第八十七話・地球への帰還方法
グラたん「気合いと根性で復帰……できませんでした」
嵩都「もういい。無理するな」
グラたん「はい、すみません」
グラたん「では、第八十七話です」
まず来たのは治安が維持されているムスペルヘイムだ。
良きかな。風紀の乱れも少なく流通も滞りない。
城のテラスへ降り立ち、中を見て回り、最後に軍備を確認しに行った。
訓練場ではフェイグラッドが兵士を教育している場面に出会った。
ちょうど試合をしているようなので見学する。
フェイグラッドは元から武力が強い設定だ。そのため少々知力が少ないように見受けられたが今では立派に教官をしているようだな。
「お、主!」
相手をしていた兵士を倒すと俺の視線に気付いたようだ。
「良くやっているようだな」
「へへっ」
「いよいよ明後日だが準備は出来ているのか?」
「おう、問題ないぜ!」
「ならば良い」
「あっと、そうだ。主も少し戦っていかねぇか? 最近こいつらも強くなってきたぜ」
兵士たちを指さすと兵士たちとも良好の関係になっているのか照れくさそうだ。
「良かろう」
俺は訓練場の内部に足を踏み入れて円型に整っている土俵に上がった。
「さて、最初に相手をしてくれるのは誰かな?」
「お、俺が!」
自信たっぷりに手を挙げたのは一人の少年だ。
実剣を携えて上がってくる。見た感じ、この兵士たちの中では中堅だな。
少年は剣を構え、俺は足幅を少し広げた。
「ん? 主は剣を使わないのか?」
「剣は使わん。この兵士がどれくらい強いのか分からんからな」
「分かったぜ」
フェイグラッドが下がり、何処からか試合のゴングが鳴った。
「やあっ!」
兵士が勢いよく踏み込んでくる。思い切りの良さは誉めてやろう。
「竜掌」
竜武の攻撃技の一つで自身の手を尖らせ、相手を掌底で吹き飛ばす技だ。
力を加減して打ち込む。間違っても殺さないようにせねばな。
ドガン!
たった一撃で少年はガードする間もなく場外に吹き飛び、壁を貫通して型を残した。
「むっ、もっと弱めないといかんな。彼を医務室へ連れていけ。次だ」
さっきまで少々舐めていたような緩い雰囲気が消えてなんとも言えない無言が漂う。
「誰もいないのか? なら、フェイグラッドよ。お前が手本を見せてやれ」
「良いですかい?」
「全力で来るが良い」
その言葉にフェイグラッドはにやり犬歯をむき出しにして突撃してきた。
「どりゃぁああ!!」
フェイグラッドの気合いが入った拳を受ける。
――ただし人差し指のみで。
「どうした? まさかこの程度で驚いているのではあるまいな」
「ふっ―――面白れぇ!!」
そして今度は剣を使ってフェイグラッドが襲い掛かってきた。
結果だけ言えばフェイグラッドの剣は俺を傷つける前に折れた。
いや、俺が指二本で折ったという方が正しいな。
終わった後のフェイグラッドの闘争心を掻き立てられた表情が異様に目に残った。
次にヴェスリーラの管轄に来た。そこにちょうどウリクレアとカルラッハも来ていた。
「おや、邪神様。いつお戻りに?」
「先ほどだ。フェイグラッドにも聞いたが、明後日の準備は整っているのか?」
「何も支障ございません」
その問いにはウリクレアが答えた。
「そうか。それにしても少し見ない間に随分と変わったな」
城内は学校と遜色ないほど効率化され、ある程度怠けてもつけが溜まらない仕組みになっている。
それと城内の装飾品が増えた気がする。
「はい。最近では土を使った物作り、村や町による民芸品の加工が始まって観賞用や実用化がされています。それに滞在している筑笹さんからSTの技術を少々いただき、独自の発展を目指しています。サフィティーナさんも面白いと言ってましたよ」
「なるほど」
筑笹と魔帝――サフィティーナさんも協力しているのか。
しかし彼女たちにはやって貰わねばならんことがある。
ヴェスリーラたちと雑談すると同時にプレアにリンクを飛ばす。
『嵩都、久しぶり~』
いつもの陽気な声が脳内に響いた。会いたいなぁ。
『久しぶり。プレアはもう自宅にいるのか?』
『今は本宅の方かな。矢の補充と掃除をしているよ』
あ、そうか。次に帰ってこれるのがいつになるか分からないからな。
『嵩都は何処にいるの?』
『今は浮遊大陸だな。四天王たちと雑談中だ。それで、筑笹とサフィティーナさんのことなんだが……明日当たりに解放していいか?』
『どういうこと?』
『時間の都合上、いつになるか分からないから先に解放しておこうかと思って』
プレアは少し思案して少し笑っていた。
『――終わりに宿敵が居ないのは映えないからいいんじゃないかな? それに単純に面白そうだし』
プレアが言い終わると同時くらいにポノルからリンクが入った。
四つの思考を同時に動かすのはちょっと辛いが頑張ってみよう。
『スルトさん、ポノルです』
『どうした?』
『至急、魔王城へお越しください。見ていただきたいものがあります』
ポノルの声はやけに興奮していた。まるで何かが完成したかのような声色だ。
『? 分かった。すぐに向かおう』
『お願いします』
リンクが切れた。なんだろうか?
思考をプレアとのリンクに切り替えた。
『嵩都。今、軍師からリンクがあったけどどうしたんだろうね?』
『さあ? とりあえず向かってみよう』
『分かったよ。それじゃ、また後で』
プレアとのリンクも切れ、四天王との思考に切り替える。
ちなみに四つ目は例の紙を未だ解読中の思考だ。
「ふむ」
「如何なさいましたか?」
ウリクレアが心配そうに顔を覗き込んだ。
「魔王城で何かがあったらしい。すまぬがここまでだ」
「分かりました。どうかお気をつけて」
「うむ。では三人共、後を任せる」
『了解しました』
二人が一礼し、俺たちは場外に出た。
魔王城へはゲートを開き、直接謁見場に向かった。
「どうした、ポノル」
「お待ちしておりました! こちらへ」
やけに高いテンションでポノルが上機嫌に俺たちを別室へと案内する。
来たのは壁一面が魔法陣で覆われた部屋だ。
何かの魔法がかかっているのは間違いがない。壁には何やら古めかしい書物がいくつも置いてある。
部屋は広く、中央には円卓が置いてあり、シャンや幹部、デムクロイたちも呼ばれていたようだ。
「さて、揃ったようですし始めましょうか」
ポノルが一番奥席に座っているシャンの隣で大振りに手を広げた。
「姉ちゃん、何度も聞くけど一体何を始めるのさ?」
シャンが既に何度も同じ問いを繰り返していたようでウンザリとした表情で聞いた。
「ふふふ、括目せよ! 私は地球を侵攻できる魔法陣の開発に成功しました!」
『――――なにぃぃいいいいい!!』
思わず驚いて俺やデムクロイたち、ツクヨミが腰を浮かした。
「試運転は既に終わり、大規模な軍勢が通れるように改良を続けています!」
……流石の俺も理解が追い付かない。
「と、とりあえず、その魔法陣を見せて実演してもらえるか?」
「勿論ですとも!」
ポノルは自信満々に待機させていた魔法師たちに指示を出し、自身の足元に魔法陣を展開する。
そしてポノルが消え、数分後に戻ってくる。その手には鉄筋が握られていた。
構造はかなり複雑で、常人なら絶対思いつかず矛盾して終わるような魔法陣だ。
「これが……その魔法陣なの?」
「はい。しかしこの魔法陣は行きのみとなり、人数も三十人と制限されています」
「なるほど。帰りは勇者召喚に使う魔法陣を使用すればよいということだな」
「ご明察です。そして帰還用も完成しております」
会話を引き延ばすと同時にポノルが発動している魔法陣を理解習得していく。
――完了。これで俺は何時でも地球に行ける。
少しだけ欠点がある。俺個人で使うと一回が限度だ。戻るのには少々時間が居る。
だが、十分過ぎる。ポノルが如何に天才かが良く分かる。
そうだ。せっかくだし亮平たちにも教えてやるか。
「流石は軍師殿ですわ」
グリモアの素直な称賛にポノルは少し照れていた。
「それで、地球とやらにはいつ侵攻なさるおつもりですか?」
ジェルズの言葉で我に返ったポノルは魔法陣を霧散させて俺たちを見た。
「それについてなのですが、スルトさん、どのくらい兵力があればアジェンド城――いえ、勇者たちを足止め出来るでしょうか?」
ふむ。少し祖語があったようだ。
俺の考えは勇者たちの足止めではなくアジェンド城に侵攻したという結果が欲しかっただけでそちらは特に考えてなかった。
「勇者たちは先の修行で相当に強くなってしまったため、下手をすれば十万単位の被害が出る可能性がある。よって、勇者たちの足止めはしなくて良い。魔王軍はアジェンド城を二、三十万の兵力で余の邪神軍と共に攻撃し、余の合図で退却をしてほしい」
「それになんの意味があるのですか?」
ポノルの疑問は最もだ。
「勇者たちが居たのにも関わらず魔神が復活したと世間に知られるのが目的だ。そうすることによってアジェンド城に現存する勇者たちの風評は悪くなり、結果として懐柔しやすくなると考えている」
「……予測の段階なので何とも言えませんが、そう上手く行くのでしょうか?」
「勇者を妬む者や貶めたいと思う輩は何処にでもいる。そいつらがそういう時にこそよく活躍してくれる」
裏に精通している俺だから分かることだ。
今はなりをひそめているが勇者たちを追い出したいという連中は少なからずいた。
「なるほど。では、問題ありませんね」
「ああ。語弊があったようで申し訳ない」
「いいえ、大丈夫です。さて、話を戻しましょう。スルトさんが必要とする兵力は分かりましたので、アジェンド城侵攻軍を三十万、城の守兵を五十万残し、残り全てを地球侵攻に向かわせます」
「ほう。随分大胆に出るのう」
ベラケットがポノルの献策に驚いていた。
「地球と言う星は勇者の卵が眠っている星でもあります故に多すぎるということはないかと思われます」
ポノルの反論にベラケットは深く頷いた。
「確かにそうじゃな。目覚めている勇者を倒して奪うよりは動かぬ卵を壊す方が余程楽じゃわい」
「では、他の方は何かありますか……ああ、そう言えば鬼神さんたちも同じ地球から転生したのでしたね。どうしてもとあれば不参加でも構いませんよ?」
ポノルの言葉に三人は少し考え込み、俺も少し迷う。
少しした後、デムクロイが立ち上がる。
「ならば、侵攻時に助けたい者は各自で助ければよかろう」
「……そうだな」
俺も頷き、夕夏だけは何が何でも助けようと固く誓った。
とは言え夕夏には俺が居なくなる前に郵送した実刀があるから早々死なないと思う。
あれは地球には存在しない特殊合金で作って貰った刀だ。
何か不思議な感じを漂わせる刀だったがそれが何なのかは分からなかったな。
「進行予定日は我が軍の軍備が整い、後顧の憂いを断ち、万全を期して攻め込みたいので今から一年ほど時間が必要です」
「了解した」
デムクロイに続いて俺、レイデメテス、グリモアも頷いた。
「以上で今回の報告を終了させて頂きます。この後は景気づけに宴を用意しておりますのでご参加ください」
ポノルが言い終わると同時に俺は立ち上がってポノルを見る。
「すまないが明日の準備があるため今回は不参加させてもらう」
「分かりました。お願いしますね」
「うむ。それでは皆さん、ごきげんよう」
俺は一礼し、ハーデスの手を取って転移する。
先日の事。
ポノル「フフフ……フハハハハハ!」
シャン「(物陰から)ねぇ、どうしよ。姉ちゃん疲れてるのかな?」
ペルペロネ「かもしれぬな。最近何やら研究に打ち込んでいるようだし」
シャン「姉ちゃんが倒れると色々大変なんだよね」
ペルペロネ「ふむむ?」
シャン「姉ちゃん、軍務とか経済管理とか全部やってるから」
ペルペロネ「それが原因だと思うんだが?」
シャン「ペルペロネもちょっと気を付けてあげて」
ペルペロネ「心得た」
――――
嵩都「さて、ここで一つ残念なお知らせだ」
嵩都「再び外伝三連発のお時間がやってきた」
嵩都「次回からは斎藤、遠藤、筑笹の三人の過去編を予定している」
斎藤「コラ待て! このわーたしの過去が残念とは何事だ!」
遠藤「そうだそうだ!」
筑笹「流石に抗議させて貰おう」
斎藤「次回のトップバッターはこの斎藤博文だ! 全世界よ、慄くが良い!」




