第七十七話・伝承の守護者
ヴェスリーラ「皆さん、ちゃんと学校には来てくださいね?」
嵩都「はい」
プレア「嵩都と一緒なら行く~」
博文「分かってます」
ペルペロネ「ククク、仕方あるまい」
ヴェスリーラ「……どうして四人しかいないのでしょうか……」
ヴェスリーラ「そんな第七十七話です」
~嵩都
アジェンド城に戻ってきた。
当然ながら筑笹不在で学校は朝から大騒ぎだ。
Sクラスも随分と過疎化してきた。
当初は十人いたのに今じゃ四人と泣きたくなる少なさだ。
今いる四人というのはご存知俺、プレア、ペルペロネ、そして斎藤だ。
他はサロンへ行ったりボイコットしているようだ。
俺と斎藤、ペルペロネは魔法大好きなので授業は加速のスパイラルを強いられている。
プレアは俺と一緒なら何でも良いようで、時期が近づくに連れて依存度も上がっているような気もするが――授業も食事も果てには風呂まで一緒になっている。
寝床? HAHAHA、今更何を。
魔法授業を担当するのはヴェスリーラだ。
筑笹を心配するような素振りを見せながら、持前の気弱さが相まって気丈に振る舞っているという雰囲気を醸し出している。
魔王軍は筑笹や魔帝のことを知らないため必然的にペルペロネが知ることもない。
つまり、ヴェスリーラに騙されて斎藤たちはより一生懸命魔法の授業を受けている。
武術の授業もプレアを除いて異次元対戦になりつつある。
俺はプレアに付きっきりで相手をしているため斎藤とペルペロネの戦いになる。
人間嫌いの魔族だがペルペロネは全く気にしている様子はなく、むしろ魔王軍の幹部のはずなのに好敵手に出会ったように斎藤と毎回ガチバトルしている。
斎藤は魔法よりも武術の才能がある。傍から見ていれば明らかなほど動きが良い。
魔法科Aクラスの連中が見たら悲しくなるような現実だ。
そんな二人だが、最近ふと見れば一緒にいる時間が多くなってきている気がする。
さて、それも終わって昼休みになった。
プレアへの嫉妬はとどまることを知らず、もはやこの学園の何処に居ようとプレアは狙われる。
食堂には必ずと言って良いほどキャンスたちが陣取っている。
一度は時計塔で弁当を食べようとしたがプレアが昇ると何処かしらか邪な視線が来るので今ではルーテのいる理事長室で食事をすることになっている。
流石に理事長室までは来ないようで今のところ安全圏だ。
そこへ博太や亮平たちも来て大体三人から多いときで十人くらいで昼ご飯を食べている。
流石に弁当を作るほど暇はないため大抵亮平たちは学食で買ったりしている。
俺とプレアはどうにもならないので俺特製の弁当を持参している。
そこにルーテやヴェスリーラが増えようと大差は……ない。
時折、時間が余った時には亮平たちの分も作ったりする。
時間の関係上作れないことの方が多いので作れるときに作っているような状態だ。
そして最近、プレアの影響かルーテもちょっとずつ俺に接近してきている。
「そういえばもうすぐ闘技大会ね」
ルーテがそう言いつつ昼食を取りながら書類を見ているようだ。
少々行儀が悪いがそれだけ忙しいらしいので口に出すことはない。
「闘技大会?」
「嵩都は今年入ったばかりだから知らなかったね。闘技大会というのは魔法科と武術科を総合して競わせるチーム戦――っていえば分かるかな?」
「大体は分かるぞ。続けて」
「うん。その二科のS~Ⅽクラスで予選を行って優勝と準優勝した上位二組が、ボクたちなら武術科の上位二組と総当たりで戦うことになるの」
「総合で優勝したチームには報奨金と賞状、更に卒業後我が国の騎士団幹部候補生として就職できる仕組みになっているわ」
「なるほど。そのチームは何人なんだ?」
「最大四人だね。武術科と魔法科の生徒が組んでもいいらしいよ」
「……そうか。プレアは参加するのか?」
するとプレアは聞く人が聞いたら爆弾にしかなり得ない発言をした。
「うーん。出たらまた嫉妬の対象になるし勝てば恨みを買うしだからどっちでもいいんだよね。それに相手がSでもボクにとったら雑魚同然だしね」
「はは……。俺も雑魚なのか」
「あ、いや、嵩都は違うよ。本気で戦ったら五分かそれ以上だと思っているからね」
本気って――俺、結構強いと思うんだけど。それを五分と言えるプレアは凄い。
「なら、戦ってみればいい話だ。個人出場も可能だろ?」
ルーテを見て問いかけると頷いた。
「ええ。それに私も見てみたいわ。プレアの実力って実はまだ良く分からないのよね」
「ボクが強すぎて相手がいないからね」
「弓限定でな」
「むー、嵩都の意地悪」
茶かしたらプレアの頬がむくれた。その様子は俺たちに和やかな笑いを誘った。
「――とにかく、やってみても面白いと思うがプレアはどうするんだ?」
「……いいよ。嵩都とは一度本気で戦ってみたいし」
「じゃ、この書類に名前を書いてね」
すかさず乗り気のルーテが俺たちに出場書類を渡した。
名前を書いてルーテに渡すと大切に保管するのかストレージに仕舞った。
プレアは俺の手の内を良く知っている。
逆に俺はプレアが弓を使ったり魔法を使う事くらいしか知らない。
つまり、プレアの正確な戦闘能力を俺は知らなかったりする。
能力全開で戦ったら間違いなくこの城は焦土か凍土になるだろう。
――そこらへんは多分フィールド結界を張るのだろうと思っておく。
それからまた話したりからかったりしている内に弁当を食べ終わり、予鈴が鳴った。
「そろそろ行こうか」
「そうだね。それじゃルー姉、放課後にまた来るね」
「いつもありがとうね」
ルーテに見送られて俺たちは次の授業に向かった。
闘技大会は六月六日に開催する。
期間は、ほぼ全生徒が参加するので一週間近くかかるらしい。
そんな説明を帰宅後、ルーテから聞いていた。
夕食が終わり団欒としていると亮平と博太が来た。
「嵩都、今度の土日って何か予定はあるか?」
俺は日程を思い起こし、何もないことを確認する。
「いや、特に予定はないな」
「そうか。なら久しぶりに依頼を受けに行かないか?」
この闘技大会前のことを考えるに討伐系の依頼を受けて俺たちの力量を見るため、もしくはスキルや魔法のくせを見抜こうと考えたからだろうと邪推する。
「いいぞ。行こうか」
「助かる。実は今度の闘技大会は俺たち四人で出場しようと思っていたんだが連携とかしたことなくてな、極力自分たちで連携するが悪いところがあったら教えてほしいと思ってな」
――それは俺たちに弱点を晒すようなものだ。
だが、既に俺たちの間には大差があるので教えてやってから堂々と戦う方が面白いかな。
「なるほど。だが、それを俺たちに見せていいのか?」
「もちろん嵩都たちが見ていないところで対策は立てるぞ――と、そういえば嵩都たちはやっぱり組むのか?」
「いや、今回はプレアと本気で戦うから別々だ」
そういうと亮平たちの顔が青褪めた。
「は、ハハ……これで総当たり戦とか……」
「三位でもいいな、うん。命大事に」
「何話してるの?」
亮平たちが歯をガチガチさせているとプレアたちが風呂から上がったようだ。
「ああ、今度の土日に六人で依頼を受けに行こうかなって話。プレアは行けそうか?」
「行く!」
即答。一瞬の逡巡もなく答えた。
「分かった。これは決まりで良いな」
「そうだな」
「さて、俺たちも風呂に行こうか」
亮平たちは先ほどの話を頭のどこかに封じたようなさわやかな笑顔だった。
土曜日の朝。いつも通りの朝を迎えた。
朝食を食べ終えた俺たちはギルドに向かい、やはり討伐系の依頼を受けた。
しかも依頼は例の如くAクラスの依頼だ。ランクアップした俺も参加できる依頼だ。
ちなみに俺は特務をやっている都合上Sランクに昇格している。
依頼内容は最近出現した魔王軍の影響で活性化した魔物の討伐。その中でも一際強力な魔物がエンテンス 城のダンジョンに出没しているようなので討伐して欲しいということだ。
ダンジョンにもランクがあり今回行くダンジョンはさほど強いわけでもない。
ランクB程度の人間でも入念に準備すれば余裕でクリアできるレベルだ。
さて、俺たちも道具屋でポーションや食料を購入した。
エンテンス城なら俺が転移で飛べるので馬も要らない。
「準備はいいか?」
西門前で皆に声をかける。
ふと疑問に思うが、クロフィナさんは一応王女だけどいいのかな?
まあ、亮平が護衛するという前提条件があるから良いのだろう。
「全員いる。道具は持った。いいぜ」
亮平の言葉に皆が頷いた。
「それじゃ、出発。転移!」
俺の服に皆が捕まり転移の光が包むと、回りの連中から羨望の視線があった。
なんか優越感。しかも美男美女のパーティーなので注目度が強かった。
エンテンス城には一瞬で付き、少し歩けばダンジョン自体にはすぐつくようだ。
その前に俺たちは新たに加わったクロフィナさんのために自分たちの立ち位置や使える魔法の情報交換をした。
このパーティーだと、剣を使う亮平、博太、爪を使うフェルノが前衛。
クロフィナさんは魔法師のようなので後衛に回ってもらった。
後衛には同じくプレアがやはり弓で援護する。威力は言わなくても良いな。
俺はその間の中衛。前衛をしつつ回復や援護魔法を担当することになった。
言っちゃ悪いが俺とプレアが抜けたらかなり危険な布陣だ。
それを亮平に言ったらその時は博太とフェルノが前衛、亮平とクロフィナさんが後衛を担当するらしい。
そうこう話しているとダンジョンに着いた。
雑魚戦でも連携を重視した動きをするため攻略はゆっくりとしたものだった。
所詮は雑魚なので俺たちが出る幕はない。後方から亮平たちの連携を見て注意するくらいだった。
注意と言っても亮平が前に出過ぎていたり支援魔法が途切れていたりするくらいだ。
四人パーティーだとかなり理想的な布陣だ。
前衛は二人で火力もあるし、回復は勇者二人による超回復、更に後方から王宮魔導士並の魔力を持った魔法師の援護。
クロフィナさんは正直足手まといだと思っていたが意外に戦えることが分かった。
「なあ、俺たち要らなかっただろ」
「ボクもそう思う」
この調子ならボス戦もこのままでいいだろう。そう思えるくらいには強かった。
そう、きっと俺たちが居なければ闘技大会でも優勝を狙えるくらいには強い。
スキルLvも上がったようで目に見えて亮平たちは強くなっていく。
もちろん俺もその間手をこまねいていたわけじゃない。
こぼれて此方に向かってくる雑魚を的にプレアから弓の扱い方を教えてもらっていた。
これが意外と楽しい。
狙い、撃つ。これだけなのに僅かな風向きや引き絞る弦の強さによっても威力が変わると奥が深い。
弓はプレアの予備を貸してもらっているが中々の強弓で固い。
プレアに言わせると常人では決して引くことは出来ないほどの強さらしい。
それを軽々と引いて五km先まで矢を飛ばすプレアの腕力は一体どうなっているのだろう。
単純な腕相撲だと勝てない気がする。
見た感じ筋肉があるようには見えないし魔法で強化しているわけでもない。恐ろしい。
ちなみに弓スキルというものがあるらしいがプレアはそれを一切使っていないらしい。
例え相手が同じ弓使いでスキルを使っても普通に放った矢で相手の矢に当てて来るしその上矢を弾いて相手の心臓に当てる技量がある。――実際やられた俺だから分かる。これは危険極まりない武器だ。
しかもプレアは本宅に矢を貯め込んでいるようで異空間収納というスキルを併用して連続で絶え間なく矢を放ってくるため真空波でも迎撃できない。
――やべぇ……これは本当に負けるかもしれん。
プレアの技量に戦慄した俺はこの日、冗談なしに対策を立てつつ自分自身を強化するために行動することを決意した。
それはそうとプレアの弓は自作のようで打つたびに澄んだ音が鳴る。
なんというか心に響くハープのような音が鳴る。
さて、ダンジョン攻略も半分を切ったところで俺たちも参戦することになった。
布陣は朝に決めた通り。特に滞ることなく魔物を駆逐していく。
ちなみに魔王軍の魔物とこの世界の魔物は違うので魔王軍のヘイト値を上げることはない。
そんなこんなでやってきました最深部。
どうやらこの先にいるボスが凶暴化しているようだ。
亮平が蹴破るようにして開けるとその先には炎を纏った鳥がいた。
伝承の守護者・フェニキア
フェニックスではないらしい。
それにしても伝承ってなんだ? まあ倒せば分かることか。
地形は断崖だな。先に誰かと戦っていたようで地形が壊れて凸凹している。
「キュァアアア!」
「来るぞ! 嵩都!」
「分かってる! ――エル・イモータル・ガード!」
詠唱は面倒くさいから略した。
イモータル・ガードは炎系統のダメージを軽減する属性魔法だ。
薄い膜のような赤い物が張られていく。
「よし、博太、フェルノは回り込んで攻撃してくれ!」
「了解!」
「分かった……」
博太とフェルノが亮平の指示で動いた。
このパーティーの指揮は亮平がやっている。意外と視野が広く指揮官向きだ。
俺も動き博太たちに攻撃力強化を掛ける。
一斉に動き始めた俺たちに対してフェニキアはまだ攻撃対象を悩んでいるようだ。
遠慮なく俺たちは攻撃を開始する。
戦闘は基本的にヒットアンドアウェイで行われる。
前衛が攻撃し、後衛の魔法師がその間に詠唱。前衛が離れると同時に魔法を撃つ。
先の戦いの成果か動きに阻害はない。いわゆるハメ状態というやつだ。
それに苛立ったフェニキアは断崖の上空に移動しようとする。
そこからくる攻撃は必然的に魔法かブレスか羽を飛ばすかの三択だ。
だが、こちらには超遠距離射撃ができる弓使いがいる。
矢が三連射され、その全てが右翼を貫き、フェニキアはバランスを失って落ちてきた。
そこから俺がバインドを詠唱してフェニキアの動きを縛り、前衛がリンチにするだけ。
うん、中々残虐だと思う。
十分と経たない内にフェニキアのHPバーが赤くなり、やがてゼロへと落ちた。
見るも無残な惨殺をして得た勝利はなんか後味が悪かった。
~おまけ
放課後、亮平たちは校内の掲示板の前に立っていた。
「闘技大会?」
「そうよ。学内最強を決める戦いでもあるのよ、リン」
隣にいるのは第一王女のクロフィナだ。後ろには博太とフェルノ、大典、猛たちもいる。
「で、どうするの?」
クロフィナに問いかけられて亮平は少し思案した。
「そうだな……。大典たちは参加するのか?」
「俺と猛たちはもうチームを組んで提出してきたぜ」
大典がそういうと亮平は頷いた。
「そっか。四人までだったな。じゃ、博太たちはもう決まっているのか?」
「参加しないかとは誘われたがまだ迷っていてな。正直狙うなら優勝以外はないから断っていたんだ。だが、亮平たちとなら勝機もあるな」
「そう言ってくれるのは嬉しいが言葉はもう少し選んだ方がいいぞ」
亮平の苦笑いにフェルノが肯定した。
「……時折博太は辛辣になる」
「――すまん。無自覚だった」
博太が反省するとフェルノが博太の手を握った。
「それじゃ、この四人で決定でいいか?」
「いいわよ」
「クロフィナさんは出場できるのか?」
「問題ないわ。ちょっと理事長にお願いするだけよ」
「……」
三者とも苦笑いしか出てこなかった。
亮平たちは大典たちと別れ、事務室に書類提出に向かった。
(だが、上位四組――魔法科の二組中一組は嵩都たちで確定だな。……組んでいればの話だが。後で聞いてみるか。これで筑笹がいれば――いや、筑笹は今だ行方不明なんだ。嵩都も知らないと言っていたし……。とにかく今は力をつけよう。自力で嵩都と互角に戦えるくらいには)
亮平たちは書類を提出をするため歩き出した。
亮平「完全なる胸の炎は何者にも消せやしない……我らフェニックス!」
クロフィナ「フェラノクス!」
博太「フェルノックス!」
フェルノ「フェルニクス」
プレア「フェルエニックス」
嵩都「フェニキア」
亮平「なんで皆違うんだよ!?」
クロフィナ「次回、謎の書物庫」
全員「フェニックス!(謎のポーズ)」
亮平「ぐあ! 出遅れた!」




