驚き慌てていた。


 俺は出会ったときにも空から女の子が降ってきて驚いたからもうないと思っていたが、やはりいつでも非現実的なものを見ると驚くもんだなぁと思った。


「あの、これで信じていただけましたか?」

「・・・・・・ああ。信じよう」


 加奈子先輩が頷くと、母さんが立ち上がって手を叩く。


「みんな~。今日はここまでにしましょう。まだ聞きたいことがあるなら、迷惑にならない範囲で個別に質問するといいわ。それではかいさ~ん!」


 何かいろいろ有耶無耶になっている気がするが、こうして今日は解散となった。

 今日も何だか疲れたなと溜め息を吐き、俺はダイニングを出る。


 しかし、俺の疲れる一日はこれで終わりではなかった。

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