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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第五十四話・裏切る者たち

大典「(鎚の叩く音が鳴り響く)」

グラたん「久々の登場ですね」

大典「おう! STは今日も稼働中だぜ」

グラたん「頑張ってくださいね」

大典「任せとけ。第五十四話、ST・オンッ!!」


 トンテンカンカンと何処からか子気味の良い音が鳴っている。

 山にある寮に帰れば大典たちが防犯用の柵を作っていた。

 家はこの間作ったコテージを本格改良した物だ。

 具体的には居間と二階の拡張をした。今となってはちょっとした豪邸になっている。

 勿論、掃除にはST製のメイドロボットを定期契約している。

 現在、俺は空中にいる。見下ろすと山はちょっとした城塞と化している。

 家を中心に広大な庭があり、外側には石垣やバリスタが設置されており、更にはSTとロゴの入ったゴーレムまでいる始末。しかもそのゴーレムは全て人型の二足歩行だ。

 そして全十段にもなる高度城塞の三段目から十段目にかけて物理防壁と魔法防壁が交互に並んでいる。それでいて緑は豊かという不思議。

 透視してみれば地中にまでその城壁が伸びている。

 ――なんだこれは。ある意味一大国家を相手にするような重武装じゃないか。

 山の麓に降り立つと厳つい鬼門が彫り深く刻まれている。

 手を触れようとすると城壁からレーザーと思われる赤い光が飛んできた。

 反射的に避け、そのレーザー跡を見ると、地面が焼けていた。



「殺す気か!?」



 一度空中に飛び上がって山頂付近から高速落下して透過もしておく。



 ――ベチン



 突破できずに俺は無様な音を立てた。

 魔法耐性は思ったより高いな。

 ズルズルと滑り落ちて大典のいるあたりに着地する。



「うお、嵩都か」



 少々恨みがましい視線で大典を見る。



「ああ……これはどうやってはいるんだ?」

「あ、悪い。一緒に行こうか」



 ちょうど作業が終わったらしく大典に連れられて先ほどの鬼門に来た。



「この門はレーザーを、躱して、駆け上り、門の上についている看板の中心にある、玉に触れば開く」



 面倒くせぇ!!

 そう思ったがある意味重要機密の塊がここにあるので用心するのだろう。

 中に入りマイホームにたどり着く。

 庭には見たことのない草食獣が畑を耕している。

 家本体は三階建てに改築されていて尚且つ豪邸みたいに左右が広くなっていて奥行きも変わっている。

 中にはやはりゴー……否、どう見ても二次メイドとしか思えない……それもなんか語弊がある気がする。

 城壁に配置されたゴーレムより更に人間らしさと連携力と柔らかさが加わったメイドが働いている。



「なあ、大典さんや。君は何をしようとしているんだ?」

「地下を借りてちょっと実験」

「地下?」



 おい、あからさまに目ぇ逸らしやがったぞ!



「一体何をしたんだ?」

「来てみればわかる」



 俺たちは無言でいつの間にか取り付けられたエレベーターで地下に下降していく。









 深さ一kmを超える場所。そこに俺たちはいた。

 そこは何もない荒地。



「いや、ほんの一時間前までは何もない地下だったんだが」

「ヒャッハァァアアアアア!!!」

「ヒィヤァァアア!!」



 大典が言い終わるよりも早くかん高い声が響いた。言わずとも博太と亮平である。



「まだまだぁぁ!!」



 亮平がSTと思われる先日使っていたスーツの強化版を装着し、エクスカリバーを地面に叩きつけると雷の斬撃が地面にクレーターを作る。うん、納得。こいつらの仕業だわ。

 ここまで見れば分かる。工房の実験区間がないのでここを使っているということだ。



「さて、混じって暴れたいと思っている嵩都君に朗報だ」



 隣からすべて分かったような大典の声が聞こえる。

 大典の手から出されたのは黒光りした腕輪だ。



「最新にして広域破壊型のSTだ」

「おお、あの時のフラグが今ここに!?」

「そういうことだ。早速実験――ゲフゲフ、性能を試してくれ」



 大典の手から腕輪を受け取り、腕に嵌めて叫ぶ。



「ST、オン!!」



 起動すると同時にMPと魔力がごっそりと持っていかれる。

 常人なら死んでもおかしくない量を持っていかれた。

 しかも常時奪われている感覚がある。俺にとっては関係ないが。

 全身は装甲に覆われ、両手足が伸びてるのにも関わらず普段の動作をするのに違和感がない。

 更に浮遊魔法でもかかっているのか武装の重みがない。



「うわっ、冗談で作った男の浪漫使用なのに普通に起動して使ってやがる……ッ」



 ん? 何かとても不吉なフラグが立ったような……?

 まあいい。早速何故か搭載されている先日使ったガンマ砲を適当に標準する。



「ヒャッハァァアアアアア!!」



 まったく亮平のことを言えない奇声を上げて引き金を引いた。

 緑の草原が一瞬にして焼野原へと変貌する。

 続いて背中に配置されているプラズマ砲二門を適当に照準してぶっ放す。

 空中に飛び上がり両腕に配置されている超電磁砲を地面に放つ。



「ぴぎゃ――――」



 ん? なんか悲鳴が。

 続いて両指にあるガトリングガンを乱れ撃ちする。

 一通りの武装を試して満足し、大典の元へ戻ってくると黒こげになった二人が寝ていた。



「問題なさそうだな。次はこれを試してくれ」



 あ、そこの二人についてはノーコメントね。

 大典から渡されたのは両手持ちの長い銃だ。



「こ、これはまさか!」

「そう! ご存じみんな大好きビームライフルだ!!」



 接続―――完了。発射!

 大典から受け取り、早速焦土に向けて撃つ、撃つ、撃つ。

 まるで原爆が落ちたかのような大爆発と閃光と土煙が舞い上がった。

 そしてそこには大きな穴凹があるだけだった。



「うわぁ……自分で作ってなんだが最悪の兵器だな……」



 大典が何かを言っているが気にしない。俺本来のMPがなくなるまで撃ち続けた。





 試験運転もほどほどにSTを一度大典に返却し、再調整してもらう事になった。

 夕食時。そう、夕食時がこの寮の一番の問題だ。

 何故なら料理を作れるメイドは高度な人工知能と学習装置を有していながら一体としていない。

 結局のところ俺とプレアでローテーションすることになった。

 俺はともかくプレアも俺並みの料理人だということが今日の夕食で判明した。

 その料理の腕に惹かれたのかどうかは知らないがフェルノ、クロフィナ、マベレイズの三名がプレアに弟子入りしていた。

 夕食後、俺たち男衆は地下の建設に挑み、その間に女子が風呂に入ることになった。

 さて、地下なのだが計画的には広大な地下ダンジョンを作ろうということになっている。

 さしあたっては魔法などという無粋なモノは使わず、ST製のつるはしとスコップでえんやこらと掘っていく―――。







~幕間~


 嵩都たちが学園生活を謳歌している間に邪神軍四天王ウリクレアはハイクフォック城に向かい、その圧倒的美貌と魔法力によって宗教国家であるハイクフォックの教皇にまで上り詰めていた。

 部下や住民からは完全な信頼と名誉名声を貰っているのにも関わらず一切の私欲がなくこの世の人とは思えない淑女を演じていた。

 そんな彼女は次期国王たる王子を差し置いて次期国王を期待されていた。


「ふざけるな!」



 そんな噂を耳にした王子は酒でも飲まないとやっていられないだろう。

 この王子とて馬鹿や七光りではなくそれ相応の実力は備わっていた。



「荒れておるな、ペルよ」

「親父……」

「理由は分かっておる。最近教皇になったウリクレア教皇のことであろう?」

「ああ」

「案ずるな。次期国王は間違いなくお前だ。私がそう決めたのだからな」

「……なあ、親父。俺は……俺には一体何が足りないんだ? 剣の腕だって魔法だって国家五指に入るほどある。金も私財がある。一体なんでなんだ?」

「……その答えが分からぬほど困ってはおるまい。しかし、考えたくないのなら私の口から言ってやろう。教皇との差、それは人心、信頼だ」

「分かってるさ。はぁ……いっそ戦争にでもならないものかな」



 王子は宗教国家に似合わない程に実力主義者だ。信頼も戦いによって勝ち取ると考えるほどの脳筋である。



「それも案ずることはない」

「どういうことだよ」

「先日、アジェンド城に対し軍国バルフォレスが宣戦布告した」

「なんだって!?」

 その報に王子は跳ね起きた。

「そして国王アルドメラが魔王軍とやらがいると言っておる」

「魔王軍?」

「そうだ。もしやすると歴史上稀なる大規模な戦が起きるやもしれんな」

「……ふっ、ははは。今に見ていろよ教皇……その信頼、俺が根こそぎ奪ってやる!」

「それが唯一の欠点かのぉ……」



 高笑いし上機嫌になる王子をしり目に国王は一人誰にも聞こえない声でぼやいた。










~鈴木博太


 亮平がふさぎ込んでいる。

 このままではいけないとは思うもののこういう時の声のかけ方を俺は知らない。

 出来ることを考えよう。……何かあるかな?

 そういうわけで俺は今、魔法科にいる筑笹に相談していた。



「うーん。事情を知らないわけじゃないからな……」

「頼むよ筑えもん~」

「誰が筑えもんだ! ……いっそのこと駆け落ちでもさせてみるか?」

「駆け落ちか。確かに案としては良いがやったら亮平たちどころか提案した俺たちもこの国に居られないな」

「その辺は後から考えればいいだろう。しかし成功率は低い、どうしたものかな?」

「そういう感じなら俺も手伝うぜ」



そこへ現れたのは佐藤大典だ。



「どうせ逃げるなら人間が追ってこれない場所がいいだろ? 俺にはその心当たりと寛容な受け入れ先を知っている」

「本当か? 場所は何処なんだ?」

「ウンディーネ国領。つまり海の中だ」

「……お前、そんなところにまで足を伸ばしていたのか」

「まあな。それで、どうだ?」

「良いと思う。しかしそのウンディーネ王にも事情を話さねばなるまい」

「それなら俺が話をつけておく。ダチ公のためだ、ってな」



 それで通じるのかと思うがこいつならやりかねない。



「まあ、まだ時間はある。経路の確保とかは少しずつ煮詰めよう」

「そうだな」



 そこへ狙ったのようにチャイムが鳴った。



「それじゃ、俺は教室に戻るわ」

「おう!」



 俺は筑笹たちと別れて教室に戻った。

 さあ、忙しくなりそうだ。






~嵩都


 四月の中旬。

 アジェンド城の城内、謁見場では実に七時間にも渡る大激論が行われていた。

 何故こうなったかというと昨夜に遡る。

 最近起こった『勇者行方不明事件』で連れ去られた勇者や現行犯に警告したのにも関わらず全43名中29名が行方不明という名の敵陣に渡った。

 国王にも進言してみたが勇者が敵に回っても余程自信があるのか特に対策は取らないでいた。実に不自然な消え方に筑笹や亮平たちが怪しんだ。

 時を同じくして上々の戦果を挙げた現行犯共は一人残らずこのアジェンド城を後にした。


『軍国バルフォレスは多大な勇者たちを誑かし、自国に誘拐した』


 ある意味闇とでもいうべきか国王や大臣等は実によくとぼけて公表した。

 真相を知っている俺たちはきつく緘口令が敷かれた。

 それが発表された昨夜、同じくしてクロフィナの婚約が決まったと発表された。

 それに対して全く聞き覚えがなかったのかクロフィナは激怒。国王との論争になった。

 しかるべき九時間が立ち、クロフィナは口論に敗れ、結婚までの謹慎を命じられた。

 翌日には国王から住民に向けて大々的に発表されていた。



「五月十五の時、わが娘第一王女クロフィナは教国ハイクフォックの第一王子ペル殿との結婚が決まったことをここに発表する。さしあたってクロフィナは自室で身を清めているためこの祝いの席に参列できないことを詫びる。この結婚において両国は同盟を結び、宿敵である軍国バルフォレスに対する。このめでたき祝義に乾杯!」



 祝いの席が設けられたものの参加したのは勇者筆頭格の筑笹や博太たちだ。

 薄々は感づいていたがこの知らせは亮平に深刻な打撃を与えた。

 要するに両想いだったってことだ。俺とプレア見たいにだ。

 内情を知っている分、俺たちは亮平に声をかけられずにいた。








 とある桜が散り終わり緑の若葉が咲き始める頃。

 その夜中、暗い夜空に輝く赤い太陽を背にしながら漆黒のコートを背負った化け物が空中を飛び回りながら一人の人間を追い、捕縛していた。

 そんな路地裏、今日の特務である『勇者行方不明事件』の現行犯を甚振っていた。



「誰の命令だ?」



 今の俺は両目口元が激しく吊り上がっている仮面をつけている。背中には黒のコートを着ている。

 そして俺は現行犯を地面に叩きつけ、拷問していた。



「……ッ!」



 ゴギッと骨が折れる音が聞こえる。



「次はその痛みのまま生爪を剥がす」



 現行犯が一切の黙秘をしたので、俺は一切の容赦なく素手で両手の爪を剥いでいく。



「――ァァア!」

「黙っている必要はない。俺に捕まった時点で処刑は確定が、今なら生きたまま家族と対面できるぞ? それとも塩漬けにされた生首で対面がいいか?」

「わ、分かった! 言う、言うから家族に手を出すのはやめてくれ!」



 勝手に墓穴を掘って現行犯は洗いざらいを吐いていく。

 俺は現行犯の傷を治しながら問いかける。



「ほう、バルフォレスの大臣が」

「そうだ。この城から勇者を何を使ってでも落とし、連れてくるように命じられたんだ」

「なるほど。奴さんも勇者の力は欲しいのか。現在までで買収されたのは何人だ?」

「成功数は八人。武力は一切使っていない」

「ふむ。確かに勇者の力は強く武力に関しては一般を寄せ付けないからな。その八人の名前と性別は?」

「そこまでは分からない。俺以外にもいるからな」

「……知りたいことは分かった。見逃す代わりにその八人に言伝を頼めるか?」

「あ、ああ。いいぜ。お安い御用だ」

「そちらに付くのならそれもいいだろう。楽に死ねると思うな……以上だ。行け」



 現行犯は背を向けて必死の形相で走って行った。

 




「……せめて、戦場で会わないことを祈るか」



 俺は任務完了とばかりに城内へと向かい、その顛末を王に報告した。





 次の朝、宣戦布告してきたバルフォレスに対し国王アルドメラはその腰を上げた。

 歴一五六六 四月二十八日

 歴史上では後に起こる戦争の幕開けでだった。


グラたん「戦争フラグ、乙」

嵩都「書き直しを要求する」

グラたん「嫌です」

プレア「じゃあ仕方ないね」

嵩都「そうだな」

グラたん「フフフ、私に手を出せば二人だって出番減らされ――」

嵩都&プレア「次回、『外伝』デート・オア・ライブラリー」

グラたん「何ですと――ッ!?」 

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