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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第五話・召喚された意味……

グラたん「第五話です!」

嵩都「びっくりするぐらいくだらない理由だったがな」

グラたん「嵩都さん、レッドカードです」


「さて、異世界人の皆さん。先程はご迷惑をお掛けしました」



 魔王が挨拶する。声は透き通るように良く通った。



「改めてご挨拶を。私は第十二代目魔王であり、アジェンド城第二王女アネルーテ・スファリアス・アジェンドと申します」



 そう魔王が名乗った。長い名前だけどすんなり頭に入って覚えた。

 これはスキルのおかげかな? 理解習得だったか……理解=記憶とか言語を理解するとでも憶えておけばいいか。



「久しいな」

「ええ、三年ぶりかしらね」



 国王と彼女が顔を合わせる。

 前にもあっていたのか……。三年ってことは、今は戦争の最中か?



「一体、魔王が何の用かな。大方の予想は付いているが」

「それなら話が早いですね。私達は先日、突如として消えた魔剣レーヴァテインを追ってきました。反応がこちらにあったので向かってきた次第です」

「そうか……」

「それで何故勇者を召喚したのですか?」

「えっと、それは……」



 ん? 王がなんか戸惑っているな。手伝ってやるか。



「あ、ちょっといいですか? 王様に変わって俺が説明します」

「そう? じゃあお願いします」

「あ、ちょっ―――」



 王が何か言おうとしたが俺の方が上手く説明できる自信がある。

 俺は魔王にこれまでの経緯を説明した。

 すると魔王は顔に手を当てて呆れて首を振った。



「お母様を倒そうなどとは……一体何を考えているのですかお父様!!」

『はぁ!?』



 俺たちは声を揃えて驚いた。

まさかの親子……いや、あり得ないだろう。

 でも似ている感じもする。顔つきとか。



「最近、音沙汰がないと思ったら……」

「す、全て大臣が悪いのだ!!」



 魔王が言い切る前に王は大臣に罪を擦り付けた。



「うぇぇ! 元はあなたの提案でしたよ、国王様!!」

「私は悪くない、絶対に悪くなぁぁい!!」



 うわっ、いい大人がダダ捏ねるところなんて初めて見たぞ。



「国王様、もう年貢の収め時でしょう。諦めて投降しましょう。貴方が殴られればそれで全て丸く収まるはずです」

「嫌だ! 氷漬けは嫌だぁあああ!! 」



 国王が叫んで大臣に責任を擦り付けて逃れようとしている。

 大臣は全て諦めたように白くなっている。

 国王の威厳が、キャラが、俺たちが尊敬していた何もかも壊れた瞬間だった。



「これは一体どういうことですか?」



 俺が申し出ると魔王が説明してくれる。



「ええ、実はですね……」



 魔王の話によると、この世界の二つある大陸が元は一つの大陸だったらしい。

 国王はお母様……つまり、現魔帝にこの国の管轄を任せられたがあまりに地味な仕事ばかりでイラついていたらしい。

 そんなある時、ほんの悪戯心で考えた案……つまり魔帝が来るときに魔帝が、引いては女子の天敵、台所の魔王、最速の黒死天使などの異名を取る黒の生体兵器『GOKIBURI』を魔帝が寝る布団の中に入れておいた。

 まあ、そんなことしたらどうなるかもうお分かりだろう。


 ……要するに俺たちは夫婦喧嘩にまきこまれたらしい。


 それでブチ切れた魔帝が極大雷光魔法で大陸を真二つにし、国王は座っていた玉座ごと氷づけにされたらしい。それがトラウマになり国王は反逆を決め込んだそうだ。

 はっきり言って逆切れだ。俺たちが召喚されたのは単純に戦力が欲しかったらしい。

 ちなみに隊長は命令に従っていただけで詳しい内容までは知らされていなかったそうだ。現に隅の方で粟吹いて倒れている。

 魔帝側はどうだったかというと、根城に帰り怒り狂ったまま娘である魔王に魔剣抜いて国王の領地を滅ぼしてこい、といったそうだ。

 その日から……つまり勃発したのが三年と半年前で、娘である魔王が母と父がまた仲良くしてほしいとしこたま努力したらしい。魔王が哀れ過ぎて泣けてくるな。

 魔剣を抜くため鍛錬に身を打ち込み約三年かけて少しずつ抜いていったのだと。

 しかし頑張った努力も虚しく抜ける直前で目の前で光り輝いて抜けて消えてしまい、翌日に探す羽目になったようだ。

 ちなみに国境付近で転移妨害があって移動に時間がかかったらしく俺たちの元に来るまで二日かかったらしい。

 それで自己紹介の時に俺が魔剣所有者というのを知り実際に出した。

 それで今に至るわけだが――阿呆か。一言で事の顛末が表せる。

 それで、だ。俺たちは学校を壊されて学友を殺された挙句、俺たちにとっては、はてしなくどうでもいい夫婦喧嘩で国王に戦力の欲しいあまり召喚された……と。



『ふ、ふ、ふざけんなぁあああああ!!!』



 生徒、教員、兵士、この城内全ての人の気持ちがまとまった叫びだった。

 ようやく起き上った隊長が再び粟吹いて気絶する。

 殴られて怪我までして説得したのに殴られ損だったとは哀れな。

 心底、正直にそう思った。



「……魔剣については本当に悪いことをしました」



 とりあえず魔王に苦労させたのは俺が来てしまったということで俺にも責任の一端があると考えて魔王に謝る。



「良いのですよ。悪いのはお父様なのですから」



 魔王は笑顔で俺に答える。――迂闊にも見とれた。



「はぁ……それはそうと、これはお母様に報告ですね」



 呆れた表情で魔王が言う。耳に手を当てて何かを喋っているようだ。



「あ、アネルーテよ! それだけはどうか止めてくれ!」



 もう手遅れだろう。ざまあ。



「国王様、諦めて裁きを受けましょう。最悪、私一人の命で済むように進言しますから。さあ……」



 大臣の鏡のようなセリフを言う大臣。そう言うこと言うやつに限って生き残るよな。

 だが、この馬鹿国王はそこで終わらなかった。



「……ハッ、亡命すれば助かるのではないか。いや、助かる! そう信じて亡命しよう。場所はどこがいいか。そうだ、海の近いアルティスがいい。あそこは、私の友人がいる。きっと助けてくれるだろう! よし、大臣! 荷物をまとめろ! 逃亡だ!」



 ……一瞬でそこまで考えられるのに何故すぐ謝らなかった。

 完全に呆れた。他の皆も同じようなことを思ったようだ。



「お父様」



 通話が終わったらしい魔王が国王にエンジェルスマイルで言い放つ。



「何かね我が娘よ。そうだ、お前も一緒に来ないか? あそこは海鮮物がおいしいぞ」



 さらりと敵であるはずの娘をさそう阿呆な王様がいた。

 いや、それだけ混乱していたというべきなのだろう。



「お母様がもう過ぎたことで怒ってないからお城に来てください、と言っていますよ」



 国王の言葉は無視してエンジェルスマイルで魔王が言った。

ーーーー嘘だ……。

誰もがそう思ったことだろう。



「それは本当か。よし大臣、亡命は中止だ! アジェンド城に行くぞ! 氷漬けにされなくてすむぞ! やっふぉぉおおおお!! 今帰るぞ、我が妻よ!」



 国王がスキップしながら謁見場を出て行こうとする。

 しかしその行く手を大臣が阻み、諫言する。決死の表情が良く伝わってくる。



「王よ、絶対激怒しているにきまっております。行けば氷漬けにされるのは……」

「だまれぇぇ大臣!! 我が妻が怒るわけがない、いくぞ!!」



 王様は大臣の諌めを聞かずに決定した。



「はぁ……我が君もこれまでか」



 大臣が顔に手を当てて嘆いた。

 ……なんか哀れだな、死なないように助命してやりたい。他のお城だとかなり重宝されそうな感じはする。気の毒な大臣にそんなことを思った。



「お母様、うまくいきましたよ。……はい、わかりました。では」



 魔王が何かを話していた。おそらく魔帝だな。



「さて、行きましょうかお父様。それと召喚された皆様もご一緒に来てくれますか?」



 やはり笑顔で言う。可愛いとは思うが普通の笑顔の方が俺は好きだ。



「おっふ、ガチ天使!! そうだろう、皆!!」



 誰かが……多分ヒキが言った。



『YES,MY,LORD!!』



 騙された馬鹿な男子勢がそろって唱和した。



「男子って馬鹿ね」

「でも、あの可愛さにはちょっと嫉妬するわ」

「そうね」



 女子勢から魔王への嫉妬と男子勢への嘲りの混じった声が聞こえた。



「私の、命は、たすかったぁ~!」



 国王がテラスから空を見上げて陽気な声で歌っている。

 国王よ……あと少ししたら二度空は仰げないぞ。



「さぁ、参りましょうか」



 魔王がテラスを飛び下りる。



「うん!」



 続いてプレアも飛び下りる。



『えっ……』



 常識では考えられない行動に絶句する生徒たち。

 テラスを見てみると魔王とプレアは空中に浮かんでいた。



「さて、俺たちも行こうか」



 俺もテラスに向かって歩く。すると全員の目が丸くなった。

 言いたいことは分かる。何処に? もしくは天国に? 馬鹿なの? 死ぬの、だろ? 

 いち早く気付いた先生が俺を止めに入る。



「ちょっと待て、朝宮」

「いやいやいや、自分も飛べるとか勘違いは良くない。死ぬ気か?」

「お前はただの人間だ。彼女たちとは違う」

「一回深呼吸して落ち着いて考えろ」



 そう言って制止を促す先生たち。俺は疑問符浮かべながらテラスに近付く。

 全く何を言っているのだろうか。俺はさっきちゃんと能力を言ったぞ?



「おっ、落ち着け、早まるな!」

「嫌になったからって死ぬことはないだろう!」

「まだ若いのだからこれからだろう?」



 先生たちを置いてテラスの取手を掴む。



『止めろぉおおお!!』

「よっと」



 俺はテラスから飛び降り、そのまま自由落下に入り飛翔飛行能力を展開させる。

 実際さっき足元を少し浮かばせていたのでいけると思った。

 飛翔して魔王たちと同じように空中で制止する。

 ついでに言えば飛翔と飛行は違う。

 長くなるので簡単に言うと飛翔はジャンプ、飛行は飛ぶことを意味するが英語とかに直すとほぼ同じ意味になるのでどちらでも良いらしい。

 面倒くさいから呼び方は気分で変えることにしよう。



『ええっ!?』



 さっきの魔王たちが飛び下りたときよりもあり得ない目で生徒たちと先生からも見られた。何故だ。

 そこで思い当たる。さっきは魔剣の話で湧いていたから飛翔飛行のことは誰も気に留めていなかったのだろうと思った。



「んんっと」



 手を上に上げて軽く伸びをする。背筋が伸びて行く気がする。

 ふと周りを見れば暖かい日差しに新鮮な空気、都会ではあり得ない自然の多さ。

 はっきり言ってここは超ド田舎だった。

 城下町は無い。形骸化していると言っても良い。お城が一個ポツンとあるだけだ。

 これは誰が開拓してもストレスが溜まるだろう。


 それはそうとして空中に人が留まるとか物理的にあり得ないが一体どうやって……魔力かな? ラノベでもそう書いてある作品がいくつかあったし。

 そう納得しておいた。その内分かるだろう。

 しかし夢にまで見た飛ぶ事が出来たし召喚されたのは悪くなかったのかもしれない。

 不謹慎ながらそう考えざるを得なかった。羽こそ無いが自由自在に俺は飛んでいた。

 右に旋回、左に直角ターン、上昇、反転して一気に下降、地面ギリギリを飛ぶ。

 鳥かもしくは妖精になった気分だ。

 口元を綻ばせて再び上昇。下を見ると口を開けたまま固まっている生徒と先生と魔王たちがいた。ちなみに魔王たちも浮いているところを見ると魔力で合っていそうだ。

 俺はおもむろに右手を振ってステータス画面を出す。

 ふむ、ステータスの魔力は減ってないから大気中の魔力で飛ぶということか?

 飛行時間に制限は無い。無茶な軌道もある程度は大丈夫。重力に引っ張られることもない……はっきり言って俺は今、完全な自由を手に入れた。 

 下では阿保面で俺を見上げている愚民がいた。

 ハハハ! 飛べない虫けら共が!

 後で思い出したが完全に悪役のセリフだった。

 ちょっと前まで自分もその虫けらだったのに完全に飛べることの自由に溺れていた。

「おーい、そこの飛んでいる君、そろそろ行くよ~」

 しばらく愉悦に浸っていると浮遊中の魔王に呼ばれた。

 ようやく飛べない愚民どもは階段で降りたようだ。

 下を見ると皆は城を出て既に移動を始めていた。



「今、行きます」



 そう言って俺は下降する。





下降した後、俺は歩くよりまだ飛んでいたい気分だったので生徒達の行進に合わせながら飛んでいた。多少無茶な軌道しても大丈夫なくらい慣れた。

 ちなみに地面を進む生徒、先生は徒歩で国王と大臣は馬に乗っている。



「ねぇ、君。異世界人なのに飛べるってすごいわね。スキルなの?」



 気が付くと隣に魔王が来ていた。

 しかし本当に可愛いな。嫁に欲しいくらいだ。いやまあ、無理だろうけどさ。



「そうですね。こちらの世界にきてから初めて飛びました」

「その飛翔能力は近年では希少なのよ。最近だと持っている人が少なくなってきていてほとんど見かけないのよ。ちなみにプレアはそれじゃない方法で飛んでいるからね」



 魔王は来たばかりの俺に詳しく解説してくれた。

 ちらりとプレアを見ると会話の内容が聞こえていたのか笑って手を振っていた。

 疑問だったどうやって飛ぶのかは、やはり大気中の魔力を使っている。

 飛翔能力は魔力を使ってはいるが魔法とは違う。

 そもそも大気中の魔力は草木によって酸素と一緒に光合成される物質らしく魔法を発動する時はそれを自身の魔力に取り込んで合成させて放つらしい。

 飛翔飛行はその大気中の魔力を呼吸と同じように使用しているらしい。

 低燃費だな。魔力が少なくても飛べるのは良い。

 それに魔力というのは誰でも持っているものだが使い方がわかなくては使えない。

 しかし水をコップに入れる、火をつけるくらいは憶えれば誰でも出来るらしい

 それとこの世界にはやっぱり魔物が居るらしい。

 この世界では剣がメイン武器になっている。魔法師自体の数がまだ少なく、攻撃用の魔法が使える奴は少ないから重宝するのだと。

 魔法は全四段階でリ、タル、ファリス、ラスサアルの順に使えるようになるらしい。

 いや、使うにしても魔法というスキルを取得する必要があるようだ。

 最近は魔法師育成のための学校を作って運営しているとのことだ。

 これは興味から一度見学してみたいと感じた。

 この魔王のすることは魔帝――魔王のお母さんから承った仕事をこなすこと、その魔法学校の校長兼理事をすることらしい。

 魔王というのは魔族の王ではなく最強の魔法師の称号だと魔王が薄い胸を張って言っていた。最強とは言ってもそれは表向きで彼女の一番は魔帝らしい。

 ついでに他種族も多々あるらしいが、それはまた今度聞けばいいだろう。



「……ですから、今度その学校にきませんか?」



 魔王に誘われてしまった。笑顔で言われ、即了解する。

 ある意味、これが一番の魔法なのではないだろうか。



「そうですね。気になりますし、見学させていただきましょうか」



 少し上目使いで華の様に魔王が笑った。そろそろ俺も落されそうだ。

 魔王の笑顔は想像以上に効果がある。





「うわぁ! 魔物だ!」



それは唐突に襲来した。


アネルーテ「全くお父様は……」

プレア「お疲れ様、ルー姉」

アネルーテ「あら、プレアも居たのね」

プレア「うん! あ、そうそう、これやっておいてって頼まれたんだった」

アネルーテ「次回、魔物襲撃」

プレア「魔物? ルー姉が居るのに勝負になるの?」

アネルーテ「……」


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