第二十三話・動き出した刻
グラたん「第二十三話です!」
嵩都「サー、イエッサー!」
グラたん「こっちはこっちでしっかりと絞られているようですね」
さて、メトリスさんだが実際の訓練となると性格が早変わりして鬼軍曹になった。
「もっとシャキッとしやがれ! この○○○が!」
あり得ないギャップだ。これは嫁の貰い手がなさそうなのが頷ける。
「違う! 同じことを何度も言わせるな○○○以下の○○○○が!」
ペースは尋常じゃ無く早い。礼儀を三日で憶えさせようとしている感じがする。
理解習得が無かったらその手に持っている皮の鞭が何度飛んできたか分からない。
実際の所、可愛い、美人女子からの鞭と罵倒は我々の業界ではご褒美だから叩いて欲しい感じはある。
しかし第二王女の婚約者(予定)を叩いたらそれこそ首が飛びかねないから叩かないのだろう。代わりに文章に出来ない罵倒が飛んでくる。
「さっさとしやがれ! 次は敬礼だ!」
「イエッサー!」
夜の三時を回ったあたりから俺のテンションはおかしくなったとだけ言っておく。
魔帝の許可がついているのだろう。
その夜から三日三晩ぶっ通しで礼儀作法を教えられた。
二日を超えた辺りで俺のタガも外れ、メトリスとの口調も軽くなった。
ちなみにだが礼儀作法の訓練室は彼女の私室(拷問器具が置いてある)だった。
で、その三日目の夜のことだ。
「よぉし、よくやった。これで貴様に礼儀作法は全て叩き込んだ! 試験も合格を言い渡す!」
「ガンホー! ガンホー!」
「えっと、それじゃあこれで終わりです」
「ヒャハ――――ッ!!」
「ヒィ……」
って、急に変わるなよ!
「あ、ごめん」
「は、はい。大丈夫です。えっと、魔帝様に報告しましたので本当に終了です」
「ありがとうございました」
「はい、お疲れ様でした」
彼女との訓練は礼儀作法だけでなくサバイバルに使えそうな作法まであった。
それはもう作法ではないと最初は思ったが実用性が思ったよりあった。
で、その一例。礼儀作法其の五『どこでも寝られる作法』。
壁に寄りかかり、武器を抱えて意識だけ眠らせ、他の神経は全て警戒に当たらせる作法だ。
ここで寝るのに限り、寝るときは必ずと言って良いほどメトリスがナイフや鞭を飛ばしてくる。
ちなみに俺は反射神経で躱すだけ。反撃なし。生傷が絶えない訓練だった。
「あ、せっかくですのでお祝いしましょう! ご迷惑かけちゃった事も兼ねて……」
そう、メトリスは自分のその裏の性格を知っている。
ちなみに彼女が礼儀作法訓練に抜擢されたのは彼女自身がこの城の中で礼儀作法を完璧に出来る唯一の人材だからだ。魔帝も魔王も顔負けらしい。
「何か飲みたい物とかあります?」
「メトリスと同じ物でお願い」
「分かりました!」
メトリスはそういうと扉を開けて外に出て行った。
ちなみにここは五階なので夜はかなり冷え込む。メイド服一枚で駆け抜けていくのは余程の天然かドジしかいない。
「戻りましたー」
彼女は天然のようだ。ドジなら一度寒くて戻ってくる。
ドアを閉めて寒いので施錠。メトリスの荷物を半分持ち、部屋に入る。
綺麗に片付けて置いた机に荷物を置いて中身を取り出す。
中身は間違いなく城地下の貯蔵庫から取って来たであろう酒瓶。つまみ系の干し肉や干物、軽食等々。ばれたら大変なことになるのは明白だが黙って置くほかあるまい。
「さ、お祝いですからパーッといきましょう!」
パーッと行って牢獄に入らないことを祈る。
「そうね!」
「うん」
何故か魔王とプレアもいた。
「あ、王女様とプレアデスさんもお祝いしたいそうですよ」
ニッコリと邪念満載で笑う彼女たち。見つかって断り切れなかったのだなと思う。
「そうか。人数は多い方が楽しいからな」
ニッコリ。完全な愛想笑いでプレアたちを中へと招いた。
元々飲み食いするためだったためにまともな軽食は無かった。
なので俺が少し即興料理することにした。その方が喜ばれると考えたからだ。
手持ちにあったのは残っていた数個の桃とパンに似せた物。味はパンだ。
「あれ、なにするの? 嵩都」
準備をしているとプレアが横から覗いた。
「ちょっとした軽食を……出来たぞ」
「あれ? 言ってから二秒立ってないよね!?」
「ふっ、当然だ」
「それにその桃は黄金桃だね。それを調理できるということはLv6くらいかな?」
「お、分かるか? 分かるということは……Lv5以上は固いな」
ふふふ、はははと重要な所だけぼかして不気味な腹の探り合いをした。
「な、なにが?」
「なんでもないよ」
最もこの話題についてこられない二名には何のことだか分からなかったようだが。
さて、出来た軽食はサンドイッチだ。僅かに桃の風味がするのはご愛嬌。
代わりに果肉溢れ、弾力のある物が出来た。簡単に盛り付けて提供。
続いて彼女たちを座らせて酒や果実水を注ぐ。そして俺の分を注いで俺も座る。
「ありがと」
「いえいえ。それじゃ、始めようか」
俺がグラス(果実水)を持つと皆も持ちあげる。
『乾杯!』
カシャンと綺麗な音が鳴り、口に含んだ。
果実水は普通に果実を絞っただけのものだ。若干疲労回復の効果もあって気持ちの良い清涼感が体に染み渡った。
会話は俺の訓練内容に始まり、笑いと涙を呼んだ。そして徐々に雑談の方へと向かっていく。
途中で果実水が無くなり、水割りで酒を注ぎ足しで飲んだ。
いやぁ……酒って初めて飲んだが肉とつまみが進むな。でも苦い。
そしてプレアが故意的に魔王のグラスに酒を注ぎ、魔王がそれを飲み、酔っぱらう。
多分、魔王自身はちょい苦い果実水にしか考えてないのだろう。気が付いている様子もない。
プレアだけ酔わないのは癪なのでプレアの所にも僅かずつ蓄積させていく。
自分だけ助かろうなど片腹痛いわ!
「ぐー」
魔王は割と酒に弱いようでそのまま就寝。二日酔いが酷くないと良いが……。
「うにゅぅ」
そしてプレアは滅法酒に弱いようだ。プレアが椅子を立って俺の所に来る。
「嵩都ぉ~」
膝に乗せろー、というように俺の膝を叩く。
ここで逆らうとどのように転ぶか分からないので大人しく従っておく。
「はふぅ……」
猫撫で声でプレアが俺の膝に座る。……なぜ俺の方を向いて座るのかね。
そして腕をぐるりと俺の首に回す。起動は全く読めなかった。
ズイッとプレアの顔が近づく。プレアの顔が少々赤い。体も少し微振動している。
「嵩都、キスする」
決定事項!?
俺は必至こいて振りほどこうとするが動きを先読みされていたかの如く立った瞬間にプレアがいた方向に重心移動させられる。
無意識にフラフラと二、三歩踏ん張るが、それがいけなかった。
プレアの思惑通りに俺が使うはずだった寝床に押し倒された。
プレアが俺の上に乗って完全にマウントを取られた。
「逃がさない……絶対」
プレアの顔が近づいてくる。助けを求めようと二人を見ると、明らかに差異的に寝かされた二人が食べ終わった机を枕に寝ていた。
つまり今ここで起きているのは俺とプレアのみ。扉は施錠したまま、壁には騒ぎが漏れないようにと音消しの魔法が――。
そこまで考えた時には既にプレアの唇が当たっていた。
俺の体は一気に強張る。プレアは一切目を閉じてない。つまり超至近距離で見つめ合っていることに他ならず、くちゅ――ちょっと待って、プレアが強引に唇を開けて舌が俺の中に―――。
んちゅ、ねちゃ、ちゅ――っと、いやらしい音をたてる。
俺の初めてを奪われている時間。僅かな時間だけ俺は冷静になってしまった。
何故、プレアは好きでもないはずの俺とこんなことをするのだろうと。
極論的に言えば俺が彼女の好意に気付いていなかっただけとも思える。
プレアが俺のことを好きだったとも言える。だが、何故今なのだろうか。
今でなければいけない理由は何なのだろうか。
「嵩都? 何を考えているの?」
本当に一瞬だけの疑問を見抜かれ、プレアがキスを中断して問いかける。
この時は酒も入っていたからだろう、俺は思ったことをそのまま口にしていた。
「なあ、プレアってさ、俺のこと好きなの?」
そう言うとプレアは少し顔を赤くしてはにかんだ。
「……好きだよ」
でも、その言葉とは真逆に表情は少し悲しそうに見えた。
「だったら、なんでそんな悲しそうな顔をするんだ?」
プレアは少し驚いていた。でも数瞬だけ。すぐにいつもの笑顔に戻った。
「……ルー姉には悪いなぁ、と思ってね」
「悪いと思うならするなよ」
「嵩都はして欲しくなかった? ボクとじゃ嫌だった? ――ボクは嵩都のことが好き。初めて会った時から好き。どうしようもなく大好きなの……嫌?」
彼女はずるい。そういう表情をされたら本心しか話せなくなる。
「そんなわけない。むしろプレアがそう思っていてくれたとは本当は思って無かった。だからとても嬉しい。俺もプレアが好きだよ。それも同じように一目惚れだった。俺が一方的に片思いだったけどな。だけどそう考えると魔帝が―――」
プレアはとても温かい笑みで微笑んだ。
そのままプレアは力が無くなったかのように俺に体を預けた。
そして俺も急激に脱力感を感じた。文字通り、意識が薄まって行く。
視界が急に揺れる。
急に窓ガラスが割れて黒い外套を纏った小さな子どもが一人入ってくる。
俺が見えたのはそこまでだった。
~幕間~
嵩都が寝静まった後、月光に照らされた茶色の髪に薄い赤色の光を宿した黒衣の犬耳少女はプレアを見つけるや肩を叩いて起こす。
「ハーデス、起きてよ」
少女の言葉にハーデスという仮の名を呼ばれたプレアは目を覚まし、少女を確認した。
「計画通り?」
プレアが女性に尋ねると少女はコクリと頷いた。
「そう……で、魔帝で三つ目だっけ?」
「そうだよ。それにしても可哀想だね。婚約者(仮)を寝取られされるなんてね」
ふと少女がプレアに敷かれている嵩都を見た。
「ボクの方が先に好きになったということを忘れないで欲しいね。ついでに言えばルー姉は婚約することをまだ知らないから君さえ黙っていれば万事うまく行くのだから」
プレアが少女に微笑む。まるで自分の思い通りになるというように。
「可愛さ余って憎さ百倍?」
少女のわざとらしい発言にプレアが微笑んだまま手に魔力を集める。
「……それさ、ボクが怒れないのを知っての発言?」
「うん」
少女のからかいにプレアは溜息をついた。
「まあいいよ。それじゃ、三つ目の贄を殺りに行こうか」
プレアは微笑みを消して底冷えするような鋭利な視線になり、少女から仮面を受け取る。ふと少女は嵩都が気になったのか嵩都の顔を触る。
「……予定通りに彼も使うの?」
少女は嵩都を見ながらそう言った。プレアは笑みを浮かべて頷いた。
「当然。その前にレーヴァテインを回収するよ。……さあ、嵩都。首輪一回分の命令だよ。『魔帝を殺して力を魔剣に封じよ』」
プレアが手を動かすと眠っていた嵩都がゆっくりと立ち上がった。
プレアはレーヴァテインを嵩都に渡し、自我無き顔に仮面を取り付けた。
~魔帝
その前日の夜十二時。
魔帝は一人静かに寝床に腰を下ろし天井を見上げていた。
「……なるほど、そういうことでしたか」
魔帝は一人納得し、その日は眠れぬ夜を過ごした。
次の日の夜。
魔帝は玉座にいた。まるで自分の死期を感じ取っている様に正装をして座っていた。
だが、決して死ぬものかと自前の杖を持ちだし、構えていた。
しばらくすると扉が空き、三人の男女が入ってくる。
黒装束で仮面を付けている彼女たち。
一番後ろにいる男性は幽鬼のような足取りだ。
(来ましたか……)
「どなたでしょうか? こんな夜更けに」
魔帝が尋ねると先頭にいた少女が答える。
「分かっているくせに、贄」
微笑しながら少女が言うと魔帝は眉間に皺を寄せた。
そして杖を彼女たちに向ける。
「やはりそうですか。しかし貴方たちの企みもやがて潰えるでしょう」
「それはない」
少女の言葉を魔帝は否定する。
「いいえ。彼等――勇者たちがきっと貴方たちを殺します。我が夫も娘たちも必ず動いてくれると信じています」
(そしてアネルーテと親しい彼女も――)
魔帝がそう言った所でもう一人の少女が口を開いた。
「その彼等の一人に貴方は殺されます」
(なっ―――!)
その少女の言葉に、声に、魔帝は酷く揺らいだ。
目を見開いて目に分かるように動揺していた。
その声だけで少女が何者かが分かった様に。
「まさか……貴方が……」
「死んでください」
少女の言葉が言い終わると同時に男性が素早く動いた。
音もなく歩みを進める。これは、暗殺術とも呼ばれていた。
黒衣と仮面を着けた男性が一瞬にして魔帝に肉薄した。
男性は剣を素早く突き出す。
魔帝は我に返り、その剣を杖で受け止める。
「ラスサアル・ファイア!!」
無詠唱で魔帝が魔法を発動する。
男性はそれを聞くより先に動き、跳躍していた。
上段から剣を振り下ろす。
魔帝は再度受け止める。
男性の左手が素早く動き、杖に鋼鉄の糸が絡まる。
男性は右手の剣を手放し、魔帝の背後に浮く。
左手を天高く放ると魔帝の手から杖が離れた。
魔帝は前転し、距離を取ろうと試みる。
男性はそれを読んでいたかのように魔帝の背に向けて魔剣を飛ばした。
「ガッ――」
魔帝の背に魔剣が突き刺さる。
魔帝は状況を打破しようとプレアたちに向けて手を伸ばし、ラスサアル・フレアを行使しようとする。
魔帝が最大の魔力を込めた一撃。直撃すれば謁見場は跡方もなく消し飛ぶ。
背後からナイフが飛んでくる。
ナイフが魔帝の腕に、手に、足に、胴に連続して突き刺さる。
魔帝は動くことが出来ない。ナイフには麻痺毒が塗ってあった。
いくらLv差があるとはいえ、猛毒を連続して受ければ魔帝とて動くことは出来ない。
次の瞬間、魔帝の体に突き刺さった魔剣レーヴァテインが青く輝いた。
「出ましたね」
魔剣レーヴァテインが魔帝の体から出た青い光がレーヴァテインに集まる。
そしてレーヴァテインに吸収されて行く。
「ま……て……それは……!」
レーヴァテインを回収し終えたプレアは魔帝に向き直って一礼した。
「今までありがとうございました魔帝様。ルー姉もすぐにそちらに行きますから待っていてあげてください」
死ぬ間際の直前、自分でさえ知らなかった事実に魔帝は驚愕した。
「馬鹿……な。アネ……ルーテが……」
「ええ。魔神復活のための贄です。でも順番はまだ後なのでまだ時間はありますから」
魔帝はプレアを睨む。そして最も気付きそうな彼の名を口にした。
(彼なら、書類で見た通りの固有スキルを持っているのなら……!)
「朝宮……嵩都、貴……方な……ら」
プレアは仮面の奥で寒気のする笑みを魔帝に向けた。
いっそ面白がっているとも取れる笑みだ。
「ごめんなさい。貴方を殺したのが嵩都ですので可能性はないと思います」
少女は魔帝を貫いたままの姿勢でいる男性に近付いてその仮面を取る。
嵩都は無表情で魔帝を見下している。
(あ……ああ……そんな……)
魔帝は驚愕し、そして表情を悲痛に崩した。
嵩都はプレアの命じるまま動き、魔帝の首筋にナイフを当てる。
せめてもの介錯だったのだろう。頸動脈を完全に断ち切れらた魔帝はそのまま息を引き取った。
「あ、死にましたね。もういいですよ、嵩都」
嵩都は魔剣レーヴァテインを魔帝から引き抜く。
虚ろな目をしたまま滴る血を払い、プレアに渡す。
「どう?」
「うん、力は全てこの中に封じたよ」
プレアはレーヴァテインを掲げて、それからもう一人の少女に渡した。
「あと四つ。このペースなら何とかなりそうね」
「そうだね。さて、じゃあボクはもう寝るね。嵩都と一緒に」
プレアは先程とは打って代わり、無邪気な笑みを浮かべて嵩都の腕に自分の腕を絡ませた。
「分かった。それじゃ、次はハイクフォックで」
少女はプレアに手を振り、玉座を堂々と出て行く。プレアもそれに続いて出て行く。
玉座に足跡はなく扉が閉まった。
朝、晴天の日。
扉を開けたヴァインが目にしたのは全身にナイフを突き刺され、おびただしい血を流して死んでいる魔帝の姿だった。
グラたん「……」
嵩都「やってしまったな」
グラたん「……」
プレア「見ちゃったね」
グラたん「……(無言で文章修正)」
嵩都&プレア「させない!(真空波と矢を飛ばす)」
グラたん「(避ける)さて、次回予告と行きましょう」
プレア「次回、魔帝の死。だけど目撃者は抹殺しないと! 嵩都!」
嵩都「おう!(暗殺術で音を消して背後から抜き手を放つ)」
グラたん「(前転して躱しかかとで蹴り払う)」
グラたん「(立ち上がる)しつこいですね。ちょっと本気出しますよ?」




