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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第八十五話・虚飾の戦い

グラたん「ゲホゲホッ。第八十五話です」

嵩都「寝なさい」


~嵩都


 レニールの説明を終えた俺は部屋の中を歩いた。

 正面には巨大なクリスタルがあった。何だろうか?

 正面のクリスタルを覗き込むようにすると、クリスタルの中に移る自分の姿が歪んだ。

 異変を感じ取り距離を取った。

 グニャリと歪んだクリスタルから出てきたのは白銀の甲冑を来た俺だった。

 右手には白銀の剣ヴァルナ。左手には同じく白い剣クラムを持っていた。

 ――まさか自分自身とはな。

 ヴァルナクラムを出そうとしても手答えがない。

 つまり、俺の正面にいる俺が装備しているからだ。

 性能を知っているだけにこれからの事を想像して泣けてくる。

 そいつは一歩進み、俺を見て言った。



「よく来たな」



 そいつは昔からの親友のように振る舞った。

 いや、生まれた時から一緒だっただろうことを考えれば当然か。



「俺は本来のお前だ。この意味は分かるだろう?」



 分からないわけがない。それは本来の俺の姿だからだ。



「そうだな。それで、まさか俺自身と戦うとかか?」



 その推測は肯定された。



「そうだ。俺は本体であるお前の虚像。しかし能力は何ら変わりない鏡の俺」

「最悪だな」



 その強さは俺自身が一番良く知っている。

 それ故に少しだけ口元が吊り上がる。



「だろ? でも実は戦って見たかっただろ? 全力で戦える存在と」

「確かに」



 自分自身に対して俺はきっぱりと告げた。

 この間はプレアと戦ったが、あれは人間としての俺本来の実力でしかない。

 俺の全てを出した戦いはしたこともない――いや、する機会がなかった。

 そもそも全力を出したらどうなるかわかっていたから出せなかったとも言える。



「ちなみに報酬は?」



 今からこれだけ強い敵と戦うのに報酬ゼロじゃ萎える。



「勝ってからのお楽しみ――これでどうだ?」

「最高だな。楽しみにしておこう」



 俺は黒魔力を一段と濃くして纏う。というかこれじゃ俺が敵役みたいだな。

 あいつは白い魔力を纏って勇者としての俺自身の次の形態に至ったようだ。

 つまり、聖剣に秘められた最後のスキルはあの白い魔力か。

 終わったら使いこなそう。俺は自然と笑っていた。



「さあ、戦おう。全てをさらけ出し、欲望に餓えよう。――衝動の解放」



 あいつ――自分がそう言うと、部屋全体に何かの波動が行きわたった。

 そして俺の中にうずくまっていた何かが無理やり引き出された。

 まるで『あの時』のような不快な感覚。衝動のまま何もかも殺し、壊したくなる。

 最後に理性が、これは邪神の力の一つだと感じていた。



「ガ……ァアアアア!!」



 目が赤く染まり、闘争心を掻き立てられ、殺意の奔流が辺りにまき散らされた。

 完全に理性が吹き飛び、ただ目の前にいる奴を殺せと本能が叫ぶ。

 次の瞬間にあいつはもう、そこにはいなかった。

 その自分さえもと同じように殺意に飲まれていた。



聖天白撃フロウ・アパジメント



 自分がスキルを発動させると剣から衝撃波が迸った。

 スキルが発動された直後、俺は空中を跳ね、下がった。

 それを予期していた様に自分が剣を突き出し、突撃してきた。



加速かそく



 瞬間的に加速した自分が俺に向かって、残像すら見えないほど早く二回切った。

 だが、俺もそこで自分に対して袈裟がけをし、下がった。



神狼フェンリルバイド



 打って変わり今度は俺から動き、距離を詰めた。

 自分に劣らない速度で左右からの爪二連撃。

 自分はそれを的確に二本の剣ではじいていく。

 俺は黒魔力を剣状にして突きの構えを取り自分を撃ち抜いた。

 それも迎撃されたが、全部は防ぎきれずに数発が肩や腕に当たった。

 自分が下から上に剣を切り上げ、剣戟が起こり、俺たちの間に風圧が生まれ弾き飛ばした。

 ほぼ同じ様に着地し、相手の出方を伺った。

 お互いの顔には闘争の笑みが浮かび、目には一層強い殺意を灯らせた。

 俺は右手からラスサアル・ライ、左手からラスサアル・ファイアを繰り出す。

 続いて上下左右にラスサアル・ドライを設置し、発動。

 自分の兜の宝玉が光り、魔法がかき消される。

 十分だ。その間に俺は武器を作り終えた。

 邪神の魔力を纏った黒剣を二本。彼の絶対防御を突破できるように貫通力と破砕力を高めてある。

 加速し、振り下ろす。

 自分がヴァルナで受ける。そしてヴァルナの宝石が輝いた。

 俺はすぐさまに距離を取る。



「舞え、真空波!」



 俺が良く使う技故に読みやすい。

 距離を取りながら黒剣を投げる。そして素早く魔力を盾状に変えて真空波を防ぐ。

 黒剣は二刀で弾かれ、俺はもう一度剣を生成する。

 


聖雷ジ・レイ



 それを見越したように自分の右手五本から追撃の聖属性の雷が飛んでくる。

 あの魔法にはホーミングがかかっているため時間稼ぎだと分かっていても対処しなければいけない。



瘴気ヘルガー



 黒魔力を霧に変えて爆発力を高め、雷を相殺する。その間に今度は黒剣を八本生成した。

 そして瘴気はそれだけに留まらず、辺りに侵食していく。



聖快リブラ



 自分の鎧から辺り一面に清浄の光が放出されて瘴気が食い止められた。

 キリがないイタチごっこだ。そしてお互いに決め手がない。

 永遠の千日手とでも言おうか。 

 逆に言えば、一瞬でも相手を上回る攻撃を出せばそれで決着が付く。



「衝動の解放」



 どうやら俺に考える時間もくれないら―――ガァァァアアアアア!!

 殺し合いは永遠に続く。






~幕間


 嵩都が戦闘を始めてから二日が経過した。

 いまだに出てこない嵩都をレニールは観戦室でコウクラーナと共に昼夜を通して観戦していた。

 重臣も嵩都の無様な姿を見に来たのか来ていた。

 水晶の映像を見ると剣と剣がぶつかりあう音が響く。

 剣戟の応酬が速すぎるためにレニールは遅延魔法で映像の時間を引き延ばした。

 やがて明確に映ったのは、美しい剣舞だった。

 それは白銀の二本の剣と鎧一式を着た青年と、黒の魔力を纏った青年との戦い。

 白銀の方が剣をぶつければ、もう片方が受ける。

 魔力を纏った方が剣を打ち付ければ、白銀の方が剣や鎧で受けた。

 それが高速化され、剣の軌跡が浮かび、赤、青、黄、緑などの様々な色が部屋を描いていく。

 時折魔法が混ざり、一種の感動をもたらした。



「なんじゃ……なんなのじゃ、この剣舞は……」



 コウクラーナの言葉を聞いている者は一人もいなかった。

 皆が皆、この剣舞に見惚れていた。

 それは踊りのようであり、神に捧げる儀式のようでもあった。

 時に魔法を使い、時にスキルを使い、時には己の腕力で戦った。

 ――――それからまた数日が過ぎた。

 いよいよ両者の間に限界――いや、本当の限界が近づいていた。

 彼らは既に何度も限界突破を繰り返し、死線を潜り抜けた。

 そんな中、黒魔力の嵩都が次で終わらせるべく魔力を練り始めた。

 もう一人も同じようにありったけの集中と気迫を溜めた魔力を練り込んでいた。

 鎧は既に無く、上半身が裸で、他のもひしゃげて床に放置されていた。



「次で、決まってしまうのぉ」



 コウクラーナは口惜しい、まだ見ていたいという目と口調で呟いた。

 重臣もレニールもそれは同じであり、一同が頷いた。

 何時の間にか映像は竜の舞う空に映し出され、城下町は酒を片手に静まり返っていた。

 皆、食い入るように見つめた目はやつれ、隈が出来、それでも一挙一動見逃すまいと必死に画面を見つめていた。



 いつの間にか竜の里は静まり返り、大画面で放映されている剣舞を見ていた。

 唾を飲むことも、息をするのも忘れ、緊張感を漂わせていた。



 ――そして、両者が動いた。

 スキルは使わず、己の武だけを持って剣を交えた。

 白い魔力を纏った剣が黒い魔力で作られた剣に弾かれた。

 もう片方の剣は黒い魔力を纏った嵩都に突き刺さったが、それ以上は進まなかった。

 それと同時にもう一つの黒の刃がもう一人の肉を断ち、血が噴き出した。

 そして倒れる音がした。部屋に立っていたのは黒い魔力を纏った嵩都だった。

 その嵩都も満身創痍で、剣を支えにしながらもう一人の元へ近寄った。



「終わりだ」



 嵩都の声がした。もう一人の自分は心の蔵にまで刃が届いているというのに口元を釣り上げ、頷いた。



「お前の……勝ちだ。持って行け」



 自分の手から白の光が出て、白い魔力と白銀一式が嵩都の中に入った。



「――ゲホッ……報酬は勇者の覚醒……白き清浄なる魔力。ちゃんと使えよ?」

「……そうだな。ありがとよ、俺」



 ヴァルナクラムを受けとり、自分は満足そうに笑い、目を閉じた。



「この戦いは……生涯、忘れない」



 動かなくなった自分は突如ふわりと浮き、クリスタルの方へ向かっていく。

 そして自分がクリスタルの中に入って行く。

 それを目に焼き付けるように嵩都は見ていた。

 やがて、完全にクリスタルの中に入るのを見て、嵩都は地に伏した。



 嵩都が倒れても、誰も動くことが出来なかった。

 感動し、涙を流す者もいた。



「よくぞ戦い抜いた!」



 コウクラーナがそう言って手を叩いた。

 茫然としていた重臣たちも手を叩き、称賛の声を上げていた。

 それは次々に感染していき、里全体が咆哮を上げていた。



 後の竜史実に大罪の間を生きて出てきた最初の邪神として残ることになる。







~嵩都


 目が覚めるとそこは木で作られた天井だった。

 置き上がり騒ぎが聞こえる窓をのぞき込む。窓は低く、置き上がっただけで外が見えた。

 彩どりに輝く里はなんかの熱狂で城も城下町も賑わっていた。

 ある意味、その声で目覚めたとでも言うべきなのだが。

 目を開けても眩しくなく月の灯りが部屋を照らしていた。

 下には畳に近い編み草があり、その上に布団が敷かれていたようだ。



「起きたようじゃの」



 突然、そんな古めかしい、悪く言えば老人くさい言語が聞こえた。

 その声の主は良く見ると俺の腹の上に跨っていた。

 そう言えば少し重いと感じてはいた。



「……誰だ?」



 そう言うと声の主たる少女は眉を寄せた。

「もう忘れたか。私はコウクラーナ……こうして会うのは初めてかの」

 そう言われて俺はようやく思い出した。あの蚊帳の向こうにいた奴か。

 そしてコウクラーナが少し身じろぎしてのしかかってきた。



「――――ッォァ!」



 思いのほか勢いがあり押し倒され、そしてそれは激痛を伴う物でもあった。

 次の瞬間、疲れと筋肉痛が一度に襲い、倒れた俺は背中を浮かした。



「ぐぉぉ……」

「これ、動くでない。怪我人が無理をするな」



 ――のしかかってきておいて何を。

 そうは思ったが全身が痛み、顔も痙攣していて言葉が上手く出ない。

 そしてコウクラーナが徐々に、徐々に上へと昇ってくる。

 ――綺麗だな。出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるな。

 しかも鍛えられていることもあって美しいとも言える。

 着物――日本の和服に近い上質な絹を使った着物の様だった。

 少々着崩れていて豊満な胸が露出している。

 腹に跨っているせいか舐めまかしい白の柔らかく、それでいて筋力と弾力のある足が見えて太ももの辺りが露出していた。

 邪なことを考えているのを見透かしてコウクラーナが顔の辺りまで近づいた。

 そして聞く人が聞いたら爆弾になる発言をした。



「ほう、私に欲情しておるのか?」



 ――ない。――とは言い切れないが。



 首を横に振るがコウクラーナの眼はしっかりとその欲に滾っていた。



「ほう、ほう。……ずいぶんと欲求不満のようじゃの」



 ――なっ、ちが―――。むしろお前の方が――。



「言わずとも分かる。溜まっておるのじゃろう? では、久々に楽しもうかのぉ……病人には少々酷かもしれんがな」



 コウクラーナはそう言って服に手を掛けた。

 それを察知し俺は素早く目を閉じた。

 ――大丈夫だ。この展開ならレニール辺りが颯爽と来て止めてくれるはずだ。

 テンプレ通りならば―――。



「ああ、それと今は深夜での、この時間は誰もここへは来ない」



 それはある意味、超良くもあり、最高に悪い天啓だった。



「ふふふ、今晩は肉欲の宴としゃれ込もうではないか。今晩は寝かさぬぞ?」



 そう言う間にもスルスルと着物を脱ぐ音が聞こえてくる。

 そこで俺は思い至る。このままでは童貞が食われかねないと。

  そこまで考えるとガラガラと襖が開く音がした。



「そこまでですよコウクラーナ様。何が久々ですか。五百歳を超えても処女を保っていますのに」



 聞き覚えのあるレニールの声がした。

 ――五百歳か……。それはそれで凄いな。



「そ、それは仕方あるまい。生涯の伴侶が見つからないのだから。その点、嵩都は良いではないか。男前だし、熱いし、中々いけておるし」

「まあ、確かにそうではありますが……。とにかく、そういうことをしたいのであれば、ちゃんと手順を踏んでください」

「むぅ……やむを得まい」



 そう言いながら俺の上から降り、着物を再び着る音がした。



「もうよろしいですよ」



 レニールの声が聞こえ、俺は目を開けた。

 そこには着物をきちんと着たコウクラーナとレニールの姿があり、コウクラーナは少々むくれていた。

 ここで邪念を抱けば必ず何処からか視線を感じそうなので止めておく。



「と、いうわけだ。今すぐ結婚せい、嵩都よ」



 急に言われた俺は途中経過を思い出し、思考を戻して思い出した。



「いや、それは出来ない」

「何故じゃ!? 私の体はそんなに魅力がないむぐぅ!!」



 コウクラーナが悲鳴にも近い絶叫を上げ、レニールが必死にコウクラーナの口をふさぎ、嵩都に続きを促した。



「そんなことはないが、余にも妻がいる」

「誰じゃそやつは! 分かっておるではないか! 私自ら叩き斬ってくれようぞ!!」



 再び癇癪を起したのでレニールが失礼、と言ってコウクラーナの首を絞めた。

 コウクラーナから『クエッ』という情けない悲鳴が上がり、冷静になったのを見はからってレニールは手を放した。



「ゲホッ、ゲホッ、やるではないかレニールよ」



 そのレニールの表情は一定の憐れみと呆れが浮かんでいた。



「はぁ……邪神様もお疲れでしょうし今日はこのくらいにしておきませんか?」

「――だが断る!」



 と、威勢よくコウクラーナが返した。

 その答えを聞いた瞬間、レニールの額に青筋が浮かんだ。



「このくらいにしましょう? あまりしつこいと嫌われますよ」



 そう進言するとコウクラーナは息を詰まらせた。

 どちらが上の立場か一瞬分からなくなった。



「……仕方ないのぉ。……それはそうとレニール、何故私がここにいると分かったのじゃ?」



 今度はレニールが咳き込んだ。

 その意味は明らかすぎるくらい明らかだった。



「さて、私は失礼させて頂きます」



 自分の不利を悟ったレニールは素早く立ち上がり、襖を開け、コウクラーナの腰に手を回し、一気に担ぎ上げて去って行った。

 去り際に『まさかお主……!』と聞こえたのは気のせいではないだろう。

 そしてそのあとに続く言葉も容易に推測できた。


グラたん「次回、竜の文化」

グラたん「皆さんも風邪には気を付けて下さい」


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