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勇邪の物語  作者: グラたん
第一章ロンプロウム編
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第一話・崩壊の刻

グラたん「記念すべき第一話、初回大ボリュームでお届けです!」


 


 暖かい日差しが教室を照らす午後。

 鐘が鳴って授業が終わる。

 廊下に出ると残り一コマを残した学生で溢れかえっていた。

 ……今回のテストは中々手強かったな。

 俺はテストの答案を確認しながら廊下を歩いていた。



「お、嵩都、英語どうだった?」

 


 その途中で友人が俺を呼び留めた。

俺はその声に振り返る。

 彼は田中亮平。俺の友人である一人だ。黒目黒髪(にほんじん)で背丈は俺と同じ位の171cm。

 サッカー部主将であるために体は程良く鍛えられている。

 嵩都は俺の名前。性は朝宮。一八歳の高校三年生だ。

 こいつとはここに入って以来の旧友で今では下で呼び合うほどの仲だ。



「ああ、中々の難易度だった。九十二点だな」



 俺がそういうと亮平は頭を抱えて唸った。



「くぅ……負けた。俺は八十八点だ」


「また俺の勝ちか。悪いな、いつも奢って貰って」



 そう、今回の英語のテストで点数の高かった方がジュースを奢る取り決めをしていたのだ。

 ちなみに勝負は二年の夏から始めて俺が二勝勝ち越している。



「くそぉ……次は大学で、か……」



 俺たちが進学する大学はもう決まっていた。年内で合格し、同じ大学に……学年の半数以上がそこに行くために被ることは珍しくないのだが行くことに決まっていた。

 当然ながら大学でも負けるつもりは無い。



「そうだな。で、俺はいつもの苺ミルク2L」


「くっ……痛い出費だ」


「それじゃ、また後でな。ハッハッハ」



亮平が財布とにらめっこしているのを横目に教室に向かう。





 ――――この学校はかなり特殊な学校だ。

 この学校は主に苛めとか精神的に危うい生徒を率先して引き受けている。

 簡単に言えば国や学校が親の関係、生徒の中の問題児、孤児、もしくは犯罪をしてしまった少年少女等を一か所に集めて監視するための学校だ。

 間違っても少年院じゃない。

 少年院は教育者の事件が多発したために日本では撤廃となり、代わりにこの学校が建てられた。

 少年法の方も変わってきて罪を背負った子供は大体ここに入ることになっている。

 この高校に来て再び問題を起こし、除籍及び警察に連れていかれた奴も居た。

 ちなみにここは幼、小、中、高、大学まである。俺たちが進むのはその大学だ。

 校舎は四校舎とも離れた位置にある。揉め事を起こさないための措置だ。

 実際、危険人物の収容所とも世間からは言われていた。

 通っている俺から言えば合っているのでなんとも言えないが、普通に生活を送りたいために頑張る奴も居る。

 中には地域のボランティア活動にまで参加する奴も居る。

 そこら辺が改善されてきている理由だ。

 世間からどういわれようともこの学校に居る奴らは大体同じ境遇だ。

 同じだけに団結も固いし、内情を知る奴も多い。

 俺も小学、中学までは普通の人生だった。

 しかし中学三年の時にとある事件に関わり、色々な経緯を辿って今に至る。

 現在の高校に行くことになったのはそういう事情があるが今は割愛する。






 今日は水曜日で学校ではHRのある日だ。

 そしてこの日は一年生が校外学習、二年生が修学旅行というガラガラデーだ。

 どれだけ騒ごうと隣のクラス以外に迷惑がかからない。

 もうみんな進学が決まっている状態だからのんびりと暇そうにしている。

 俺は上着を椅子に掛けて深く腰掛け、鞄からラノベを取り出して続きを読む。

 


 しばらくすると先生が来て生徒たちが席に着いた。



「座れー。HR始めるぞー」

 


 ラノベを鞄にしまう。そして先生が話し始めた。

 先生の長いお言葉を右から左へと聞き流す。

 なんで先生の話はこんなに睡魔に襲われるのだろう……。

 コクリ、コクリと船を漕いで眠る寸前だ。



「くぁ、眠ぃ……」



 俺は一つ欠伸をして眠気に負けて寝ようとした。


 不意に視界が歪み、唐突に頭が上がって天井を見させられた。

 ――――なんだ? 今揺れたか?

 そして机が――いや、正確には校舎が揺れた。

 その性で俺の眠気は一瞬で吹き飛ばされてしまった。



「地震か!?」

 


 誰かが叫んだ。

 かなり揺れが激しいのが分かるように立っている奴は揺れの大きさにたたらを踏む。

 座っていても勝手に椅子が動く状態だ。



「机の下に隠れろ!」



 先生が叫ぶけど……先に隠れてから言うのかよ。

 とは言えこのくらいの地震ならすぐおさまるだろうと考えているのだろう。皆、隠れない。

 むしろ『すぐおさまるって』とか、『今、ゲームが~』とか言っている。

 ブレイクダンスと言いながら揺れに任せて立っている奴もいる。

 窓ガラスがミシミシと嫌な音を立てている。

 あ、これ不味いな。割れる一歩手前の現象だ。

 俺は先生が言い出す前に鞄に荷物を詰めて逃げる準備を整える。

 俺の他にも数名逃げる準備をしている奴がいた。



「皆、机から出で急いで非難しろ!」



 と先生は叫んでいるが反応して逃げ出す奴らが少ない。

 まだその実感が沸いていないのだろう。



 ――――パリン!



 そして窓ガラスが割れ、辺りに散乱する。   



「きゃっ!」



 女生徒が悲鳴を上げた。

 そこで皆がようやくあるべき行動を起こし始めた。

 遅過ぎるとさえ思う。その間に俺は他数名と共に廊下に出た。

 アディオス! 

 ほぼ見殺しに近いが我が身優先だ。悪いな、俺は死にたくない。

 俺と同じことを考えた他のクラスの奴らが廊下に出てくる。



「こりゃ、校舎つぶれるかもなぁ~」



 そんな声が後ろから聞こえる。

 不謹慎だなと思いながら振り返らないで走る。

 





 廊下を突っ切り、階段を降り、昇降口を出た。

 昇降口に出たところで何かが崩れる音がした。

 振り向くと奥の校舎が崩れていた。 


 このころになってようやく学校中が悲鳴で満たされる。         

 最近は地震とかの災害が無かったから平和ボケしていたのだと思う。     

           

 奥の校舎から煙が上がった。

 瓦礫が落ちて土煙が舞い上がったようだ。

 俺は危険が増していると考えて走るスピードを早めた。



 学校が崩れていく音が聞こえる。

 落ちてくる瓦礫やガラスに注意しながら正門前に出た。

 辺りを見渡すと周りに同じことを考えて出てきた奴らがいた。

 意外と先生の注意を聞かないやつが多いな。

 緊急事態なのにそんなことを考えたのは避難して余裕が出来たからだろう。



「うぉぉ! 渡り廊下が落ちたぞ!」

 


 見れば確かに高等部の校舎の渡り廊下が崩れ落ちている。



「ああっ、国語科の山口Tが生徒を見捨てて逃げてきたぞ!!」

「おぉ! あいつは、ヒキゲーマーの川城だ! 珍しく学校に来ていたのか!」

「あいつ、引き篭もりのくせに足速え!!」



 全員がとある一つの渡り廊下を見ながらそう言った。

 すると、廊下からかなりのスピード走り、空中三回転のアクロバッティングしながら窓ガラスを割って出てきた奴がいた。

 そして片手でゲーム機を弄りながら華麗に着地した。

 阿呆か。真っ先に出た感想がそれだった。

 何故その身体能力があって学校に来ていないんだ?

 だがまあ、俺には関係のないことだ。



「Gだ、奴はGだ!!」



 Gって、ガンダムじゃなくてゴキブリじゃないのか?

 心の中でそう突っ込んでおいた。



「見ろ、校舎が!」



 誰かがより大きく叫ぶのが聞こえた。

 その声に皆がその方向に向く。

 すぐさま俺も校舎の方を向いた。

 校舎は今にも崩れそうなほど亀裂が入っていた。

 耐えかねた校舎の根元にある地震対策の鉄筋コンクリートが折れて校舎が傾いていく。


 ――そして爆音と爆風と瓦礫とガラスの破片を飛びちらせながら校舎は崩壊していった。




 凄惨たる光景が目の前に広がっていた。

 校舎だった建物は瓦礫と化していて鉄パイプや壊れた椅子や屑木になった机が転がっている。

 立派だった木々は薙ぎ倒されて、瓦礫の合間からは人の血肉が飛び散っていた。

 さっきまで騒いでいた連中もあまりの光景に茫然としている。   

 俺は少し歩いて瓦礫を見た。誰かの血が流れ、血は瓦礫を赤く染めていた。



「はは、夢か? こりゃあよぉ」



 男子生徒や女生徒が血まみれの瓦礫に近寄った。

 その肉片の中に見知った髪の毛、制服姿でもあったのだろう。



「愛里ちゃん?」



 その内の一人である彼女は涙を流しながら瓦礫を退かし、既に肉片となっている物体に声をかけている。



「嘘だよね……だってさっきまであんなに……」



 退かせば退かすほど残酷な事実を見ることになる。

 俺としては止めてやりたいが…………錯乱している彼女に今は何を言っても無駄だろう。



「鐘也……おい……返事しろよ…………」



 また別の男子生徒が瓦礫をあげている。

 一つ、また一つ上げるたびに血の付いた瓦礫が置かれる。

 その瓦礫から鮮血が流れて小川になっていく。

 やがて目的を見つけたのか、彼は近寄った。



「おい……鐘也ぁ……早く起きろよ、ダック寄るんだろぉ……なぁ」



 俺はわずかに生きているのを期待しながらそいつを見た。

 しかし、やはりとでも言うべきか彼は瓦礫とガラスでズタズタになった鮮血滴る肉塊に話しかけていた。 彼だと分かったのは……辛うじて原型を留めているその半顔だろう。

 もう片方は退けられていない。

 ……話しかけている彼の最後の理性が働いたのだと思う。

 俺は目を背け他の生徒を見る。



「いやぁぁ……やぁぁぁ……ぁぁぁぁ」



 千切れた手足を見て悲鳴を上げる生徒。



「はっ、はやく、瓦礫が生徒をどけて救助してぇ」



 わけのわからないことを叫ぶ先生。



「――――ッ!!」



 死体を見て絶句する奴――――正直、見ていられないな。

 皆混乱して訳が分からず、収集が付かなくなっている。

 生きている者を探そうと生徒や先生が分かっている絶望を探し始める。



「うぉぉぉしゃぁぁあああ! レア素材でたぁぁあああ!!」



 背後から大きな声が上がった。何事かと思って振り返る。

 声を上げたのは川城……だったか? 場違いだな。

 そう思わせるくらい無神経でよくわからない奴だ。

 やっているゲームはモンで始まりハンで終わるアレ……確かモンスター・ハングリーだったな。プレイヤーがモンスターになって人間を食らったり殺したりするゲーム。

 全く。今はそれどころじゃないだろうに。



 瓦礫から目を放し、ふと俺は周りを見渡すと異変を感じた。

 おかしいな、なぜ周囲の家が潰れてない? 

 この学校は耐震工事にとても力を入れていたのを俺は知っている。それも他の学校の比にならない位に。

 この校舎が潰れるのなら周りの家は全壊していてもおかしくはないと思うが……どういう事だろうか?

 考えても答えは出ない。

 そこら中から悲鳴、絶叫、怒号、怨嗟、嗚咽が聞こえてくる。



「ぶっひゃぁぁぁあああああ、たまんねえぜぇぇぇぇえええ!!!!!」



 川城――――確か引き篭もりだからヒキでいいか。喜びにあふれた声が聞こえる。

 ゲーム機を持っていなかったら悲鳴を喜んでいるように見えるぞ。

 さて、思考を戻そうか。

 これだけでかい音がしたのに警察はおろか近所の人達が出てこないとは……一体どういうことだ?

 少なくても悲鳴の一つくらい上がっていてもおかしくはないし、周りの家が壊れていないのも不可解だ。

 だが、その疑問を思考する間も無かった。



「おっ、おい、あれ見ろ!!」



 誰かが空を指さして叫んだ。

 つられて俺も空を見上げる。

 空から落ちてくるのは大きい流れ星。煌々と輝く一等星の如く輝いている。

 流れ星? 昼なのに? 何故? と色々と疑問に思った。

 答えを探そうと考えをめぐらそうとしたが、その必要はなかった。

 何故なら――――ここに落ちてきたからだ。



「うそっ」

「えっ、ちょっ、まっ」

「アバァ――!」

 


 皆慌てて口にするが呂律が回らずに意味不明な言葉になっている。

 逃げる奴、うずくまる奴、ただ傍観する奴がいた。

 そんな中で俺は冷静に焦って考えていた。

 あっ、これ死んだかも。

 いや、死んだかもではなく間違いなく死ぬ。

 近付いてくる距離と速度と時間を計算して逆算して割り出して―――どうする?

 そこまで考えてどうにもならないという結論に達した。

 流れ星が落ちてきた。

 綺麗だな、と思う間もなく正門前はおろか校舎周辺を巻き込ん――――。



 ――――そこで俺の目の前が真っ白になる。

 盛大な光と音をまき散らし、俺たちは消し飛んだ。

 最後に見えた光景、それは――――――――俺たちの足元は緑色に輝いていた。






 時は平成、西暦二〇三七年二月二一日水曜日。

 その昼過ぎくらいに、とある学校がいつの間にか崩壊していた。

 これは世界的ニュースになり調査された。

 数多くの不可解の謎の中、判明したことは僅かしかない。

 一つ、前代未聞の学校直下型大地震が起こったこと。

 二つ、それにより大量の人間が死亡したこと。

 三つ、その学校の総人数と死亡人数が合わないこと。

 四つ、この日だけ、何故か三年生の登校率百%だったこと。

 五つ、死亡していない人間たちはどこかへと消えてしまったこと。

 六つ、その地震はその学校以外では起こっていないこと。

 七つ、その死亡していない人間達は誰一人として見つけられなかったこと。

 以下三十項目にも上る疑問を歴史に残し、世の中の人は大いに議論した。

 ある人は異世界に飛ばされたと言った。

 またある人は別の時間にタイムスリップしたという。

 答えは消えた本人たちにしか分からない。

 世の人は消えた彼らを『旅人』と称した。

 彼らは何処へ行ったのだろうか?

 これはその『旅人』と称された者たちが紡ぐ物語。 





~田中亮平視点~


 俺は田中亮平。どうやら俺は勇者の一人として異世界に召喚されるらしい。

 何故分かるかって? 簡単さ、目の間のお爺さんが教えてくれたからだ。



「ホッホッホ」



 目の前には神? とでもいうべき豪華な衣装に身を包んだ御偉いさんが佇んでいた。

 全部で五人いるらしく、正面にいるのが好々爺みたいな優しそうなお爺さん。

 他に青年とロリ少女、インテリ系の眼鏡お姉さんとお婆さんがいるそうだ。

 ここは『天界』と呼ばれる、言わば天国みたいな場所らしい。

 それでお爺さんが言うには、ここは異世界から召喚される前に死んだ俺たちの中から五人選んで勇者に仕立て上げようとしたらしいが、何分六十人近くいる俺たちからたった一人では面白くないという理由で俺の他にお爺さんたちと同じ人数が選出され各々に加護とか武器とかを授けることにするらしい。

 既に俺以外の四人に武具を渡し終えて最後が俺らしい。



「ホッホッホ、亮平君にはこれをあげよう」



 そう言って渡されたのは光り輝く剣だ。剣の柄や鞘には翠色のラインが入っていて恰好良い。



「これは?」


「何を隠そう、天界最高峰の一振りでこれから現れる魔を払うための剣、その名も聖剣エクスカリバーじゃ!」



 エクスカリバー…………だとぉ!?



「良いんですか!? 俺なんかに!」

「ホッホッホ、年老いたワシにはもう振れぬ。錆びつかせるのもなんだし持って行きなさい」



 なんて気前のよいことを言ってくれる御爺様です。



「ありがとうございます!」


「ホッホッホ、そろそろ時間じゃ。気をつけてのぉ」


「はい!」

 


 俺はお爺さんに別れを告げて光り輝く魔方陣に呑み込まれた。

 よっしゃぁ! ここから俺の伝説が始まるぜ!!






~幕間~


「……行ったかの」



 お爺さんがそういうと四人も姿を現した。

 一人は少女、一人は老婆、一人は体格の良い男、一人は美しい女性。そのいずれも背中から白の翼を生やしている。



「オー爺も人が悪い。彼しか選ばなかったのに。それにエクスカリバーを振るっていたのは聖王様でしょ? 勝手に与えてどう言い訳するのよ?」



 少女のウリエルがオーディンに言う。



「素質がある子はいたけどねぇ」



 続いて老婆であるルシファーが言う。



「彼ほど真面目な子はおらんかったからの」


「そうなのですか? 見た感じ真面目な子ならまだ居そうでしたけど?」



 そう言うのは眼鏡をかけた女性のミカエル。



「まだまだ若いの。見た目なんぞなんとでもなる。ワシには心が見えるからの」



 オーディンの能力は『慧の魔眼』という人の心を映す眼だ。

 オーディンが神の座にいるのも慧眼があってこそと言える。

 事実、彼の周りには優秀な人材が沢山いる。

 それらを地上の者は『天軍』と呼び、この天上世界を『天界』もしくは『神々の住まう場所』と呼び、神聖視している。



「確かにオーディン様の能力はそれ限定ですからね」


「毒舌じゃな、ミカエル」


「事実です」



 ミカエルの言葉に苦笑いしつつ、オーディンは腰を上げる。



「さて、我等も戦の準備をしようかの? 異界が攻め込んでくるなんぞ何千年ぶりじゃからの」

 


 そこへ体格の良い男性が顔に手を当てて叫ぶ。



「だが断る!」

 


 一瞬にして場の空気が白けたものに変わった。



「ガブリエル、いらん突っ込みじゃ」


「……また滑ったか」


「……バカリエル」


「おい、ウリエル。誰がそれ教えた?」


「ミカ姉とルシ婆」


「……ミカはともかくルシ婆さんがそれをいうと思えんが」


「さ、行こう」



 そんなこんなで彼等は話しながら部屋を出て行った。





 そんな楽しい団欒をする天界に一人の少女が舞い降りた。

 少女は天界を歩き、目的の人物を探す。

 少女はオーディンを見つけ、嬉しそうにオーディンに近付いて笑顔で挨拶した。



「こんにちは、オーディンさん」


「おや? こんなところに子供がくるなんて珍しい。迷子かい?」



 オーディンが尋ねると夕日色の髪の少女は首を振った。



「ううん。迷子じゃないよ。ボクはお爺ちゃんに会いに来たからね」


「ホッホッホ、ワシも有名になったものじゃ。それで御用は何かの?」



 そして少女は言う。



「うん、貴方の力を奪いに来たよ」


「う――――ガッ……」



 彼女は最初の一歩を力強く踏み出して肉薄し、その手に持つ剣でオーディンの心臓を貫いた。

 不意を討たれたオーディンは自身の持つ『眼』とは別の特別な力を少女が持っている碧く澄んだ剣に根こそぎ奪われてしまった。

 オーディンは苦しんだ表情のまま冷たい床に横たわった。



「よし、回収完了! じゃあね」



 少女は返り血を落とし、同じ道を同じ歩幅で帰って行った。





「あら、オーディン様。またお酒でも飲んでこんな場所で寝て――――」



 しばらくしてミカエルがオーディンを探しに来て遺体を見つけた。

 途中で言葉を止めたのはオーディンの周りに流れる血を見てしまったからだ。

 ミカエルはすぐさまオーディンに近寄り、その胸に手を当て止血を試みる。

 ――――だが、それも無駄だと分かってしまったミカエルはその手を退けてオーディンの遺体を持ち上げた。



 天界の玉座の間にオーディンを持ち帰ったミカエルは皆の前にゆっくりとオーディンを下ろした。



「オーディン様!? 何故このようなお姿に…………」


「いやぁぁあああああ!」


「オーディン様…………」



 その日の内に訃報が天界を巡った。   


嵩都「初回からめちゃくちゃグロいな」

グラたん「うん、書き終わってから気付いたよ」

嵩都「次は大丈夫だろうな?」

グラたん「多分ね。それじゃ、次回予告行ってみよー」

嵩都「次回、始まりの刻。召喚された俺たちを待っていたのは――」

グラタン「ネタバレ駄目、絶対」

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