外伝 遠藤海広
遠藤「いくぜ俺のメイン回!」
女子たち「ないわー」
「よし、次は海広だな」
再度くじを引いて当たったのは遠藤だ。
「……分かったよ。あれは…………」
そして始まった矢先、遠藤は躊躇いを見せた。
「すまん、やっぱり無理だ」
この後に及んでそんな言い分が通じるとでも?
「ダメだ。言え」
「そうだそうだ!」
斎藤に続いて皆が便乗する。
全く、白けさせるのはご法度だぞ。
「無理だ……勘弁してくれ」
「海広、往生際が悪いぞ」
「くっそ……」
そう言ってようやく遠藤は前を向いた。そうだ、拒否権など最初から無い。
「……あれは中学二年の時、日曜日だったか。俺は町を歩いていた」
観念したのか、ようやく口を開いた。
「歩いていると明らかに堅気じゃない奴らが前を歩いてきた」
「やばいでしょ」
「当たり前だが俺は近くのコンビニに逃げ込んだ」
「心臓バクバクだったろ」
「そうだ。しかし奴らは俺の入ったコンビニに入ってきた」
それだけでも十分恐いな。恐怖系の話になりそうだな。
「俺は追いつめられるようにトイレに駆け込んだ。そこなら強盗でも来ない限りは安全圏だと判断したからだ」
ん? 待て、この展開はまさか――。
「だが、駆け込んだ先は女子トイレだった」
うわあ……。
俺たち野郎共がドン引きし、女子たちからは侮蔑と軽蔑の視線が送られた。
『ウミヒロケダモノ』
「名前みたいに言うな! 気が付かないほど気が動転していたからだ!」
「いいから続けろ」
百歩譲ってそれは良いとしよう。恐怖心が先行したと思おう。
「ああ、それで入った先に女子が居て……」
「現行犯だな」
俺の言葉に誰もが頷いた。言い逃れはできまい。
弁解さえも出来ないくらいの現行犯逮捕だ。性犯罪者だ。
「最低だな」
「顔が良いだけの犯罪者」
「下種野郎」
「ちょっと待て、特に野郎共。お前等だって一回くらいはあるだろう?」
「ない」
「ねぇな」
「即答かよ!」
女子共の視線が鋭いから例えあったとしても言うまい。
言ったら錐もみダイブして地面に激突する結末が見える。
「まあいい。でだ、当然周りにいた人に通報されて俺は逃げ回る羽目になった」
「馬鹿だな」
それは分かっているのか山葵を噛み潰した顔になった。
少し茶々を入れ過ぎたか。黙っていよう。
「……それで結局捕まって事情聴取されて姉に迎えに来てもらい、父、母、姉、兄、弟、妹、祖父、祖母にリンチにされた。ついでに家も追い出されて寮生活する羽目になった」
「自業自得と言いたいところだが話を聞く限り同情する部分もある」
「付け足ししているとかは?」
「断じてない」
本人から否定が即答で入った。本当の話なのだろう。
「でだ、学校側も俺を停学処分にするし、家族からは援助金さえ無いし、新聞には取り上げられて世俗一体が俺を加害者、犯罪者を見るような目つきになるしでそれはもう最悪だった」
中々クレイジーな人生を歩んでいるようだ。
いや、理由を知らない奴が聞いたらそうなるか。
「それで俺はその状況が頭に来て、寮とかも全部無断で引き払って逃げた」
まあ、そうなるのかな? 頭に来ることは間違いないと思う。
「当然、警察から追われたよな」
「そうだな。警察を巻きながら隙見て白バイ強奪したり警察官を後ろから襲って生(現金)奪ったりして、時には農家の畑から拝借したりして生きながらえた。だが、そこでもまた事件が起きた。それは……その農家の家の風呂場をつい出来心で覗いてしまった。中には当然女子がいた」
犯罪しすぎだろ。イケメンだからって何でも許されると思うな。
「もう駄目だな」
「ああ、いくら面が良いからって限度があるな」
野郎共からすら見放されかけている。
それに焦った遠藤は静止をかける。
「ちょっと待て、最後まで話を聞け」
「黙れ外道! ここで首を貰い受ける!」
斎藤が……明らかに悪乗りで言う。
「ええい、話を聞いてからにしろや!」
「ちっ、仕方ない」
斎藤がそこまで言うなら聞いてやると言う感じに座った。
内心すっごく笑っているのが分かる。
だが、女子からの処刑は決まったようなものだが。
さっきから視線が有刺鉄線みたいになっている気がする。
「それで俺はしばらく空き家に身を隠した」
「空き巣!」
斎藤が言うが気にしないように続ける。
「……そこは電気が通っていたから勝手にTVを付けた」
「不法侵入だ!」
俺はこれでは話が進まないと思い、斎藤にアイコンタクトで止めさせる。
斎藤も分かったようで大人しくなった。
「ちょうど付けたニュースが俺を取り上げられていた。だがそのニュースは俺を擁護しているようなニュースだった。詳しく聞いていると先程のトイレの女子が出てきて実は男で俺は何の罪も無い、むしろそいつの方が悪いようなことを言っていた」
「ふむ」
冤罪だったということだ。
「その時の俺は浅はかだった。そのニュースを鵜呑みにして自分は安全だと思い込んだ。そのニュースは俺を探している……今思い出せば画面の右下に小さく、それとは別の罪状がかかれていた気がする。俺は次の日ノコノコと人前に顔を出した。二十秒後に捕まった」
「馬鹿、自分で罪を増やしてどうするよ」
何もしてなければ無罪放免、謝罪金が確定していたのに。
「全くだ。その時の俺は自分の目を疑ったさ。そして理解した。この世界は俺を嵌めようとしているってな。次第に警察が来て、引き渡される直前に警察官に頭突きして逃げてやった」
「またやっているし……」
公務執行妨害だ。
そういえばそういうニュースがあって俺は面白半分に見ていた気がする。
本人の口から聞くとリアル感があるな。
「それから俺は更に弾けた。白バイをまた強奪して黒く塗り替えて、追手がかかるとガソリンスタンドから灯油を奪って道にばらまいて火をつけた。黒バイの燃料が切れたらまた別のバイクを襲った。それを繰り返して数か月、遂に俺は力尽きようとしていた」
「それ以前によく捕まらなかったな」
「一度だけ本気で危なかったことがある。その時は高速道路から一般道に飛び下りるっていう荒業の博打をしたけどな」
なんて危ない奴だ。しかもそれやって生きているとはな。
「そして俺が捕まる最後の日、俺は環七を飛ばしていた。既に四日間逃げっぱなしで意識が朦朧としていた。そして俺は交差点に追い込まれた。警察は既に銃を抜いていた。ああ、俺はここで死ぬのだなって思った。そして俺の目の前に一人の男が近寄ってきた。そいつは俺に言った。数か月前は庇ってくれてありがとうってさ。そいつはあの女装男だった。そいつは刑事の中でもとりわけ顔の利くお偉いさんだったらしい。そこで俺は意識が途絶えた」
つまり最初に出て来たトイレの女性はオカマかつ変態だったわけだ。
それが刑事だったとか世も末だな。
「すっごい出来過ぎていて創作を疑うな」
「創作じゃない、本当にあったことだ。それで俺が次に目が覚めるとそこは病院だった。何でも三日間眠っていたらしい。そしてまあ、その男から色々説明があって刑務所二か月の懲役が科せられたと聞かされた。それでも随分頑張って擁護してくれたらしい。俺はそれに深く感銘して心を入れ替えた。今まであれだけやったのにこれだけの罰だ。そして俺は刑務所暮らしを終えて娑婆に出た。そしてその男は色々な経歴を問わない高校があったら行くかと聞いてきた。俺はすぐさま同意した。俺はあの人にとても感謝している。あの人が居なければ俺は三十年の禁固刑だったはずだ。俺は将来、人のためになることをしようと思った。ボランティア活動に励んだのもそういうことだ。それがせめてもの俺の罪滅ぼしだから」
「なるほどな」
随分つらい目にあったようだ。
「そうかそうか。変態と変態の熱い物語か」
「救いようがないな」
そして誰の感動もなく、笑い話にもならない。
「はい乙。それじゃ次行こうか」
斎藤ですら次を促した。
「ちょっと待て! 俺への感想は?」
『無い』
「酷ぇよ!」
遠藤が落ち込むのを後目に時間を確認すると深夜に差し掛かろうとしていた。
筑笹「連れて行け」
女兵士「ハッ!」
遠藤「理不尽だ!(退場)」
筑笹「さて、次回は私だな。それにしても咲や阿嘉、それに悠木の過去は出さないのか?」
グラたん「ええ、諸事情がありますので(敵に掴まった勇者はもはや勇者ではない)」
筑笹「ふむ、そうか……」




