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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第五十五話・魔王軍陣営

グラたん「第五十五話です!」

〜嵩都〜

 亮平がふさぎ込んでから少し経った土曜日の夕方。

 俺たちはハイクフォックにいる五人目を殺るための準備にも入っていた。

 今日、俺は邪神軍総帥として四天王とその軍を引き連れて魔界の魔王城を訪れていた。

 つまりは合同会議だ。魔王城に到着すると魔王軍第二位の悠木がいた。



「お待ちしておりました邪神様と四天王様。どうぞこちらへ」



 私情を交えず悠木に案内される。



「あのぉ、スルト様? もしかして彼女、琴吹悠木さんですか? 何故彼女がここにいるのでしょうか?」



 ヴェスリーラに小声で問いかけられる。



「……口を慎めヴェスリーラ。それを言うとお前と同じだ」

「あ、そういうことですか。失礼致しました」



 ヴェスリーラが納得したようなので良しとする。

 それからしばらく無言で案内されて玉座の間へとやってきた。



「邪神様と四天王様のご到着です!」



 門兵が声を上げて中の中央にいるシャンに報告する。

 中には予想していたよりも多くの種族がいる。

 鬼、緑頭、食人草、鳥獣、合成獣、吸血鬼、死霊等々、合わせて魔族でいいな。

 威圧を最大限に開放して中央のレッドカーペットを進む。

 静まり返った間には足音一つ響かない。当然ながら俺たちは浮いているからだ。

 俺の衣装は機能性度外視で威厳たっぷりの禍々しいねじれ角が肩から生えた鎧。

 仮面は失礼かと思ってもう着けていない。代わりに額から二本の角が生えている。

 背中には漆黒の外套。俺の衣装は主にカルラッハのセンスで黒と濃い紫で統一されている。じゃなければ何が悲しくてこんな厨二装備でこなければならんのか!

 フェイグラッドは紅蓮を基準にした鎧装備。

 カルラッハは深海のように青黒いローブ。

 ウリクレアは何処の聖女かと思わせるほどの金色と白のローブ。

 ヴェスリーラは何を思ったのかさわやかな緑のドレス姿だ。

 俺の威圧におびえながらも四天王に色目を使う輩が多数。その中には女性も含まれている。

 ま、恰好はともかくとして四天王全員が美男美女だしな。

 シャンの前に立ち、威圧を納め、一礼する。



「邪神軍総帥スルト及び配下四天王、盟約によりはせ参じた」



 俺が言うとシャンはニコリと笑顔で立ち上がり、同じように礼を取った。



「よく来てくれた。感謝する」



 この間のふざけた雰囲気はどこへやら。真面目にやればできるじゃないか。

 俺たちは右端に寄り、後続が揃うのを待った。

 ある程度待つと耳に小声の話声が聞こえてくる。

 内容は主に俺の評価と四天王の表面だな。

 それから少し待つとプレアと司――いや、ハーデスとツクヨミが来た。

 やはりというか外部受けはあまりよろしくないらしい。一番の中心格なのにな。



「さて、役者は揃ったことだし会議を始めようか」



 まだ幼さが残る高い声でシャンが宣言すると隣に控えていたポノルが書類を手にした。



「今回の議題はロンプロウムにいる贄の奪取についてと侵攻についてです。引いてはロンプロウムで言うところの五月の十五にハイクフォックという城で祝義があるらしいです。我々魔王軍はこの時を狙って人類を叩きたいと存じますが異論ありますか?」

「異議なし」

「人間どもを殺すだぎゃ!」

「生きるものに死を!」



 一瞬で辺りが殺気に満ち溢れる。

 少しうるさいので威圧すると奴等は口を騙させた。



「魔王軍はどれくらいの規模が動く。それに戦略戦術地理地形敵軍規模連携はどうお考えか。贄の在処は? 贄の殺害は誰がやるのか……教えてもらえるかな」

「魔王軍は五百万を動かし、万が一の守備には第一位と第三位を残します。戦術は各々が執った方が効果的でしょう。地形は山地、敵本城は岩山に囲まれた場所にあります。贄の殺害はわが軍の第一位に担ってもらいます。敵軍規模は敵本城のみで二百万、援軍込みで六百万を超えると予測しています。よろしいですか?」

「了解した。が、援軍はそこまで多くは避けまい」

「何故でしょうか」

「何故か。それは人間共は自身等で食い合いを始めているからだ。よって、援軍はおよそ五十万程度に収まると判断する。しかし勇者の存在も気になるところだ」



 裏で独自の情報網を作った俺にかかれば軍や人の動きなどたやすくわかる。

 俺に言わせれば高々結婚の守兵に五十万も送るかどうかと思うところだ。

 多分十万以下になると思う。



「勇者ですか……一人一人が一騎当千の猛者と聞きますが」

「その通りだ。しかしその勇者も人間共の仲間割れで半数――14人までに減っている。確かな情報網から得た情報だ」

「14……一人十万の軍を当てれば殺せますかね……」



 すまん皆。一人十万頑張ってくれ。



「……以上だ。侵攻については異論はない」

「分かりました。皆さま方もそれでよろしいですね?」



 威勢よく多種族から雄たけびが上がった。



「では、ささやかながら宴の準備をしてありますので別室へどうぞ」



 扉が重々しい音と共に開き各々が退出していく。

 ポノルは俺、ハーデス、ツクヨミに残るように目配せした。



「お前たちも楽しんで来ればいい。俺は少々魔王殿と話しがある」

「了解しました」



 カルラッハが代表して答え、立ち上がって隣の会場へと向かっていった。

 俺も立ち上がり、この場には俺、シャン、ポノル、ハーデス、ツクヨミが残った。

 ポノルが部下たちにも宴席に加わるように命令し、部下たちは喜び勇んで隣に向かった。

 扉が閉められ、わずかな沈黙が場を支配した。



「はぁ~疲れたぁ」



 シャンが開口一番に気の抜けた声を上げた。



「嘘おっしゃい。一言しか話していないのに疲れるはずがないでしょう」

「いや、威圧とか殺気に当てられた精神的疲労がね?」


 言い訳がましくシャンが口にしているとポノルは嘆息していた。



「はぁ……それはそうとスルトさん、先ほどは説明の手順を省いていただきありがとうございました」

「いや、それは予期したことじゃない。単純に知っておきたかっただけだ」

「それでも短縮できたのはスルトさんのおかげですよ」

「そうか。ならいい。それはそうとそちらのお二人はどなたかな?」



 とぼけたようにいうと二人は仮面を外してふくれっ面を見せた。



「知ってるくせに」

「すごい厨二センスが輝いた服装だねぇ、スルトさん?」



 そっぽ向いたのはプレア。あとに軽口を叩いたのは司だ。



「断じて俺が選んだんじゃない。カルラッハ……さっき居た青黒いローブの奴が選んだ服装だ」

「でも若干楽しんでるでしょ?」

「――否定はしない。それで、残したのは何の用だ?」

「勇者についてです」



 その言葉に俺は少しだけ眉が上がった。



「スルトさんご存じの通り勇者の存在は文献上でも非常に危険な存在です」



 ポノルの言う事は最もだ。現に勇者が戦う記録は大抵ロクでもない事変が多い。



「そうだな。どんな苦境にも立ち向かい、瀕死の重傷から逆転してくる人間だ」

「ええ。過去の魔王も度々殺し殺されを受けています。それが十四人――いえ、それ以上の危険分子がロンプロウムには存在します」



 要領を得ないシャンが首を傾げている。



「結局何が言いたいのさ? 姉ちゃん」

「つまり、今回の作戦は勇者が関われば敗北すらあり得るということです」

「要するに邪魔するかもしれない勇者共を予め殺害しておく……そういうことか?」

「ええ」


 ポノルが躊躇いもなく頷いたのを見て、すぐさま否定の言葉を返す。



「今、その必要はないな。俺たちの目的は固有魔法の所持者を殺害しその魔力を奪う事だ。わざわざ勇者たちの手柄になることもあるまい。なんなら今回の五人目を殺してすぐ下がればいい話だ」

「無理ですね。魔族の大抵は気性が激しく皆人間に殺意を抱いています。下がれと言っても下がらないでしょう」

「……まあ、そうだろうな。なら、勇者が出てきてある程度やられたら全滅しないうちに撤退命令を出そう。それで満足してもらおう。いきなり決戦するわけじゃないからな」



 ポノルが頷く。先程の魔族たちの殺気は確かに人間を恨んでいるものばかりだ。一度戦場に出ればどうなるかなど目に見えて分かる。

 とはいえ、それに対して筑笹たちがどうにか出来るとも思えないが。



「……頭が痛い問題ですが、対策を考えておきましょう」

「本当頭が痛いよ」



 シャンが発したその言葉にポノルが白い視線を向けた。



「シャン、貴方が痛いのは鳴っているお腹でしょう?」

「酷いよ姉ちゃん!」



 音こそ鳴らないもののシャンの視線が時折会場に向かっているのをここに残っている誰もが見て、保証している。

 俺たちは遠巻きにシャンに同情の視線を送る。



「違う! そんな暖かい目で見ないで!」



 シャンは必死に違うと首を横に振るう。



「シャン」



 呼びかけるとシャンが救いを求めるように頭を上げた。



「……お腹が空いているのなら隣で盛り上がってる会場に行っても良いぞ。大丈夫、例え礼儀作法を無視しても誰も咎められないから。こっちの話し合いはポノルが居てくれるからさ……」


 シャンが、ガーンと漫画みたいな表情になり、思わず噴き出しかけた。



「ねえ! 僕そんなに食い意地張ってないからね!?」

「足りなかったらボクの分もあげるよ?」



 そこへプレアがシャンに対して悪乗りを始めた。



「ハーデスゥ!?」

「私もそんなに食べれないから」

「ツクヨミ!?」



 皆で酷い追い打ちだ。シャンの反応が可愛くてちょっと楽しい。



「う、ぐすっ……馬鹿ぁぁああああ!!」



 そしてシャンは涙目で扉を開けてどこかへと駆けていった。



「からかい過ぎた?」

「大丈夫でしょう。いつものことですし」

「いつものことなんだ……」



 意外な事実が明らかになった。





 そのあとは今度の作戦を少し打ち合わせ、俺たちも宴に加わった。

 会場では四天王を中心にハーレムが形成されていた。

 音楽が鳴り響き、優雅なダンスが会場を舞う。

 あの殺伐とした雰囲気はどこへやら。皆楽しんでいるようだ。

 外からは待機している軍にも酒が振る舞われたようで笑い声が聞こえてくる。

 シャンは外聞をかなぐり捨てて暴飲暴食を重ねていた。

 年相応の魔王を見ても誰も何も言わない。もはや淑女としてではなく魔族全体が孫を見るような微笑ましい目つきでシャンを見ていた。

 時間の経過とともに酔いつぶれる者が出てくる。各々の部下が客室に運んだりしていた。

 フェイグラッドは何人かの魔族の女性をお持ち帰りしていた。

 あいつは粗野に見えても外見はイケメンだし抱かれてみたいという女性も多い事だろう。

 カルラッハはポノルと共に席を移動して日頃の愚痴を最大限にこぼしていた。

 ポノルもその気苦労が分かるのかお互いに慰め合っていた。

 ウリクレアはありとあらゆる種族と舞踏を続けている。四天王の中では一番優雅で優しそうにみえるからな。

 ヴェスリーラは悠木と話している。聞く話には人間への恨みや迫害されてきたなんていう言語か聞こえてくる。

 ……もしてかして悠木は此方の世界で生まれて偶々地球に来てしまったのだろうか?

 だとすれば納得できる。子供というのは残酷な生物だから人間とは色々違う彼女は迫害されてきたりしたのだろう。



「へぇー、特務ねー」

「ふふふ。嵩都ってすごいのよ。特に拷問するときの慣れた手さばきが――」

「じぃ―――」



 そんな俺はプレアと司に挟まれて魔王城のテラスで永遠と飲まされていた。

 酔っているのか話も五ループ目に突入しようとしていた。

 二人が酔いつぶれて部屋に運ぶまでそれから二時間かかった。

 俺も大分酔いが回っていた。防壁を張って二人の仮面を外し、重苦しい衣装を脱がせる。

 二人を広い寝床に寝かせて俺はソファーに……行けたら良かったねぇ。

 着流しに着替える途中で寝ぼけた司の腕が首に回り、腕にプレアが巻き付いて寝床に引き込まれた。そして萬地固めを食らって視界が黒くなった。





 ……

 …………

 グッモーニング柔らかい胸。男としては実にいい朝だ。

 ―――現実逃避は良くないな。そしてそろそろ俺の貞操もやべぇな。

 でもなぁ……俺だって十八の性欲盛りだぜ? 本当にそろそろ限界だぞ。

 出来ればすべて終わってからそういうことしたいなぁ。

 あ、でもプレアは魔神に――ってかその魔神ってプレアなのか? 別人格が宿っていたら泣くぞ。

 ……ま、なるようにしかならんか。

 とりあえずは我慢の方向で行こう。さしあたっては洗面所へ行こう。


グラたん「私は何度でも言います。爆ぜろリア充と」

嵩都「ぐへへ……」

グラたん「次回、転生者。背後とナイフには気を付けてくださいね」

嵩都「残念だったな。邪神たる俺は数度殺されたくらいじゃ死なない」

グラたん「チィ」

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