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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第五十二話・ソルヴィー和亭

ヴェスリーラ「えっと、第五十二話、でしゅっ!」

嵩都「(噛んだ)」

プレア「(噛んだね)」

筑笹「(噛んだな)」

斎藤「(噛んだが言わない方が良いだろうな)」

???「ククク、見よ! 邪神の先兵がタイトルを噛んだぞ!」

ヴェスリーラ「びくっ!!(二重の意味で)」

「以上で入学式を終了致します。各クラス担当の先生が参りますのでその先生の指示に従って教室に向かってください。それでは皆さんお疲れ様でした」



 放送が終わるとSクラスにはヴェスリーラが来た。

 新任なのに初っ端からここに当たるとは運が良いのか悪いのか……。



「えっと、Sクラス担任のヴェスリーラ・シャロテです。よろしくお願いします」



 ヴェスリーラがお辞儀し、俺たちもつられて頭を下げる。



「で、では、教室に案内しますね。ついてきてください」



 ヴェスリーラが歩いていくとその後ろに筑篠が付いて行き、また一人と付いて行く。

 俺とプレアも立ち上がって後をついていく。

 俺たちは大講義堂を出て学園の中央を右に曲がり、正面から見た中央の校舎に入った。

 Sクラスは学校の中でも特権階級みたいな身分で貴族受けが良い。

 そこに入る事が一種のステータスにもなっているらしい。

 一度でもSクラスに入った者は将来が安定するとかなんとか。

 そのSに入るために金を山ほど積む貴族もいるようだ。

 何故こんな話をしているかというと、このクラスは他のAからCの教室に比べて格差があるからだ。

 全十席で横五人、縦二列だ。ちなみに俺は後方窓側で隣にはプレアが居る。

 椅子はファーストクラスの座り心地、机は磨き上げられた大理石にSTと書いてある端末。更にST製の個人クーラーに冷蔵庫。黒板なんてものはなく完全なディスプレイ。

 机の端末に触れてみると俺の目の前にメニュー画面が空中に現れた。移動も出来る様だ。流石ST製品。



「えっと、それではHRを始めます。備品については――」



 うん、もう見たので聞き流す。ディスプレイの初期設定も終わったしな。

 ちなみにAからCも同様の端末があるようだ。しかもこの画面は目に優しいらしい。

 違いは豪華であるかそうでないか位だろう。後はSクラス専用の席や部屋があるくらいか。

 紅茶を淹れつつそんなことを確認する。



「そ、それでは自己紹介をお願いできますか?」



 おっと、次に進んでいたようだ。まずは筑篠だな。立ち上がって一礼した。



「はい。先程、式辞を務めた筑篠鹿耶だ。この学園にも生徒会があるそうなので立候補してみようと思っている。以上だ」



 筑篠が座り、加藤が立ち上がる音を聞きながら紅茶をプレアに差し出し微笑まれる。

 加藤鞘は元生徒会の会計だ。次に来る山崎亜里沙は書記。

 この三大魔王とまで呼ばれた恐怖の象徴がSに揃ったわけだ。

 そしてこいつらは大抵筑篠に付き添っている取り巻きみたいな奴等だ。

 しかしその会計技能や書記技能は高く、男女問わず評価が高い。



「次は我だな。我はペルネシア・ポルマッテ。由緒正しきポルマッテ家の跡取りである。得意魔法は風。以上だ」



 ペルネシアと言ったか。彼女はエルフのようだ。緑髪目だった。



「私はスーマ・デルマガンテ。出来れば一人でいたい。以上」



 彼女は俺たちと同じ黒髪目だ。ちょっと根暗な感じがするが転移転生者ではないようだ。



「斎藤博文だ。得意な事は戦略を練る事。得意魔法は氷だ」



「からの小生か。ククク……良かろう、聞くがよい。小生の名は漆黒の邪眼・イビルアイズ」



 小柄で目にバンダナを被せているなんとも言えないファッション。

 うん、間違いなくペルペロネだが今は黙っていよう。



「仮の名はペルペロネ・オーベンクワイアットという。憶えておけい」



 それだけいうとペルペロネは席に座った。

 隣にいる斎藤が目を光らせたのは気のせいじゃないな……。



「次はわたくしですわね」



 漫画の髪型だ。まず目についたのは金髪縦ロールというあり得ない髪型。



「わたくしはキャンス・レアハイアー。レアハイアー家の三女ですわ」



 ああ、我がまま全開で育ったお嬢様ということか。



「得意魔法はありませんの。どれも使えますから。ホホホ!」



 高飛車、自信過剰系か。関わるとロクなことがない筆頭だ。



「ボクはプレアデス。得意魔法は氷。よろしくね」



 プレアが座り俺が立ちあがる。



「俺は朝宮嵩都。変な噂が流れているようだがそんな事実はない。事情は現場にいたネイル先生が知っているのでそっちに行ってくれ。一々説明するのが面倒くさい。得意魔法は風魔法だ」



 俺が席に座るとヴェスリーラが立ち上がる。



「はい、ありがとうございました。自己紹介も終わったことですし校舎見学をします」



 飲み終わった紅茶を片付け、ヴェスリーラに連れられて教室を出る。







 一通りの見学が終わり、もう一度教室に帰って来た。



「はい、お疲れ様でした。今日はこれでHRを終わります。席は今、座っている席が各自の席になります。交代したいときは本人と交渉してくださいね。では、起立、礼」

『ありがとうございました』



 立ち上がると昼食を取りに行く者やおしゃべりを始める者に分かれた。

 亮平にリンクを飛ばして今を確認すると武術科も終わったようで着替えてから飯にするそうだ。

 昼食はフェルノの誘いもあってソルヴィー家が経営している料亭で食べるようだ。

 今は十一時。待ち合わせは校門前に十二時だ。

 午後は部活や委員会を見て回るそうだ。

 残念ながら俺は国王に呼ばれているので回れない。

 通話が終わってリンクを切り、プレアの元に行く。



「プレア」

「ん、何?」

「亮平たちが着替えてから昼食を取るそうだがプレアはどうする?」

「嵩都も行くの?」

「ああ、行くぞ」

「じゃあ、ボクも行く」

「分かった。それじゃ、十二時に校門前で待ち合わせ」

「十二時だね。他は誰が来るの?」

「他は亮平、博太、フェルノだな。増えるかもしれないが」

「あ、それならもう一人連れてきてもいい?」

「まあ、大丈夫だろう」



 多分、そのもう一人はアネルーテだろうな。



「それじゃ、帰ろうか――」

「そう簡単に帰れるとでも?」



 プレアも立ち上がって一緒に帰ろうとする矢先、教室の入口には縦ロールがいた。

 えっと、名前は確かキャンスだったな。



「キャンス、何の用?」



 プレアはやれやれと呆れているようだ。



「キャンス様に何て口を聞くのよ!」

「そうよそうよ!」



 そしていつの間にか取り巻きがいる。煩しい……。



「なあ、これはどういうことだ?」

「単純な嫉妬現象」



 プレアから一切の説明がなくて分かりやすい答えが返ってきた。

 多分、容姿とか成績とかの嫉妬だろう。面倒くさい……。



「プレアデス、貴方いつも休んでいるくせに成績優秀とか生意気なのよ!」



 その休んでいる間に例の準備をしていたのだろう。

 そんなことをこいつは知る由もないだろう。ほぼモブなので知る必要もないが。



「行こう嵩都」

「いいのか?」

「いいの。いつものことだから」



 プレアが廊下とは反対側の窓へと向かう。

 ――って、おい。まさか空飛んでいく気か?



「待ちなさい! まだ話は終わっていませんことよ!」



 手を引かれて窓側まで来ると予想通りにプレアは窓を開けて飛び降りた。

 そして引力に引かれて俺も落下する。



「プレア、お前スカートだろうが」

「大丈夫。幻惑魔法使っているから」



 そういう問題か? いや、プレアがそれでいいならいいのだが……。

 それならいっそズボンの方が――そういえばプレアのズボン姿は見たことないな。

 ま、結局似合っているチュニック姿が一番良いな。



「それじゃ、十二時に校門前で!」



 そうこうしている内に校門前を通り過ぎ、プレアと分かれた。

 俺は一度城に戻り、ある程度荷物をまとめ、着替えを済ませる。

 着替えは俺のナンセンスによって数十種類しかない。

 制服、寝間着の着流し、外出用の外套と服、邪神用の正装と仮面。それから元の世界の私服だ。

 そう、お分かりの通り俺が来ているのは大抵着流しだ。

 久しぶりに私服に着替える。春をイメージした白シャツと爽やかな薄緑の上着、あまり目立たない土気色のズボンを着用。

 そして制服を洗って乾かしストレージに収納した。

 昼の十二時前。俺は部屋を出て校門に向かった。








「……なあ、俺が聞いた限りだと最高でも八人のはずなんだが?」

「うーん、そう言われても……」



 亮平と話し合って辺りを見てみると実に十三人いる。

 内約は俺、亮平、博太、プレア、アネルーテ、猛、武久、加奈子、筑笹、悠木、ヴェスリーラ、大典、マベレイズさん。それに当人のフェルノが加わるから十四人だな。



「おい待てよ、この人数を奢るのは値段にもよるが無理だぞ」

「そこまで無茶は言わないから安心しておけ」



 ここで無理を言うと後で自分に返ってきそうだから妥協しておく。



「そ、そうか。よかった……」



 そこでフェルノが来た。黒のシャツの上に白色のゆったりとした服を重ね着してピンク色のスカートを着用している。

 博太も知らなかったようで見惚れているようだ。



「お待たせしました―――」



 そんなフェルノもこの人数を見て流石に固まった。



「ねえ博太、何があったの?」

「――簡単に言うとだな……」



 つまり博太はこっちに来る前にST工房に寄り、そこで猛たちに昼食を誘われたそうだがこちらの事情を話したところ芋づる式にあとからあとへとおまけがついてきたらしい。



「ヴェスリーラ先生は?」

「え、えっと、嵩都さんの監視もありますので……すみません」



 ……要するに俺が悪いらしい。それは俺持ちでもいいかな?

 ヴェスリーラは半分俺の魔力から作られているから食事は必要ないのだが味覚機能や記憶機能もある。



「……分かった。案内します」

「フェルノ、本当にごめん」

「良い。代わりに博太が全員分奢ってあげて」

「―――ぐっ……良いだろう」

『ご馳走様です』



 フェルノはリンクを飛ばしているようだ。

 博太はお財布の中身を確認しているようだった。財布と言っても自動精算なのだが。

 俺は博太に近寄って確認を取る。



「博太、金足りそうか?」

「金額にもよるが十万エルならある」

「そうか……足りなかったら言えよ。無利子で貸しておくから」

「すまん」



 正直言ってこの人数は俺でも無茶振りだと思う。

 そうして俺たちはフェルノの後をついて行き、見るからに高級料亭だと分かる和風の屋敷に連れて来られた。



「すげぇ……」



 門には『ソルヴィー和亭』と墨で書かれた朴看板があった。

 中に入ると平民から貴族まで幅広く食事をしていた。



「いらっしゃいませ」



 出迎えてくれたのは青い半被に鉢巻、割烹着という狐耳の女将さんだ。



「ただいま。連絡通りちょっと人数増えちゃったけど大丈夫? お母さん」



 お母さんらしい。笑顔がよく似合っている。

 それにしても若い。フェルノ同様に栗色の髪が光っている。



「大丈夫よ。さあ、ご案内してあげて」

「ありがとう。……ついてきてください」



 とりあえずお辞儀をしておくと皆もそれにつられてお母さんに頭を下げていく。



「お邪魔します、お義母さん」

「はい。いらっしゃい、博太さん」



 ふぅん。仲は良いみたいだな。



「ギンさん、博太さんが来ましたよ!」



 ん? 若干博太が青ざめているように見える。

 そして廊下をばく進する音が響き、徐々に近づいてくる。

 見えたのは犬――否、狼と言った方がしっくりくる銀髪のおっさんがこちらに向かってくる。

 博太は僅かに後退りして留まっていた。



「おう、よく来たな! この人数を奢るその度胸に免じて今日の決闘は勘弁してやろう」

「それはどうも」

「いや、素直に称賛するぜ。全員分合わせて354万8900エルを一括で支払える懐があるのは心底すげぇと思うぜ」



 馬鹿野郎博太! 全然足りないじゃねぇか!



「いえいえ」



 後ろから見ると首筋から冷や汗が大量に噴き出しているのが分かる。

 で、そのおっさんが俺を見て少し眉を潜めた。なんだ?



「ギンさん。それはそうと手に持っている金網は何ですか?」



 フェルノ母にそういわれておっさんは手に目を移す。



「――あっ、やべ。火つけぱなっしだぁあああ!!」



 ギンと呼ばれた長身の狼は厨房へ戻って行った。

 なんか騒がしい家族だが平和だな。



「博太さん。ギンさんが言ったのは冗談ですからね? 本当は割引格安で35万8900エルです」



 こんな良い料亭だ。本当に格安料金なのだろう。



「あはは……」

「博太、嵩都。こっちだよ」



 フェルノに呼ばれて俺たちも移動する。



「嵩都、すまん」



 俺は無言でメニューを開いて36万を博太に渡す。



「貸しだからな。さて、36万の味を堪能しますか」

「味は期待していいぜ。確かに美味いからな」



 フェルノに案内された場所はお座敷だ。

 畳、障子、座布団の三拍子が揃った大広間だ。外は中庭があり竹堤が鳴っている。

 空いている席に座り雑談しながら料理を待つ。








 料理は全て和食だった。醤油や味噌の味がとても懐かしく感じた。

 普段この店は予約制らしいが娘の頼みとあって席を確保してくれたらしい。

 そして王室御用達のお店でもあるらしく味は俺と同等かそれ以上の美味さだ。

 作っているのはあのおっさんらしい。見た目にそぐわず手先が器用のようだ。

 うぬぅ……この俺を唸らせるとは……。

 料理に舌鼓を打ち終わると十二時四十分だった。



「そういえば嵩都は国王からお呼びがかかってたっけ?」



 亮平が思い出したようにそう言う。



「そうだな。俺はそろそろ行くよ。博太、ご馳走様」

「おう」



 博太はたるんだ笑顔で手を振る。



「美味しかったわ。それじゃ私も戻ろうかしら」



 同じく立ち上がったのはアネルーテだ。



「ご馳走様でしたー」



 プレアも立ち上がる。アネルーテの業務を手伝うようだ。

 他の皆はこれからの予定を打ち合わせたりするようだ。

 俺たちは和室を出て外へと向かう。


ペルペロネ「ククク、我の出番来たれり!」

斎藤「フッ、漆黒の邪眼よ。挑戦状じかいよこくが届いているぞ」

ペルペロネ「フハハ! 我に不可能などない! 共に行こうぞ氷結帝王よ!」

斎藤「おう!」

斎藤&ペルペロネ「次回!! 特務!!」

筑笹「何だ、またラグナロクか?(鞭を構える)」

斎藤「違います……」


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