1ー2 精霊を名乗る少女
前回のは、入れたい情報が多すぎて長くなっただけ。だからこのぐらいがちょうどいい、はず・・・・・・。区切りいいから仕方ないよね!※無意味な言い訳なので気にしないでください。
「あっ!ユウ兄ーぃ、こっちこっちー!」
校門前で待っていたサラが俺に気づいて、大きく手を振りながら呼んでいる。サラの隣には母さんーーアイリスの姿もあり、こっちは微笑みながら小さく手を振っていた。
母さんは誰もが目を惹く美しい容姿と、ルビーすら見劣りしそうなほど鮮やかな赤い髪を持っている。モデルも裸足で逃げ出すであろう美女だと、出会った人全てが認めるに違いない。
美女と美少女が揃っている光景は、とにかく周りの注目を集めていた。
そんな中、俺は背中に背負っているものに気をつけながら、二人に向かって手を振り返した。
あの後、気を失った少女を放って置けずどうしようかと悩んでいた俺に、母さんから「帰るから来て」と電話があったのだ。
そして正体が謎すぎるこの少女を学校の保健室に預けるわけにはいかないと判断した俺は、仕方なく少女を背負ってやってきたというわけである。
少女の翼や、散らばっていた羽が跡形もなく消えていたというのも、人前に晒す理由の一つだった。
凄く可愛い美少女を背負って歩く俺の姿は目立った。それはもう悪い意味で。
人を背負って歩く姿に目を引かれ、背負われる少女の美しさに惹かれてしまう人々。
男は少女の美しい容姿に心を奪われ、そして背負って密着する役得な俺に対して、嫉妬と殺意の混じった視線を向ける。恋人や奥さんに叩かれるアホもいた。
そして女は少女の美しさに嫉妬を通り越して、羨望の眼差しを向けていた。
そんな衆人観衆の中、校内を歩く俺の気持ちを理解できるだろうか?
地獄だ。針の筵である。
これなら背中越しに感じる柔らかな温もりと弾力に感動しながら現実逃避しても、別に構わないと思う。
(この結構大きい胸が気になるのは仕方ないさ。だって健全な男子だもの!)
表情には出ていないが、内心パンク寸前である。
しかし、本当の羞恥地獄はここからだった。
「ユウ兄どうしたのその人?もしかして襲っちゃって気絶させたの?」
「そんなわけないだろ!酷い勘違いだ」
サラの声を聞いた周りの人達がざわざわし出して、俺は思わず怒鳴った。
そして怒鳴ったことで起こしてしまったかと思ったが、少女からは相変わらず規則的な寝息が聞こえた。
サラはニヤニヤ笑いながら続ける。
「えー違うの~?あたしはてっきり我慢できず気絶するまでイチャついてたのかと思っちゃったー。電話してからここまで来るのに遅すぎだったからさー」
「それは背負ってたからだよ」
「じゃあその子重たかったってこと?」
「違うよ軽かったよ!落とさないように気をつけてたんだ!」
さっきからどんどん周りの視線が厳しくなっている気がする。言い訳して誤魔化そうとするクズだとでも思われているのだろうか。
俺とサラは容姿が全然似ていない兄妹なので、彼女に責められてる彼氏という構図もできているのかもしれない。
最悪な状況だ。
そんな最悪な状況から俺を救ったのは母さんだった。
「サラちゃん。お兄ちゃんが綺麗な人と一緒にいるからって、嫉妬で困らせちゃ嫌われちゃうわよ?」
「うぅ、……嫉妬じゃ、ないもん」
「そう?けど、お兄ちゃんを困らせてたよね?」
「う~~~~!ユウ兄酷いこと言ってごめんなさい!」
「それでいいの。よくできました」
(助かった~。さすが母さん)
周りからは勘違いだとわかって視線が和らいだ。数は増えている気がするけど。
周りの呟きの中に、「え?兄妹?あんなに似てないなんて義理かしら?」とか、「血の繋がらない兄妹なんてまるで恋愛小説ね」なんて聞こえたときは、思いっきり叫びたくなったが。
(俺とサラが似てないのは腹違いだからって言ったら、それはそれで大騒ぎになりそうだな)
□□
母さんに気絶した少女のことを、所々誤魔化しながら説明したら、おざわ荘に連れてくればいいと言われた。
そういうわけでおざわ荘まで帰ったのだが、学校からおざわ荘までの道は上り坂が多いため、いくら少女が軽くても二十分以上歩き続けるのは大変だった。
帰りつき、男子禁制の三階の空き部屋に少女を寝かせる。
緊張から解放された俺はその場に座りこんでしまった。
「綺麗、だな。やっぱり」
俺は少女の寝顔を見て呟いた。
決して手を出そうとか欲情したとか、そういうのではない。
ただ、少女の美貌は犯しがたい神聖さを持つ美しさだと思ったのだ。
コンコン。
「ユウ兄、様子はどう?」
ノックして入って来たのは私服に着替えたサラと母さんだった。
サラは心配そうな顔をしているが、母さんの表情が優れないように見えたのがちょっと気になった。
しかし理由に心当たりはないので気のせいだと思い、サラに応える。
「まだ目を覚ましそうにないよ。ちょっと変わりに見ててくれないか。着替えてくるから」
「わかったー」
俺はすぐに目についた暗い赤色系のジャージに着替えさっきの部屋に戻る。
戻る前に昼食のときに飲んだお茶のペットボトルの残りを飲み干した。
「さてと。この子をウチで保護したのはいいけど、目が覚めた後どうするか決めておきたいんだけど」
「お家に帰って貰えばいいじゃん」
そう言うサラの言葉を否定したのは母さんだった。
「たぶんそれはできないんじゃないかしら。この眠り具合だと夜まで眠っていてもおかしくないわ。となるとここで泊まっていくことになるけど、この子が起きたときに状況を説明できる人をこの部屋に置いておく必要があるわ。……それに、この子はこの町に住んでる子じゃないと思うのよね」
「お、俺もそう思うよ」
俺は内心冷や汗をかいた。
気絶した子を拾ってきたと軽くしか説明してないのに、母さんは隠した部分をかなり察しているんじゃ、と思って。
「よし。ユウちゃん、あなたが面倒見なさい」
「はい?」
「わかってると思うけど、寝てる女の子を襲っちゃダメですよ。やるなら合意の上でーー」
「ちょーっと待って!え、俺なの?サラの方が同性だから、そっちの方がいいじゃん!あと、その呼び方止めてっていつも言ってるでしょ!」
俺が反論すると、母さんはやれやれと言わんばかりに頭を振った。
「理由はおそらくこの子はユウちゃんを知っているだろうから。それに手を出さないなら異性でも問題ないわ」
「んなっ!?」
なぜそれを。
「なぜって思っているならあなたの母だからと答えるわ。息子のことなんてお見通しよ」
「ユウ兄ー顔に出過ぎー。鎌を掛けられてることもわかんないなんて油断しすぎだよ」
「ふふ、そうね。なんとなく察してただけだったけど、今ので確信したわ」
子供の考えがわかるって言っている親は、こうやって鎌を掛けているんだなと、笑いあう二人を遠い目で見ながら思った。ユウちゃん呼びを改ることはできないのかと諦めながら。
目覚めたら俺が説明するということで決定した。
サラは自室に戻り、母さんは掛け布団を取りに行った。
空き部屋は簡易なベッドとタオルケットに小さなテーブルしかないため、せめて掛け布団ぐらいはと取りに行ってくれたのだ。
少女が目覚めたのは、夕方になった頃だった。
「……ん、んぅ……ここはいったい?」
「おはよう。よく眠れた?」
いきなり声を掛けられ驚いたのか、少女はばっと起き上がろうとするが、起きたばかりに動こうとしたために頭をふらふらさせベットに倒れる。
「驚かせてごめん。何もしないからゆっくり起きて」
「えっと……はい、ありがとうございます」
今度はゆっくり起き上がる少女。そして彼女が俺の方を見た途端、驚愕して目を見開いた。
「ゆ、ユーマ様!?どうして、いったい何がーー」
(ユーマ様?俺を知っているってことか?そう言えば、出会ったときも『やっと会えました』って言ってたような)
そんなことを考えていた俺は気づいてしまった。
少女の服の肩の辺りが少しずつずり落ちていることに。
俺は理性を総動員して邪な心を叩き伏せ、顔を背けた。
服が乱れた姿って、どうしてこうエロいのだろうか。
「服が乱れてるから落ち着いて。説明して欲しいことがあるなら説明するから。それに、君にはいろいろ尋ねたいことがあるんだけど、聞いてもいいか?」
俺がそう言うと少し落ち着きを取り戻し、別の意味で落ち着きを失った彼女は、恥ずかしそうに俯きながら乱れた服を直した。
「えっと……あの後わたしがどうなったのか教えていただけませんか?」
俺は出会ってすぐに気絶したので、家に運んで寝かせていたことを説明した。
背負ったというところで頬を赤く染めていたが、説明を終えると「助けていただき、ありがとうございました」と礼を言った。
「じゃあ次は俺の質問……の前に、君の名前教えてくれない?」
「あっ!今まで名乗らず申し訳ありませんでした!」
「別にいいよ。気にしないで」
俺がそう言うと、少女は居住まいを正しーーベッドの上で正座をしーー名乗った。
「・・・・・・わかりました。では、改めまして。わたしの名はソフィア=クランベル。クランベル王国の第一王女です」
「へ?第一王女?」
「はい。第一王女です」
(マジか・・・・・・)
少女ーーソフィアの目は真剣で、嘘を言っている様子はない。
俺はとりあえずそういうものなんだと納得して、次の質問をした。
「俺は君に会ったとき、空に開いた穴の様なものから出てくるのを見た。あれはいったい何なんだ?」
核心を突く問いに、ソフィアは深呼吸をしてから答えた。
「それに答える為には、わたしがどういった存在かを知って貰わなければなりません。眉唾だと思わず、これから言うことを信じていただけますか?」
「ああ」
「では、ご説明致します。わたしはこことは違う世界、『精霊の庭』よりやって参りました。わたしはそこに住む光の精霊種の巫女姫と呼ばれる者です」
「えっと・・・・・・精霊の庭?光の精霊種の、巫女姫?つまり君は異世界から来た精霊ってこと?」
「はい。簡単に言ってしまえばそうなります。わたし達の世界では、二つの世界は創造主たる神様の造った箱庭で、空間が隔てられているだけの一つの世界だと伝わっていますが」
「あ~、そういった難しい話は後にしよう。今は必要最低限の情報の共有の方が先だ」
「はい・・・・・・」
「どうかしたか?」
ソフィアはなぜか驚いたような表情をしていて、歯切れの悪い返事が気になった俺は尋ねた。
「いえ、特に何も。ただ、信じていただきたいと言ったのはわたしですが、思いの外驚いた様子ではないので、その・・・・・・」
「これでも一応驚いたよ。ただ、出会ったときのインパクトがデカすぎてね。ちょっと状況に理解が追いついてないと言うか、現実味がないんだよ」
「現実ですよ、ちゃんと」
「うん。わかってる」
ソフィアには言わなかったが、俺はとある事情により知っていたのだ。世間一般には信じられていない魔物の存在に、魔術や陰陽術、退魔術と呼ばれるものが実在することを。まあ、精霊なるものは初めてだったが。
まあ、こんなことを出会ったばかりの少女に話すほど、俺の口も軽くないのだ。
自らを精霊と名乗る少女、ソフィア。
俺は彼女の言っていることはほぼ本当のことなのだろうと思っていた。現れたときの現象もそうだが、嘘を話すときの反応がなかったから。
彼女は俺に会いに来た。
この町に現れたこと。俺の名前を知っていたこと。他にも理由はあるが、まず間違いないと俺は確信していた。
だが、それでソフィアを信じるかどうかは別の話。
だから知りたい。この子のことを、もっと。
いつしか俺はそう思う気持ちが強くなっていた。
今までの日常を変えてくれる予感がして、それをもたらす彼女に好奇心を刺激されずにいられない。
俺の心は、かつてないほどワクワクしているのだった。




