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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第二十四話・魔帝の死

グラたん「第二十四話です」

嵩都「なぁ、教えてくれ。俺ァ一体何したんだ?」

グラたん「それは本遍を見てのお楽しみです」

~嵩都視点~


 まだ薄暗い朝日が昇る前、ふと目が覚めた。

 ふぁぁ……良く寝た。そして頭痛がする。



「あたた……」



 いつ寝たのか記憶が定かではない。



「う……ん」



 そしてプレアとした記憶も無い。酒に酔った勢い? うう、記憶にございません。

 何で俺が裸でプレアも裸なの? 昨日の落ちる前の記憶を呼び起こす。

 ……ダメだ。プレアとキスした所までしか憶えてない。

 思い出せ。昨日は確か――最後の記憶はプレアとキスして舌入れられて強引に――そこまで考えると頬が熱を帯びた気がした。

 ……うん、俺悪くない。酒に酔った勢い。俺、被害者。

 ……いや、その表現は正しくないな。俺も途中から夢中で貪ったし……。

 ふと、プレアを見てしまった。視線は自然とその唇へと――。

 思春期爆発。点火! 発射準備完了!



「……くぅ」



 と、思っていた時期が俺にもあった。寝息がした方を見る。

 というかプレアと正反対の方向。

 そこには魔王とメトリスが裸で寝ていた。

 ……アハ――。俺、いつの間にハーレム形成していたのだろー。

 じゃねぇ!? 馬鹿野郎、俺! 三人に手を出すとかありえないだろ!?

 ――落ち着け、俺。周りをよく見ろ。まだ手はあるはずだ。

 左右を見ても何もない。枕元を見た。

 枕元には綺麗に折りたたまれた彼女たちの服があった。

 あ、うん。最悪合意の上でしていますね。

 酒に酔った勢いだと脱ぎ散らかすだろうから。

 さて、まずは俺が服を着る。これによって変態のレッテルは避けられる。

 次に彼女たちに服を着せる。こんなことをするのは短い付き合いながらもプレアしかいないと分かる。恨みがましい視線をプレアに向けると奴はニヤリと笑った。

 馬鹿な……起きてやがるだと……。

 とりあえず罰としてプレアは最後だ。手前の魔王から着せていくが、順調に着せるつもりは毛頭ないらしく、服は適当に置かれ下着も別々という惨状だった。

 プレアこの野郎……ッ。と思いつつ明らかにサイズが違うものから消去法と目測で着せていく。

 だが、興奮しないわけがない。手が尋常じゃなく震える。雪山で手袋を投げ捨てた如く震える。

 ……下着という激闘に始まって各部に手が当たり欲情抑えるという試練を乗り越え、なんとか魔王の服を着せることに成功した。何度聖剣を抜きかけたことか……。

 二回目ともなると早い物だ。メトリスはすぐに終わった。

 さて、プレアさん? どうしてくれましょうかねぇ?

 この水色短パンを頭にでもかぶせて放置してくれましょうかねぇ?

 冗談だが、起きている相手ほど手強い物はない。

 とにかく絶妙なタイミングで動きやがる。

 流石に頭に来た俺はプレアの耳元に口を寄せて言う。



「プレア? 大人しくしないなら色々するよ?」



 下策だったと言うしかない。プレアが釣り上げた活きの良い魚の如く動く。

 純粋に好意を向けてくれるのはありがたいが限度という物を知ってほしい。

 最後は寝技を掛けて動きを止めて着せた。終わった時には冷や汗だくになっていた。

 はっきり言って気持ち悪い。ちょっとシャワーを貸して貰おう。

 彼女等をとりあえず置き、俺は備え付けの風呂場に向かった。

 風呂場に入りシャワーの蛇口を捻る。

 具体的には水魔法を火で調整し、風魔法で五mm以下に切った水を永続的に出すことで擬似シャワーをしている。

 頭を流すため下を向いた。なんか赤い点があった。触ってみると僅かながら粘着性があった。それに少しの鉄の匂い――血?

 俺の顔の血が全部引いた気がした。

 えっ、ちょっと待て……マジですか、プレアさん?

 俺は完全なる証拠を隠滅するために辺りにシャワーをまき散らした。

 消臭魔法に火魔法で気体にまで蒸発させて完全な証拠隠滅をする。

 水素を風魔法で飛ばして服を着て素早く風呂場を出る。

 上半身は裸で下半身にタオルを巻いている状態だ。それで十分だと判断した。



「あ、お風呂出た? あ・な・た?」



 そこには紅茶を煎れてプレアが待っていた。つまりはそういうことなのだろう。



「あ、冗談だから気にしないでね。その血痕はルー姉が鼻血出した跡だから。ちゃんと流したと思ったけど残っていたみたいだね。ごめんね」



 あ、そう。そうでございますか。

 というか俺の動揺している姿を覗いていたような言い方だな。

 ……深くは言うまい。言った所でからかいネタにされそうだ。



「飲む?」



 プレアが紅茶を進めてくる。



「ああ、貰おうかな」



 席に座って紅茶を受け取る。――ズズッ、美味い。



「うん、美味しい」

「本当? 良かった」



 ズズッ。はあ、紅茶が美味し――――。



「うわぁああああああああ!!!」



「ゴブッ! げほっ、げほっ」



 突然の大声にむせた。それはプレアも同じようだ。



「な、なに!?」

「な、なんですか!? 敵襲!?」



 今のただならぬ声に魔王とメトリスも起きた。

 まったく、何だってこんな優雅な朝から悲鳴が――。

 ズキッ。また頭痛だ。昨夜の光景が一瞬だけ過ぎる。

 そこには『俺が記憶していなかった光景』も明確にフラッシュバックした。そう、俺の隣にはプレアともう一人少女がいて目の前には死んだ魔帝が――。

 えっ? 突き刺したのは、俺? あ、でも俺の意識じゃないな。酒に酔った勢いとかじゃなさそうだ。……洗脳とか操り系のスキルを使われたな、これは。

 それにさっきの風呂場にあった血――あれは魔王じゃなくて魔帝の――。

 結論、首輪を使われたようだ。理解習得がそう結論した。



「先に行くわね!」

「あ、姫様、お待ちを!!」



 魔王とメトリスが部屋を抜け出した。その中でプレアだけ、紅茶の掃除をしていた。

 もうほとんど確信に近いが、その元凶の片棒が目の前にいるわけだ。



「……プレア?」



 自然と唇が強張った。単純に恐怖から手が震えていた。



「あ、ごめんね。さっきの悲鳴の場所に行きたいけど紅茶って放っておくと染みになるから――」



 プレア……とぼけているのか? いや、それとも――。

 俺は思い切って切り出す。



「プレア……お前、俺の敵か?」



 不自然にプレアの動きが止まる。そして再開される。

 俺、もう少しオブラートに包めなかったのか。敵愾心丸出しの台詞じゃないか……。



「どういう意味かな、嵩都? 少なくてもボクは嵩都の敵じゃないと思うけどなぁ」

「昨日の晩、俺たちは魔帝を殺しただろう?」



 今度は自然にプレアの動きが止まった。そして立ち上がる。

 そしていつも通りの微笑を浮かべながら紅茶を拭き終わり、机に置いた。



「……やっぱり理解習得は脅威だね。先にそっちを奪っておくべきだったよ」



 確信――やはりそうなのか。そしてプレアは強奪的なスキルを持っていたとも見える。

 先程の頭痛は理解習得のおかげなのか? そこは疑問だ。



「質問に答えて貰おうか」



 俺は聖剣ヴァルナクラムを出してプレアに構える。

 下手をすると俺が口封じのために殺される危険性がある。その場合、戦うしか無い。



「そうだよ。先に言わせて貰うけどこれは必要事項だから。ボクたちの野望を成就するためには、ね。嵩都、お互いが黙っていた方が得だとボクは思うけどね」



 ……そりゃあな。口外すれば俺の持っているものは全て失われる上、信頼性で言えばプレアの方が上だ。間違いなくプレアは俺を殺しに来るだろう。



「俺を害する気はないのか?」

「そうだよ」



 やはりとでも言うべきかプレアは即答した。



「ついでに言えば、これだけばれて嵩都に弾劾されようともボクは嵩都が好きだよ?」



 ――ある意味、プレアも俺と同じように何処か壊れている。

 普通の人ならこの時点でこの場から逃げてもおかしくはない。狂気的だとも言える。

 だが、俺はこの場に居て目の前にいる彼女を愛おしいと思ってしまっている。

 そんな中で少し考える。



「そうか……。なあ、プレア。俺はどちら側だ?」

「ボクたちの方」



 これも即答か。つまりこの世界観で言えばプレアは『敵側』に位置するわけだ。

 そしてプレアが『主人公』という線も消えたな。けど『重要キャラ』の位置は固い。

 そして恐らく最終的には―――。

 そこまで考えれば後は分かった。俺はその役割を果たすためにここに来たのか。

 もし違っていてもそれでいい。それまでは道化を演じるとしよう。

 魔帝のことは……この際すっぱりと流すことにしよう。すまん、魔帝。



「分かった。俺は黙ってさえいれば良いのか?」



 急に物わかりが良くなった俺に対して、それが当然もしくは知っていたというようにプレアは頷き、微笑んだ。



「そうだね。もちろんそれだけじゃないけどね。嵩都、ボクたちと同盟しない?」



 同盟……つまり、俺はプレア側と将来同盟するほどに成長するわけか。



「良いだろう。代わりに目的やらなんやら全部話して貰うぞ」



 俺の即答にプレアは俺に近寄って顔を寄せた。そして短いキスを交わした。



「同盟成立だね」



 まだ少しお酒臭いキスだったが、プレアは喜びを露わにしていた。




 同盟を結んだ俺たちは紅茶を片付けてすぐさま玉座に向かった。

 当然、俺が殺したのだから分かっている。胸を赤黒く染めた魔帝が玉座を降ろされ、床に寝かされていた。魔王は魔帝にすがりついて泣いていた。

 ――暴力を振るえば俺はどんな手を使ってでも相手を殺してしまう。

 言わば殺人衝動が常人よりも強い。

 普段は抑制できる程度には訓練している。

 これが俺の壊れてしまった箇所だ。自覚できるほど虚しい物はないな。

 鈴木や筑篠たちも来たようだ。皆、驚きを隠せないようだ。



「嵩都」



 ポンと肩に手を置かれる。振り向けばそこには亮平がいた。



「亮平……」

「魔帝様が……暗殺されたのか?」

「見た感じは、な」



 魔帝の死体の方を見るといつの間にかプレアが魔王の傍に行き、慰めていた。



「誰が……」

「亮平、それは答えが出ない問いだ」



 すまんな、亮平。犯人は俺だ。頑張って答えを出してくれ。



「分かっている。分かってはいるが……」

「それで、お前はどうする気だ?」

「どうするって……」

「仇討ちか? 確かに恩はあるが、下手しなくても戦争に駆り出される。それほど勇者の力は圧倒的だ。それに敵が人とも限らない。ほら、テンプレで言えば勇者の対になるのは魔界の王、魔王だろ? 勿論、アネルーテ様ではないけどな。で、その魔王を倒せば大魔王だの邪神だのが出てくるはずだ。仮定だが、そいつ等が魔帝の権力もしくは固有スキルを恐れて暗殺したのではないか? それこそゲームとかでは良くある設定だ」



 俺がそういうと亮平は少し呆れ気味に、少しして現実味を覚えていた。



「ゲームって……いや、あり得なくはないな。それこそ仮定の話だが……」



「俺としては魔王を倒すのならともかく、人類戦争に使われるのは御免だ。……言い方は悪いが身の振り方を決めた方がいいかもしれないぞ」



 それっきり亮平は黙り込んでしまった。だが現実的案としては悪くないと思う。

 再びプレアたちの方を見る。

 魔王が何度も回復魔法を掛けているが……無駄な努力だ。

 魔帝の心臓は的確に仕留めている。死亡直後でも意味は無いだろう。

 死ねば終わり。それがこの世界だ。

 最上位の勇者とか神様とかならば蘇生できるかもしれないが……例えば傍にいるプレアとかなら。

 魔王がようやく諦め、己の無力さに打ちひしがれていた。

 プレアがアルドメラさんと交代した。

 アルドメラさんがプレアに何か言っている。

 プレアはそれに頷いて各兵士や貴族に命令している。

 ……そういえばプレアってどのくらいの権力があるのか知らないな。

 命令できることからその信頼性と権力の高さが伺える。結論、結構高い。



「嵩都、ちょっといいかな?」

「お、おい!?」



 いつの間にかプレアが俺の横に居た。

 袖を引っ張られて俺は列を抜けた。








~亮平視点

 魔帝様が死んだ。その事実だけがここにあった。

 嵩都は暗殺だろうと答えた。俺もそれが妥当だと思った。

 権力者が暗殺される事例なんてよくあることだ。

 だが、実際に目にするとこみ上げるものがあった。

 良くも悪くも魔帝には恩があった。それを返せないまま逝かれてしまった。



「亮平、ちょっといいか?」



 そう言って肩を叩いたのは筑篠だ。

 筑笹は俺たちの中で最も魔帝様と仲が公私共に良く、よく一緒に居るのを見かけた。

 俺たちなんかよりももっと大恩があったはずだ。悔しさは俺の何倍も大きいだろう。



「ああ、構わない」

「魔帝様は死んでしまった。こういってはなんだが、私たちも身の振り方を決めた方が良いかもしれない」



 筑笹は嵩都と同じことを言う。

 薄情な話だが正論だ。遅かれ早かれそうなるからな。



「そうだな。予想できる展開としては世界最大国家であるこの国の王が死んだことによる反乱と戦争。また、仮にだが魔王軍や神の軍隊との戦いに巻き込まれる」

「そして私たちはそれに駆り出される可能性が高い」

「勝っても負けてもどちらにせよ、最終的に俺たちは死ぬ可能性が高い」

「そういうことだ。魔帝様が生きていればそのような事態は避けられたかもしれない。しかし現実は違う。……なんにせよ、何かしらの行動を起こさねば私たちに火の粉が及ぶ」

「そうだな。なら、お前はどうするんだ? 筑篠」



 そう問われることが分かっていたように筑篠は答えた。



「……矛盾しているが、私はこの城に残るつもりだ」

「敵討ち、か?」

「それもある。が、それともう一つ。ラノベの定番があるだろう」

「ああ……実はこの世界は――っていう世界の真実系統だろ? だけど現実的にあれはあり得ないだろ。もしあったとしたら……言っちゃなんだが危険な橋だぞ」

「危険は承知だ。それに魔帝様ほどの人物を容易く暗殺出来る人物に興味が湧いた。あり得なくはないが何かしら理由があって殺害された可能性を少し探ってみたい」

「……多くは言わないし止めはしない。そんな橋を一人で渡らせるのもなんだし俺も手伝えることがあったら手伝う」

「ありがとう。それと後で皆にも各自で方向を決めて貰う方向で行きたい」

「分かった。重要なことだしな。男子勢にも促して見る」

「ああ、頼む」



 そう言って筑篠は去って行った。

 身の振り方……か……。俺はどうするべきなのだろうか。


グラたん「ダークサイド落ちおめでとうございます」

嵩都「俺……邪神か……」

グラたん「序盤にそのフラグいくつも入れてましたからね」

嵩都「いや、構わない。プレアを守れるなら」

グラたん「お熱いことで……(……もう一人の好意には気付かないんですね)」

嵩都「何か言ったか?」

グラたん「次回予告してください」

嵩都「ああ、そうだな。次回、『役割』」

グラたん「いよいよ核心に迫りそうですね」

嵩都「だが、このペースだと五十話になる前に終わるんじゃないのか?」

グラたん「それは……どうでしょう?」

嵩都「未定の見切り発車か」

グラたん「(明後日の方向を向く)」

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