第三話・魔剣レーヴァテイン
グラたん「第三話どうぞ!」
目を覚ますと見た事の無い天井が目に映った。
……ああ、そうだ。異世界転移したんだったな。
意識を覚醒させつつ起き上がる。
「目が覚めたかね」
声の方を見ると――目の前に包帯のミイラがいた。
一瞬誰だか分からずに首を傾げる。
「? ……ああ、私だ、ヴァインだ」
分かるか! と心の中で思いっきり叫んでいた。
「まずはお礼を言わせてほしい。助かった、ありがとう」
隊長が軽く会釈する。
「いえいえ、なんてことないですよ」
「謙遜することはないよ、命を救ってくれたのは君のおかげだから」
……こうなることぐらい分かっていたと思うのだが。
「とりあえず今日の予定だが、まずは我が国王に会ってもらいたい」
謁見してくれと。話を進めるために頷く。
「場所は兵士が案内してくれる。集合時間は十時だ」
「分かりました」
「うむ。着替えは使用人が持ってくるからそれに着替えてくれ」
そういって隊長は出ていった。
謁見か……どういう人だろうか。
まあいい。どんな人物かなんて会えば分かる。
――阿保みたいな人格者だったら本気で身の振り方を考えるけどな。
とりあえず着替えるか。
……それと今、気がついたがこの城にはプライバシーは無いのかよ。
出て行った方を見ると扉が開けっ放しだった。
……あれ? 俺、寝る前に鍵閉めたよな?
後で隊長に聞いた所、鍵は開いていたそうだ。おかしいなぁ?
歴一五六六 二月二二日 AM10:00
兵士に案内されて目的の場所に着くと同時に集合時間の十時になった。
一応前の服も持って来ておいた。替えの服もストレージに詰めておいた。
ストレージとはつい先ほど右手を横に移動させたときに現れたメニューの中にあった機能の一つだ。
この世界に時計はなく俺の視界の左上にタイムアイコンがある。
時間はこれで確認するのだろうけど、どこまでもゲームっぽいな。
そんなことを考えていたら隊長がやってきた。
「諸君、今より国王への謁見を始める。粗相の無いように頼むぞ」
言われるまでもないだろう。皆、良い具合に緊張がほぐれているのが分かる。
「では、ついてきてくれ」
こうして俺たちはこの国の国王に謁見することになった。
そこはかなり大きい部屋で壁には剣や盾が飾られていて周りには軽装をした兵士たちが十人ほどいた。足元には赤い絨毯が引かれている。
周りを見ると生徒、先生の六十余名は支給された服に着替えていた。
男性は薄い青を基準にした半袖の服に白色のズボンを履いていて、女性は中に白の薄いTシャツに薄いピンク色のワンピースを重ねて着ていた。
ちなみに先生方は緑色のローブを着ている。
「うむ、よく来てくれた異世界の者たちよ」
そう言ったのはど真ん中にふんぞり返っている中年のおっさんだった。
見てくれは悪くない。財政が赤字なのか衣装はそこまで豪華ではなかった。
頭には王冠があり、威厳がそれなりにある。
「私がこの国の王のアルドメラ・スファリアス・アジェンドである」
失敬、国王だった。それにしても若いな。三十くらいか?
「さて、諸君らを呼んだ理由はもう聞いていると思う。なので、宰相、後は任せた」
丸投げか。そして宰相が酷いと言いながらも前に出た。
「えー、君たちがどういう経緯でこちらに召喚された等々はヴァインから聞いています。どういう風に召喚されたのか、また我々が行った箇所と違う箇所もあったのでそれも説明します」
宰相が言うには、まず召喚を行う際には大規模な地震が起こり、勇者として召喚するための選抜をするらしい。そして生き残った者が勇者として召喚される。
違う点は……あの隕石については召喚する際の干渉ではないらしい。
……地震については分かったが結局隕石については分からずじまいだった。
誰だ。そんなはた迷惑なことをした馬鹿野郎は。
「そういうわけだ。すまなかったな」
国王が謝罪した。頭こそ下げないが誠意は感じられるな。
他の奴らも『まぁ』とか『もう過ぎたことだし』とか言っていた。
まあ、あれだけブチ切れれば一周回って落ち着くだろうさ。
「以降の説明はわたしが務めさせていただきます。大臣のカンツェラと申します」
言っては何だが変な名前だ。異世界だからか?
「まず、勝手に召喚させてしまった非礼としてこの王宮での訓練、三食の食事、浴場、訓練後の月一の支援金10万エル、旅立つ前の装備の提供をお約束いたします」
ずいぶんまともな待遇だな。無いとは思うが裏があるのかと疑いたくなる。
「次に訓練についてですが、それは後ほどヴァイン隊長より説明があります。次にこの世界での基本的な動作について教えます。一つ目がステータス画面と道具の見方です」
ステータス画面……ゲームに限りなく近いな。
「ステータス来たぁぁ!!」
ヒキが叫んでいた。相変わらず五月蠅い。どれだけ舞い上がっているんだ。
……いや、分からなくはないぞ。ただ節度を考えて欲しい。
「静かに願います」
当然ながら大臣が注意した。ヒキは気が付いて黙る。
「さて、見方ですが右手を横に振ってください」
大臣がやって見せる。俺も続いてやってみるとメニューが出る。
タブを移動してストレージとステータスを確認した。
そういえばステータスだけ見てなかったな。
……おお、これが俺のステータスか。
朝宮 嵩都
HP 360
MP 250
攻撃力 150
守備力 150
素早さ 100
魔力 100
スキル 剣Lv1
固有スキル 勇者Lv1 飛翔飛行 理解習得 魔剣所持解放 聖剣所持開放
固有武装 聖剣ヴァルナクラム
装備 魔剣レーヴァテイン
……魔剣だと? この能力は一体……いや、それよりもいったいどこで手に入れた?
突っ込みどころ満載の能力は置いといて目が行ったのはそれだった。
でもまあ、強いのに越したことはないし貰っておくか。
でも先に言っておいた方がいいのか? いや、それとも黙っていたほうが……。
そうこう悩んでいるうちに大臣が続きを言い出す。
「今、見てもらっているのがステータスと呼ばれるものです。レベルアップに伴ってスキルが上昇します。HPやMPは生来の能力ですのでこれが上限値だと思ってください。そして能力値は装備や装飾品などで上げることが可能です。また、スキルに能力値が上昇する物はありませんのでご了承ください。それと棒線が引かれている欄はスキル欄です。棒線部分はスキルスロットと言ってあなた方が今後スキルポイントというポイントを取得した際に得られるスキルを入れて置ける欄です。尚、スキルは3つまでが限界ですのでよく考えて入れてください。スキルポイントですがスキルポイントは魔物や地道な反復練習によって得ることが出来、また1日一ポイントを自動で取得することが出来ます」
……Lvシステムか。でもLv制ってLv差で理不尽なことになるんだよな。
それにLVアップで技を覚えるのか……努力すればするほど伸びるシステムは努力しても報われない可能性のある日本人にとっては最高のシステムだろう。
そう考えるとヒキが舞い上がったのも分かる気がする。
ただの引き篭もりですら無双出来る可能性があるのだから。
「さて、次は――」
「ここらで貴公達の自己紹介をしてもらおうか」
大臣の言葉をさえぎって国王が言った。
「左様でございますか……では、右の方からスキルと特殊能力も含めてお願いします」
なんだ、皆も特殊能力あるのか……。
てっきり俺だけかと思っていたからちょっとガッカリした。
「は、はい。俺は田中亮平と申します。能力は勇者Lv1、剣Lv1、体術Lv1です。……この勇者スキルというのは何でしょう?」
亮平が大臣に質問すると大臣は快く答えてくれた。
「勇者というのは文字通り勇者のみに与えられるスキルで、いわば人類最強を名乗れるスキルなのです。それと固有スキルについても説明しておきます。固有スキルはその人独自のユニークスキルですが他者も持っていることがあります」
それは固有スキルと言わないんじゃないか?
「ありがとうございます」
「では、次の方」
「私の名前は山下加奈子です。能力は記憶Lv1と詠唱短縮Lv1と勇者Lv1です」
「ほほう……魔法師か、期待している」
おいコラ国王、亮平の時と反応違うぞ。スケベオヤジかよ。
白い眼が集まるのを察した大臣が続きを促した。
「俺は佐藤大典だ。能力は、……鍛冶だ。鍛冶Lv1と勇者Lv1」
金髪だった不良生徒が名乗る。俺が昨日蹴り飛ばしたのもこいつだ。
昨日は金髪だったが謁見とあって身だしなみを整えたのだろう。今は黒い髪になっていた。髪型も逆立っていたのを下ろしている。
「くっ……おほん、そうか……ぷっ」
国王が笑いを堪えている。続いてそこらかしこから微笑が聞こえる。
兵士たちの声を拾うと鍛冶スキルは一般的なスキルで習得が容易。更に鍛冶素材等々の準備が面倒くさいので一部の物好き以外は取らないスキル、いわば捨て職だそうだ。
佐藤が顔を赤らめてうつむいている。
「あっはっはっは!!」
ヒキが大声で笑うと、流石に佐藤が切れた。
「うるせぇぇええ!!」
しかし不良なのに生産職とは似合わないな。えらいギャップだ。
そうは思っても顔には出さない。心の中だけに留める。
「ぐふぉ……次の方……」
大臣が笑いを堪えるのに苦労している。これは知らせと違って笑えるのだろう。
実際さっきまで佐藤にだけは目を向けてなかったからな。
「ふぁい……私は、……ぷっ……阿部……ゲフォ……壁成と……ふひぃ……言います」
ダメだ。皆も自己紹介すらまともに出来ていない。
堰を切ったように皆が一斉に笑い出す。
だが、このままでは佐藤が哀れと思い佐藤の所に行く。
「佐藤、俺は笑わないぞ。お前の能力は使い方次第では最強だと思う」
俺の言葉に佐藤は俯いた顔を上げた。なんてことはないよくある話だ。
裏腹で言えばこれで今後佐藤が出世したら……という腹黒もあった。
「作り方次第では超電磁砲とか光学兵器なんかも作れると思うぞ? 下手しなくても巨大ロボくらいは作れると俺は思う。作って笑った奴等を見返してやれよ」
「あ、朝宮……」
不良の目にも涙。こいつだって好きでこんな能力に選ばれたわけじゃないと思う。
いや、逆に好きだからか? どっちでもいいか。
「お前だけだ。分かってくれるのは……ぐすっ」
そう言って泣き崩れる。肩に手を置いて慰めてやる。
皆も少しは考えて欲しいものだ。手のひら返しは事前に伏線を張っておくことでガラリと印象が変わる。今、便乗して置けば少なからず恩恵があるはずだ。
……ま、結局誰も便乗しなかったわけだが。
しばらく笑ったあと紹介が続いた。
未だに笑っている奴もいるし、腹筋を崩壊させた奴もいた。
いい加減止めてやれよと心底思う。
「では……ぶはっ……次の方」
未だに笑いを引きずっている大臣が言った。
――おっと、俺の番だった。一歩前に出る。
ちなみに俺で最後だ。順番は偶々の並び順だ。
「名前は朝宮嵩都です。能力は飛翔飛行と理解習得と魔剣所持解放……」
俺のスキルは他の皆が持っていない物ばかりだ。
今出ている能力は攻撃力、防御力増大系、採取ボーナス、増殖、筆写などがある。
他は生産職の武器鍛冶や錬金、土木などがあった。
それと聞く限りだと魔法使いなのは二十人前後だ。希少というほどでもない。
「……なに? 魔剣だと。どういうことだ、大臣」
「いえ……分かりかねます」
俺が言うと国王と大臣の表情が変わりシーンっと場が静まり返った。
なんだろうかこのアウェイ感は……。
「朝宮と言ったな。その魔剣は出せるのか?」
「おそらく」
俺は魔剣を呼ぶべく手を前に出す。頭に浮かんだ言葉を口に出して発音した。
「我、ここに煉獄の魔剣を召喚する。魔剣よ、我が手に舞い降りよ。レーヴァテイン」
澄んだ音と共に一振りの薄紫色の魔剣が出てきた。
柄から刀身まで何もかもが薄紫色に統一されている。
真ん中に鈍く光る黒い宝石が埋め込まれていた。
そしてその存在を主張するかの如く青い焔が剣から溢れ出る。
「うわっ」
「あちち」
「熱い、ちょっとはなれるぞ」
そう言って俺の周りから離れていく。
俺はそんなに熱いと思わない。むしろ心地いいくらいに暖かいと感じる。
「そ、それはまさしく魔剣レーヴァテイン!」
大臣が驚愕しながら叫んだ。そんなに驚愕するほどのものなのか。
「誠か大臣よ」
「誠にございます。この薄紫一色の剣、真ん中の黒曜石、青い焔、間違いありません」
「これは一体どう言う物なのですか?」
亮平が大臣に質問する。
「そうか君たちはしらなかったな。大臣、説明を」
いやそこは説明しろよ。
「それは代々とある孤島に住む邪神の所持する剣です。現在は魔帝様の所で岩に突き刺さったまま千年ほど引き抜かれてないと報告されていましたが、いやはや……まさか生きている内にお目にかかれるとは」
余程の物らしいな、この魔剣は。段階的に考えれば超レア武器か。
……待て、邪神と言ってなかったか? その理屈からすると俺が邪神になるのではないのか? 嫌だぞ……だって邪神って悪い奴じゃないか。
右手に収まっている魔剣を半目で見る。
魔剣の青い炎が何か申し訳なさそうに縮んだ。
ーーーーチュイン!
――――何かが弾かれる音が鳴った。
嵩都「なあ、俺は勇者じゃなかったのか?」
グラたん「邪神ですねー」
嵩都「今からでも設定直せないか?」
グラたん「面倒です。さて、次回予告のコーナー!」
嵩都「次回、夕日色の少女。また死人が出るのかな?」
グラたん「多分無いと思います」




