第四十四話・不穏な影
グラたん「第四十四話です!」
説明会場は大講義堂、筆記試験が行われた会場だ。
机が取り払われ、座り心地の良い椅子が並んでいる。
適当に座り寮の説明――まあ要するにこの間と同じ内容なのだが聞いておく。
この会場には俺たち以外にも入学を許可された人や獣人などが結構な人数いる。
四日後にはここで入学式が行われる。そのための準備資材と思われる物資が幕の裏に見え隠れしていた。
寮の説明が終わって俺たちは外に出た。
この後は昼食にしようと相談していたところだ。
そのあとは寮を実際に見て決めようという話になった。
昼食は学食で取った。味は大衆用の濃い味付けだった。
再び外に出て様々な寮を見て回る。
一軒家にアパート、何であるのか分からないが、あばらや等があった。
「良い物件は結構あるな」
亮平が炭酸を飲みつつ話す。
「そうだな。でも高い。月々はちょっと厳しいな」
「いっそ自分で作るのもありだな」
そう言ったのは鈴木だ。なんでか分からないがこいつにも奢ることになっていた。
「材料費は自分持ち、三年後は良ければ寮、悪ければ取り壊しだがな」
「その分出来た時の愛着は半端ないと思うぜ」
これは佐藤だ。武器職人だけにそういうのはよくわかるのかもしれない。
「確かになぁ……そういうのもありかもしれない」
「マジかよ……なら、いっそ全員でそれにして競争でもするか?」
亮平が提案すると佐藤が手を振って答えた。
「ああ、俺は工房から通学だからパスな。やるなら材料提供はするが」
「まあ佐藤はそうだな。鈴木と嵩都はどうだ?」
「うーん、面白そうだな。将来のマイホームの練習にやってみるかな」
鈴木は乗り気だな。俺も良い。
「それじゃあ、早速土地購入に行こうぜ」
『おおー』
寮の貸し借りは事務室にて行われる。土地を借りることは特に問題は無かった。
しかし、学生や先生、近くの住民の迷惑にならないところだと場所はより僻地になる。
つまり、この学園には山も海もある。俺たちが選んだのは動物住まう憩いの秘境、山奥に住むことになった。ただし、実際に住むのは俺と亮平と鈴木の野郎三人のみ。
そう思っていた時期がありました。
「なに……話しているの? 博太」
「リン、探したわよ」
目の前にいるのは鈴木の嫁フェルノさんと第一王女のクロフィナさん。
「嵩都がいくならボクもそこに住む!」
そしてプレアだ。まさに登録用紙を書いているタイミングだった。
「プレア、お前の妹はどうする気だ?」
「大丈夫。夏期冬季の休業以外は女子寮に住んでいるから」
「……そうか」
俺たちの方はこれで話しがついてしまった。元より断る選択肢はない。
一方で鈴木たちは温暖に揉めているようだ。
「そこに住むの?」
「ああ。それに仮の家が出来るまではしばらく野宿になるだろうし……だから……」
「分かった。私も協力する……いいよね?」
「……はい」
鈴木はフェルノさんの尻に引かれっぱなしのようだ。
なんか将来の縮図に思える。
そうそう、フェルノさんだが実はこの中で一番小さい。悠木さん並だと思う。
つまり120~125cm。鈴木と並ばせると大人と中学生くらいの差がある。
次に亮平たちだ。クロフィナさんが賛成し、亮平が必死に食い止めている。
「ダメだ! 国王が怒るだろ!」
「ここにいる間は身分関係ないの。それにサバイバルもしてみたいのよ」
「勘弁してくれ……万が一何かあったら俺の首が本当の意味で飛びかねないから」
「あら、ならリンがちゃんと守ってくれればいいじゃない」
「だからって――いや、それ以前にフィーは学校に入れないだろ?」
「リン、ここを経営しているのは誰? 造作もないわよ、その程度」
「……職権乱用」
「何か言った?」
「なんでもない。フィーを守りつつ学生をしてみるか……」
「決まりね!」
どこも同じような物だな。
男三人に女子が三人という同居生活が決まってしまった。
男共が尻に引かれ嫁や彼女の無茶振りに答える日々が目に浮かんでくる。
あ、涙が……。
そうして提出すると割と簡単に許可された。ただし様々な誓約書や手続きを書かされた。
手続きが終わる頃には既に夕方になっていた。
製作は入学したその日から開始となる。素材は佐藤に頼んで当日持ち込みとなった。
まずは夜になる前に仮宿舎を作ることから始まるそうだ。
素材費は格安で売ってくれることになった。が、先立つモノが必要だ。
明日から各自でノルマを達成する日々が続くだろう。
さて、それはそれとして俺たちは城内へと戻って来た。
風呂に入り、夕食を取って部屋に戻った。プレアやフェルノさんとは別れている。
それじゃ、おやすみなさい。
……ぐぅ。プルル……なんかリンクが繋がったぞ?
「もしもし?」
「朝宮、寝ている所悪いが今すぐ工房に来てくれないか?」
「ん? どうした?」
「頼む……他の皆も呼んでいるから……本当に頼む」
珍しく涙声で佐藤が頼み込んできているせいか目が覚めた。
「分かった。今行く」
佐藤の招集に答えるため俺は外出着兼武装の着流しを来てまだ冷たい夜空に身を躍らせた。
工房に来てみるとまた工房自体が大きくなっていた。
「来たか、もう皆集まっている」
佐藤が出迎えてくれて中へ入る。
中には斎藤、筑篠、源道、三井、山下のいつものメンツが揃っている。
他は眠気に負けたのだろう。来ていない。
「皆、急な招集集まってくれてありがとう。俺の隣にいるのはマベレイズだ」
「妻のマベレイズです」
一瞬だけ嫁・彼女・彼氏持ちでない奴等から殺気が飛んだ。
「まだだろ。それはそうと集まって貰ったのは他でもなく機体についてだ。具体的にはウチの部下が発注しそこねてだな……素材がないんだ」
佐藤の発言に筑篠たちが驚く。
「お、おい、まさか例の……?」
「そのまさかだ。アレの素材を一括でミスしやがって……」
嘆くのは勝手だが俺が分からん。何の話だ。
「一体なんのことだ? 話しがつかめないぞ」
「そうか、朝宮には言って無かったな。ST工房では最新技術を使って十数m前後の大型魔導兵装という武装を作ろうと思っていたんだ。そこへ筑篠たちがテストパイロットに志願したというわけだ」
「なるほど。で、俺だけ違うということか」
「うっ、まあ、そう言うな。成功した暁には望むなら専用機を作れる」
「ま、それをいうなら俺たち全員の機体が専用機だけどな」
そこへ斎藤が茶々を入れる。
……くそぅ。専用機は男の浪漫だ。是非とも欲しいな。
「そうなのか。分かった。専用機のためにも協力しよう」
「助かる。発注し損ねた素材は紙に書いてある通りだが数が多い」
「確かに数字が凄い桁だな。こんなに使うのか?」
「そうだ。その中には機体とは別口で使う素材もある。明日、明朝までに頼む」
「みょ、明朝!? 時間なさ過ぎるよね?」
山下が驚く。――それはそうと、あまりやりたくはないが集めることは可能だ。
「分かった。俺がこの素材を全て集めてくる」
「いや、それは無理だろう。紙一枚がストレージ一杯の量だぞ?」
「出来る。総動員させればなんとかなるだろう。紙を貰ってもいいか?」
「あ、ああ」
そう言って筑篠たちの紙を回収していく。同時にリンクを通じて四天王に命を下す。
「総動員って……軍隊でも持っているかのような発言だな」
流石は筑篠。鋭いな。
「ああ。まだ小規模だが優秀な部隊だ。運び方が少し特殊だから野外に広間と物資搬入の通路を作って置いてくれ」
「分かった。朝宮、お前を信じるぞ」
「任せておけ。行ってくる」
そういって俺はST工房から飛び出てこちらに近付いている浮遊大陸に向かった。
衣装を着替えて仮面を着けて角を出す。
ムスペルヘイムにつくと俺の軍およそ三万が城内に整列していた。
テラスに降りると四天王が駆けつける。
「お待ちしておりました。しかしいくらなんでも急ではありませんか?」
ウリクレアにそう窘められる。
「すまない。今回は本当に急に決まったのだ」
「それに初任務が素材採取とは……一体何に使うのですか?」
「人間界にいる友人が泣きついてきて……懇意にしている奴だから無下に断れなかった」
「……左様ですか。しかしそれは人間のためではございませんか? 最終的に主様が目的を達するのに邪魔にはなりませんか? いっそ――」
そこまでウリクレアが言い、俺は強めの口調で答える。
「それはない。それに彼の元にも工作員を送って技術を奪わせてもらう」
「分かりました。主様がそうおっしゃり、考えがございますならば反対は致しません」
「すまないな。では、皆、力を貸してくれ!」
『オオ――――!!』
軍が動き始める。城門を抜けて街門を抜ける。
俺は浮遊大陸の一部を切り出して兵をそこに乗せる。
浮遊諸島が人里離れた場所に着陸し、兵士たちが命じられた内容の物資を次々に集めてくる。
朝日が昇る事には書かれていた物資が揃っていた。いや、少し余分だったかもしれない。
四天王や兵士たちを労い、臨時給料と酒を振る舞った。
俺はその間に浮遊諸島を工房の開けてある敷地に飛ばした。
全部終わると佐藤ともう一人、例の馬鹿者がお礼と謝罪に来た。
馬鹿者は謝罪し終わるとすぐに搬入作業に戻った。
「本当になんと言ったらいいか……約束通り例の物――この間の戦いで交渉された時に言ったと思うがそれを専用機にしてお前に渡そう。もちろん料金は無料で、ついでに整備費も無償にする」
「分かった。その時を楽しみにしておこう」
よし! 専用機確定フラグ建築!
「それにしても空中から運んでくるとは……」
佐藤が空中に浮かんでいる小島に目を向ける。
「まあな。でもコレ凄く魔力使うから常時浮遊は無理だな」
「だよな。ま、お疲れさま」
「おう。一回戻ったら一眠りするとしよう」
「明日――いや、今日から金稼ぎだったな。頑張れよ」
「ああ、それじゃあな、佐藤」
「今更だが、大典で良い」
「そうか、分かった。大典」
「寝落ちするなよ、嵩都」
眠気を噛み殺しながら俺は浮遊諸島を大陸に戻すため浮遊大陸に向かった。
~幕間・国王
「なんだと!」
私ことアルドメラは明朝玉座にて町及び周辺の村より救命が出された報告を受けていた。
「ハッ、進行しているのは竜――普通の飛竜とは違って巨体で、下手をすれば町が崩壊する危険がございます」
「むう……大臣、今から救援を派遣して間に合うか?」
「ふむ、その救援を出したのは何時だ?」
「二日前の昼にございます」
「進行先はクエルトだったな……良くて三日後だな。それまで持ちこたえられるかだが……」
「考えても仕方あるまい。兵士二千を先行。本隊一万五千を動員して出陣命令を出せ。それにギルドにもCランク以上の冒険者を水準として発注せよ。至急、STに武器を注文せよ」
「了解!」
「其方はクエルトの町に行き迎撃するように指示を送れ」
「了解です!」
一気に城内が慌ただしく動く。
しかし不思議だな。巨竜などここ数十年ほど聞いたことが無い。
いや、そもそも竜族は山脈から下山などしないはずだ。
どこの盗賊か冒険者が逆鱗に触れたのだろう。はた迷惑な。
私もこれから書類と格闘が始まる。うう、嫌だ。こんなときサフィ―がいてくれたら……。
いや、私がしっかりせねば。泣き言は言っていられん。
私は書類が既に溜まっているだろう執務室へと向かった。
グラたん「後書き、今回は誰もいませんね」
グラたん「誰か来てくれませんかね……」
グラたん「寂しいです」
グラたん「次回、巨竜侵攻」
グラたん「余談ですが、私は狩りゲー大好きです」
グラたん「でも虫系は大嫌いです」
グラたん「フィールド内に配置されている草食動物の死骸とか諸にダメです」
グラたん「骨フィールドもダメです」
グラたん「そんな私、永久ソロハンターです」




