第四十六話・クッキングタイム
グラたん「きゅるる……」
プレア「くぅぅ……」
フェルノ「きゅぅ……」
嵩都「ふんふんふんふん、たた、たたん(謎の鼻歌と三秒間の謎の待機時間)」
グラたん「第……四十六話、です……」
嵩都「上手に焼けましたー」
~嵩都
川にやってきた。魚やカニもいる。見た感じ魚は鮎やニジマス程度の大きさが多い。
捕まえる方法は至って簡単。鮮度を保つため氷魔法で氷の銛を作る。
「せーの!」
十本の槍を生成して川に勢いよく落とす。
魚に当たり、川が赤く染まる。素早く引き上げて血抜きして冷凍する。
魔法は実に便利だ。使い方一つで鮮度を保ち続けられる。
次に岩の影に隠れている蟹を―――うん、よく見たら魔物だ。
岩の甲羅を背負った蟹。大きさは五十cmほど。その岩陰に子蟹が密集している。
普通ならさっさと倒してしまいたいが蟹に変わりないので食卓に上げてしまおう。
「ギィ!?」
空間魔法で岩蟹を選択。岩なだけあってそれなりに重量はあるが浮かせられないほどじゃない。
蟹はまさか浮いて飛ばされるとは夢にも思わなかっただろう。
そのまま俺は野営地に蟹をご招待した。
野営地に戻って来た。戻るとフェルノだけが残っていた。
「お帰り……蟹? 魔物?」
フェルノが浮遊している蟹を見つけて驚いている。
「蟹の魔物だ。多分、料理すれば食える。魔物の料理は始めてだが料理法は同じだ」
「……魔物は食材じゃない」
良いツッコミだ。戻ってくる途中で俺もそう思った。
だが、持ってきたのなら食うしかあるまい。土魔法で簡易キッチンを作り、ヴァルナクラムを出す。
「……間違っても剣は調理器具じゃない」
「いや、大きさを度外視して使いやすさと馴染み深さを考慮すれば調理器具だ」
「……」
呆れたというようにフェルノは首を振った。
さて、調理に入るとしよう。蟹は塩ゆでだな。魔物だから一度仕留める必要がある。
「ギィ―――」
小刻みの真空波で本体と甲羅についている蟹を殺し、よく水で洗う。
洗っている間に食卓と椅子を作る。手頃な石を合成し、一度岩に直してもう一度削る。
計六個を真空波と水魔法で同時に削って行く。終わったら乾かしと磨きをしておく。
子蟹は味噌汁にでもするか。先に鍋の中に放りこみ火をつける。
本体の方は毒味をしてから生か焼きかを決める。……生でも問題はないが少々臭みがある。
ストレージから酒を取り出してかけ、匂いを取る。
そしてバラにして別の鍋に放り込み、塩をまぶす。
……間違ってもこんな調理法を実践でしてはいけない。俺の場合は料理スキルを使って捌き、ボイルしているから。普通は食中毒の危険がある。
「ただいまー。嵩都、山菜取って来たよ!」
プレアたちも帰って来たようだ。亮平と博太はコテージでも作るようで少し離れた場所に木材をおいている。
「お帰り。山菜はキッチンの上に置いてくれ」
「分かったよ」
プレアが取って来たのは香辛料や葉野菜、根野菜など。目利きできるのか良い食材ばかりだ。
同時進行で冷凍してある魚を解凍して食べやすいように骨を抜く。身を崩さずはらわたと一緒に抜き取るのがコツだ。五匹はメインディッシュにするため香辛料をまぶし、残った五匹は刺身にでもしよう。
メインの魚は簡易オーブンに入れて酒蒸しにする。人参や茸などを一緒に入れてボイルする。
味噌汁用のお湯が沸騰したようだ。火力は魔法で調整できるから結構短時間で出来る。
蟹の出汁は出たので蟹自体は解体して身のみを取り出す。一々自分で取るのは面倒くさいから。
本体の方も同様に出来たようだ。魔物なため既に足の数がおかしい。
計三十本の足を解体し軽く茹でる。ストレージからお皿を取り出して本体を盛り付ける。
そして茹で上がった足を見栄えよく乗せる。
メインの魚も出来たようだ。これも同様にお皿に乗せ、空間魔法を使い、テーブルがある位置に転移させる。転移し終わったら五匹を捌いて刺身にする。
醤油とマヨは事前に買っておいた物をテーブルに出す。
こんなものか。後は食後のデザートを作るか。プレアが取ってきてくれた中に果物もある。
ドライフルーツは好き嫌いがあるから駄目だな。普通に剥くのが良いだろう。
「よし、完成だ。皆、夕食の準備が整ったぞ」
箸、フォーク、スプーンなどを並べる。
それと余った野菜を簡単に盛り付けて馬二頭に与えて置く。
二頭は疲れながらも飯は食うというように顔を伸ばして食事を始めた。
少しするとフェルノ、プレアが来た。
「うわ、これ嵩都が一人で作ったの?」
「豪勢……美味しそう」
「それはなにより。このくらいなら俺一人でも作れる」
プレアたちが感想述べているとコテージが完成したようで亮平たちも来た。
「うおっ。刺身に蟹に味噌汁に魚だと……」
「和洋が入り乱れる日本の食卓でも時折しかでないモノが一度に出ると迫力あるな」
「それに大理石顔負けの食卓に椅子……この短時間で作れる物なのか?」
「しかも無骨でなく意匠まで凝ってやがる。こんな細かいともはや匠の技だろ」
褒めてくれるのは嬉しいが料理が冷める。
「とにかく食べようか?」
「そうだな」
四角の卓の内、俺とプレアが右に、博太とフェルノが左、亮平が上段に座った。
「ねえ、博太。普通は料理を作った人が上座に座るよね?」
フェルノがそれを疑問に思ったらしく博太に問うている。
「俺は特にそういうことにはこだわらない。俺たちの世界だと割とそういう所が多いから」
「そういうことだ。嵩都が良いならそれでいいだろ」
「そう……文化の違いね……」
フェルノが納得した所で皆が合掌し祈りを捧げた。
『いただきます』
俺が最初に手を付けたのはメインの魚だ。
蒸し加減はちょうど良い。骨も取ってあるから食べやすい。
次に蟹汁を飲んでみる。少々熱いが蟹の香りと身が喉に入って行く。
「熱い……」
フェルノは猫舌―――この場合狐舌か? とにかく冷めるまで飲めないようだ。
「これは……これ、蟹なのか?」
真ん中に乗せてある蟹足を取って博太が呟いた。
「それ、魔物……蟹の魔物……」
フェルノが熱い恨みとでもいうようにネタばらしをした。
「ま、魔物か……」
「まさか……この魚も、なのか?」
亮平が刺身になっている魚を箸で取りながら醤油につけていた。
「いや、博太のだけ魔物だ。魚は普通の魚だ」
「ちょっと待て、俺のだけ魔物なのかよ!」
「そう? この蟹普通に美味しいけどね?」
プレアが蟹足を甲羅ごとバリバリ食べている。
「プレア、甲羅も食べられるのか?」
「おせんべいみたいで美味しいよ? 試食しなかったの?」
「蟹足は剥いて食べるものだと思っていたから甲羅の調理はしていない。盲点だった」
「そうなの。食べられるよ」
「どれ」
俺も蟹足の甲羅を口にしてみる。
口の中でバリバリという音がする。確かに食感はうす塩のせんべいに近いな。
「ゴクン―――なるほど。新しい発見だ」
「本当か?」
博太がそれにつられて甲羅を口にする。ただし岩蟹の甲羅を。
ゴリ、ガリ、ガツンという虚しい音が響き渡った。
そしてゴクンという音と共に博太の顔が真青になっていく。
「は、謀ったな……嵩都……」
「だから言っただろ。お前のだけ魔物だと」
「いや、どう見ても石を食べたよね」
プレア、冷静な突っ込みありがとう。
「冗談だ。確かにお前が食べたのは石だ。吐き出さないと命にかかわるぞ」
博太が椅子から立ち上がって川辺へ駆けて行こうとするとその前にフェルノが立ちはだかった。
「じゃ、任せて……――――えい」
フェルノが博太の背を蹴り上げ、博太が空中に浮き、一瞬の間にフェルノが飛び上がり拳が博太の胃、肺、喉の三連発し、博太が地上に落ち、仰向けに倒れた。
「ゲボォ!」
無事に石が出たようだ。フェルノはその他の後処理を水魔法で洗い流していた。
「大丈夫?」
自分がやっといて何を――そう思ったのは俺だけではあるまい。
博太は紳士にも口を洗い流しつつフェルノに親指を立てた。
「そう、良かった……」
博太が戻ってきた所で夕食が再開された。
全員が食べ終わって俺が洗い物と明日の朝食の下ごしらえをしているとコテージの方で亮平と博太が手作りの寝床をコテージに運んでいた。
プレアとフェルノは火の番をしながらおしゃべりだ。
洗い物と下ごしらえが終わった俺は彼女たちにデザートを持って行った。
「あ、嵩都、お疲れさま。それは何?」
「パフェというものだ。食べたことないか?」
「パフェ……普通に食べたら一個二千エルはする代物……」
「フェルノは甘い物は嫌いだったか?」
「ううん……好きだよ」
「それじゃ、どうぞ」
二人に配り、寝床を運び終えた二人にも渡す。
飲み物はプレアが取って来た果物を絞り、ジュースにしたものだ。
俺たちとっては馴染み深いものでもフェルノとプレアにとっては違うらしい。
フェルノの言った通り文化の違いだな。
デザートも食べ終わった後はもう就寝するだけだ。
――――だが、寝る前に事件は起きた。それはフェルノの一言がきっかけだった。
「博太、トイレ……」
博太曰く、このコテージは折り畳みが出来、更に内部に運んだものはそのままの状態で保存される優れもの。故に寝る以外の設備は一切付いていない。
そう、全てこれからつける予定だったと博太は告白した。
要するに全くそのことを考えていなかった俺たちは戦慄した。
コテージは二階建ての全五部屋で一階が玄関と居間。奥に階段があり二階に四部屋あるのだ。
クリエイトセンスが問われるこのコテージには風呂もなければトイレもないのだ。
ということで俺が急いで木材を集め、博太と亮平が洋式便座を思い出して何処に設置するかを決め、個室枠を新に作り、更にはプレアの協力の元で音消しの魔法を永続的に個室に使用する仕掛けを設置(要するに電気と一緒に魔力を流し込むことで音消し魔法が発動する仕組み)、俺が戻って来た後は俺が木材を切り、亮平がコテージに穴と排水管を繋げて設置。博太が思い出せる限りの再限度で、土魔法で原型を作り、プレアがそれに沿って大理石ばりの輝きを持つ削った石を原型に嵌めて削りだしていく。
そして木材を切り終った俺は個室を作るための枠組みを作り、板に成った木材を貼り付けていく。そして突貫工事だったにも関わらず中々のクオリティでトイレが完成した。日本の洋式トイレと遜色なく水を溜めて排出することまで出来た。
流石に意匠を凝っている暇は無かったため無骨だ。
試運転は問題なくクリア。限界に迫ったフェルノがトイレに駆け込み、一段落を得た。
「ねえ、嵩都。せっかくだからお風呂も作れないかな?」
そこへプレアの無茶振りが発生した。原理は同じようなものだからと安請け合いしてしまった。
風呂と言えば大浴場が主流なこの世界。博太が予備で持っていた一つを一軒屋に合成。
二階を切り崩して一つの部屋に変える。
余分に持ってきた木材を再び斬り、丁寧に切り崩して置いた木材を掛け合わせて脱衣所を作成。その間に亮平が同様に浴槽を作成、プレアがタイル化したモノを貼り付ける。
博太と出てきたフェルノが水魔法を酷使してお湯に変える。
亮平が死力を尽くして完成させた浴槽と湯気を逃がすための煙突が完成し(煙突や窓は当然ながらプレアが覗き防止の魔法を掛けた)良いお湯加減のお湯を風呂釜に入れる。
流石にこれをもう一つ作ると徹夜作業になるので一つで十分ということになった。
浴槽は部屋の半分以上を使ったこともあって広い。長方形で縦4m横2mほどの長さだ。
深さはだいたい50cmほどの深さだ。フェルノには少し深いかもしれない。
先にプレアたちに入らせて俺たちは部屋で一休み。
「やべぇ……疲れたわ……」
「ああ。蒸し暑いな……クーラー」
クーラーか、いいな。
「クーラー? ハハッ、STが製作中らしいぞ」
「ぜひともこの部屋と二階に欲しいな」
「特に夏になる前に完成してほしいな」
それはそうとこの蒸し暑いのをなんとかしないと。
「クーラーとまではいかないが扇風機程度なら即興で作れるぞ」
そう提案すると亮平が力なく手を振った。
「ああ、作ってくれ……」
部屋の中心に氷魔法を設置。周りを二酸化炭素で固めて溶けないようにする。
続いて空間魔法で対象を氷に設定。持続式の半重力を発生させる。
最後に風魔法の風力を調整して氷の周りから永続的に発生するように調整する。
「あ……これはいい」
「確かに。程よい扇風機だ」
「しかも人が居る方に向かってのみ発生するから低コスト」
『いいねぇ……』
疲れ切った男三人は氷の周りに群がりながら寝ころんでいた。
「良いお湯だったね」
「うん。そうだね」
女子二人が出たようだ。二人とも上せたのか少し顔が赤い。
「皆、ありがとうね。気持ち良かったよ」
「そりゃなによりだ」
「ああ。次、入らせて貰おうかな」
「それがいいよ。さっぱりするよ」
プレアに後押しされて動きたくないと拒否する体を無理矢理前進させる。
風呂場につき、ダラダラと着ている物を脱ぐ。
……
疲れたからだろう。少し意識が飛んでいたようだ。
気付けば俺は寝床にいた。直前の記憶を思い出す。
後、三時間後に俺が見張り番だったな。
そう、俺の寝床で寝ているプレアと一緒に。
悲しい事に亮平は単独で見張りになっていたな……。
……
「嵩都、時間だよ。起きて!」
耳元でプレアの声がする。くっ、眠い……。
体をゆすられても眠いものは眠い。
「起きないと布団から一枚ずつ剥いで行くよ」
「勘弁……起きるから」
このまだ寒い夜にそれは勘弁してほしい。
目を開けると目の前にプレアがいた。変わらず可愛いというか美しいというか。
「うぐっ、寒い……」
最近愛用している着流しだが防寒耐性は皆無。本当にただの布だ。
寝床から立ち上がってストレージから防寒耐性のある半そでを着る。
既に矛盾も良い所だが動きやすさに定評があるため半そでは度外視している。
プレアと共に一階に降りると博太とフェルノが部屋の中でガチガチ震えながら待っていた。
「嵩都……せめて寝る前に扇風機を消して欲しかった……」
「ガチガチ……ブルブル……」
「あ、すまん。解除」
所詮は魔法なので消すのは簡単だ。
「うう……寒かった」
「博太……二度、死にかけた……」
「ああ。外も中もコキュートス……」
これを教訓として気を付けておこう。扇風機は必ず消すこと。
「すまなかったな。交代する」
「ああ……もし、朝に俺が起きなかったら遺体は荒野に捨ててくれ」
「博太、荒野に捨てたら烏とハイエナと魔物と蛆が群がるぞ」
「現実的過ぎて怖いな……もちろん冗談だ」
「早く寝なさい。冗談センスが危ういから」
「そうする……お休み」
「ああ。お休み」
フェルノに支えられながら博太は二階へと上がって行った。
プレアと共に外に出た。玄関の階段に座り外を眺めていた。
「綺麗な空だね」
「そうだな」
プレアが空を見上げていた。俺も見上げると本当に綺麗な星空がそこにあった。
地球では汚染があって中々見られない景色だ。
「このまま空まで飛んで行きたい気分だよ」
プレアが指差したのはクエルトの方向だ。
「今じゃなくても良い気もするけどな……」
「今だからこそ行った方がいいとボクは思うけどなぁ」
傍から見れば意味不明の会話だろう。
「ま、プレアが決めたことなら俺は止めないさ」
「そう? 本当に行っちゃうよ?」
「そう言われると止めたくなるから不思議だ」
「そうだね……。ここからだとどれくらいかな?」
「大体三十kmくらいだな」
「じゃあ一時間あれば行って来られるね」
「分かった。交代まで三時間ほどあるからゆっくりでいいよ」
「ううん、せっかく嵩都と二人きりになれる時間だから早く終わらせるよ」
「分かったよ。いってらっしゃい」
「うん。行ってきます」
プレアはそう言ってクエルトの方に飛んで行った。
プレア「行ってきまーす」
嵩都「いってらっしゃい」
嵩都「さて、次回予告だ。(朝食の仕込みをしながら)次回、四番目」
嵩都「(ちょっと火で炙る)ウルトラ上手に焼けましたー」




