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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第四十七話・四番目

プレア「第四十七話、開始」

???「キュゥ?」

~プレア


 嵩都と別れたボクは一直線にクエルトに向かった。

 飛んでいるから城門は無意味。四匹目が居るのは町長の屋敷だ。

 子竜はすぐに見つかった。逃げることを考慮してもう少し時間がかかると思っていたけどそんなことはなかった。

 というより子竜は既に人間の手によって虫の息だった。

 全身を鞭や短剣で斬られ、竜特有の鱗が剥げて赤い血が溢れている。

 こんな加虐なことをしたのだからこの町はもう滅んで当然だと思う。



「キュゥゥ……」



 子竜はもう動くことすらままならないようだ。

 獣スキル:翻訳を発動。魔剣を取り出す。



「初めまして」



 すると子竜は言葉が通じると感じたようで首を上げた。



「君は人間が憎い?」

「うん。人間は僕が何もしていないのに傷をつけてくる」


 子竜は少し怯えながらも答えた。


「そうか……可哀想に。君はもう君の命が少ししかないのを分かる?」

「うん」

「その命、ボクに託してくれるならボク達が人間を滅ぼしてあげられる」

「そうなの?」

「ボクは魔王軍の一員だよ。そして君の力が必要なの」

「僕にそんな力があったの?」

「正確には君の持っている魔力――固有魔法を使うための魔力だよ。ボクたちはそれが欲しい」

「そうだったのか……。分かった、僕の命、あげるよ」

「いいの?」

「うん。その代わり……僕が死んだら……僕を竜の里に届けてくれる?」



 子竜の声が少しずつ枯れていく。



「……分かった」

「お願い……だよ……」



「うん。もうすぐここに―――ああ、もう死んじゃったか……」



 見知らぬ竜でも悲しいという気持ちに襲われる。

 それを振り払って子竜に魔剣を突き立てる。

 子竜の力を魔剣が吸い取って魔剣の刀身が輝いていく。

 全て吸い終わると魔剣の模様が赤く染まる。これで封印は終わりだ。

 子竜の死体を持ち上げ、空高く舞い上がる。

 そして子竜を対巨竜布陣の辺りに匂いをまき散らし、またクエルトに戻る。

 そして巨竜がくる城門から少し離れた前の辺りに置く。



「ごめんね。これが終わったらちゃんと返してあげるから」



 ボクはそれだけ言い残して魔王シャンの元へゲートを開いた。








~嵩都


 一時間が経つ前にプレアが戻って来た。



「終わったのか?」



 プレアを見ると服装が変わっていた。シャンのとこで服を変えたのだろう。



「うん。その代わり明日辺り大変なことになっているだろうけどね」

「なにかやらかしたな……まあいいや。とにかくお疲れさま」



 俺は用意していた紅茶をプレアに勧める。


「ありがとう」

「服持っているなら洗っておくけど、どうする?」

「あ、そうだね。お願いしようかな」



 プレアが紅茶を階段においてストレージから血の付いた服を出した。

 俺はそれを受け取って水魔法を使い洗濯する。

 水魔法は球体にして中に服を入れて洗濯する。擦る必要がないから服が切れる心配はない。水魔法を解除して火と風魔法を合体したドライヤーもどきを永続的に当てる。

 服自体は恒例の空間魔法で浮遊状態を維持している。

 しばらくプレアと雑談していると服が乾いた。プレアに渡す。



「あっと、忘れるところだった」



 俺はストレージから赤い希少な鉱石、煉獄結晶という溶岩の中にしかない人間では取りようがない宝石を加工した指輪の入った箱を出す。



「プレア、ちょっと遅いけど結婚指輪。受け取ってくれ」

「わあ、綺麗な宝石だねぇ。嵌めて嵌めて!」



 プレアが喜びながら左手の指を出してくる。

 手を取り、丁寧に指輪を薬指に嵌めていく。

 嵌め終わるとプレアは手を空高く上げてはしゃいだ。



「どう? 似合うかな?」

「とても似合っているよ。空の星々よりも輝いて見える」



 プレアに良く似合っている。俺は思うままに頷いた。

 しばらく感動に浸り、今度は俺もプレアから指輪を嵌めてもらう。


 ――カラァン カラァン


 何の偶然かどこかで鐘が鳴った。

 本当にタイミングが良い。



「嵩都……」



 気付くとプレアが隣に来て、そのまま流れるように唇を重ねた。







 二時間ほど経つと朝日が出てきた。

 亮平が出てきたのでプレアを交代させ、俺は朝食の準備に取り掛かる。

 どんなに魔法があっても料理には時間がかかるものだ。



 朝食を食べ終えた俺たちはコテージをしまい、その他の器具などを処理した。

 テーブルや椅子はコテージの中に運び収納した。

 博太、フェルノ、亮平は馬に跨り、俺とプレアは飛び、クエルトに向かった。









~クエルト城塞にて


 兵士たちは巨竜撃退準備を万端にして待機している。

 最近、台頭してきたSTの武装の数々が町門前に配置され、門の上にもバリスタが設置されていた。



「ん? ――おい、アレ!」



 兵士の一人が望遠鏡で見てみると大きな足音と共に巨竜がこちらへ向かって来ていた。それにつられて他の兵士も手持ちの望遠鏡で一点を見る。

 巨竜は地竜のようだ。翼は無く、発達した四足歩行でこちらに迫ってくる。

 全身の鱗や角が逆立っており、額に映えている一際大きい角はねじれ角だ。



「巨竜だ! 巨竜が来たぞぉ――――!!」



 門の上にいる兵士がそういうと櫓上で待機していた兵士が鐘を鳴らし、角笛を吹いて町に警告を出す。町にはまだ住民が残っている。あまりに急なことだったので逃げることも出来なかったのだ。もし、門が破壊されれば住民は一瞬にして殺されてしまうだろう。

 門前は騒然と移動している。冒険者たちも町の外にでて布陣をし始める。

 それから二時間ほどすると巨竜の全貌が見えて来た。



「なあ、あの巨竜なんか変じゃないか? 何か探しているような……」

「確かにそうだな。いっそこのまま素通りしてくれればいいけど」

「素通りされたら他国から苦情がありそうだ」

「違いない」



 少しばかり笑い声が聞こえ、兵士たちの緊張がほぐれる。

 巨竜はもう少し町へと近づき、そして前足で地面を掘り始めた。



「念のため攻撃用意」



 城門上にいた軍隊長が指示を出す。

 城門上にいた兵士たちが一斉に銃器を構える。



「グォォオオオオオオオ!!!」



 突如巨竜が咆哮した。その音量に誰もが耳を塞いだ。



「ひ、ひぃぃ!」



 パンと一発の銃声音がした。



「馬鹿者! 勝手に発砲するな!」



 隊長が辺りを叱りつける。



「隊長、巨竜の口に火が! 火球が来ます!」



 隣で巨竜の様子を見ていた兵士が隊長に言う。



「防御魔法!」



 隊長が指示を出すと門上にいる魔法師たちが一斉に詠唱を始める。

 巨竜が火球を吐き出すと同時に魔法師たちによる防御魔法が完成した。

 火球は防御魔法に当たり、一時の拮抗の後、辺りに霧散した。



「防御成功です!」

「よし、こちらも攻撃を開始せよ!」

「ハッ。攻撃開始!」



 その一言で戦火の火蓋が切って落とされた。









~嵩都


 出発してから三時間が経過した。昨日の疲労困憊は何処へ行ったのか馬二頭はまたも競争を始めた。いや、強制させられた方が正しいかもしれない。



「お、おい! もう始まっているぞ!」



 亮平が崖上に赤兎馬を止めてその先にあるものを見て言った。

 その先にあるのはクエルトだ。プレアの言った通り巨竜が進行してきたのだろう。



「迫力あるなぁ……」



 怪獣映画さながらの迫力を持つその光景は俺にも一種の恐怖を与えた。

 視力強化を施して巨竜を見てみる。かなりの巨体だ。

 見た所、鱗が固く剣も矢も弾かれているようだ。魔法を当ててもHPバーは微動だしない。

 僅かずつ減ってはいる。町門にいる兵士や魔法師たちも活躍し巨竜の進行を防いでいる。

 町中には物資が大量にあり消耗戦になっている。

 このまま行っても俺たちの様に援軍が駆けつける上に城からも軍を派遣している。結果は見ずとも俺たちが勝利するだろう。

 それでも巨竜は相当に怒り狂っているのか門だけでなく辺りにいる人間にも攻撃をしている。



「急いで俺たちも参戦しようぜ」

「そうだな」



 亮平の言葉にようやく騎乗出来る様になった博太が馬の進路を変える。

 少し回り道になるが崖は整備されていて下り坂がある。

 俺たちの場合はそのまま下ればいいだけだから下降していく。

 回り道なだけあって俺たちがクエルトに着く頃には巨竜が門付近にまで来ていた。



「ん? なんか天気悪くなってきたかな?」



 赤兎馬を飛ばしている亮平がふと上空を見上げながら呟いた。



「確かに暗いが雨にはならないな」

「そうだな。急ごう」



 亮平たちに合わせること一刻。遂に俺たちは戦場へと舞い降りた。







「撃て!」

「隊列を入れ替えろ!」

「しまった! 火球の一発が町に!」

「鎮火急げ!」



 辺りから怒号が響く。辺りからは血の臭いが充満して少し吐き気がする。



「遂に来たな」


 俺も亮平も聖剣を取り出して構える。



「っと、街に火の手が上がっているな」



 博太がアロンダイトを取り出す。そして剣先を町の方へ向けた。



「その火を鎮めよ、アロンダイト!」



 博太が叫ぶとアロンダイトから水の柱が現れて町に雨を降らせた。

 火の手が緩み、一気に鎮火した。

 便利なものだ。火災時には有効活用できる剣だな。

 砂漠とかでも水分に困ることはなさそうだ。

 


「それじゃ、先に行くね!」



 プレアがとても弓の弦を引っ張っている音とは思えない重々しい音のする弓を引き、撃った。

 代わりに打ち出された音は不思議なことに澄んでいた。

 戦場全体にその音が鳴り、人間も、巨竜も戦いの手が止まった。



 バキュ―――



「グギャァァァアアアア!!」



 プレアの矢がバリスタも弾く装甲を突破して巨竜の肉を穿った。



「俺たちも続くぞ!」



 俺が先駆して飛び、僅かに邪神の力を使い、黒い魔力をダーツ状にして背中の剣山に放つ。

 剣山に突き刺さり、中ほどの辺りから折れていく。

 わざと巨竜の正面に向かう―――。



「その魔力は――邪神様なのですか?」



 あまりに突然のことで一瞬動きを止めてしまう。

 その声が巨竜から発せられたものだと知るのに数秒を要した。

 止まっていた人間も動き出して戦いは再開された。



「……ああ。そうだが」

「何故、邪神様ともあろうお方が人間の力になっているのですか? 邪神様は人間を滅ぼすはずではなかったのですか?」 



 少し答えに困る問いだがこの受け答えをただの人間が分かるはずもない。



「どういうことか理解しかねるが――そう見えるのなら成功しているということだろう。この莫大な力を持った俺が貧弱な人間に屈することはない。つまり、俺は人間の味方になった覚えは無い」



 ――敵になった覚えもないけどな。と内心で付け加えて置く。



「左様ですか。それでしたら安心しました。では、その邪神様が何故私と戦っているのでしょうか? 我々竜族は代々邪神様の剣でありまするのに」



 ……大体理解してきたぞ。つまり、竜族という種はおそらく先代がいると見て良い邪神からの付き合いで邪神になったものに代々使える種族なのだろう。

 なら、嘘でも本当でもない言い訳をしておくか。



「それはお前を止めに来たからだ。俺は邪神に覚醒してから日が浅いため竜族というものやそういう歴史には疎い。何故と言われても答えようがない」

「そうなのですか……。では、この復讐が終わりましたら竜の里へ向かってください。そこで邪神様は何をしてどうすれば良いのか、全てお分かりになります」

「そうか。――その復讐とは一体どういうことだ?」



 そういうと巨竜の表情――分かり辛いが少し歪んだ気がした。



「子供です。私の子供が人間共に殺され、挙句に辱めを受けていたのです。そして先程、我が子の死体が見つかりました……」

「……そうか。そういうことか。その子供がいなくなったのは何時だ?」

「つい二週間前のことです」



 ……二週間前かぁ……。苦労していたのだろうなぁ……。



「何故いなくなったのだ?」

「人間共に連れ去られたからです。あの時は里を出て狩りをしていた時―――」



 簡単にまとめると山で狩りをしているとそこへ人間がやってきて少し離れた場所にいた子竜を攫われて寝る間も惜しんで探していたということだ。

 少々長い話を聞き、感想を言っておく。



「そうか……やはり人間はそういう生き物だな……。えっと――」

「名はレニールと申します」

「レニールとやら、もう一度、子に会いたいと思うか?」

「それは……ええ。しかしいくら邪神様でも――いえ、先代、先々代、それ以上に遡っても生き返らせることは出来なかったと聞き及んでおります。良いのです。私はここを死に場所とします」

「いや、出来るぞ。過去の邪神は出来なくとも俺なら出来る。子は何処にいる」

「……尻尾の辺りです」



 レニールに言われて尻尾の方に行く。

 確かにそこには見るも無残な子竜の死骸があった。

 その子竜に近寄り、手のひらをかざす。

 勇者スキルの全回復を使用し、子竜の傷を癒す。次に邪神スキルの蘇生を使用する。

 子竜の周りが黄色く光る。

 少々時間はかかるが確実に蘇生可能だ。ただし死体があることが条件だ。

 蘇生は文字通り蘇生するためのスキルだが、邪神の魔力による蘇生のため肉体が修復されても一ヶ月くらいは俺が魔力供給をしないと死んでしまう。自分の魔力で動けるまでは面倒を見るとしよう。

 さて、そういう感じで子竜は生き返った。そこにプレアも来た。



「あ、目が覚めたようだね」



 プレアがそういう。この子竜のことも昨日聞いていたからだ。

 そのためプレアが来るのも織り込み済み。後は話しを合わせるだけだ。



「キュ? 僕、生きているの?」



 目を覚ました子竜が俺たちを見るなり首を傾げた。



「このお兄ちゃんに頼んでね。お母さんも迎えにきたようだよ」



 子竜が首を伸ばして巨竜を見つめる。



「キュァ! お母さんだ!」



 その声に反応したのかレニールがこちらを向く。変わらず攻撃を受けているが気にした様子はない。

 こちらを向いて子竜が首を傾げたのを見ると咆哮を上げた。



「な、なんだ!」

「こっちを向いたぞ! 攻撃に気を付けろ!」



 レニールは普通に感激した様子だけど。人間にはそれが分からないようだ。



「まさか……本当に……ゴォォオオ!!」

「キュゥ?」

「制限はあるけどな」

「本当に何とお礼を申し上げたらよいか……グォォオオオオオオオ!!」



 ただ大泣きしているだけなのに周りは攻撃の予兆としか捉えていない。



「さ、ここに長居する理由はもうないだろ?」

「ええ、ええ」



 レニールが子竜を口でつまみあげて口の中に隠した。



「ついでに竜の里の場所を教えてくれると助かるのだけど」

「分かりました。えっと、邪神様はクラエレを使えますか?」



 聞き慣れない単語を耳にして少々困惑したが理解習得がリンクのことだと教えてくれた。



「クラエレ? ああ、リンクのことか。使えるぞ」

「では、竜の里までの経路を教えますね」



 レニールからリンクの波長が飛んできたのが分かる。頭の中にレニールがイメージしている地図が浮かび上がる。そして経路が浮かんできた。



「――以上が経路になります」

「ああ。分かった」



 流石、竜なだけあってイメージしているものが大雑把だ。後で大陸地図と示し合わせないといけないな。大まかにしかわからない。



「それでは、竜の里にてお待ちしていますね」

「気を付けて。あ、それとこれも受け取っていけ」



 再び勇者スキルの全回復を使用する。

 レニールの体が青い光に包まれてHPバーがみるみる回復していく。

 プレアが貫いた装甲や俺が傷つけた剣山も修復されて行く。



「俺とプレアがやった傷だからな」

「ありがとうございます。それでは――」

「キュァ」



 レニールの口から子竜が出てきてレニールと一緒にお辞儀していた。



「や、やったぞ! 巨竜が引き返していくぞ!」

「勝ったぞ! 町の皆とアジェンド城に知らせろ! 勝利だ!」



 よし、これで俺たちの目的も達成した。



「それじゃ、後は頼むぞ」

「任せて!」



 プレアの元気な返事を聞き、転移を起動した。

 巨竜襲来という予想外もあったけどアレはアレで良かったと思う。


亮平「始めて博太の聖剣を見たぞ」

博太「今まで使わなかったからな」

嵩都「水を操る力か」

博太「水と言っても高速で出し続けて切れ味を上げたり、濁流を発生させることだって出来るぞ」

亮平「濁流に電撃流したら強そうだな」

博太「そういう点だとエクスカリバーと相性良いんだよな」

グラたん「あのぉ……そろそろ次回予告を……」

博太「次回、見方の違い」

亮平「俺TUEEE!!」

嵩都「(ふむ……料理器具にも出来そうだな)」

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