第八話・最大国家アジェンド
グラたん「第八話です!」
嵩都「……」
亮平「……」
佐藤大典「……」
鈴木博太「……」
筑笹鹿耶「キリキリ歩け! 馬鹿共!」
あれから二日が経った。
亮平たちはみるみる痩せこけて虚ろな目で作業をしていた。
朝は彼女たちのために水を汲み、朝食を献上し、彼女たちを神輿に乗せて俺たちは歩く。
腹ァ……減ったな……。
俺も意識が朦朧としてきた。腹の空きを誤魔化すために水を飲むが、やはりダメだな。
女子たちは佐藤が作った神輿を亮平たちに引かせて人力車の中で優雅な旅をしていた。楽しそうな笑い声さえ聞こえてくる。
何故神輿を作ってしまったか、と佐藤に憤慨した物だが荷台を作ろうとして、女子共に道路の交通状態を理由に弾劾されたらしい。
確かに人がある程度歩いてるために道筋は出来ているがアスファルト並にはなっていない。こんな中で人力荷台を走らせたら腰や尻を痛めるだろう。
俺たちは佐藤に同情し、渋々神輿を担ぐことになった。
俺たち奴隷に休みなどない。最低限の休憩以外男子勢は寝る暇なく歩いている。
食事は俺や作れる奴が作る感じになっている。おかげで料理スキルが発現した位だ。
熟練度とでも言えば良いのか野菜を切る、魚や肉を焼く、煮込む、包丁の手入れをするなどをしている内にスキルポイントが溜まり、より美味しい料理を作るために俺は剣スキルより先に料理スキルにポイントを振り分けてしまった。
料理Lv1→料理Lv3
笑いたければ笑えば良い。一日一食が常の俺たちの唯一の楽しみだ。
だが奴等は非情にも日夜走れというキチ命令を出しやがった。
そのために俺の料理スキルは御蔵入りを果たしてしまった。ちくしょう……。
それから更に四日が経った。
亮平たちだけでなく俺たちも餓死寸前に追い込まれていた。
最低限の水だけは仲間の魔法で確保して歩きながら飲んでいた。
実際に餓死者は出ていないのが何よりも救いだ。
そんな中ようやく城の姿が目に映った。
「城が見えて来たぞ! キリキリ歩け!」
そんな酷使奴隷使い筆頭の筑篠は女子たちに報告しつつ亮平たちに鞭を打っていた。
ちなみに鞭は佐藤製だ。あいつなんでも作れるな。
そんなことはどうでもいい。鞭を打たれた俺たちは怒りのボルテージが上がった。
そんな折に亮平からチャットがあった。
俺たちはそのチャットに口元を釣り上げ、完全に頭が沸いた。
城に着いたのはそれから一時間後だ。予想以上に遠かった。
城門前に来ると魔王とプレアが門兵に話を付けに行き、門が開いていく。
流石の筑篠たちも体裁ということから荷台を降りようとする。
――そこから男たちの逆恨みが始まった。
「皆! ご主人様方を城までお連れするぞ!」
『うおお! 俺たち働く奴隷たち! 乗せるはご主人奴隷使い!』
門が開くとこれまで死んだ目をした奴らが急に張り切りだした。
亮平の音頭で周りが徹夜の限界を超えた危険ハイテンション状態になる。
そしてそれは鬱憤溜まっていた俺たちにも感染していた。
門兵たちがドン引きする中を俺たちは意気揚々と女共を公開処刑していく。
門を抜けると、いつの間にか神輿のベールを取られていて中にいた女共が丸見えになっている。
城下町の住民が俺たちを可哀想に見る中、俺たちは血反吐を吐いても歌い続けた。
城下町はとても大きく広い。中央の道はよく整備されており、ゴミひとつない。
見渡せば冒険者風のひとが重そうな鎧や兜を着けて歩いていたり普通の町人だったり行商人だったり素材を受け取りに行くコックだったりと色んな人がそして何より色々様々な種族がいる。
俺の知っているゲーム風に言えば、猫や犬などの二足歩行おそらく獣人ケットシーだろう。他に耳が尖がっていて羽があり肌の白いエルフ、ヒレがあり細身で青い肌のウンディーネ、角があり赤く逞しい肌のサラマンダー、茶色肌で何かを運んでいる力持ちのノーム、あと俺達と同じ人間がちらほらいる。
周りには宿屋があり道具屋、武具屋、ギルドがあって飲食店も充実している。
凄くにぎわっていて『常に笑顔の絶えない町』そういう印象を来る人に与える。
実に内政がうまくいっている証拠だな。そう思える賑わいだ。
『飯抜き、飯抜き、休みなし! 寝れば即行あの世行き!』
「止めろ馬鹿共!」
我らの奴隷使い様が羞恥に顔を赤らめて俺たちに鞭を振り下ろす。
そして新な歌詞が亮平からチャットで送られてくる。オーケー。
『鞭打つ、鞭打つご主人様は美人で優秀お姫様―! 俺たち働く奴隷たち! 罵られるのはご褒美です! 奴隷の業界ではご褒美です!』
と、後に語られる『真なる奴隷使い』という奴隷音頭である。
プレアや魔王は苦笑いしていたがその他の女子共は俺たちに暴行を加えた。
だが俺たちにとってはもはやご褒美以外の何者でもない。
現に、それらは食らい過ぎてダメージが全て快感に変わっている。既に俺はおかしくなっている。
いや、訂正しよう。俺たち、だな。
それから城下町の中央に到着するまで喉から血を吐くほど歌い、到着した後は転移門らしき場所に入り、一気に城の目の前までやってきた。
目の前と言っても俺たちの目の前には長い階段がある。その先に城門と思われる門が見えた。
すれ違う人々は道を避け、親は子供の眼を隠し耳を塞ぐ。
気が付けばいつの間にかプレアと魔王はいなくなっていた。見るに堪えられなくなったのかもしれない。
やらかした俺たちは城の懲罰房入りを果たした。
謁見すらさせて貰えない。それほどまでに俺たちの罪は重いようだ。
懲罰房は俺たちにとって豪華ホテルのスイートルームにも等しい場所だった。
犯罪が少ないのか異臭はしないし寝床のシーツは綺麗だし飯が一日三食出てくる。
「う、うめぇ! 久々の飯だ!」
「俺、俺、生きていて良かった!」
「うっ……うう……」
「ありがとうございます。ありがとうございます!」
全員が涙した。涙腺が崩壊したと言っても良い。
休みだ。休息が与えられた。久しぶりに座った。幸せだ。
そこらからうれし泣きが聞こえるのを聞いて番人がかなり同情していた。
だが、そこは職務上やるべきことはしっかりやっていた。
まずは地獄のぬるま湯に頭まで浸かる。
「はぁああ! 暖けぇ! この風呂暖かいよ!」
「体の芯が温まる。体の垢も落ちて行くよ」
続いて鈍器で体を叩かれ、針を刺される。
拷問? ああ、俺は慣れてるから平気だ。
それよりも野郎共の方が危険領域に入っている。
「ああ、最高だ! 肩の凝りがほぐれていく!」
「もうちょい右、そう、そこ! たまんねぇ!!」
そして最後は牢獄に送られ、主犯格は独房に送られた。
「やべえ、超幸せだわ。寝られるのがこんなに素晴らしいことだったとは!」
「牢獄最高!! マイホォォム!!」
流石の執行人たちもこの異常なる光景に寒気を憶えたとか。
結局、不気味過ぎるのを理由に一日で釈放された。
もうちょっと居たかったのが本音だ。
「いやぁ、いい湯でしたね」
「うんうん」
「居、住、食がそろった最高の環境だね」
「分かるわ」
各々の感想を漏らしながら俺たちは魔帝とやらの元に連れてこられた。
玉座の間は赤い絨毯が存分に引かれていて部屋の中は装飾豪華に彩られていた。
魔帝は玉座に座り魔王と同じような髪と目をしていた。
隣には大臣や女共、魔王、プレアがいた。
俺たちの横には兵士とか貴族らしき奴等がいる。
「よくぞ来ましたね、この下種共」
魔帝が罵ると同時に皆は一斉に低身平頭した。
『ハハッ、我々の業界ではご褒美でございます!』
「この度は誠に最高な牢獄生活をありがとうございました」
先頭にいる亮平が笑顔でお礼を述べる。
魔帝は何やら寒気を憶えたようで身じろぎをした。
「……もう知っているかと思いますが、魔帝です。フルネームは、サフィティーナ・スファリアス・アジェンドです。さて、今後貴方たちは彼女たちによって壊されてしまったモラルを取り戻すために学校に編入して貰います」
学校か……そういえば魔王にもそんなこと言われたな。
「詳しいことは後程書類を配布します」
そこで魔帝は何故かプレアの方を見て、そして溜息を付いた。
プレアに関してはこれでもかと言うくらいドヤ顔をしていた。
ドヤ顔と言っても実際は微笑んでいただけなのだが俺にはそう見えた。
「本来なら我が城で正規兵として働いて貰おうと思っていたのですが、プレアさんとの事前約束がありますので。無論、此方に召喚の非はあるので最大限の補填はします」
ん? ということはプレアは俺たちが召喚されることを知っていた?
偶然か……いや、今思えばプレアが俺たちに言語・知識を教えるために早見表や教科書を持っていた。間違いなくプレアは何か知っているし隠しているな。
ラノベ系辺りでは転生者という可能性が高い。
……ということは、ここはゲームの世界か何かなのだろうか?
それならばプレアが必要以上の知識を知っていてもおかしくはない。
それにこれから起こることも……。
なら、俺が取る行動は一つ。プレアとより親密な関係になり情報を聞き出すことだ。
俺の予想では、プレアが『主人公』でこの世界は『悪徳令嬢』のゲーム世界。
ストーリーを考えるならプレアは自身が死なないように工夫を凝らしているという場面に相当するな。
しかし剣や魔法があることからRPG系の世界かもしれない。
……今は置いておこう。少なくとも『主人公』と仮定しなくてもプレアの傍に居れば確実に何か分かるはずだ。
「――では以上です。学校が始まるまでの間はこの城に滞在してください」
考えている内に説明が終わったようだ。
魔帝が退出すると兵士や貴族たちも退出していく。
隊長に城の中を案内され、学校が始まる三月までの間は自由行動にして良いと言われた。訓練にも参加可能のようだ。
アジェンド城は全部で五階建てというなんとも贅沢で(いや、敷地の広い城だから当然と言えば当然)部屋と部屋の感覚が十m前後ある。
プレアの講義で知っていることだがこの世界はとにかく広い。
城や家も広く大きく、しかしまだ土地は余っているという現状だ。
要するにこの城を最初に建築した人は無駄に大きく作り過ぎたということだ。
夕食から使う食堂、大浴場、怪我をした時の医務室、明日から使う訓練場、中庭、兵士の部屋、魔王や魔帝の部屋、さっきの謁見場、魔法の訓練場、図書館、ギルド本部、納税局など二時間くらいかけて城内を回った。
大分広いが大体は憶えた。特殊能力も相まっているのだろう。
アジェンド城は世界最大国家だ。
全部で五城しかない城の中でも最も大きいとされる城だ。
地図で見たところ、アジェンド城は円型の城で高さ約300m、横幅は500mあるようだ。
更に城下町は5km前後あるらしい。あまりにも距離があるため、各門と町の中央、城の数か所に転移門がある。確かにコレは納得が行く。
近隣にも村や町が数多く点在すると隊長は言っていたな。
案内も程々に俺たちは個室へと案内された。
一人一部屋とは贅沢な、と思いつつ中に入る。
個室がいいか集団がいいかは俺たちの方で決めていいらしいから大半の奴が個室を選んだ。女子も同様だ。
先生たちは……途中から消え去ったので知らない。大方、この城で仕事やらを貰って働くのか、俺達と同じように冒険をする、もしくは何処かに再就職するのだろう。
とりあえず部屋に入るとそこには俺が寝ても余る位の西洋風の寝床が一つとクローゼットが一つと中には替えの服が三着と靴が二足入っていた。
後は小型の机と背もたれ付きの椅子が一つ置いてあった。本とかを入れられそうな棚もあった。そして何より洗面所と水道と台所がある。
ちなみに土足厳禁だから玄関に靴を置いてある。見た感じ2DLK位は有りそうだ。
さて、城下町にでも出てみるか。何があるのかも見ておかないと。
しばらく考えをまとめてから俺は部屋を出て城門前に移動した。
「街に出て来ます」
「あいよ、教会の鐘が鳴ったら戻るのだぞ」
「わかりました」
城門の兵士にそう言って街に出た。
嵩都「プレア……」
グラたん「死亡フラグだけは立てないでくださいよ?」
嵩都「馬鹿言え。俺は主人公だ」
グラたん「でも美形キャラって大抵死亡率高いんですよね……」
嵩都「……元の顔に戻してくれないか?」
グラたん「無理です。さて、次回予告です!」
嵩都「次回、冒険者ギルド……ってあれ? 普通のタイトルだな」
グラたん「そうですね」