第十九話 模擬戦 後編
グラたん「十九話です!」
嵩都「ハハハハハハ! 千切れ飛ぶが良い!」
グラたん「ぎゃー!」
~嵩都視点~
「ふはっ、ははは……はははッ! 我が力は圧倒的ではないか!」
俺は完全に自分の力に溺れていた。
俺が剣を一振りすれば暴風を生み、周りに砂塵を巻き起こす。
誰も近づくことなど出来ない。
この時、俺は自分の変化に全く気付いていなかった。
「そうら、踊れ、踊れェ―――!!」
先程、意外と近くにいた斎藤たちを見つけて追いかけること五分。
「うわぁああ!」
「もういやぁぁぁ!」
俺に追いかけられる気持ちも考えもせずに追いかけまわした。
「あっはっは! 愉快、愉快」
他人から見ればこの上なく暴虐の魔人に見えることだろう。
「そこまでだ! 朝宮、戦闘をやめろ!」
突如、隊長の声が聞こえた。
「もう斎藤たちに戦闘継続の意思はない!」
隊長は何を言っているのだろう。
まだ時間切れではないし戦闘不能に陥っても居ない一体どういう事だ?
――ああ、そうか。あれは偽物だな。全く……このタイミングで出してくるとは良く考えているじゃないか。
「へぇ、俺に対しての戦闘意思がまだ残っているとは中々やるな」
俺は幻惑系統の魔法で作られた隊長のほうを一瞥した。
「助けてくれ、隊長!」
斎藤が叫ぶけど……演技だろ?
「鈴木、斎藤たちを保護してフィールドから抜け出せ!!」
偽物の隊長が鈴木に敵に寝返るように言っている。
あはは、馬鹿じゃねぇの? 鈴木が裏切るわけがない。
「りょ、了解!」
あれれ、おかしいぞ? 味方の鈴木が裏切って……ああ、さっきの襲撃の時にすでに洗脳されていたのか。
可愛そうに。俺が助けてやらなきゃ、な。
ちょっと傲慢な気もするが、力ある者が力無き者を助けるのは当然の事だ。
「お、おい待て、朝宮。俺は味方だぞ」
俺が鈴木に憐みの視線を送ると洗脳された鈴木が味方だと言い張る。
「いやいや、分かっているよ。今その洗脳を解いてやるから待っていろよ」
そう言って俺は鈴木に親指を立てて笑ってやった。
「分かってねぇ! 絶対ぇ分かってねぇ! 俺は洗脳されていない!」
流石テンプレ通りの答えをしてくれる。
「やれやれ……全く、許せないな。俺の仲間を洗脳するとは良い度胸だ」
「まてまて、俺らは何もしていない」
斎藤が慌てて答えるがやっている奴は皆そう言って逃れようとする。
全く嘆かわしい限りだ。
「安心しろ、殺しはしない。ちょっとお昼寝していてもらうだけだ」
「永眠させる気か!」
ははは、いくら俺でもそこまで加減を間違えたりはしない。
「斎藤、林、逃げろ! マジで殺られるぞ!」
鈴木が斎藤たちに逃げるように促す。
はぁ、流石は洗脳魔法だ。俺にとって天敵に等しい魔法だな。こればかり使われていたらその内誰も信じられなくなりそうだ。人間不信の魔法だな。
「ここは私が引き受ける、早く逃げろ!」
おっと、隊長の偽物が斎藤たちと鈴木を庇うようにしているな。
一応、退いてくれるように言ってみるか。どうせ無駄だろうけどな。
「そこを退いてもらおうか、偽物め」
「それは出来ないな、退いたら斎藤たちの命に係わる」
「いくら何でもそこまではしない。斎藤たちに眠って貰い、鈴木の洗脳を解くだけだ」
「馬鹿者、自分の力加減を知れ!」
ふむ、俺の返答を返すだけでなく俺の言う事を理解して返答するとは。
しかも偽物の分際で俺を罵倒までするとは……本当に良く出来ているな。
「退いてくれる気は無いのだな」
「お前のその間違った力の使い方を正してやる」
ほほう、俺に説教かますとはいい度胸だな。
「面白い――」
俺は気配を無くし、まるで幻影のように残像を作りだしながら距離を詰める。
「んなっ……」
偽物なのに驚愕を知っているとは余程精巧に作られているらしい。
これは戦闘力なんかも同レベルなんじゃないか?
それならお構いなく全力を出しても大丈夫だな。
俺は元栓を閉めるのを止めて現在の全力を解き放つ。
背後から刺突するが躱された。流石に首は狙い過ぎたか。
「ぐっ――」
僅かに掠っただけか。毒でも仕込んでおけば良かったな。
「早く離脱するぞ!」
おやおや、鈴木が斎藤たちを逃がそうとしているな。
最も逃がすわけがないが。
「くっ……朝宮、来るなら来い!」
ならばお望み通りに行ってやろう。
「消えろ」
俺はそれだけを言い残して隊長に接近、一刀の下に偽物を撥ね飛ばした。
「ぐあっ」
ははっ、よく飛んでいるなぁ。
だが本物の隊長なら今の位軽く避けるかガードすると思う。
偽物が空中を錐もみダイブで飛び、そのまま地面に激突した。
やっぱりその程度か、受け身くらいとろうぜ。
そう思いつつ首に剣を当て、頸動脈を掻き切った。
動かなくなった偽物を尻目に斎藤たちを目視した。
「嘘だろ!?」
鈴木が割と本気で驚いている。洗脳されていなければ見分けくらい付いただろうに。
「ひぃぃ」
「隊長がやられた!」
斎藤たちも演技が籠っているようだ。
しかし時間もないようだしフィナーレと行こうか。
俺は終幕を下ろすべく斎藤たちに向かってゆっくりと歩み始めた。
~観戦室3・アネルーテ視点~
「破壊の化身……」
誰ともなく呟いたその名称、それは先程決定された嵩都の別名です。
「まさか……隊長が……」
そう、僅か一合で私たちの指導役のヴァインがやられたのです。
私は良くて互角、最低でも十合は持つと思っていたのですが予想以上に嵩都の力が大きかったことに驚きました。
これはいよいよ私が出ないといけない事態かもしれませんね。
しかし今の私が斬りあっても私が完全に勝つとは言い切れません。
戦わないで済むのならそれに越したことはありません。
「一体何の騒ぎですか」
そこに現れたのはお母様でした。誰かが指示を仰いだのでしょう。
「はっ、実は朝宮さんがフィールド内を暴風圏にしまして」
兵士の一人が簡潔に事態を説明する。
「なるほど、そういうことですか」
今の説明で納得されてしまうのですか。
「ならば、あそこに近衛兵全員を投入します」
「魔帝様、お言葉ですが我々全員で出た方が良いと思われます」
「今はその必要はありませんが、万が一全滅した場合行ってもらいます」
「分かりました」
「では、近衛兵に通達」
「はっ」
我が国はこの世界で最も大きな国であり、将軍は全員でも四人しかいません。
ちなみに階級別にすると、見習い、一般兵、上等兵、部隊長、軍隊長、近衛、将軍、そして一番上にお母様が並びます。
ちなみに私は将軍の役職で他にお父様も含まれます。後の一名は私の姉様です。
尚、お姉様は私と二歳年上で今は外交でエルフの領地に行っております。
確か私とお母様がウンディーネとの外交を終えて帰ってくる時に一緒に帰る予定になっています。
姉様は私と違って明るく優しく割と人見知りはしない人で正直羨ましいです。
ただ、とても自由奔放でこの間、遂にに最後の婿の貰い手が無くなったようです。
話を戻しましょう。次の近衛兵士ですが彼らは百名しか選ばれない優秀な兵士です。
主にこの城内や支部で働くのが任務です。
軍隊長はその役職から支部を含めても二千名しかいません。
戦争と言うのは滅多に起こらないので大体は大型の魔物討伐が仕事です。
ヴァインは兼任でこの役職についています。
元々ヴァインは近衛兵だったのですが本人きっての希望があり、異動したのです。
その際に近衛兵を辞任するのを条件とし、教育役と兼任して軍隊長となりました。
部隊長は支部を含めて一万名は超えるでしょう。
見習いはその城ごとですが、この城は年二千名を募集しており四か月の訓練後に各支部へ回されます。回されて一年の内にやめて冒険者業になり自分の力を過信して命を落とす人は少なくありませんし、残っても仕事の途中で事故死することもあります。
ちなみにさっき一緒に訓練した兵士たちは全員が見習いです。
そんなわけでその近衛兵士はこのお城でも一人で小隊規模の戦力になります。
今回、お母様が呼んだ近衛は三人です。
その三人はⅭランクの魔物と互角以上に戦う貴重な戦力です。
もし、それが負けるようなら嵩都は本格的に危険分子と認定される恐れがあります。
しかし間違いなく全員返り討ちに合うでしょう。
私も体をほぐしておいた方がよさそうですね。
「アネルーテ」
「はい」
「貴方が朝宮さんを止められない場合は貴方が朝宮さんを仕留めなさい」
「承りましたわ」
「魔帝様、近衛兵三名集合しました」
そこへ先程近衛を呼びに行った兵士が戻ってきました。
「しかし、我らを……それも全員を呼ぶほどとは」
「一体何ごとでしょう」
近衛兵は男性が一人と女性が二人です。
「来ましたか、こちらに来て映像を見なさい」
『はっ』
さて、どのような反応をするのでしょうか。
「こ、これは」
「酷い」
「悪魔……」
はい、予想通りでした。
「状況を説明します」
その一言で近衛兵たちが体を震わせました。
「これは今、実際に起きている映像です」
「そんな……」
「この木剣を持ち、黒髪で暴風の中心にいる、この方が主犯です」
「なっ……」
「はっ――ま、ま、まさか」
この後、お母様が何を言うか分かった方が居ますね。
「ええ、貴方たち近衛兵三人は今よりこの中に入り、主犯を捕えてきて頂きます」
「やるしか、ないのですな」
「生け捕りに出来たら昇給と追加で報奨金を出しますが」
「医療費は……」
「此方が出します」
『受け賜りました』
「流石は我が城自慢の近衛兵です」
そうですね。この城でもトップクラスの戦力ですからね。
「それと先程ヴァインが行ったのですが」
「なんとヴァインさんが!」
ヴァインはこの三人の近衛兵が決まる前の唯一の近衛兵でした。
そしてこの三人の指導者であり上官でもあったのです。
「未だ御健闘なされているのですな」
「今こそ御恩を返す時!」
これから知らされる事実を聞いてまだそんな口が聞けるとは思えないのですが。
「いえ、ヴァインは既に倒されました」
「恐らく、激闘を繰り広げたのでしょう」
「それでも勇敢に立ち向かい戦われたのですな」
「ならば次は我々が!」
さあお母様、言って差し上げるのです。
「いえ激闘もへったくれもありません。一刀でやられました」
「なっ」
「そんな馬鹿な!」
「ありえません!」
近衛兵は口々に反論します。
「木の削りカスの様に吹き飛びました」
近衛兵全員が口を開けてポカンとしております。
そこへヴァインが転送されてきました。
あの凛々しい姿は影も形もありませんね。
悶絶して白目を剥いていました。
『…………』
近衛兵たちがあり得ない物を見るようにヴァインを見ました。
「さて、そろそろ現場に行って下さい」
お母様が無慈悲な命令を下します。
『こればかりはどうかご慈悲を』
全員命令拒否しました。
ちなみに近衛兵になると命令を拒否することも可能ですが減俸されます。
「減俸されても良いと」
『お金より命の方が大事です!』
その考えは正しいです。あの圏内に入って無事に帰って来られるとは思えません。
「はぁ……仕方ありません」
お母様も諦め気味の様ですが、このままで終わると思えません。
『それでは我らは失礼します』
「本当に仕方ありませんね、全員強制的に行ってもらいます」
「はっ?」
「さっさと行きなさい。これは勅命である!」
『ええっ!?』
勅命……この城で一番上の者に与えられる最上級の命令権。
誰で在ろうと逆らうことを出来なくするお母様だけが使える切り札の内の一つです。
『――ヒィ……了解であります!』
この城に置いてお母様に逆らえる者は誰一人とていません。
近衛兵たちは泣く泣く死刑台に向かっていきました。
「さて、見習いの皆さんも出撃してください」
『げっ』
「……行きなさい」
『了解!!』
強制的に従わされた見習いの方たち。
「アネルーテには使わなくても大丈夫ですね」
「はい」
これを使うときは大抵無茶な事を言う時だと言うのを私は知っています。
だけど今回に限っては無茶が過ぎると思います。
「さて、始まりますよ。誰が朝宮さんを捕えるのでしょうね」
絶対分かっていて言っています。
「では、私も出撃します」
「もしかしたらアネルーテには攻撃しないかもしれませんね」
「そうなることを願います」
私はそうなることを嵩都に期待して観戦室を出ました。
~観戦4・魔帝視点~
「プレアさん、万が一アネルーテが死んだ場合『凍原雪羅』の使用を許可します。――ええ、フィールド内にお願いしますね」
魔帝が流しているリンクの向こう側ではプレアが軽快な返事を返していた。
アネルーテが出陣した後、誰もいない部屋で魔帝は呟いた。
「ふぅ……、まさか昨日思ったことがこんなに早く実現するとは……」
(単独でこんな破壊活動が出来る人間、一騎当千の武勇があるなら有事の際でも大丈夫でしょう。側室に関しては私がとやかくいうことではないですし……最も、アネルーテの場合はプレアさんを第二妃にしそうですけどね)
「さて、嵩都さん。貴方が出し切れる限界を見せてください」
(そしてその力は皆を守るために使ってほしいですね)
魔帝は目の前の映像をとても穏やかな表情で見ていた。
グラたん「酷い目に遭いました」
ヴァイン「ああ、全く持って酷い」
グラたん「ボロボロですからね……。さ、気を取り直して次回予告行きましょう!」
ヴァイン「次回、帝龍の覚醒。……なあ、タイトルが碌でもないのは気のせいか?」
グラたん「……(素知らぬ顔)」
ヴァイン「これ以上は手が付けられんぞ……」




