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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第六十一話・後味の悪い終わり 外伝・博太と姉

グラたん「第六十一話です」

博太「外伝もあるのか」

嵩都「ネタが思いつかなかったからだろうな」

グラたん「それは言わないお約束です」

~嵩都


「やめ……て……」



 俺の手の中でクロフィナが息絶えた。冗談だ。気絶しただけだ。

 邪神モードを切って俺は深く後悔する。

 ――はああぁぁぁぁ。やっちまった。

 途中から本気で面倒くさくなって使っちゃったがいかんな。

 邪神モード、非常に危険だ。言動もそうだがそれ以上に加虐性が増している。

 仮にも親友にやっていいことじゃないだろ、あれ。

 しかもあの笑い方は自分でやっても狂気性を感じた。

 なんか無性にあの事件を彷彿させる笑い方だった。

 それはそうと俺TUEEEな。いやもう一方的。

 俺と真剣勝負できるのってもう魔神くらいじゃないか? やるつもりはないが。

 それにしたって亮平たちは弱いな。

 俺の苦手分野の正面戦闘で俺に勝てないとか、今まで何してたんだと言いたくなる。

 言ったら言ったで絶交確定なので心の内だけに留めて置く。



「終わったみたいだね」



 司だ。ずっと城壁の上から見ていたのは知っている。

 見ていたのなら手伝ってくれれば良かったのに、と内心で愚痴る。



「いやぁ、すごい惨状だねぇ」



 周りを見渡しても酷いことになっている。

 ST製の大型魔道兵装は大破し、部品はバラバラ、装甲ははじけ飛んでいる。

 亮平が使った必殺攻撃的な奴の性で俺が立っていた位置も小さなクレーターになっている。

 その亮平を蹴り飛ばしてぶつけた城壁も破損している。

 


「そんな涼しい顔で呑気な感想を言っているならこいつらを獄に入れるの手伝ってくださいよ」



 ゲートを開いて亮平たちを中に放りこんでいく。

 行先は各牢獄内に設定してある。

 牢獄はスキルは勿論、魔法も固有武装も固有魔法も使えない封印がされている。

 実際この封印を逆ベクトルで盾とか剣に付与して魔王とタイマンしたらいい勝負になると思う。

 いや、実際俺なら出来るけどさ。それじゃ面白くない。

 全員を回収し終えて最後に残ったこのガラクタはST工房にいるマベレイズさんにリンクして引き取りに来てもらった。

 その際にどうしてこうなったのかと大典の身柄の事情を説明しておいた。

 国王のところにも戻って報告し、報酬を貰った。

 今回の戦犯は亮平になり、クロフィナは名目上唆されたことになった。

 クロフィナの護衛はメトリスが担当することになり、亮平は無期限の投獄と決まった。

 実際は死刑になりかけたが、そこは俺が頑張って交渉して取りやめて貰った。

 最悪、処刑の事態になったら強引に魔王軍入りして貰うが。

 筑笹たちの処分は五月までの投獄ということになった。

 勇者になっても思い通りにはいかないということだ。

 まあ、なんというか後味の悪い戦いだった。






 五月に入り、筑笹たちは無事釈放された。

 魔王連合軍の用意は最終段階に入り、邪神軍も軍備を整え終えた。

 クロフィナは一足先にハイクフォックへ向かった。

 筑笹たちはまた何かを懲りずに画策しているが命令がない限りは放置しておこう。

 大典はST工房に引きこもって出てこない。何をしているかはわからない。

 博太とフェルノは両親に怒られ、教師たちから自宅謹慎が言い渡されて実家の料亭の手伝いをしている。

 たまに亮平の様子を見に行くが完全に心が折れたのか何を言っても無言だ。

 しかし亮平には悪いがこちらにも予定がある。無理やり立ち直ってもらおうか。

 今の亮平は力を欲しているはずだ。それも圧倒的かつ俺に勝てるほどの力を。

 俺に勝つのは無理でも化け物になら出来る。

 合成獣――それも邪神が手掛ける最高傑作の獣を亮平が望むならくれてやろう。

 正直、先日この話を改めてプレアから聞いた時は思わず反対しかけた。

 言っちゃ悪いがプレアは外見が人間なだけで中身は正真正銘の化け物だ。

 その実態は俺も見たことがないしプレア自身も完全に開放したことがないそうだ。

 そんなプレアと同じように俺が亮平を改造するのはある意味プレアを改造した下種に成り下がるような行為だ。

 だが、これはあくまで感情論だ。俺はそれを切り捨てて今、邪神の衣装を身にまとって亮平のいる地下牢に来ている。

 亮平は相変わらず引きこもりのように膝を抱えているいる。

 分かっていたが亮平は精神が弱い。そんなことは今はどうでもいいな。

 俺は牢に近づき、亮平に声をかける。







~博太 姉と対面する


 嵩都に一方的に蹂躙された次の日、俺は事前に約束していた姉貴のことを思い出して牢を一時的に出してもらった。

 約束の時間通り九時に俺たちは西門に来ていた。



「ねえ、博太。博太のお姉さんでどんな人なの?」



 隣にいるのはフェルノ。俺の嫁だ。狐の獣人で身長が小さい。

 それを気にしているのかネタにすると怒る可愛い嫁さんだ。

 ふとフェルノと最初に出会ったときを思い出す。

 最初は町角でぶつかるという恋愛ゲームかというほどのベタな出会いだった。

 その時のフェルノは家の、料亭の仕入れ品を見定めに市場に来ていた。

 俺も夕飯をどうしようかとフラフラしていたから注意不足だったのは否めない。

 そこでフェルノとは別れたものの、またすぐに出会うことになる。

 出会った場所は新企業の川城商店。あの学校一の引きこもりが市場で無双してやがった。

 それがいけなかったのか川城の奴は地上げに遭っていた。

 それに立ち向かっていたのがフェルノだ。

 地上げの野郎共はフェルノに暴力を振るおうとしていたので、俺がアロンダイトを引き抜いて庇った。

 アロンダイトは水の剣だ。文字通り、水を出したり纏ったりできる。

 俺は地上げ団体を水流しの刑に処した。

 結果として地上げ団体はすぐに兵士に捕縛され、川城にも恩を売れた。

 フェルノには助けて貰ったから、ということで俺はソルヴィー亭に招かれた。

 玄関を潜ると、そこにいたのは銀髪の強面ウルフだ。

 フェルノが事情を説明すると、強面ウルフことギンさん(俺はおっさんと呼んでいる)に決闘を申し込まれた。

 そこへ狐の獣人さんフェルノ母ことハルさんが現れ、おっさんを叩いて止めさせた。

 しかしながらこの時のおっさんは止まることが無かったので俺は命をかけた決闘に挑まされた。

 決闘中、なんでこんなに戦闘が出来る人が料亭なんてやっているんだと思った。

 アロンダイトの性能に負ぶさった感は大きいが、俺は勝利した。

 ちなみにその後も何かと戦わされることになる。

 おっさんに気に入られた俺は無事に料理にありついた。

 美味ぇえ!! それが最初の言葉だった。フェルノ曰く、当然、らしい。

 料理を食べ終わった後、俺はおっさんからここで働けと言われた。給料も出すし、あの美味い料理の賄いも出す、ついでにフェルノと付き合えと言って来た。

 ハルさんが要約してくれると、フェルノは人見知りの性格だから友達が少ない。俺に友達になってほしいのだと。それにフェルノが友達――知人――男性を連れて来たのは初めてだったらしい。

 フェルノ曰く、危機を助けた俺は白馬の王子様だったようだ。

 一目惚れというわけではないが、当時はお礼がしたかったと言っていた。

 他にしたいこともなかった俺はソルヴィー亭で働くことになった。

 ――そう、貴族や王族御用達だとは知らずに。

 後に思ったが、絶対内容を隠されていたと思う。

 ちなみに俺の事を勇者だと知ったのは魔帝様が亡くなった後だ。

 それで待遇が変わるかと言えば、変わらなかった。

 それで俺とフェルノだが、最初は事務的挨拶に始まり、料理の話題、趣味、学校などを経て少しずつ距離を縮めていった。まるでそうなるのが当然だったように俺たちは仲良くなっていった。

 おかげで俺の料理や家事の腕も上がった。

 ――それでも嵩都あんちきしょうに勝てないのは腹立たしい。

 それとおっさんは嵩都の実力を見抜いているようだった。何時か料理で戦ってみたいだとさ。

 そうして学校も始まり、同じクラスになり、隣の席というベタベタ展開だ。

 俺たちの仲もおっさんとハルさんは認めている。

 まあ、婚約を口に出したらおっさんが斬馬刀と肉潰しの鉄球を持って来た時は肝が冷えた。 

 そのまま決闘に発展して戦った時はマジで死を覚悟した。

 あの時ほど毎日鍛えていて良かったと思う日はなかった。

 最も、嵩都にくたらしいあのやろうには無意味同然だったが。 

 フェルノの弟と妹さんとも仲良くさせて貰っている。

 弟の方はロンと言いフェルノ同様に狐の獣人だ。妹の方はランと言っておっさんと同じ色の狼ッ娘だ。

 まあ、一緒に働いているから仲良くなれるのは当然なんだけどな。

 あれ、何の話してったけ? 

 ああ、そうだ。姉貴だったな。



「うーん、なんというかブラコンをこじらせた異形種とでもいうべきか……」

「ふぅん。本人が背後にいるのに本音を言える博太は尊敬できる……」



 ――はっ? 殺気!

 俺はすぐさま姿勢を低くして、その頭上をなんか鋭い刃物が通り過ぎた。

 グリッ、と城壁に一点の穴が空いた。くそっ、いつも通り無駄な破壊跡が無いから怖え!



「このパターンは間違いなく理不尽な暴力の権化、姉貴!」

「誰が暴力の権化よ! この愚弟!」



 俺は一度距離を取って背後を見ると中々に美人なお嬢さんがいた。

 一番? そりゃフェルノだろう。



「誰?」

「流石は愚弟。こっちでも変わらずの馬鹿ね。私よ、鈴木明日香。あんたの姉」

「いえ、人違いです。貴方のような美人姉貴は知りません」



 即座に背後に回られてネックを絞められた。

 馬鹿な! この俺が反応出来なかっただと!



「ぐぅ――」



 ――――ゴキャッ



 そしてそのままジャーマンスープレックスでとどめを刺された。

 俺は頭を押さえながら抗議する。



「痛ぇな! マジで頭割れるぞ、姉貴!」

「あら、やっぱり分かってんじゃない」

「こんな初対面で暴力する姉貴、俺は他に知らねえ。間違いなく姉貴だな! で、なんで姉貴がこの世界にいるんだよ」

「あら、居ちゃ悪い?」



 姉貴は悪びれもなく腕を組んで高みから見下してくる。



「いや、嵩都から聞いたが転生――つまりは一回死んだんだろ? なんで死んでんだよ」

「愚弟に会いたいがため……それじゃ理由にならない?」



 ――重度を超えた超度のブラコンが!

 だが、こういう姉貴だったと俺は思い出す。



「まあ良いや。なんにせよ家族に会えたことは嬉しいな」

「まあ、そうね。それで、そちらの可愛い子が私の義妹?」

「ん、ああ、そうなるな。ほら、フェルノ」



 俺が押し出すとフェルノが前に出て姉貴に頭を下げる。

 人見知りを必死に隠そうとしているのが実に可愛い。

 ついでにいうと頭と共に耳が前に倒れている。



「初めまして、フェルノ・ソルヴィーと言います。博太は夫です」

「獣耳……」



 姉貴は喉をごくりと鳴らし、ローブの中で手を厭らしくわきわきさせる。

 俺の目からはそう見えた。

 それと同時に脳内警報がフェルノと姉貴を一緒にさせてはいけないと言っている。



「はい?」

「あ、ううん。何でもないの。博太の事よろしくね」



 そんなことをおくびにも出さず姉貴は堂々としていた。



「はい。末永くお傍に仕えさせてもらいます」



 初対面の印象は良さそうだな。



「取りあえず場所移動しようぜ。城下町広いから案内するよ。俺は大体アジェンド城にいるけど姉貴はいつぐらいまでここにいるんだ?」

「そうねぇ。五月の半ばくらいまではここに居ようかしら」



 そう答える姉貴はモデルなんかよりも美しく見えてしまった。

 ――馬鹿か俺は。実の姉に何を考えてんだ。

 ……ちょっと待て、それはあくまで精神論。肉体的には――。

 俺は先にその可能性に思い至ってよかったと思う。

 でなければ多分姉貴は間違いなく俺のことを襲っていただろう。

 だが、先に分かれば対策が立てられる。

 とりあえずは姉貴を観光させるとしよう。

 俺たちは城下町に向けて歩みを進めた。





 俺と姉貴は兄弟の仲では極稀の部類に入るほど重度のブラコンだ。

 姉貴の方は実の姉弟間で妄想出来る程だ。

 それというのも俺たちにはそれだけの過去がある。

 地球上で、俺たちの家庭はごく普通の一般家庭だった。普通の幸せな人生を送れると思っていた。

 あれは旅行に行った日だったか? 背後からの衝突事故によって両親は死に、俺と姉貴は重症だった。

 意識が戻った後に医者から両親の事を聞かされた時は絶望した。

 あの日だけは姉貴と一緒に泣いた。ずっと、ずっと泣いた。

 その翌日に叔父たちが来た。どうやら俺たちを引き取ってくれるそうだ。

 だが、不幸はそれだけでは終わらなかった。

 叔父たちは引き取ると称して両親の遺産を全て掻っ攫って行った。

 そして俺たちは捨てられた。

 典型的と言えば典型的だが、小学生だった俺たちは路頭に迷った。

 近くの友人を頼ったこともあった。寝泊まりするためだけに友人を作ったこともあった。

 裏切られる、また裏切られると当時は人間不信に陥っていた。

 そんな中で姉貴だけは信じられた。お互いがお互いを求めていたのかもしれない。

 ある時、俺たちは友人の伝手で俺が通っていた学校へ進学を勧められた。

 いや、正確には俺たちの境遇を知ったあの学校の校長が来た。

 天啓だとも思った。寮もあって生きるために必要な物が揃っている環境だ。

 俺と姉貴は疑心暗鬼になりながらもそこへ行った。

 最初はやはり二人でいることが多かったが、姉貴が一歩を踏み出し、その後に俺も一歩を踏み出した。

 やがて俺は人間不信から抜け出して亮平たち友人を作ることに成功した。

 姉貴との関係は時折噂になったくらいだが、今でもそれなりに依存してしまっているのは変わらない。

 敬愛を飛び越えかけている――いや、姉貴に関しては飛び越えている。

 それはこれからも変わることはないだろう。

 この世界に来ても姉貴は俺に会いに来てくれた。それは純粋に嬉しかった。



 後日談だが、俺は嵩都にこの前借りた三十六万エルを返却して、それと同時に先日のお礼を言うと馬鹿でかい貸し一つになった。

 姉貴のリンク波長が分かったためこれからいつでも会うことが出来る。

 姉貴はいたくフェルノを気に入り、気が付けば膝の上でモフモフしていた。

 敢えて、何処とは言わず、フェルノが喘いでいたとも言わない。


嵩都「それでもって次回もまた外伝と」

グラたん「暗い話は書いていてモチベ下がります」

嵩都「確かにそうかもしれないな」

大典「次回、俺の外伝だぜ!」

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