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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第二十話・帝龍の覚醒 

グラたん「第20話目です!」

プレア「ボクの出番もあるかな?」

グラたん「あれを止められるならあると思いますよ」

プレア「じゃあちょっと張り切っちゃおうかな!」

~嵩都視点~


 俺は軽く力も入れずに剣を凪いだ。そうすると俺の圧倒的な力が全てを破壊する。

 絶対の破壊、こんなにも楽しいものだったとは。

 あはは、ははは!!! 破壊だ、破壊だ!!! 全部壊してやる! このフィールドも何もかもだ!

 俺は先程、斎藤たちが転送したのを確認した。

 だが何故かフィールドが消えないのだ。

 時間はとっくに過ぎているはずだし、本物の隊長が終わらせてくれる筈だ。

 やはり故障しているのではないか? とも思った。

 なので、現在絶賛内側からフィールドを破壊しまくっている。

 いや、もう破壊するのが楽しいだけだよな。



「いたぞ!」



 おや、助けが来たのかな? 俺は剣を凪ぐのを止めて声のした方を向く。

 剣を持っていることからそいつらはさっき殺害した偽隊長と同じ強さだろう。

 ということはアレか、守護兵的なものか。所詮ひ弱だがな。

 フィールドが故障したことにより安全装置でも働いたかもしくは破壊しまくっている俺を外敵と判断しての攻撃か。

 うーん、後者だろう。

 そうだ。俺の限界を見極めるいいチャンスだ。

 正直言って俺は自分の限界を知らない。この機会に見極めて置くのも良いだろう。



「止まっているぞ、行くぞ!」

「はあああ!!」



 奴等が安直に突撃してくる。俺のことを舐めている証拠だ。

 俺の本分は暗殺だが、正面戦闘も問題ない。



「はっ」



 まずは奴らに向かって真空波で薙ぎ払い。

 それだけで3人が錐もみダイブで地に伏した。

 だが奴らはすぐ起き上って突撃してきた。さっきの偽物とは一味違うようだな。



「うおりゃ」



 俺は自分のスピードを上げて近付いて剣を一閃した。今度はきちんと入ったはずだ。 

 それを証拠付けるように奴らは吹っ飛んで木にぶつかって動かなくなった。

 そして一人一人丁寧に心臓を突いておく。



「ははっ、雑魚かよ」



 やつらは転送して消えて代わりに見覚えのある兵士が大量に来た。

 この展開は……俺無双か? いやもしくは俺TUEEEということか?

 この際どっちでもいいか。



『うおおおおおお!!』



 大量の兵士が剣を振り上げて襲い掛かってくる。

 おお、すげえ圧巻。



「それじゃあ、行くぜ!!」



 俺は迫りくる雑魚に向けて全力で振りかぶった。



「セイバースラッシュ!」



 俺が好きだったゲームの技だ。ああ、もちろん全力の横素振り(真空波)だ。

 あっ、そうか、魔法が使えれば本格的に出来るのか。

 そう考えれば色々出来そうだな。

 威力はともかくとして、デモストレーション位にはなるだろ。



『ぐはぁっ!!』



 奴等は木っ端の様に吹っ飛んで転送された。流石は雑魚だ。

 しかし破壊するのも飽きてきたな。よし次が来たら話し合いでもしてみるか。

 そして待つこと二分後。



「嵩都!!」



 やってきたのは魔王だった。マジか……。

 くそ、性格悪いぜ。このシステムは。とりあえず話し合ってみるか。



「どうした? そんなに血相抱えて」

「どうしたじゃないよ。今すぐ破壊活動をやめて!」

「いや、これはフィールドが故障しているようだから内側から出られないかなって」

「え、フィールドは故障なんてしてないよ?」



 おや、故障していないのか?

 って騙されるな、俺。出ようとした瞬間にお縄が待っているぞ。

 と思いつつも次の言葉で納得した。



「出たいならフィールドの壁によって出ればいいのよ」

「あー、それまだ試して無かった」



 うん、てっきり転送だけかと思っていたから試して無いや。



「分かった、とりあえず出ようか」

「そうだね」



 俺は魔王(まだ偽物の疑いは捨てきれない)に付いて行くことにした。

 しばらく歩いて壁側までやってきた。さて、通れるのかな?

 俺はフィールドの壁に手を当てて抜けられるかを確認。結果は……通れた。

 なんだ、こんな簡単に抜けられるとは……もっと早く気付くべきだった。



「さてと、嵩都」

「な――――?」

「ごめんね、ちょっと眠っていてね」



 俺の後頭部が何かで殴られた。

 油断――? いや、警戒はしていた。単純に速度が違ったのだろう。

 狙いが正確な当身だ。くそっ。



「こうしないと嵩都は止まらないから」



 魔王が――いや、魔王の偽物が言った。魔王の周りにはさっき倒したはずの兵士。



「やっとか」

「これで報酬が貰える」

「均等割りでな」

「ははは」

「何にせよ、魔王様のおかげだな」

「違いない」



 そうか、奴らはやられた振りをして俺を誘き寄せたのか。

 やられた……。クソが。迂闊だった。

 今、この場から脱出するには力がいるな。

 少なくても……今の五十倍。もっと、もっと力が欲しい。

 俺に力があれば……こんな状況……力、力が欲しい。圧倒的な力が!!

 何もかもを奪う、破壊する、殺戮の力ァァ!!

 願うと俺の中で何か黒いものが渦巻いた。



    スキル:勇者 が湾曲派生しました。

     『勇者の歪んだ願い』により 

スキル:帝龍 を獲得。発動――

 


 そしてその黒い物は全身に駆け巡った。



「ガアア――――ッ!!」



 眼が、爪が、腕が、足が、骨が、髪が、歯が、俺の全てが肥大化していくのを感じる。

 そして本能的に分かる。

 ああ、この力は今の俺では扱いきれないと――。

 俺の意識、理性に靄がかかっていく。

 きっとこの後で俺は何もかもを破壊し尽すのだろう。

 次に見えるのはきっと――。







~アネルーテ視点~

 嵩都を捕えることに成功しました。

 嵩都には悪いのですが被害(主に精神的打撃)が大きくなってきたので鎮圧させて頂きました。

 無事に束縛も終わり兵士たちも安堵の表情をしています。

 しかし次の瞬間には嵩都から黒い瘴気が噴き出しました。



「な、なんだ、これは!?」

「皆、フィールドの中に入って!」



 嫌な感じが、何か呪われたような力を感じます。



「ガァァアアアア!!」



 嵩都が魔獣のような雄叫びを上げました。

 四つん這いになり黒い瘴気が嵩都の体を包み込みました。

 すると、明らかに嵩都の力が強まるのが分かりました。

 万が一に備えてフィールドに退避した私たちは更に後退し陣形を整えます。

 嵩都が立ち上がり幽鬼のような足取りでフィールド内に入ってきました。



 ――ヒュォ



 そして何かが飛んできたと思った瞬間、横に居た二人の首が飛びました。

 何か鋭い物が飛んできました。

 その何かは分かりません。全く見えなかったのですから。

 そしてまた何かが飛んできます。



「ヒッ――」

「イァ――」



 断末魔を上げる間もなく兵士たちの首が飛び、胴が別れ、心臓が穿たれました。

 辛うじて視認できたのは嵩都が持っていた剣のみ。

 観戦した試合から察するに真空波を更に加速させた刃を飛ばしているのでしょう。

 嵩都の手元が動き、兵士たちの骸が飛び散ります。

 もう一度嵩都の方を見ると嵩都の背から四対の何かが出てきました。



 ――ドシュ



 次の瞬間には私の目の前が暗くなりました。

 それが、結局何だったのかは分かりません。

 暗闇の中で疑問だけが頭の中を駆け巡り、意識が断たれました。







~プレアデス視点~

 フィールドの遥か上空にはプレアがいる。そこはフィールドの圏外だ。

 今は冬。寒い北風が夕日色の髪が揺らす。



「ごめんね、ルー姉。ちょっと予想外のことが起きているみたい」



 プレアは雲一つない青い空に同色のチュニックワンピースをなびかせ、弓を構えていた。

 そしてプレアが言い終わると同時にアネルーテの首が飛び、地に落ちた。

 それを無表情でプレアは見下ろしていた。



「おかしいなぁ……『邪神』スキルはボクが奪ったはずだけどね?」



 狙いを嵩都の頭部に定めながら呟く。

 弓に矢を番え、弦を引き絞る。矢には特殊な魔力と魔法が込められ始める。



「まさか別のスキルが発現したりしちゃったとかかな? はぁ……」



 溜息と同時にプレアの白く細い指につままれた矢が放たれた。

 北風を思わせるような音が鳴った。

 次いで大爆発音――はしなかったが代わりにマイナスにまで下がった風の音が鳴った。

 フィールド内が超低気圧のダウンバーストが振り降りて辺りを一気に凍らせていく。

 更にフィールド内には暴虐な吹雪が乱れ狂った。

 草木が凍り、朽ち果て、消えて行く。

 今やフィールドは氷に閉ざされた死の世界へと変わり果てた。

 その内部にいる嵩都は身動きを取ることなく全身が凍っていた。

 プレアがもう一度弦を軽く引いて鳴らす。

 すると数瞬後に吹雪は止み、その草原だった場所はただの凍土へと変貌を遂げていた。

 天変地異にも匹敵する魔法。

 この世界に置いてプレアのみが使える魔法『凍原雪羅』。

 俗に固有魔法と呼ばれる、最上級の『ラスサアル』を超える魔法だ。

 本来の威力は大陸そのものを凍土に変え、一瞬で凍土になり、生物が死滅していく。

 やがてその魔法は世界を覆い、滅ぼすに至る魔法だ。

 そんな魔法が小規模化して撃たれただけで目下の惨状だ。

 このような魔法が本来の使い方をされればどうなるかなど想像に容易い。



「はぁ……」



 プレアはもう一度溜息をついて嵩都が凍っている場所へと降り立った。

 そこには誰も居ない。かつて映っていたカメラも映っていない。



「嵩都……」



 嵩都は目が赤く染まり、体は血走る獣の様な姿へと変貌してしまっていた。

 耳や爪が鋭く伸び、額からは天を突かんが如く二つの尖角が生えていた。

 背中には二対の大翼が生えていて、腰からは固い鱗に覆われた尻尾が生えていた。

 あえて言うなら人型を残した魔獣、そういうのが正しいだろう。



「龍……英雄の成れの果て……」



(確か文献に召喚された英雄が悲しみと怒り、人々の悪意のあまりに龍になったという伝説があったような……)



「まあ今はいいや。とりあえず元に戻って貰わないと」



 プレアは白い指を龍と化した嵩都の頬に当てた。

 すると嵩都の体が輝いて徐々に人間の姿に戻って行く。

 翼が畳まれ、爪が戻り、尻尾が収納されて行く。

 完全に人間に戻ったのを確認する。

 プレアは『凍原雪羅』を終わらせ、辺りの凍りが解けていく。

 死の世界が解氷していく。嵩都の体も解け、鼓動を取り戻していく。

 嵩都が完全に眠りから解放される数秒前、プレアは一人呟いた。



「龍、ね。さっきの形態はまだ不完全だったけど……あれって帝龍だよね。……全く、スキルの引きが良いと言うべきか……」



 プレアは氷の世界から帰って来てそのまま倒れる嵩都を支えた。



「嵩都……」



 そしてプレアは口元をそっと嵩都の耳に近寄せて言った。

 少し恥ずかしそうに頬を赤く染めて、ほほ笑む。



「嵩都はボクの物だよ」



 言い終わると同時にプレアは嵩都を背負って歩き出した。



「でもさっきの龍化……本当に龍になったらどれだけ格好良くなるのかな?」



 そんなプレアの呟きはまだ少し冷たい空気の中へと消えた。







~魔帝視点~

嵩都の暴走をプレアが止めた事により事態は収拾した。

兵士たちにはお疲れの意味も込めて魔帝は料理長に頼んで昼食メニューをカレーに変更した。

それを聞いた兵士たちと勇者たちは狂喜乱舞したとか。

嵩都の方はプレアの言葉もあってかお咎めなしという結論に達した。

最も魔帝の思想と感情采配で決められたと言っても過言ではなかった。



(まあ、合格点でしょう。他国には縁談が決まり次第、勇者のことも含めて発表すればいいでしょう。さて、後はアネルーテ次第……これを逃したら本当に年増になりかねませんからね。後は身分ですね……。いっそ戦争でも起これば最前線に放りだせるのですが……そしてそこで多大な功績を上げてくれれば身分を引き上げることも可能なのですけどね……)



 魔帝は亮平が嵩都の肩を掴み、嵩都を揺らす光景を眺めていた。








~幕間~

 帝龍とは悲しみの果てに龍になった英雄のなれはてである。

 龍化した英雄は暴虐と破壊の限りを尽くし、己が死ぬまで破壊をし続ける。

 力尽きた時のみ人に戻り、そのまま命を落とす。

 過去に龍化した者は一人。

 人々はこの事変を記録に残した。

 その戦いは有史以来最大の被害をもたらした。

 戦いが終わり王は告げる。

 これが人間の醜さだと。

 これを引き起こしたのは人間の悪意であると。

 彼を龍にしたのは人間であると。

 彼の死後、人々は世界の最も東の位置に彼の墓を建てた。

 そこを訪れる人々は未だ残る破壊の爪痕を見て自分を戒める。

 二度とこの悲劇を繰り返さないと。


              アジェンド城図書館 ~第五節・龍になった英雄より

グラたん「とんでもない切り札隠してましたね」

プレア「本来は国土壊滅させるくらいの威力があるから多用は出来ないけどね」

グラたん「それでも国の崩壊を食い止めたのですから凄いですよ」

プレア「まあ、その気になったら魔帝様やアルドメラさんも動くと思いますよ」

グラたん「アネルーテさんは?」

プレア「ルー姉も強いけど……今回は油断していたみたいだね」

グラたん「気になりますね。……さて、そろそろ次回予告にいきましょう」

プレア「次回、カレー事件 前編。じゅるり」

グラたん「この世界にもカレーがあるんですね」

プレア「うん。何であるかというと――――あ、ネタバレになりそうだから止めとくね」

グラたん「そんな殺生な!?」


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